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16 spirit(Side Romeo)(1)
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気がつけば奈落の底のような、昏くて深い闇の中だった。
ロミオが意識を失ったのは、魔王を倒してから勇者としての凱旋パレードや祝賀パーティーを終えた時だ。
心が満足感で一杯になり、自分のためにと用意されていた城の中の豪華な客室で休もうとしていた。浮かれていた。やっとずっと欲しかったものを手にすることが出来ると、そう思っていた。
突然。目眩のようなくらりとした感覚を覚えて、頭を押さえて倒れた。
そして、真っ暗闇の中をただ一人でずっと彷徨っていた。そこには何もなく、何も聞こえない。時間の感覚も、やがてなくなった。
もうこのまま、何処にも戻れないままで狂ってしまうしかないのかと、ロミオは半ば諦めていた。
それなのに、『彼女』を見つけたその瞬間に、そこに稲光のような光源が走り、すべては光に満たされた。
ロミオの意識は、その時からはっきりとある状態だった。どうしても思い通りには動かない肉体ではあったものの、自分の本能もあの彼女を大事にするということだけは、逆らわずに迷わなかった。
すぐ傍にある柔らかな身体を求めてしまう気持ちは、どうしても止められなかった。だが、彼女が自分に気持ちのない状態での、最後の一線だけは越えないようにしていた。
その時ばかりは、必死で心の中で闘っていた。
献身的で女神のような彼女が、自分だけにしか世話を許さないロミオの世話をするという仕事上必要だからと、慣れない手つきで繰り返す手淫に欲望を放つごとに、心の中に巣食う闇が、少しずつだけど薄れていくのを動けぬ身体にやきもきしながらも感じてはいた。
ミルドレッドは聖女で、聖魔法を使うことが出来る。
清らかな彼女がまるで娼婦のような、この行為を幾度も行うことにより何かが浄化されていくのかもしれない。ただただ、意思の疎通もすることの出来ない自分に対し、優しく心を砕いて接してくれる彼女の姿を見ながらロミオはそう推理していた。
彼女が危険がないはずの神殿の中で死にそうな目に遭ったのを、奇跡的に自分が助けることの出来た時から、もうこのままでは居られないとロミオは心を決めた。
固く閉ざされていた取手のない頑丈な扉が、何度も何度も体当たりを繰り返すことによって軋んでいくような感覚はあった。
そこから出ることさえ出来れば、意識を思い通りにする事の出来るような予感があった。
とにかくそれからはずっと、思い通りにならぬ自分の身体を取り戻すため、意識の中で幻のように霞む扉に体当たり繰り返すようなそんな毎日だった。
ずっと会いたくて堪らなかった彼女は、すぐ傍に居るというのに。ただ本能で身体だけを求めるような、そんな事は絶対に望んではいなかった。
ミルドレッドが、知らない男に手を引かれ絶望したような眼差しを向けて、ロミオの名前を何度も呼んだ。
(彼女をこのまま失ってしまう事など、考えられない)
これまでにない渾身の力を込めてぶつかれば、決して開かないはずだった扉が、その時にやっと、開かれた。
ロミオが意識を失ったのは、魔王を倒してから勇者としての凱旋パレードや祝賀パーティーを終えた時だ。
心が満足感で一杯になり、自分のためにと用意されていた城の中の豪華な客室で休もうとしていた。浮かれていた。やっとずっと欲しかったものを手にすることが出来ると、そう思っていた。
突然。目眩のようなくらりとした感覚を覚えて、頭を押さえて倒れた。
そして、真っ暗闇の中をただ一人でずっと彷徨っていた。そこには何もなく、何も聞こえない。時間の感覚も、やがてなくなった。
もうこのまま、何処にも戻れないままで狂ってしまうしかないのかと、ロミオは半ば諦めていた。
それなのに、『彼女』を見つけたその瞬間に、そこに稲光のような光源が走り、すべては光に満たされた。
ロミオの意識は、その時からはっきりとある状態だった。どうしても思い通りには動かない肉体ではあったものの、自分の本能もあの彼女を大事にするということだけは、逆らわずに迷わなかった。
すぐ傍にある柔らかな身体を求めてしまう気持ちは、どうしても止められなかった。だが、彼女が自分に気持ちのない状態での、最後の一線だけは越えないようにしていた。
その時ばかりは、必死で心の中で闘っていた。
献身的で女神のような彼女が、自分だけにしか世話を許さないロミオの世話をするという仕事上必要だからと、慣れない手つきで繰り返す手淫に欲望を放つごとに、心の中に巣食う闇が、少しずつだけど薄れていくのを動けぬ身体にやきもきしながらも感じてはいた。
ミルドレッドは聖女で、聖魔法を使うことが出来る。
清らかな彼女がまるで娼婦のような、この行為を幾度も行うことにより何かが浄化されていくのかもしれない。ただただ、意思の疎通もすることの出来ない自分に対し、優しく心を砕いて接してくれる彼女の姿を見ながらロミオはそう推理していた。
彼女が危険がないはずの神殿の中で死にそうな目に遭ったのを、奇跡的に自分が助けることの出来た時から、もうこのままでは居られないとロミオは心を決めた。
固く閉ざされていた取手のない頑丈な扉が、何度も何度も体当たりを繰り返すことによって軋んでいくような感覚はあった。
そこから出ることさえ出来れば、意識を思い通りにする事の出来るような予感があった。
とにかくそれからはずっと、思い通りにならぬ自分の身体を取り戻すため、意識の中で幻のように霞む扉に体当たり繰り返すようなそんな毎日だった。
ずっと会いたくて堪らなかった彼女は、すぐ傍に居るというのに。ただ本能で身体だけを求めるような、そんな事は絶対に望んではいなかった。
ミルドレッドが、知らない男に手を引かれ絶望したような眼差しを向けて、ロミオの名前を何度も呼んだ。
(彼女をこのまま失ってしまう事など、考えられない)
これまでにない渾身の力を込めてぶつかれば、決して開かないはずだった扉が、その時にやっと、開かれた。
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