限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

待鳥園子

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50 見殺し

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 借金を返すことや、領地の経営、クインの世話で必死で……賭け事を繰り返し、酒を飲むお父様をおかしいから、詳しく観察していたかというと、それは違う。それは、出来ていない。

 だから……私は共に住んでいたお父様を、見殺しにしていたの?

 私が涙を流しているのを見て、イーサンは大丈夫だと落ち着かせるようにして私の背中をさすった。

「悪かった。悪かった……俺は君の状況を知っている。若い令嬢が一人でいきなり母親が亡くなり、父親がおかしくなった。幼い跡継ぎの弟を、それでも守らねばなかなかった。どれだけ追い詰められたか、それを聞くだけで知れる。本当に、悪かった……ローレン」

「いいえ……私だってお父様はおかしくなってしまったと思っていた。けれど、薬を打たれていたなんて思ってもみなかった……イーサン。お父様をこんな風にした犯人を捕まえたい。泣いて嘆いていても、絶対に元通りになんて、ならないもの」

 私は袖で涙を拭うと、息を整えてそう言った。そうだ。私はここ数年で、痛いほどに味わったはず。泣いて嘆いていても、事態は何も変わらないんだって。

 もし何かが変わるとしたなら、それは自分で変えたいと思った時だけなんだって。

「……なぁ、この人は元々、貧乏男爵家の次男だったよな? 侯爵としての仕事は置いておいても、妻がなくなったから賭け事にはまった? ……では、彼に賭場を教えたのは誰だ? 賭場は大体紹介制だ。誰か知り合いが居ないと入れない」

 それまでにお金を使えなかったのに、自由に使えるようになったから妻が亡くなったから賭け事に嵌まってしまった。そうだ。私はそう思っていた。

 ……けれど、こうして薬を打たれていたとわかれば、話は違ってくる。もしかして、酒浸りも判断能力を奪って……? 嘘でしょう……。

「あ……お父様は、そうね……お母様が居た頃は、真面目だったわ……そうよ。賭け事を誰から紹介されたのかしら?」

「おい。ローレン……これは、俺たちの思っていたような、単純な話でもなかったんじゃないか?」

「え?」

 イーサンの言った言葉が今ひとつ理解出来なかった私は、ぽかんとしていたと思う。

 確かに……お父様が賭け事やお酒に溺れたのが誰かの思惑だとするのなら、色々と話は変わってくる。

「なあ……ローレン。確かに借金苦に喘ぐ貴族令嬢は、とても少ない。君はとても珍しい存在だったことは、誰もがそう思うだろう。だが、借金させること自体は可能だ。頼れる先代が居ず、家長さえ……腑抜けになれば」

「待って……すべて、これは仕組まれていたということ? 待って。だって、こんなことをしてどうなるの?」

「君もさっき言っていたじゃないか。まるで……向こうの思惑とは逆にローレンを好きになるように、なっていたと……もし、これが……思惑通りなら? ローレンは今やギャレット殿下の、唯一にして最大の弱点になった。これまで、彼は大事なものは持たなかった。何故かというと、早くに母親は亡くなり、興味を持ったのは剣術だけだ。彼を殺せる者は……世界でも、そうはいまい」

「嘘でしょう。それは……確かにそうだわ。ギャレット様には、これまで、弱点らしい弱点はなかった。けれど……どうして、そんな面倒なことを?」

「……俺の予想だが、確実にギャレット殿下を始末するためじゃないか。今ならば、完全に油断している。王妃は、なぜあれだけ落ち着いていられるか? 思い通りになっているからだ。そうだ。泳がされることも予想していた。だが、おそらく、犯人の唯一の誤算が……この人だ」

「お父様が……?」

「ああ。居なくなった息子を探しに、薬を打たれながらも、必死でここまで来たんだ」

「そんな……お父様……ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 ずっと、誤解をしてた。

 綺麗な顔だけで何も出来ない人なんだって、けれど息子のクインが居なくなって……だから、こうして必死で逃げてくれたんだ。

 今までのすべて、お父様のせいだって思ってた。けれど、それも……全部、何もかも誤解だったのかもしれない。

「良いか。ローレン。これからは慎重に動くんだ……犯人は最後の仕上げをするつもりだぞ。君の家族は利用されたんだ。弟の命を救うために、行動に細心の注意を払え」


 イーサンは走る馬車の中、まるで犯人に聞こえては大変だと言わんばかりに声を潜めた。

 それが冗談になんてならないくらいに、今私が居るのは深刻な事態であるのは間違いなさそうだった。
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