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時間もはんぱだから軽く見て回ろうとファッションビルをふらふらしたのだが、自分のものを買っている場合じゃないなあと思っていたはずなのにコートを買ってしまった。通勤に使えるものがあまりないというイメージで、候補にすら入れていなかったダウンコートだ。薄くて軽くてなのに暖かくて、デザインもシンプルだし丈もちょうどいい。予算もさほどオーバーしていなかった。
「なんか、紗季がネイビー選ぶのって新鮮」
「ライトグレーもいいなとは思ったけど、着てみたら意外と好きだった」
「あー、そういうのあるね」
以前だったら、ネイビーには袖を通しもしていないかもしれない。彼氏ができて変わったとか影響を受けたというわけでもないと思うが、紗季は自分に少しずつ変化が起きているのをなんとなく感じていた。
優子と別れて誕生日プレゼントをあれこれ考えながら帰り、ゆっくり支度をした。正午からの連絡は七時前で、これから帰ってシャワーを浴びて来ると言い、なんとなくテーブルを拭いたりエントランスのブザーが鳴る。
「はーい」
「俺」
オートロックを開錠したらすぐに正午はやってきた。
「この間のやつや」
着ているルームワンピを見たとたんに嬉しそうにする。靴を脱ぐなり、入ってと背を向けた紗季の背後から抱きしめて大きな手で手触りを確かめようとするので、身をよじって抜け出した。洗い髪が冷たい。
「もう!すぐ部屋でしょ」
「まあな」
耳元へキスしてから腕を離した。彼は本当にくっつき魔だしキス魔だ。お土産と言ってアイスをくれたので喜んで冷凍庫へしまい、コーヒーか何か飲むかと訊いてみたがいらないと言われた。
「はいこれ」
「なんやこれ」
クッションです。先日買った、小動物の毛並みのようにふわふわと手触りのいいクッションカバーをおろしたのだ。撫でるととても気持ちがいいのでそうするといいと言ったが、すぐに返却されてしまった。
「これは紗季ちゃんやない」
「そうだね」
「そんなんより本物がええ。こっち」
定位置に座った彼は足の間を指差す。
座ったら最後どうなるか分かりきっているので、あぐらをかいたまま後ろに寄りかかり、ベッドに両肘をついて俺は手を出さんとばかりに待っているところへ腰を下ろすのはちょっと恥ずかしい。しかし恥ずかしいのは恥ずかしいのだが、望まれるのは嬉しいのだ。そろそろと横座りになるようにあぐらの間に座り込んだ。すぐに手が伸びてくる。
「これやな」
ご満悦である。毛布のような素材の上から遠慮なく撫で回されて揉みしだかれた。
「そういや紗季ちゃんさ」
そのままなだれ込むかと思いきや普通に話し始める。
「どっか火曜の夜空けられん? 智哉が家で鍋しよう言うとる」
「そうなの? いいね、お鍋。千紘さんと四人で?」
鍋か。いきなりどうしたのだろう。まさか正午のお誕生日パーティーか?似合わない気がするが。
「いや五人」
智哉の彼女が来るから一緒にどうかということだった。よく集まるのかと訊くと否定されたがそれ以上の情報はなく、とりあえず話に乗るだけは乗った。
「緊張するかも…でも誘ってもらえるの嬉しいから、行っていいなら行きたい。次の火曜なら早く帰れると思うよ、日程急になっちゃうけど。その次はちょっと会社でスケジュール確認次第かな」
「じゃ次の火曜やな」
「えー、決めちゃっていいの?」
「ええ」
智哉の彼女はライターだそうだ。それなら考えてみれば紗季以外は全員自営業者である(千紘は厳密には違うのか。よく知らないが)。一番自由がきかない会社勤めに合わせるのが早いと言うが、まあ合理性があると言えばある。彼は律儀に一言断ってからスマートフォンを取り出し、早々にメッセージを送っていた。
「うお」
「え、何?」
「千紘大喜び」
即レスで来週火曜ならいける!(以降スタンプ連打)のはしゃいだメッセージが返ってきたのを見せられた。智哉の彼女にも正午の彼女にも会いたい会いたいとうるさかったから、これでようやく大人しくなるだろうとのことである。
「なんで?」
「あいつそういう奴」
だからなんの説明にもなっていないのだ。もう慣れてきたが。
「楽しみだね! 何か持っていくね、デザートがいいかなあ」
「いらんいらん」
「そういうわけにも」
そんな話をしながらも手はあちこちを撫で回していて、わき腹はくすぐったいからやめて(本音は肉があるのでやめて)と言うと、お尻と太腿に移動してきた。
「こら」
手がさらに布地の下に潜り込んできたのでストップをかけようとしたが、頑として止まらない。仕方ないので目の方を覆ってやった。
「見えん」
笑い含みで言いながらそれでも手を引き抜いて抱きしめてくれて、背に回った手のひらが背中を撫でて、キスをされた。今夜はずっと一緒にいられると思うと嬉しい。嬉しくて、舌を吸われるのと同時に胸がきゅうっとなった。
「ふっ、…ん、んん…」
柔らかくて濡れていて温かいキスをしていると、もっと違うこともしたくなる。横座りで抱きついたせいで二人の間にできた距離が気に入らなくて、キスしながら姿勢を変えてえいとくっついた。あぐらの真ん中にお尻をついて、膝をMの字のように立てて密着する。正午の手が腰をしっかり支えてくれて、下着越しに彼の硬くなりつつあるものにすり付けられた。
「どしたん、今日。積極的やん」
キスの隙を縫う低い囁きは満足げで、喉の奥で響くような彼の声は紗季をふにゃふにゃにする。
「…いっぱいしたい」
いっぱい触って、どろどろに溶かしてほしい。いつもみたいに、もういいからと言ってもやめずに紗季のいいところをいじめて、奥の奥まで正午で満たしてほしい。
「俺、紗季ちゃんに甘えられるのむちゃくちゃ好き」
なんでもしてあげたくなるわと言われてまた唇を塞がれて、ぐずぐすにされてばかりのくせに、そんなの私の方だと思った。
「なんか、紗季がネイビー選ぶのって新鮮」
「ライトグレーもいいなとは思ったけど、着てみたら意外と好きだった」
「あー、そういうのあるね」
以前だったら、ネイビーには袖を通しもしていないかもしれない。彼氏ができて変わったとか影響を受けたというわけでもないと思うが、紗季は自分に少しずつ変化が起きているのをなんとなく感じていた。
優子と別れて誕生日プレゼントをあれこれ考えながら帰り、ゆっくり支度をした。正午からの連絡は七時前で、これから帰ってシャワーを浴びて来ると言い、なんとなくテーブルを拭いたりエントランスのブザーが鳴る。
「はーい」
「俺」
オートロックを開錠したらすぐに正午はやってきた。
「この間のやつや」
着ているルームワンピを見たとたんに嬉しそうにする。靴を脱ぐなり、入ってと背を向けた紗季の背後から抱きしめて大きな手で手触りを確かめようとするので、身をよじって抜け出した。洗い髪が冷たい。
「もう!すぐ部屋でしょ」
「まあな」
耳元へキスしてから腕を離した。彼は本当にくっつき魔だしキス魔だ。お土産と言ってアイスをくれたので喜んで冷凍庫へしまい、コーヒーか何か飲むかと訊いてみたがいらないと言われた。
「はいこれ」
「なんやこれ」
クッションです。先日買った、小動物の毛並みのようにふわふわと手触りのいいクッションカバーをおろしたのだ。撫でるととても気持ちがいいのでそうするといいと言ったが、すぐに返却されてしまった。
「これは紗季ちゃんやない」
「そうだね」
「そんなんより本物がええ。こっち」
定位置に座った彼は足の間を指差す。
座ったら最後どうなるか分かりきっているので、あぐらをかいたまま後ろに寄りかかり、ベッドに両肘をついて俺は手を出さんとばかりに待っているところへ腰を下ろすのはちょっと恥ずかしい。しかし恥ずかしいのは恥ずかしいのだが、望まれるのは嬉しいのだ。そろそろと横座りになるようにあぐらの間に座り込んだ。すぐに手が伸びてくる。
「これやな」
ご満悦である。毛布のような素材の上から遠慮なく撫で回されて揉みしだかれた。
「そういや紗季ちゃんさ」
そのままなだれ込むかと思いきや普通に話し始める。
「どっか火曜の夜空けられん? 智哉が家で鍋しよう言うとる」
「そうなの? いいね、お鍋。千紘さんと四人で?」
鍋か。いきなりどうしたのだろう。まさか正午のお誕生日パーティーか?似合わない気がするが。
「いや五人」
智哉の彼女が来るから一緒にどうかということだった。よく集まるのかと訊くと否定されたがそれ以上の情報はなく、とりあえず話に乗るだけは乗った。
「緊張するかも…でも誘ってもらえるの嬉しいから、行っていいなら行きたい。次の火曜なら早く帰れると思うよ、日程急になっちゃうけど。その次はちょっと会社でスケジュール確認次第かな」
「じゃ次の火曜やな」
「えー、決めちゃっていいの?」
「ええ」
智哉の彼女はライターだそうだ。それなら考えてみれば紗季以外は全員自営業者である(千紘は厳密には違うのか。よく知らないが)。一番自由がきかない会社勤めに合わせるのが早いと言うが、まあ合理性があると言えばある。彼は律儀に一言断ってからスマートフォンを取り出し、早々にメッセージを送っていた。
「うお」
「え、何?」
「千紘大喜び」
即レスで来週火曜ならいける!(以降スタンプ連打)のはしゃいだメッセージが返ってきたのを見せられた。智哉の彼女にも正午の彼女にも会いたい会いたいとうるさかったから、これでようやく大人しくなるだろうとのことである。
「なんで?」
「あいつそういう奴」
だからなんの説明にもなっていないのだ。もう慣れてきたが。
「楽しみだね! 何か持っていくね、デザートがいいかなあ」
「いらんいらん」
「そういうわけにも」
そんな話をしながらも手はあちこちを撫で回していて、わき腹はくすぐったいからやめて(本音は肉があるのでやめて)と言うと、お尻と太腿に移動してきた。
「こら」
手がさらに布地の下に潜り込んできたのでストップをかけようとしたが、頑として止まらない。仕方ないので目の方を覆ってやった。
「見えん」
笑い含みで言いながらそれでも手を引き抜いて抱きしめてくれて、背に回った手のひらが背中を撫でて、キスをされた。今夜はずっと一緒にいられると思うと嬉しい。嬉しくて、舌を吸われるのと同時に胸がきゅうっとなった。
「ふっ、…ん、んん…」
柔らかくて濡れていて温かいキスをしていると、もっと違うこともしたくなる。横座りで抱きついたせいで二人の間にできた距離が気に入らなくて、キスしながら姿勢を変えてえいとくっついた。あぐらの真ん中にお尻をついて、膝をMの字のように立てて密着する。正午の手が腰をしっかり支えてくれて、下着越しに彼の硬くなりつつあるものにすり付けられた。
「どしたん、今日。積極的やん」
キスの隙を縫う低い囁きは満足げで、喉の奥で響くような彼の声は紗季をふにゃふにゃにする。
「…いっぱいしたい」
いっぱい触って、どろどろに溶かしてほしい。いつもみたいに、もういいからと言ってもやめずに紗季のいいところをいじめて、奥の奥まで正午で満たしてほしい。
「俺、紗季ちゃんに甘えられるのむちゃくちゃ好き」
なんでもしてあげたくなるわと言われてまた唇を塞がれて、ぐずぐすにされてばかりのくせに、そんなの私の方だと思った。
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