上級メイド、内務局長補佐のベッドに忍び込む

中山

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マリーの片想いが実って半年が経った。
相手はギルバートだ。使用人として雇われた十五の歳から七年、一途に片思いしていた雲の上の人である。思い続けた間に彼は思いもよらぬ異動をし、内務局長補佐にまでなってしまったから、今でも雲の上ではあるが。

「退屈じゃないか?」
「いえいえ。こういう細かい作業、結構好きですよ」

未だに信じられないが、恋人として付き合って欲しいと申し出て受け入れられたので、まごうことなき恋人同士である。休みを合わせて訪ねてきたギルバートの家で、手順を教わりつつ古い書籍の補修をしているとしても。なんでこんなことをしているのかと思わないではないにしても。


◆◆


内務局の人間とは思えない、傷痕だらけの指がちまちまと作業を進めている。局で働く姿を見かけるだけでもすらりとした背格好は目を惹くが、こうして近くにいればやはり体格がいいと思う。
彼は三年前まで騎士団の魔術隊長だったのだ。とある事件で怪我を負い、ほとんどの魔力を失い異動してきた。噂しか聞こえてこなくても、生きた心地がしなかったことをよく覚えている。

「糸のほつれはどうすればいいですか?」
「また別の道具がいるから、飛ばして進めてくれ」
「分かりました」

業務のようなやり取りである。無駄にてきぱき応えてしまう自分が悲しい。
手を動かしながら、マリーはこっそりギルバートの様子を窺った。今年三十になった彼は、一目惚れした七年前よりずっと格好いい。きりりと鋭い眦はあの頃より少し和らいで、年齢を重ねるほどに渋みが増していくだろうと思われた。ため息が出る。多分一生大好きな顔な気がする。
仕事中は撫でつけられている黒髪が下ろしてあるせいで、目元が隠れ気味なのが残念だ。いつもきっちりとしている彼は、休みの日は少しだけ気が抜けて親しみやすい。

「そういえば、昨日は大奮闘だったそうだな」
「え? 昨日……」
「大掃除だかなんだか、一日がかりでやっていたんだろう」
「なっ……なんでご存知なんですか……?」
「イダから聞いた。小麦の袋を一度に八つ運んだと聞いたが、本当か?」

多分、自分の顔は真っ赤になった。大掛かりなバックヤードの配置換えがあったのは確かだ。誰よりも働いたのも正しいと思う。残務が出れば、上級メイドの中では一番下のマリーに回ってくるから。今日に備えて早く終わらせるために必死だったのだが、ギルバートの部下にいつ見られていたのだろう。

「七つです……! そこまで力持ちじゃありません!」
「似たようなものだが。じゃあ書架を一人で動かしたというのは」
「……空にしてからなら動かせるんですよ」
「魔術の補助もなく女性一人で、なかなかできることじゃないぞ」
「いえあの、あれはコツがあってですね」

これだ、どうしてもこういう感じになる。元気で気安くて、あんたと話してると郷里の母を思い出すよ。上級メイドって取り澄ましてる子が多いからさ、話しやすくて助かる。周囲にそう言われる性格を彼は気に入ってくれているらしいが、だからこそ恋人らしい空気を掴めない。
ギルバートはマリーが人と付き合うのが初めてだと知って、ゆっくりでいいと言ってくれた。しかし半年は長い。ゆっくりすぎませんかと思う。大丈夫です、同僚たちにも昼間に言えないような話を山ほど吹き込まれております。花より団子に見えるかもしれませんが内面は結構逆です!
しかしこの頃はもう、どんどん欲しい気持ちが膨らんで、自分だけが焦っているような気になってきた。
甘い雰囲気に持っていくには、あるいは雰囲気をぶち壊さないためには、どうしたらいいのだろう。


◆◆


前回だ。別れ際に一度、触れるだけのキスをされた。
すごくいい雰囲気だったのだが、いかんせん時間がなかった。
至近距離で自分を見つめるギルバートの目が忘れられない。深いグレーに、暴かれたいと思った。体も、素直に甘えられない心も。静かなこの人は、自分と同じ欲求を抱くことはあるのだろうか。本能のまま欲に溺れるようなことは。一晩中ベッドの中でめちゃくちゃに乱れたいと思うのは、自分だけなのだろうか。騎士団退団後も鍛錬を欠かさないたくましい体に、触れたい。
煩悩にとらわれかけたマリーは、他愛ない話で気を紛らわせようと口を開いた。

「こういった本は、どちらでお求めになるんですか?」
「ああ……あまり表立っては言えないんだが、古書肆や古物商に持ち込まれることが多いな。私が好きだと聞きつけて、買ってくれというわけだ」

内緒にしておいてくれ、と唇の片端で小さく笑ってみせたギルバートに、こくこくと頷くので精一杯だった。二人の時によく見せてくれるその笑い方、大好きなんですが。

「正直なところとても助かる」
「お役に立てるなら、私も嬉しいです」

ギルバートの家を訪ねるのは初めてではない。少しずつ二人きりにも慣れてきた。しかし、マリーにとっては初めての恋で初めての恋人で、絶対にがっかりされたくない相手である。緊張して間がもたない瞬間が多々ある。趣味で集めているが補修作業が追いつかないまま増えていく一方、という古書の山に、今日は助けられている。

「多少はデートらしいことをした方がいいとは、私も思うんだが」
「……いえ、やってみたいと言ったのは私の方ですから」
「本当に出掛けなくていいのか? 君みたいな年頃だと、部屋にこもっていてもつまらないだろう」

修復魔術を含ませた筆が一瞬止まってしまった。街で買い物でもという当初の誘いをやんわり回避したのは本のためではなく、やましい理由による。二人きりの部屋でしかできないことをしたいから、そしてその可能性を少しでも上げたかったからだ。

「少し遠いが、森も行ける範囲ではあるな。遠駆けでもするか? 泳げる湖を知っているぞ」
「……ギルバートさん、私のこと外遊びが好きな子供だと思ってません?」
「寮の庭でシスツの実を収穫した時、必要もないのに木のてっぺん近くまで登っていたメイドがいたという話を聞いたんだが」
「ちょっ……! なんでそんな話ばっかり聞いてるんですか!」
「あまりに見事で素早かったから、誰も止められなかったらしいな」

君の話は面白いものが多いと評判だ、と言われてマリーは机に突っ伏した。いくつか真偽を確認されたおてんばエピソードが全部事実だから困る。

「そう膨れるな。可愛い顔が台無しだ」
「いつもこうですよ……」

じゃない。そうじゃないだろう。もう……! と恥じらってみせるところだった、今のは。反射的に出る可愛げのない反応が問題なのだ。
キスから先へ進めない原因は分かっている。恥ずかしいのだ。可愛らしく甘えたりおねだりしたりすることが、マリーにはどうしてもできなかった。普段の自分と違いすぎて、幻滅されそうで。
何度も考えたことだ。動くのみと結論は出ていてなお動けない現実から目をそらし、マリーは穏やかに広がる田園を眺めた。秋めいてきた緑は柔らかく、北向きの書斎から見える風景は王都とは思えないのどかさだ。
窓枠に、音もなく小さな鳥が舞い降りた。

「……ギルバートさん、後ろに……あの、鳥が」

振り向いたギルバートの横顔がかすかに歪む。嫌な予感がする表情だ。そしてその予感は当たった。

「マーカスの使い魔だな。……ちょっと失礼」


◆◆


「マリー。悪いが呼び出された」
「わっ! えっあ、はい、……呼び出された?」

ぼんやりと景色を眺めながらこの先どうしたらいいのだろうと考えていたところに、ギルバートが戻ってきた。返事を持たせたのだろう鳥に、指先からこぼれる光の粒を与える。組まれた魔術を使うのではなく、自らの魔力を発露させるものだ。

「……魔術……」
「これぐらいはできる。完全に枯渇したわけじゃないからな」
「すみません、詮索するつもりは」
「気にしないでいい。どこまでできるんだという話になるとややこしいから、公言していないだけだ」
「言いふらしたり、絶対にしませんので!」

意思を込めて頷いたマリーの髪を大きな手が撫でた。恋人にというより、子供をあやすようだと思う。拳を握ってこくこくと頷けば、それはそうなるか。あああ。
急に寂しくなった。うなじを出すと色っぽいと聞いて、自分にしては随分頑張って編み込んだ髪。いつもより襟ぐりの広いワンピース。何も言ってもらえなかった。

「騎士団絡みでな。元はあっちにいたせいで、何かあるとすぐ私に持ってくるんだ……悪いが少し出てくる」

自分にどうこうできることではないのに胸が苦しくなった。

「私のことはお気になさらず。もう戻ります、街まで出て乗り合い馬車を捕まえますから」

帰るのかと意外そうに問われ、マリーは頭二つ分は高いところにあるギルバートの顔を見上げた。

「でも、お仕事では。私がここにいたら、こう……自由に動けなくなるといいますか」
「君まで休みの日に働かせようとしないでくれ」

ですよね。でも局のお偉方たちは割と時間関係なくうろつかれていますが。上級メイドは執務室にも出入りするので、管理職の人々がさらに上から振り回されまくるのも目にしている。王室、騎士団、魔術局、王都の住民たちなどなど、内務局が対応にあたるものは広い。

「三時間……いや、二時間半で戻って来る。待たせて悪いがちょうど夕食時だ、一緒にどうだろう」
「……でしたら」

髪をもう一度撫で、好きにしていていいからと言い残してギルバートは出ていった。


◆◆


家主を見送り、リビングに一人。マリーは無言でソファに倒れ込んだ。歯がゆくてじたばたしたら髪が盛大にひっかかり、さらに落ち込んだ気持ちで編み込みをといていく。うつらうつらしている間に髪が乱れてしまってとでも言おう。いや、もしかして髪型が変わっていることにすら気づかれないかもしれない。そんな。
出掛けにキスぐらいしてくれたっていいのに。
夕食のお誘いだって、そんな、待たせた詫びにご馳走しようみたいな。

「ギルバートさん……」

泣きそうな声が出てしまって、余計鬱々とした。ギルバートのこととなると柄にもなく臆病で悲観的になる。普段の自分ならそんな人間など蹴っ飛ばすところだ、情けない。

「もう、なんで……私ばっかり……」

先を阻む恥ずかしさが、マリーにはもう一つある。
ギルバートのことを考えて体を熱くさせてしまうことだ。
まだ知らないキスの先を想像していると、すぐに肌がざわざわと敏感になる。触れられたいところは本能的に分かった。一人の夜の興奮は繰り返すうち妄想を深めていく。そのうち、とろんとろんに濡れた場所を自分でいじるようになった。
小さな会話やかすめるように触れた指先の感触を種にして、ギルバートにされたいことばかり思い描いた。大きな体に組み敷かれて甘い言葉を囁く彼を想像しながら、ベッドの中でこっそり自分を慰める。
恥ずかしいことをされたい。
妄想の中でなら、マリーも素直にさらけ出せた。
抵抗をものともせず押し倒してきたギルバートに、服も下着もはぎ取られる。彼の方はきっちりと着込んだままだ。マリーはあられもない裸体を、明るい昼間のベッドでただ見られるにまかせている。
――恥ずかしい、です。
そう言って隠そうとした手は頭の上で拘束された。本当は見て欲しい。だから阻まれて余計に興奮した。ギルバートの手のひらは熱い。どう熱いのか現実に知りたいと、妄想の傍らちらりと考えた。体同士が密着する感覚を、大きな体にのしかかられた時の重さを。ギルバートの体に触れてみたい。
足を大きく広げられ、誰にも見せたことのない場所を見られている。ほとんど毛の生えていない割れ目は隠してくれるものもなく、中までじっくりと眺め回された。視線だけで、触れられていない胸の先端にじくじくと疼きが集まってくる。
指が柔らかな肉を優しく撫でる。それだけで期待に溢れてくる蜜をまとわせ、ぬるりとふちをたどった。その奥がじんじんと甘く痺れる。
――どうして欲しい?
――もっと……。
そう言うだけでは、妄想の中のギルバートは気持ちいいことをしてくれない。もっと? と促す声がやや嗜虐的な響きを帯び、マリーの理性の箍が軋む。
――意地悪、です……ギルバートさん……。
――そう言いながら、君はなかなか興奮しているようだが。ここもこんなに固くして。
指先がちらりと乳首をつまんで、マリーは嬌声をあげた。
――ああ、手が滑ってしまったな。
――今のっ……あ、あぁっ……。
ギルバートの大きな手が、マリーの乳房をやわやわと揉む。もう拘束のとかれた腕を投げ出し、快感にただ身をまかせた。時折指が偶然のように乳首に当たる度、腰がびくんと浮き上がる。
――もっと、ここ……かりかりしたり、舐めたり……してほしい、です……。
よろしいと満足そうに頷いた恋人は、マリーに覆い被さってくる。
残念ながらそこから先の具体的なやり方は知らないから、想像しているといえども霧の中ではある。
しかし妄想はいい。好き勝手にできる。
喘ぐ声が止まらなくなったって、おもらししたほど濡らしてしまったって、ギルバートはでろでろに幸せそうな顔で可愛いと言ってくれる。
妄想の中でなら、マリーだってそれなりに可愛らしい声で喘いだり、おねだりすることだってできるのだ。ギル好き、もっとして、いく、いっちゃうぅ……! とか言えたりする。

「はぁ……」

不毛だ。
マリーはソファに倒れ込み、腹いせの気分で思いきり伸びをした。


◆◆


暇である。好きにしていいと言われたので古書の修復を続けてみたが、一人でそんなことをしていると本当に休日出勤のような気分になってきた。その上手を動かすだけでさほど思考が必要ないから、頭は勝手にさっきの続きを妄想し始めてしまう。
困ったなと思った。どうにもむらむらして我慢できない日というものはあるが、今ここでこうならなくてもいいのに。

「……うーん……」

仕事で呼び出されていった恋人の部屋で留守番中。体の関係はまだない。恋人は当分帰ってこない。立ち去るわけにはいかない。
おとなしくしておくべき状況で不埒な行為に耽ることに、後ろめたさがないわけがない。ただ、マリーの体はあちこちが疼いて、刺激を欲しがっていた。一度散らしておかなければ、帰ってきたギルバートを落ち着いて出迎えられないだろう。
ソファの上へ、マリーは無言でぺたりと伏せた。
座面に顔を押し付けたのは気持ちだけでも隠れたかったからだ。こくりと唾を飲んで、そっと広い襟ぐりに指を這わせる。ギルバートにそうして欲しいと思っていたように、焦らすようにゆっくりと。下着に潜り込むこの指は自分のものではない、恋人の、傷だらけのあの指だ。

「ん……っ」

声が、やたらに響く。猛烈な羞恥心が襲ってきて、マリーは思わず指を止めて逡巡した。さすがに顔を伏せて目を閉じているだけでは恥ずかしすぎる。
もっと閉じた場所、手洗いか浴室か、狭くて隠れられるところで思う存分いじりたい。そう考えてしまうあたりまともに頭が回っていないのだが、理性のタガはとっくにゆるゆるだ。
理性の中に隠れているのは、身体的快楽を求めるだけの精神ではない。ギルバートという人に愛しい眼差しを向けられ、求められ、肌を重ねて愛されたいという、純粋で欲張りな恋心だ。
だから、マリーが開けたのは結局他のどこでもない、寝室のドアだった。だからではない。ではないが止まらない。
ギルバートの体格に見合う大きなベッドに潜り込む。もどかしい思いで胸なんか飛ばして、足の付け根に手を伸ばした。

「は、っ……ぁあ……」

薄い下着越しに撫でただけで、興奮した。布団の中は暗くてギルバートの匂いがして、体温が急激に上がる。こうなると一気に上り詰めてしまいたくなって、左手を胸元に突っ込んだ。ごく簡素とはいえ窮屈なコルセットの中で、既にしこってじんじん痺れている乳首を撫で回す。欲しかった甘い刺激が体を駆け抜ける。

「あぁっ……! ぁん、んんっ……きもちぃ……」

中指と親指で胸の突端を捏ねなぶりながら、もう片方の手で陰核をあやす。どちらも時々指先を立ててかりかり引っかくと、それだけでイきそうになるほど気持ちがよかった。
恋人の部屋で勝手に自慰に及ぶ羞恥心が、再び湧き上がる。なのにそれと同時に、恥部の何もかもをさらけ出してよがりながらイきたいという肉欲が体の奥から噴き出してもきた。
服を脱いで足を広げて、あの静かな目に自分のぐちょぐちょになった穴を見られたい。太い指に性感帯の皮を剥かれて撫で回されて、絶頂させられたい。妄想なのに、漏らしそうなほど濡れた。
もっと強い刺激が欲しくて、指に擦り付けるようにかくかくと腰を揺らす。

「ギルバートさん、っ、ん……っ、あ、ぁ、もっともっと、欲し……」

馬鹿みたいに甘ったるい自分の声も気にならず、ひたすら快感のポイントを追い続けた。ギルバートの名前を口にすれば更に興奮したから、何度も何度も呼ぶ。呼ぶ度に性感は高まっていった。

「っ、あぁ……ギルぅ……っ、すき、好きぃ……っ」

愛称で呼んだことなどない。でも妄想の中では自由だ。
自分を煽るようにねだり声で喘ぎながらとろとろに濡れた熱で指をぬめらせて、一番気持ちのいい陰核をくるりと撫でた。ギルバートの指先でそうされていると、想像しながら。

「やぁっそこ触っ……っっもっとぉ」

ぬるぬる撫で回すのが好きだ。つまんできゅうきゅう押し潰すのも。

「それ……っだめ、いく、乳首もやるの、だめぇ……」

駄目なようには見えないがな? 少し意地悪な声がそうやって追い詰めてくるのを想像する。最高に感じた。
どこがいいのかちゃんと見せてごらんと、甘い甘い命令をギルバートはくれる。さっき触ってたとこ、などとごまかしても逃がしてはもらえない。屈服する快楽にどっぷりと浸りながら、マリーはギルバートにお願いをするのだ。尻を浮かせて指で広げて、触れて欲しくて仕方がないところを晒す。

「ここ、触ってほしぃ……っっ」

きつく目を瞑り、夢中で指を動かす。あ、あっと勝手にこぼれる声の合間にくちゅくちゅと卑猥な音がする。

「いっちゃう、い……ギル、すきぃ……いく、いっちゃ……」

ああ、もう。そう思った瞬間だった。

「可愛いな、マリー。でもイかせるのは本物の私じゃ駄目か?」

少し意地悪な声に妄想の中であんなに煽られたはずなのに、現実のマリーの血の気は一瞬で引いた。


◆◆


何を言う間もなくシーツが剥ぎ取られる。出掛けた時の上着を放り投げシャツのボタンをむしるように外して、ギルバートがマリーの背へ覆い被さってきた。

「悪い子だ。ずっと我慢していたんだがな、私は」
「や、違……」
「違うようにはとても見えない」

腿に当たるものが何かなど、訊かなくても判る。ぐりっと強く押し付けられて、期待で背が震えた。

「い……いつお戻りに、まだそんなに経って……」
「そうだな、一時間も経ってない。途中でやっぱりいいですと追加が来たんだ。腹が立ったが……こんなことになっているとは、予想外だったな」

せっかくだから驚かせようと、音を消して家に入ったそうである。

「それぐらいの魔術はまだ使えるからな。探したぞ、まさかベッドにいるとは思わなかった」
「なっ……なんでそんなこと……」
「は、私の台詞だと思うが」

ぐうの音も出ない。そのとおりです。勝手にベッドに忍び込まれて自慰にふけられた方が言うことでございます。

「あの、あのギルバートさん、服がしわに」
「知らん」

知らん!? そんな感じの人でしたっけ!? マリーの困惑をよそに、彼は飄々と述べた。

「それよりマリー。ギルとは呼んでくれないのか?」
「……ああああ……!」
「こら、隠れるな」

愉快そうな低い笑い声が背後から聞こえてきて、抱き締めた手がくすぐってくる。じたばたしたらくすぐるのはやめてくれたが、マリーを抱き直した腕はとても逃げられないほど力強かった。素のギルバートに少し触れたようで、嬉しいが嬉しいよりも混乱する。

「ギルバートさん、その」
「仕事中のようで寂しいな」
「ええ……?!」
「もう一回……ではないな。今後は二人の時にはギルと」
「無理ですよ……!」

一瞬不穏な間が空いたかと思うとくるんとひっくり返された。腿のあたりで乱れるワンピースの裾を、マリーは慌てて取り繕う。自分を押し倒した格好になったギルバートには見えていることだろうが、彼の表情はこわくて窺えなかった。

「続きをしてくれてもいいが」
「……! しっ、しません……!」
「私が触るのは?」

へっ、と間抜けな声が出た。思わずまともに見上げたギルバートは平然と言い放つ。

「ずっと我慢していたと言ったのは聞こえていたか? 私は君を抱きたい」
「抱き……」

あわわわ。そんな直接的な。

「君は私が初めての恋人だと言うし、歳も随分違う。体の関係に進むことを、そもそも望んでいるかも怪しいと思っていた」

そんな、という驚きとやはりそうかという納得の、後の方が大きい。日頃の言動が効いている。上級メイドらしからぬ気安さだとか、男の子のような元気さだとか。そういうところがいいと思われているなら、恋にまどう姿を見せては失望されるのではないか。そう思っていたのが間違いだったのだ。

「怖がらせたくないから慎重に時期を窺っていたんだが……」
「……それは……あの、私はずっと……こう、したいと」

言い訳のしようがない場面を押さえられたので、開き直れたのだと思う。マリーはそう辿々しく言いながら、ギルバートの胸にそっと手を添えた。シャツがはだけた素肌の胸元は引き締まっていて、うっすらと傷跡が覗いている。身を起こしたギルバートがシャツを脱ぐと、破裂したようなそれは腹のあたりまで大きく広がっていた。

「ああ、驚かせたか? 気にしないでくれ、もう痛みもない」

内務局に異動することになった事件の傷だという。王子を庇って負ったものだそうだ。触ってみるかとなんでもないことのように言いながら、ギルバートはマリーの体を起こして手を取る。肌は引きつれ、ざらざらとしていた。

「……大怪我をされたというお話は聞いていましたが……」
「昔の話だ。しかし、痛みはないが感覚もなくてな。このあたりは触られてもつまらんから、覚えておいてくれ」

というわけでといった感じで、マリーの手のひらは別の場所に誘導される。傷のないところはたくさん触ってくれとやけに上機嫌な声で言いながら、逆の脇腹や腕や背中のあたりまで、散々撫でさせられた。胸元、鎖骨、首筋。頬をすり寄せてくるに至っては犬か何かのようだった。こんなことする人だったの?
私は一体今何をさせられているのかしらという気分になってきた頃、ギルバートはどう見ても悪巧みの笑顔で言った。

「慣れたか?」
「はい?」
「私は君に触れたいが、触れて欲しいとも思っている」

わ、わあ。

「最初は難しいと思うからしばらくは言わずにおくつもりだったが……君のさっきの様子を見る限り、なかなか積極的なようだったから」
「忘れてください……!」
「断る。とても可愛かった」
「ああああ!」
「素養もある」

なんのですかという言葉はさすがに出なかった。この方、結構お人が悪くていらっしゃる!

「ただまあ、どちらかといえばする方が好きなたちでな。中断させてしまって悪かったが、続きは私にさせてくれ」
「……っ!」

向かい合って座ったマリーを優しく抱き締め、ギルバートはキスをした。初めての時と同じく触れるだけのそれは、今度は何度も繰り返される。柔らかさと温かさにうっとりしているうち、そっと舌でノックをされた。
口の中に熱が入り込んでくる。なめらかで厚いものが、マリーの舌を翻弄した。知らない感覚を追うのに必死になって、気がついた時にはギルバートの手は背中に回っていた。ワンピースのボタンを外して肩から下ろし、コルセットの紐をゆるめていく。早い。

「そういえば、髪はといてしまったんだな」
「あ……はい……」
「色気があってよかったんだが。またしてくれ」

どちらにしても乱れてしまうだろうがなと、こちらが恥ずかしくなるようなことを言う。コルセットはぽいと放られ、残った肌着はするんと引き下ろされた。この人すごく手慣れてる……!

「あの、み……見ないで……」
「何故」

やわやわと胸を揉まれると、ぴんと勃った乳首が強調されるようでいたたまれない。恥ずかしい。どうしよう、恥ずかしいのにじんじんする。大きな手のひらは妄想の中と同じに熱くて、でもずっと興奮した。皮膚が厚くて固くて、ゆるやかに動かされるだけで下まで濡れてくるのが分かる。

「可愛いな。固くして」
「ん……! っ、あ、あっ」

親指の腹が、マリーの胸の先をくりくりといじめる。背を反らせると、ギルバートの指はもっと気持ちのいいことを仕掛けてきた。尖ったそこをぴんと弾き、触れるか触れないかの動きで円を描くように撫でる。指先がすっかり敏感になった乳首をきゅうっとつままれ、マリーは甘い声をあげて腰を震わせた。
胸だけで達したことに呆然とする。ギルバートにされると、自分で慰めるのとは比べられないぐらいに気持ちがよかった。

「感じやすい……ああ、こっちももう。びしょびしょだ」

力の入らない足から下着が抜き取られる。膝を立てて開かされるまま、マリーは後ろ手をついた。半脱ぎの半端さで、隠すべき胸と秘部だけを晒すこの格好すら昂りを煽る。抵抗する気も起きない。もっとして欲しい。

「わ、私……今更ですけど……がっかり、しないで……」
「しない。もっと乱れるといい」
「あぁ……っ!」

性器を撫でられ、マリーの声が蕩ける。割れ目の奥から溢れてくる蜜が、ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てた。男の太い指が、柔らかく熱いひだに沿うように這う。恥ずかしいところをあまさず確かめるような動きは、それだけで頭の芯までどうにかなるほどの快楽だった。
濡れた粘膜を撫で回していた指が、既にじんじんするほど感じていた小さな粒をとらえる。

「っ、あ……そこ……だめぇ……っ」
「さっき、イきそうだったな。どうするのが好きだ? 言ってみなさい」

そっと添えられた指は動かない。私の指でイかせてやるからととんでもなく甘い声が耳元で囁いて、マリーはギルバートの胸に縋り付いた。積極的なわけではない、隠れられる場所が他にないのだ。

「いっ……言えるわけ、ないじゃないですか……!」
「遅かれ早かれ言わされるぞ。抵抗しても無駄だから諦めて慣れろ」
「なんか、あの……ギルバートさん、人が変わってません……?」
「何枚か被っていた猫を一気に脱いだだけだ。君も同じだと思うが」

歳上の恋人は余裕そのものの様子で抱き締めてくれたが、ついでにこちらの体をぐいと引き寄せもした。そうなると勿論、固いものが当たる。ごりごりと。汚れますと逃げようとしたマリーを力強くその場に留め、ギルバートは実に楽しそうに言った。

「どろどろにしてくれて構わん。潮を吹いても、なんなら漏らしても」
「そんなの……っ、や、だめっ……あ……」

熱い手が、マリーの尻を掴んで男のものへ押し付ける。ここへ入るのだと知らしめるように。

「君は、私が初めての恋人だと言ったが……体の関係を持つのもか?」

もうとっくに御しきれないほど速い脈がもっと速くなった気がした。このまま心臓がパァンといくんではないだろうかと思いながら、声もなく頷く。ほう、という顔をしないでください。

「なら一人でずっとしていたと」
「なんで言うんですかあ……!」
「そういう反応も可愛いな」
「も……もうやだぁ……」
「まあそう言うな。いや言ってもいいか……それはそれで」

何変なこと言ってるんですか、もうほんとに! もう!
ギルバートはまあ追い追い、などと何を企んでいるのか絶対に聞きたくない感じの言葉を呟きつつ、ひょいと枕を取り上げた。ぽいぽいとマリーの背に詰め込む。

「え、あの」

そこへ押し倒された。ギルバートは枕のせいで寝転べもしないマリーの腰をずるりと引き、遠慮なく足を開く。ひやりとしたのは濡れているからだ。太腿まで汚すほど。

「昼間は明るくていい」
「何言ってるんですかっ……!」
「薄いんだな。君の何もかもがよく見える」
「ちょっ……!」
「いやらしくて好みだ」

さすがに隠そうとした手をすかさず捕まえられる。抵抗しても無駄だ、ってこういう時にすごく似合わないんですが。

「諦めろ。それか何度か抵抗した後だと思ってくれ」

そう雑に言いながら、ギルバートは続きを始めた。翻弄されっぱなしだ。


◆◆


一度快感に浸った体は、触れられればすぐに熱がぶり返す。
小さくて敏感な粒への愛撫は激しかった。自分ではこわくて止めてしまうその先まで、マリーを溺れさせる。

「ぁ、……っやめ、……んっ!」

身悶えるほどの甘い痺れは、その一点から体中に広がった。すりすりと円を描くように指を動かされると、その奥がきゅうんと収縮するのが分かる。マリーは枕に顔を埋め、声を殺した。香水などではないのにいい匂いとしか言えない香りがする。ギルバートのベッドだ。彼がいつも寝ている、ごく私的な場所。

「マリー、こちらを向いて。可愛い顔が見えない。声も聞きたい」
「むりぃ……ぁ、ああ……」

あやすようなキスが、こめかみに何度も落ちる。顔が見えないのに彼が笑みを浮かべているのが分かるのが不思議だ。妄想の続きみたいだと思う。でも、指が動かされる度腕の動きが伝わってきて、これが現実であることを思い知らされた。それだけで真っ白になりそうだ。

「あ、っ、そこ……んんっ」
「気持ちいい? 感じている君はとても可愛いから、聞かせてほしいんだが」

粒を愛撫され続けている体には、ろくに力が入らない。ぼうっとして、何も考えられなくなる。たぷんと掬い取られた蜜が塗りつけられた。ぬめる感触に、マリーは熱い息を漏らす。

「ん、いい……きもち、いぃ……あぁ……」
「素直でよろしい。いい子だ」

涙のにじむ目元にちゅっとキスをされた。そっと見上げると、グレーの瞳が間近でこちらを見つめている。いつもと同じ色の、でも見たことがない表情。ギルバートも興奮しているのだと、はっきり分かる目だった。

「ギルバートさん……」
「違う。なんだった?」

う、と詰まったマリーに、ギルバートは畳み掛ける。

「どうせそのうち呼ぶことになるんだ」
「そんなぁ……」
「面倒だから、このやりとりをもう十回ぐらいやったことにしておこう。ほら」

ほらじゃないです……!

「マリー」

一言だけ。命令じみた声音はマリーの、そろそろ欠片程度にしか残っていない理性を吹っ飛ばす。

「……ギル……もっと……」
「お望みのとおりに。私の可愛いマリー」

途端にぷりゅぷりゅこりこりと、激しく陰核を責められた。つついて押さえ付けてぐりぐりと揺らして、二本の指がこちゅこちゅとしごく。刺激される度に感度は高まって、中の指をぷりゅんと締め付けてしまうのを止められない。つまんでぷりゅんと擦られた瞬間、一際強い快感が体を満たした。

「ふ、ぅ……だ、だめぇ……っ、そこ……っ」

下からかりかり引っかかれる。足に力が入ったのを、ギルバートは勿論見逃してはくれなかった。同じ動きを繰り返す。ぬるん、と彼の指から逃げる性感帯を、執拗に追い立てられた。こりゅこりゅと陰核を捏ね回される快感にどっぷりと溺れたところでぴぃんと弾かれ、奥からとぷりと蜜が溢れる。

「だめじゃないだろう、マリー」

楽しそうな顔でギルバートが覆い被さってくる。軽く口づけて、それから首筋をべろりと舐められた。ぞわぞわした快感が這いのぼる。

「……っ!」
「声を出してくれないか」

できるだろう、さっきみたいに。囁く声も息も熱い。指はもどかしい動きでポイントを少しだけ外して動かされ、当てて欲しくて身をよじった。

「ふぅ、んんん、っ」
「マリー」
「そっ……ゃ、そこで喋んないで……っ」

高く掠れて消える声が自分のものではないようだ。羞恥心で顔を背ければ、がら空きになった肩口をかぷりと噛まれた。舌先で首筋から耳元まで丹念に舐め上げられ、びくんと腰が浮く。

「首も敏感だな?」
「ちがっ……ぁ、ああぁあっ」

陰核をきつく押し潰されて、そのままぐりぐり捏ねられて、イく前兆の甘くて重たいだるさが腰の奥底から這いのぼってくる。

「気持ちいいだろう? 言ってみろ、ほら。もっとよくなるから」
「あ……っ、きもち……ぃ、そこ……っ」

意地悪だと思う。もっと意地悪なことをしてほしくなる類の。取り繕う余裕はどこにもなかった。

「いっちゃ、いく、い……っあ、ああ……!」

ぷにゅんと皮をずり上げられた。露出した性感帯の核を分厚い手のひら全体で押し撫でられ、ぐにぐにと刺激を与えられる。悦楽としか言いようがなくて、マリーはだらしない喘ぎ声を上げた。重ったるい甘い感覚が押し寄せる。自分でした時よりも遥かに重く、腰が溶けそうなぐらいの。

「いぃっ……、きもちぃ、あ、もう、もうイっちゃ……っ」
「ああ。とろとろだな」

じくじくと疼く胸の先、大きく開いた足の付け根、溢れてくる蜜。恥ずかしい場所をギルバートの目にさらけ出して、マリーは達した。


◆◆


「可愛かった。とても」

荒い息で返事ができないことにして、マリーはただギルバートの胸に顔を埋めた。午後遅い時間の寝室は、まだ灯りなどいらないぐらいに明るい。部屋の主も気楽そうに寝そべっていて、のんびりした光景ではあるだろう。マリーの胸の内を除けば。

「実にいい日だ。マーカスには礼を言っておこう、叱ってやるつもりだったがやめだ」
「あの、私は……その、いつもこういう……わけでは……」
「二人の時ならいつもでいいぞ。歓迎する」
「やめてくださいぃ……!」

ギルバートはマリーを抱き締め、可愛いなと笑い声を立てる。いたく上機嫌だ。ちらりと顔を上げると、声同様の満足そうな表情がこちらを見つめていた。

「こんな人だとは思わなかった、みたいな顔をしているな」
「……それは……それは、私の方がというか……」

もごもご呟くマリーの体を軽々と引っ張り上げ、ギルバートは視線を合わせてくる。目を伏せるとこら、と言われた。

「まあそれは意外ではあったが」

ですよねと逃げるマリーをとっ捕まえて、まあ聞けと彼は言う。

「意外だがそれも歓迎だからどんどんやってくれ。……それは措いておいてだ。白状すると、噂は聞いていてな」
「噂……ちょっとこう、嫌な予感がするんですが」
「外れだ。君が、雇われた時からずっと私を好きだという噂で」
「外れてないじゃないですか!」

思わずギルバートの口を塞いでしまった。ものすごく勢いよく。はっとして謝るマリーに、内務局長補佐の時には見たことのない顔で彼は笑う。そんなに開けっぴろげに笑うんだ、とちょっと見とれた。

「そういえば、昇進すれば騎士団付きになれるからと頑張っていたというのは本当か?」
「……どこまでご存じなんですか……」
「私が異動になったから路線変更して上級メイドを目指すことにしたというのと、めでたく昇進して曲者ぞろいの上級メイドたちに混じってなかなか上手く立ち働いているというところまでは」
「全部と」

確かにマリーの方も、いきなりギルバートへ会いに行ったりはしなかった。少しずつ彼の近くの人物に接近してそれとなく探りを入れたし、彼ら彼女らに信用を得た確信が持てたのち、最も信頼のおける相手に手紙を託して思いを伝えた。
考えてみれば、そんなことをしていればギルバートにだって動向は伝わっているのが自然である。
必死だったんです。迂闊でしたが。頭を抱えて呻くマリーの背を、ギルバートはぽんぽんと叩く。

「君が見ていた私はあくまでも仕事中の姿だからな。まあ、私も猫を被りすぎたわけだ。ゆっくり進めていった方がいいだろうと思っていたしな」

待たせすぎたみたいだがと、若干悪い顔でマリーの頬をつつく。そういう顔も、好きです。もっと見せて欲しいと素直に思う。
何かが伝わったのか、ギルバートはキスをくれた。唇を合わせるだけのものは飛ばして、恋人同士の深いキスを。柔らかい唇同士と濡れた舌同士が気持ち良くて、マリーはしばし夢中になった。離れた唇を追って、もっとと呟くと簡単に望みが叶えられる。
こんなに幸せなら、もっと早くねだればよかった。とろんとろんになった頭の中は、キスをしながらギルバートのことでいっばいだ。
もっとくっつきたくて感情のままに抱きつくと、腿に固いままの感触が当たる。ぎくりとしたマリーは体をこわばらせた。彼のことにまで頭が回らなかった。
唇が離れていって、ん? と優しい声が降ってくる。

「どうした」
「あ……いえ、その……ギルバートさんは」

むに、と頬を引っ張られる。ギルは、とつっかえながら言い直すと指が離れて、つままれた場所を撫でる。ものすごく順調にしつけをされている気がする。

「私が?」

言葉でどう言えばいいか分からなかったから、おずおずと手を伸ばした。触れた後でこっちの方が恥ずかしいことに思い至るが、もう遅い。なるほどなという言葉に、引きつつあった顔の熱が戻ってきてしまった。

「忘れたか? 私にも触れて欲しいと言っただろう」

おやおやといった表情のギルバートは、続けてくれとあっさり言う。

「私はこのまま君を抱くつもりなんだが。乗り気じゃないか? 可愛いマリー」
「わ、笑ってるじゃないですか……」
「今更何を。安心しろ、明日はちゃんと起こしてやるし、送っていく」

すごいことを言う。ずっと望んでいたとはいえ、今日今から泊まって最後までだなんて、本当に今更だがどうしようと思ってしまう。どぎまぎするマリーの髪を撫でながら、ギルバートは平然と続けた。

「もし明日体がつらければ、休みは私が申請しよう。だから安心してくれ」
「安心できない感じのことおっしゃいましたね……?」
「勿論無理なことはしない。君の初めては私も大切にしたい。さっきよりもっととろとろに蕩けさせて、気持ちいいことばかり」
「あああもう! だめですってば!」

慌てて言葉を遮ったマリーにキスをして、ギルバートはそうかと呟く。どう見ても良からぬことを考えている顔で。

「つらければ、じゃなくていいな。君は明日休みだ」
「はい?」
「じっくり朝まで抱いて、となると睡眠も足りないし疲労も溜まる。だな?」
「だなじゃなくてですね」
「痛いことはしないが」
「疑ってるわけじゃないですけど」
「じゃあ続けよう。そういうわけで、明日の君はここでしっかりと体を休める。食事は運んでもらおう、普段頼んでいる店があるから。うまいぞ。君の同僚にアルマというメイドがいるだろう、彼女の伯母なんだが」
「えっ……」

知っている気がする。お喋りさんのアルマから聞いた覚えがある。どこから聞いたのかという街の噂を提供してくれる、宿屋兼食事処をやっている伯母さん。

「それは……それは、何もかも筒抜けになってしまう気が……」
「構うか?」
「なんでそんなに構わないんですか……!?」
「私はこういう人間なんだ。慣れてくれ」
「そ、そればっかり……!」

他のことにも慣れようか、と言ったギルバートが、マリーに再び覆い被さってくる。
休日の日はまだまだ長い。





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