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34 要らない

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 クインは悔しげに唇を噛んで、涙を流していた。そうだ。私はこの子を赤ん坊のまま、いつまでも幼いと勘違いしていたけど、そんな訳……絶対、なくて。

「クイン……私」

「僕は要らないって言ったはずだよ。侯爵位なんて、要らないんだって。母上が亡くなってあの男が、おかしくなり……たった一人しか居ない姉上をこんなにまで悲しませて、欲しい物なんて僕にあるはずもないよ。姉上は僕を何もわかっていない子ども扱いするけど……わかってないのは、姉上だよ。人の話を聞かずに、自分が一番正しいと決めつけて、自分さえ不幸になればそれで良いと思っている」

 両手をギュッと握りしめて、泣きながらクインは私に怒っていた。

 彼の話をこうして聞けば、そうなるのも当たり前だ。お前は何も言わずにただこれを受け取れと、自分自身を犠牲にしたものを望んでもいないのにそう言われた。

 その重さにただ絶望して、こうして泣いている。

「ごめんなさい。クイン」

「謝らないでよ……姉上。僕がすぐに、侯爵になれたら良かったんだ。もっと早くに生まれていれば、こんなことにならずに済んだんだ。僕がもし、成人だったら」

 私はクインが涙ながらに口にした言葉に、私はこれまでに考えていたことを思い出した。もし、クインが侯爵にすぐなれればと私は思ったはず。

 それを、彼自身がわかっていないはずなんて、ないのに。

「貴方のせいではないわ……クイン。ごめんなさい」

 私はベッドの近くに居る彼の小さな体を抱きしめると、泣いているクインは抱き返しながら言った。

「姉上のせいでもないよ……全部が全部、この悪い状況の何もかもが、自分のせいだなんて、絶対に思わないでよ」

 何もかもその手に持ち幸せに見えるギャレット様なら、少しなら傷つけても良いと思ったのは確かだ。自分の責任ではなく不幸せな私たちには、きっとその権利があるはずだと。

 けれど、これから一国の王という重責背負うことになる王太子の彼の気持ちを、国民のだれかは考えたことはあるのだろうか。

 愛する相手も自分で選ぶことも出来ず、公には常に冷静な立場を崩せない。

 そうだ。誰もが彼の本音なんて、望んでない。だって、一生国民のために見世物のようにして過ごす人の気持ちなんて、聞きたくない。

 ただその血筋に生まれたというだけで、国の平和のために犠牲になる人のことなんて、何も知りたくない。

 私は以前、イーサンに偉そうに言ったはずだ。どんなに人に羨まれるような立場に居たとしても、その人なりの悩みや苦しみは絶えないのだと。

 あの……儚げな笑顔。

 あれを初めて見たその時から、ギャレット様が彼を見て誰もが思うような完璧な王子様でないことを、私は知っていたはずなのに。

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