目指せ!追放√

紅野 雪菜

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第一章 schola

arma

昼食を終え、腹ごしらえが出来た所で午後の授業からは護身武術の訓練が始まった。
来たのは学舎の中庭。普段、生徒達が通る大回廊に四方から囲われた場所で、青々とした芝生が広がっている。出来るだけ目立たない様に隅の柱へと凭れ掛かった。

この授業は、パンクラチオンやピュクスによる体術戦の受身の取り方、回避方法やらを実践で行う授業だ。これは前の世界で云う所の”体育”っぽいが、目的は自衛手段を覚えるだけ。
体育よりはらく出来そうだ。疲れるのは嫌いだからな。

まぁ所詮、支配階級パトキリである彼らには身の危険を護るだけの護身武術だけ十分なのだ。それ以上は戦士や兵士の仕事─


「おぉ!!ユノ・ディアナ君、久しいな!」


?!


聞き覚えの無い声に顔を上げると、軍服姿の笑顔が眩しい筋骨隆々の男がサワサワとした芝生を押し潰す勢いでズンズンと近寄って来た。目線を下半身に向けると乗馬用の靭やかな鞭が目に入る。

そして、このゴリッゴリの体育会系は、裏ルートの攻略対象のヘラクロス教官か…

「えぇ…?ぁぁ!きょぅかん、ぉ久し振りです」

「ふはははは!もう何年前だったか、弓友会振りだな!」

「は、はぁ…」

「いやぁー、俺は剣術とパンクラチオンとかならイケるんだが、弓術は何ともなぁ。性に合わなかったらしい!あれ以来、弓は握ってなくてな!はは!」

体が無駄にデカい。煩い。暑苦しい。の三拍子が揃った男…。
スポーツ刈りのThe脳筋ってキャラだけど、コイツのルートに入ると闇堕ちして面倒臭くなるんだよなぁ…

「ん?さっきから黙ってどうしたんだ?どっか悪いのか??」

「ぃ、ぃぇ……」

''無駄''に体力有り余ってる感じで寄って来られるとウザいな…俺自身、ダウナー系だから相性が悪い。今の所、ユノとしてコイツにアクションを起こす必要は無いし、それとなく接しよう。

「そうか!体調が悪ければ無理せず申告しろ!見学でも良いからな!」

『分かりました』と返事をする間もなく俺の元を離れて行くヘラクロス教官。嵐の様だな…と地面を見れば、ヘラクロス教官が踏んだ芝生が可哀想な程にひしゃげていた。



▼△▼△



「今日の護身武術はアロの前期生と後期生との合同授業だ!初見と云う事もあって、通算5回は後期生と合同授業を行う!それでは─」

授業開始を知らせる振鈴しんれいが鳴り響く。鐘がある場所と近い所為か、何時もより、より一層大きく聞こえた。

「では、対面指導を行う!後期生らは各自で指導したい前期生を選べ!」

ヘラクロス教官の号令と共にわらわらと蜘蛛の子を散らした様に、気に入った前期生を選びに来る後期生達。

ペア作ってねー。じゃねぇんだよ、何の罰ゲームだよ。もうマジ無理、帰りたい。陰キャには辛過ぎる宣告…

「…ぇ」

思い出すのは、体育の日。バトミントンを行う為、ペアを作らされたあの時間は恥辱感が堪らなく─

「…ねぇ!」

仲の良いグループは既決してたらしく、次々に即決していって、一人市場から売れ残る俺…。

「ねぇってば!!聞いてんの??あんた!」

「?!」

「ったく!やっと気付いたわ、耳聞こえないのかと思ったわ!」

鼓膜に響くビリビリとした声の主の方を見ると、不機嫌そうな顔を浮かべている美少女が一人。

今日は美女フィーバーでも来てるのかな??

「っす!すみません!考え事してて…」

「ッぁく!だらし無いわね!上級生に声掛けられてるってぇーのに、少しはしゃんとしなさいよ!し・か・も、アルブ国一、美しいと讃えられた人間が目の前に居るのよ!?」

キャンキャンと不服に吠えるこの美女は、複雑に編み込まれたツインテールと、その髪飾りの赤薔薇が特徴的な後期生、ミネルヴァ・ウェヌス。彼女は入学生代表として選ばれる程に文武に秀でて、優秀な─

「あんた、特待生なんですってね?」

「まぁ…はぁ」

「何その閉まんない返事、アタシが誰か分かっててその態度な訳?」

「ぃ、ぃぇ…」

「アタシはアウグル鳥占官家系よ?アンタよりは位が上なんだから敬いなさい!平民プレブスはそんな事も知らないの??!」

これ以上何か言えば、地雷を踏む気がしたので首を横に振って返事をした。

「良かった、プレプスだから知らないかと思っちゃった。言っとくけど、私アテナ様信仰してるし、強いわよ?新入生だから優しくしてあげようかと思ってたけど、あんたが特待生で狩猟家系ってぇなら手抜きはしないわ」

これ又、厄介な…

「ぉ、ぉねがぃします…」



△▼△▼



「違う!あんた俊敏性と機敏性は良いんだから、体の運びぐらい頭ン中で考えなさいよ!これは対人用の護身武術って事分かってる??!」

「は、はひぃ~…」

き、厳し過ぎる、判定キツキツで無理ポ。ギブです。

「もぉ~、耐え性がないわね!5分休憩!」

文武両道ってのは分かってたけど、"武"も優秀過ぎる…出来杉君か??

「はぁ…キッツ」

陽射しが直射する中庭から逃げ、影になってる比較的涼しくて静かな大回廊の内へと一時避難。中庭に目を向けると、ミネルヴァが金に輝く懐中時計を取出して見つめている。


「良いだろ、時計は。風情があって」


「はぇっ?!」

突然の声に横を見ると、刈り上げられた頭に眼帯を付けた高身長の男が直ぐ横に立って、こちらを見ているではないか…

「インペラトルの後期生、ヴァルカン・サートゥルヌスだ。宜しく。君、特待生なんだってね?調子はどう?ココパトキリにはもう馴れたか?環境がガラッと変わると色々苦労するだろう」

「ぇぇ…」

何か、今日はやけに突然話し掛けられるな…
しかも、ぽんぽんと登場人物が接触して来る…

「あの"懐中時計"僕が作ったんだ」

ヴァルカンは中庭に居るミネルヴァの方を顎で指す。

「正確には、僕が蓋と裏蓋の外装を作った。僕の家系は代々クロノス神を信仰していてね」

知っている。この支配階級パトキリで出回っている全ての懐中時計を作っている名工家人かじん

「ほら、君達プレプスが住んでいる街に建っている時計塔。も僕らが作ったんだ」

「ぞ、存じてぉ りますぅー」

「あぁ、知っているのか。平民プレブスの人間だったから知らないと思っていたよ、元々は貴族パトキリ向けに作っていたからね」

すらっと俺を下に見てるような発言をしたな

「特待生だからかな?良く知ってるね、平民プレブスは識字も出来無いんだろ?」

悪気は無いんだろうが、出自がパトキリだからか思っきしナチュラルに貶してくるな…

「はぃぃ…(小声)」

事実だし

「特待生とは聞いてるんだが、どうして特待生に?」

「まりょくきてぃちがっぅじょぅのじょぅげんを突破してましてぇ…っょぃぃりょくがぁるからと…」

「へぇ、限界値突破したんだ。初めてだな、どんな風に魔力あつかう?」

興味津々なヴァルカン攻略対象に積極的に話し掛けられて緊迫感を感じるが、ここは平静に…

少し間を空けて、手中から魔力で織ったモルフォ科の蝶を数頭程実態化させ、浮遊させる。続けて浮遊している蝶を一頭指で挟んで、蝶から矢へと変化させて見せた。
全てユノのやっていた事をなぞっているだけだが、実際にやってみるとファンタジー過ぎる。

「なる程…美しい。矢を扱うと云うとアルテミス神の信者か」

こくりと頷く

「あぁ、狩猟家系か。弓はどうした?」

それなら此処にと、胸の中心に手を突き刺して長弓を取り出す。

「はぁ~驚いたなぁー。そこに隠してあるのか…弓の小細工も良く出来てる、もう少しじっくりと──」

「ちょっと!!いつ迄休んでる気?!」

横から中庭と大回廊を隔てる腰当たりの丈の仕切りからズィっと身を乗り出して、怒っているミネルヴァが顔を出していた。ミネルヴァの顔は逆光で顔がよく見えない。

「ミネルヴァ!ごめんよ、僕の所為だね」

「もぉ!アンタ授業は!?」

「無いよ、これから厩舎に向かう所さ」

「はぁ…又馬ぁ??そんなに馬が好きなら馬と結婚しなさいよ!」

「そんなんじゃないって」

「好加減にして!もぉ!工房から出て来たと思ったら厩舎に行ってずぅーっと馬の世話!真面目に授業に出なさいよ!!」

「ソレは無理だなぁ、授業より大切な事だ。じゃぁ、失礼したね、さよならワレーテ

ミネルヴァの怒気にも臆さず、ムルキベルは陽気に返事をして去っていった。

「ユノ、戻るわよ」

「は、はぃ…」

正直、割り込んでくれて助かった。攻略対象がいざ目の前に来るとハラハラして堪らない。
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