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第二章 domus
io Saturnalia
ーサートゥルナーリア当日の17日ー
「……」
サートゥルナーリア祭、初日。この国で最も古い冬季の祝祭であり、開放の意味を込めて最古の神殿に有る豊穣神の石像、その足に括り付けられていた羊毛の縄は一時的に解かれ、あらゆる自由が許された。
全ての労働から解放される休日。其れを意味するのは、市民の家に従ずる奴隷は主人との立場を入れ替え、学校も休校し、賭博もそれなりに許され、法廷は開かれる事無く、宣戦布告も行う事が出来無い祝日である。
そんな連休初日。俺は特に何する事無く、自分の部屋で引きこもっていた。
「アァ…」
サートゥルナーリア祭って今日からだよなぁ。休校日も今日からだし、何して良いのか全然分からない。催しは勿論色々あると思うけど、殊に興味は惹かれない。平民の資金で買える物もた高が知れてるし、行動を起こすのも億劫な寒さだし、布団からもう出たくないのが本音だ。いっその事、祭典の間ずっと自室に引き篭もってるのも良いな。
夏祭りとか、友達とも遊ばずに家族と一緒に家から見える花火を眺めて終わるのが常だったし。この儘、繭に包まる虫の様に懈慢に過ごして、何もせず、何も得ず過ごして終えるのも悪く無い。
一つ不満が有ると言うなら、実家の炬燵ちゃんが恋しい事だな…
▼△▼△
『ねぇば、15日の祭り行くんけ?』
『行かん…』
『ふーん。俺はととの船で沖行くよ、藤姫ちゃんと海跡と…南茱萸ちゃんもおねぇ連れて来るってんよ』
『へぇ』
『ホンマ行かんの?』
『うん。おいん家、漁師ちゃうし』
『でも、湯柿も車で来んよ。ね、来えへんの?』
『…うん。行けん』
『何で?』
『なんか、そうなっとる。聞いても、言ってくれへん』
〔無言〕
『ほうか』
『おいも行きたいよ』
『でも、8月の中旬にやる学校の方の祭りは来るんやろ?』
『うん、そっちは行けそう』
『そいなら良えよ、そっちは令矢と遊ぶわ』
『他に約束してるんは?』
『今の所は令矢しかおらん。多分、弟くっ付いて来るかもしれんけど』
『そ…』
△▼△▼
───目覚めは唐突に。
扉向こうの騒音から意識は再び覚醒する。
半目で目を開ければ、窓から射し込む夕陽と燃え尽きた暖炉の灰。騒ぎ立てる声と足音が右往左往に聞こえて来る。あまりの寒さに身を縮めて、更に毛布を深く被った。
俺の予想だと、昼夜逆転に片足突っ込みかけてるなコレ。
半日溝に捨てた様な感覚だが、そんな考えはよそう。こうして、熟寝によって身体をじっくり休ませるのが、今の課題だ。うん、そうだ。
あー寒寒!
虚しさを誤魔化すべく、自分に暗示を掛ける様に言い聞かせ、再び眠りに就こうとすると、又扉向こうから音がした。今度は御祭り騒ぎの囂しさでは無く、単調な音だけが部屋に響く。
こんな日に誰だ?メルクリウスだろうか。面倒見の良い性格してるから、俺の事を気遣って来てくれたのかもな。
そんな安気な予想を立てながら、髪も結わずに着古した普段着の儘、懶婦さ全開の格好で扉を開けると、そこにはメルクリウス…では無くヴァルカンが立っていた。
「サルウェー、ディアナ嬢」
.…?何故にヴァルカン?
「は…」
「元気無いな?どうした、今日は待ちに待ったサートゥルナーリア祭じゃないか。その格好、もしかして今日一日、一度も外に出てないのか??」
眼前に立つ男の隻眼の目がまぁ真ん丸に広がって、凄く驚いた表情をしている。
貴賓室が在れば、真っ先にそこに通して今直ぐにでも髪を整えて略服に着替えたい所だが、そうは行かない様だ。どうしたものか。
「ぃぇ…」
「?…随分と見窄らしい格好をしているが、猟師は何時もそんな装いをしているのか?」
嗚呼、帰ってくれ…俺の心は十分傷付いたぞ。
「ごょぅけんは?」
これ以上は無理だ。さっさと御帰り願おう。
「ああ、そうそう。ディアナ嬢、君に懐中時計を贈ろうと思ってね」
引きつり気味な笑みをなんとか保ち乍ら、用件をヴァルカンに尋ねれば、思い出したかの様な顔をして話を切り出した。
「“ゕぃちゅぅどけぃ”」
今の俺は確かに懐中時計は持ってないし、無償でくれるなら喜んで受け取るが…
「知っての通り、サートゥルナーリアでは贈答品を贈り合う日でもある。だから御近付きの印に、君に何かあげようとね?色々考えた結果、最良の贈り物として懐中時計になったのさ。いや、最初あたりは君が信仰するアルテミス神の石像でも彫って贈ろうと思ったが、流石にミネルヴァに止められたよ」
石像とか絶ッッ対、いっっっらねぇぇ。今のユノはアルテミス神に信心の一片すら抱いて無いから、石像なんて無駄に置き場を占拠するインテリアでしか無い。
「はは…」
「君の弓と同じ銀加工の懐中時計を作ったんだ。良かったら、俺の工房に来てくれないか?持て成したい」
…なーんか怪しいぞ
「そんな…ゎたしなにもょぅぃしてなぃですぅ(渾身の裏声)」
「気にしないよ。ほら?この前、君と話したばかりだけど、途中でミネルヴァのヤツに邪魔されただろ?アレっぽっちじゃ話足りなくてね、懐中時計の対価として少しだけ君との時間が欲しい。どうかな?」
良く言う。お前が気になるのはユノの武具だろうに…
「じゃぁ…」
「よし、決まりだ。では、行こう!」
△▼△▼
つい、勢いに乗せられて来てしまった…
「さぁ、入って」
ヴァルカンに催促され乍ら、足を踏み入れたのはサートゥルヌス家が所有する中の一つの大工房。男子宿舎の横側に建ってあるが、騒音が聴こえないか心配だな。
「ぉじゃましまぁ~すぅ」
恐る恐る顔を扉から覗かせば、一面、白いベールの様な大きな布が壁に掛けられているのが見える。そして、次に目に入って来たのは、1/1スケール程有る女神?の石像やら、よく分からない鉄の塊がゴロゴロと白いベールと共に辺りに散乱していた。
うっっわ…いや、本編で既に把握してたけど、けど!リアルでガチに散らかりまくっとる場景を目の当たりにすると、ちょっとアレだな…汚いって感じでは無いんだけど……
とんでも無い量の物に塗れた惨状を目の前に圧倒された末、令矢の頭の中で横切ったのは〝廃棄場〟と言う単語だった。
「あーすまん。片すのを忘れていた。いや、何時もはこんなんじゃ無いんだがな!はははっ」
大工房の惨状を目の当たりにし、へはっ…と顔を少しだけ歪めたユノを見て、ヴァルカンは言い辛そうに笑って補足する。
「…」
嘘つけぇ!!お前が物片付けられない人間なのは知ってるぞ!何なら、寄宿舎の部屋も余りに物が溢れ返り過ぎて同居人に「ヴァルカンさん…これ以上は僕の部屋じゃ無くなちゃいます…」って疲弊しきった顔で言われて転宿届の申請出さされたエピソード知ってるからな??
「スゥゥ……~そぅなんですねぇ…はは」
鉄と油と何かが燃え焦げた臭いが、ゆるりと風に乗って鼻を掠めた。ちゃんと笑顔は保てているだろうか…それだけが気掛かりである。
「恥ずかしいモノを見せてしまったな…少し時間をくれ、整頓魔術を使おう」
そう言い、ヴァルカンは葦原を掻き分ける様にして、オブジェクトらを押し退けつつ、奥へと進んで行き令矢もそれに釣られる様に着いて行く。
襟元迄気になるミネルヴァが見たら、この場景は絶倒モノだな…こんなバカ広い空間をどれだけの時間を掛ければ、埋もれる程の物が溢れるんだ?てか、これ行き来めちゃ面倒くないか??
なんて、考えている間に先頭立ってヴァルカンが作った道を歩いていると、いつの間にか少し開けた場所に着いていた。
「有った、有った」
余りの散らかり様に視界が圧倒され、ボヤけていた思考にピントを合わせると、これだと言わんばかりに男は熔炉と見られる所に駆け寄り、散らばった黒い砂を掻き集めている。
「ああ、申し訳無いがディアナ嬢。俺が煤を集めている間、少し床の物を適当な場所に避けてくれないかな?」
背中越しに伝えられたその言葉に下を向くと、鍛造用の型?やら基部やらの塊が床に散乱していた。
コイツ……
▲▽▲▽
「わぁ、結構片付いたな。ありがとう」
「ぃ、ぃぇ…ぉきになさらずにぃ(震え声)」
わぁ、じゃねんだわ。そっちの都合で、都合よく人を使うな!!つか、こんな可憐な美少女(仮)に重労働をさせるなああああ!!!ど阿呆!ド阿呆!!あ゛ー腕がプルップルすりゅぅ~⤴ガチぶっ殺案件。覚えとけよ。
「じゃぁ、始めよう。ディアナ嬢は少し下がっていてくれ」
「はぃぃ」
仮にも招いた客にこんな事をさせておいて一切、悪怯れ無いこの様子…マジ原作通りの性格してるわ。
ユノ徒労を他所に、ヴァルカンは掻き集めた煤を片手に短剣の柄を握り、床へと屈んだ。一方、令矢はヴァルカンの対応に悪態を吐き乍らも、これからヴァルカンが成そうとしている行為には興味を唆られる様で、床や壁を覆う様に其処ら中に有る白いベールと、コンクリートが作り出す境界線、その境目の内。白いベール側へと身を引いて、ヴァルカンの様子を物珍しそうに離れた場所で伺っている。
ユノの鋭い視線を背中に感じ乍らもヴァルカンは、小慣れた手付きで片手にある煤を器用に一定の量が零れる様、中規模の円形陣を描いて行く。
「秩序と…を……慣習を司る高貴なるテミス神よ、我が血と鉄と灰燼の手蔓を以って在るべき物を在るべき場所へと導き給え…」
見た事無い魔術陣だ…煤で術式を描くなんて結構、器用だな…
口誦を終えたヴァルカンは、次にもう片方に握っていた短剣で煤を持っていた方の指を躊躇無く斬りつけた。指先から流れ落ちる血が陣の中央へ垂らされると、術式は血滴が落とされた場所から柱の様に突兀し乍ら赤い光輝を放ち、その陣を起点に雷光が如く葉脈状の線が、数秒も待たない内に厖大な光を放ち、広大な大工房の床と壁を覆い発動した。
その余りの眩さに、ユノの眼孔は直視する事を瞬時に脳が拒絶し、反射的に強く瞼を下ろす。瞼越しに透ける光が直ぐに消えた事で、そろりと目を開ければ、ついさっき迄そこら中に不規則に積み上げられた物の山が、かなりの大きさの空間を作って綺麗に整頓され、白いベールも瀟洒に敷かれ、吊るされていた。
「…!」
うお、スゲ……滅茶クソ便利やんけ、これ。真面目に俺もやりたいんだが。
「驚いたか?アロの前期生だから、こう云うのは初めてか…」
目を開けた先に起こった事象の衝撃に、目を見開くユノを見たヴァルカンは、初めて跳躍現象に触れた時の自分と望郷に似た想いで一瞬だけだが、重ねてしまった。会合で目にした彼女の人物評資料を脳裏に思い浮かべ、未だ13の子供だった事を思い出す。そして、遠く魔術世界から切り離れた絶域の野人だと云う事も又──
「ディアナ嬢は、こう云うのを見るのは初めてかな?一応、これはかなり初歩的な魔術なんだが。しかも、魔力がかなり弱めのね…」
ヴァルカンはゆっくりとした動作で立ち直すと、振り返って後ろに居たユノを正視した。
「そぅなんですヵ?けっこうはくりょくぁりましたヶど…」
「この帝都で暮らしていたら、嫌でも見掛ける初級魔術さ。俺みたいに魔力がちょっと有る、術式を少し齧った程度の奴なら誰でも起術可能な…ね。こう云うのって、本来は君みたいな人間が向いてるんだ。─ディアナ嬢」
「ゎたしがですかぁ?」
「ああ。無意識に“幻像魔法”が行使出来る程、魔力上限値が限界突破している弓矢の使い手なら容易いだろうね…」
そう意味深長に強張った声音で吐き捨て、ぱっくりと切れた指の切り口を血しとどに弄ぶヴァルカンは、何処か冷めた目で指を見詰めている。
そういや、ユノは魔術もかなり得意としていたな。猟師としての印象が強過ぎて忘れかけてたけど…
「……」
「…そう言えば、初めて見た時からちょっと気になってたんけど、その長弓はどうやって獲得したんだ?かなり、いや、凄く特徴的な弓柄だ。末弭も本弭も見た事が無いぐらい極端に曲がりくねっていた。あの蝶を発現させる方法を誰に聞いた?それとも、独術?」
視線を血塗れの指先から此方に移し直し、先程とは打って変わり、少し浮き立った声音でヴァルカンはユノに尋ねた。
「ゎからなぃです…」
「分からない…?」
分からない…こればかりは、『「Aschenputtel」Instruction Sketch Book 完全版』の設定資料集や『Moon side ユノ・ディアナ 上』の前日譚の何処にも記載されていなかった。いや、或いは設定資料集が発売される前に発刊されていた、某ゲーム雑誌の制作スタッフにインタビューしたAschenputtel特集号にちらっと言及されていたのかもしれない…だが、その刊号は苦しくも、俺がAschenputtelをDLする前に発刊されていので、未だ入手出来ていない雑誌。だから本当に分からない、知らない。
「はぃ…」
「うーん、そうかそうか。じゃあ、ソレは生まれ付いてのモノって事なのかな?…非常に興味深い」
「そぅ、ヵもしれません…」
こりゃ、ユノのパッパに聞いてみないと分かんねぇなー
「ぉちヵらになれず、すみませ─」
「いや、良いよ。野暮な事を聞いてしまった。謝るのは此方だ。すまない、ディアナ嬢。暫し其処の椅子で寛いで待って居てくれ。“アレ”を持って来る」
「……」
サートゥルナーリア祭、初日。この国で最も古い冬季の祝祭であり、開放の意味を込めて最古の神殿に有る豊穣神の石像、その足に括り付けられていた羊毛の縄は一時的に解かれ、あらゆる自由が許された。
全ての労働から解放される休日。其れを意味するのは、市民の家に従ずる奴隷は主人との立場を入れ替え、学校も休校し、賭博もそれなりに許され、法廷は開かれる事無く、宣戦布告も行う事が出来無い祝日である。
そんな連休初日。俺は特に何する事無く、自分の部屋で引きこもっていた。
「アァ…」
サートゥルナーリア祭って今日からだよなぁ。休校日も今日からだし、何して良いのか全然分からない。催しは勿論色々あると思うけど、殊に興味は惹かれない。平民の資金で買える物もた高が知れてるし、行動を起こすのも億劫な寒さだし、布団からもう出たくないのが本音だ。いっその事、祭典の間ずっと自室に引き篭もってるのも良いな。
夏祭りとか、友達とも遊ばずに家族と一緒に家から見える花火を眺めて終わるのが常だったし。この儘、繭に包まる虫の様に懈慢に過ごして、何もせず、何も得ず過ごして終えるのも悪く無い。
一つ不満が有ると言うなら、実家の炬燵ちゃんが恋しい事だな…
▼△▼△
『ねぇば、15日の祭り行くんけ?』
『行かん…』
『ふーん。俺はととの船で沖行くよ、藤姫ちゃんと海跡と…南茱萸ちゃんもおねぇ連れて来るってんよ』
『へぇ』
『ホンマ行かんの?』
『うん。おいん家、漁師ちゃうし』
『でも、湯柿も車で来んよ。ね、来えへんの?』
『…うん。行けん』
『何で?』
『なんか、そうなっとる。聞いても、言ってくれへん』
〔無言〕
『ほうか』
『おいも行きたいよ』
『でも、8月の中旬にやる学校の方の祭りは来るんやろ?』
『うん、そっちは行けそう』
『そいなら良えよ、そっちは令矢と遊ぶわ』
『他に約束してるんは?』
『今の所は令矢しかおらん。多分、弟くっ付いて来るかもしれんけど』
『そ…』
△▼△▼
───目覚めは唐突に。
扉向こうの騒音から意識は再び覚醒する。
半目で目を開ければ、窓から射し込む夕陽と燃え尽きた暖炉の灰。騒ぎ立てる声と足音が右往左往に聞こえて来る。あまりの寒さに身を縮めて、更に毛布を深く被った。
俺の予想だと、昼夜逆転に片足突っ込みかけてるなコレ。
半日溝に捨てた様な感覚だが、そんな考えはよそう。こうして、熟寝によって身体をじっくり休ませるのが、今の課題だ。うん、そうだ。
あー寒寒!
虚しさを誤魔化すべく、自分に暗示を掛ける様に言い聞かせ、再び眠りに就こうとすると、又扉向こうから音がした。今度は御祭り騒ぎの囂しさでは無く、単調な音だけが部屋に響く。
こんな日に誰だ?メルクリウスだろうか。面倒見の良い性格してるから、俺の事を気遣って来てくれたのかもな。
そんな安気な予想を立てながら、髪も結わずに着古した普段着の儘、懶婦さ全開の格好で扉を開けると、そこにはメルクリウス…では無くヴァルカンが立っていた。
「サルウェー、ディアナ嬢」
.…?何故にヴァルカン?
「は…」
「元気無いな?どうした、今日は待ちに待ったサートゥルナーリア祭じゃないか。その格好、もしかして今日一日、一度も外に出てないのか??」
眼前に立つ男の隻眼の目がまぁ真ん丸に広がって、凄く驚いた表情をしている。
貴賓室が在れば、真っ先にそこに通して今直ぐにでも髪を整えて略服に着替えたい所だが、そうは行かない様だ。どうしたものか。
「ぃぇ…」
「?…随分と見窄らしい格好をしているが、猟師は何時もそんな装いをしているのか?」
嗚呼、帰ってくれ…俺の心は十分傷付いたぞ。
「ごょぅけんは?」
これ以上は無理だ。さっさと御帰り願おう。
「ああ、そうそう。ディアナ嬢、君に懐中時計を贈ろうと思ってね」
引きつり気味な笑みをなんとか保ち乍ら、用件をヴァルカンに尋ねれば、思い出したかの様な顔をして話を切り出した。
「“ゕぃちゅぅどけぃ”」
今の俺は確かに懐中時計は持ってないし、無償でくれるなら喜んで受け取るが…
「知っての通り、サートゥルナーリアでは贈答品を贈り合う日でもある。だから御近付きの印に、君に何かあげようとね?色々考えた結果、最良の贈り物として懐中時計になったのさ。いや、最初あたりは君が信仰するアルテミス神の石像でも彫って贈ろうと思ったが、流石にミネルヴァに止められたよ」
石像とか絶ッッ対、いっっっらねぇぇ。今のユノはアルテミス神に信心の一片すら抱いて無いから、石像なんて無駄に置き場を占拠するインテリアでしか無い。
「はは…」
「君の弓と同じ銀加工の懐中時計を作ったんだ。良かったら、俺の工房に来てくれないか?持て成したい」
…なーんか怪しいぞ
「そんな…ゎたしなにもょぅぃしてなぃですぅ(渾身の裏声)」
「気にしないよ。ほら?この前、君と話したばかりだけど、途中でミネルヴァのヤツに邪魔されただろ?アレっぽっちじゃ話足りなくてね、懐中時計の対価として少しだけ君との時間が欲しい。どうかな?」
良く言う。お前が気になるのはユノの武具だろうに…
「じゃぁ…」
「よし、決まりだ。では、行こう!」
△▼△▼
つい、勢いに乗せられて来てしまった…
「さぁ、入って」
ヴァルカンに催促され乍ら、足を踏み入れたのはサートゥルヌス家が所有する中の一つの大工房。男子宿舎の横側に建ってあるが、騒音が聴こえないか心配だな。
「ぉじゃましまぁ~すぅ」
恐る恐る顔を扉から覗かせば、一面、白いベールの様な大きな布が壁に掛けられているのが見える。そして、次に目に入って来たのは、1/1スケール程有る女神?の石像やら、よく分からない鉄の塊がゴロゴロと白いベールと共に辺りに散乱していた。
うっっわ…いや、本編で既に把握してたけど、けど!リアルでガチに散らかりまくっとる場景を目の当たりにすると、ちょっとアレだな…汚いって感じでは無いんだけど……
とんでも無い量の物に塗れた惨状を目の前に圧倒された末、令矢の頭の中で横切ったのは〝廃棄場〟と言う単語だった。
「あーすまん。片すのを忘れていた。いや、何時もはこんなんじゃ無いんだがな!はははっ」
大工房の惨状を目の当たりにし、へはっ…と顔を少しだけ歪めたユノを見て、ヴァルカンは言い辛そうに笑って補足する。
「…」
嘘つけぇ!!お前が物片付けられない人間なのは知ってるぞ!何なら、寄宿舎の部屋も余りに物が溢れ返り過ぎて同居人に「ヴァルカンさん…これ以上は僕の部屋じゃ無くなちゃいます…」って疲弊しきった顔で言われて転宿届の申請出さされたエピソード知ってるからな??
「スゥゥ……~そぅなんですねぇ…はは」
鉄と油と何かが燃え焦げた臭いが、ゆるりと風に乗って鼻を掠めた。ちゃんと笑顔は保てているだろうか…それだけが気掛かりである。
「恥ずかしいモノを見せてしまったな…少し時間をくれ、整頓魔術を使おう」
そう言い、ヴァルカンは葦原を掻き分ける様にして、オブジェクトらを押し退けつつ、奥へと進んで行き令矢もそれに釣られる様に着いて行く。
襟元迄気になるミネルヴァが見たら、この場景は絶倒モノだな…こんなバカ広い空間をどれだけの時間を掛ければ、埋もれる程の物が溢れるんだ?てか、これ行き来めちゃ面倒くないか??
なんて、考えている間に先頭立ってヴァルカンが作った道を歩いていると、いつの間にか少し開けた場所に着いていた。
「有った、有った」
余りの散らかり様に視界が圧倒され、ボヤけていた思考にピントを合わせると、これだと言わんばかりに男は熔炉と見られる所に駆け寄り、散らばった黒い砂を掻き集めている。
「ああ、申し訳無いがディアナ嬢。俺が煤を集めている間、少し床の物を適当な場所に避けてくれないかな?」
背中越しに伝えられたその言葉に下を向くと、鍛造用の型?やら基部やらの塊が床に散乱していた。
コイツ……
▲▽▲▽
「わぁ、結構片付いたな。ありがとう」
「ぃ、ぃぇ…ぉきになさらずにぃ(震え声)」
わぁ、じゃねんだわ。そっちの都合で、都合よく人を使うな!!つか、こんな可憐な美少女(仮)に重労働をさせるなああああ!!!ど阿呆!ド阿呆!!あ゛ー腕がプルップルすりゅぅ~⤴ガチぶっ殺案件。覚えとけよ。
「じゃぁ、始めよう。ディアナ嬢は少し下がっていてくれ」
「はぃぃ」
仮にも招いた客にこんな事をさせておいて一切、悪怯れ無いこの様子…マジ原作通りの性格してるわ。
ユノ徒労を他所に、ヴァルカンは掻き集めた煤を片手に短剣の柄を握り、床へと屈んだ。一方、令矢はヴァルカンの対応に悪態を吐き乍らも、これからヴァルカンが成そうとしている行為には興味を唆られる様で、床や壁を覆う様に其処ら中に有る白いベールと、コンクリートが作り出す境界線、その境目の内。白いベール側へと身を引いて、ヴァルカンの様子を物珍しそうに離れた場所で伺っている。
ユノの鋭い視線を背中に感じ乍らもヴァルカンは、小慣れた手付きで片手にある煤を器用に一定の量が零れる様、中規模の円形陣を描いて行く。
「秩序と…を……慣習を司る高貴なるテミス神よ、我が血と鉄と灰燼の手蔓を以って在るべき物を在るべき場所へと導き給え…」
見た事無い魔術陣だ…煤で術式を描くなんて結構、器用だな…
口誦を終えたヴァルカンは、次にもう片方に握っていた短剣で煤を持っていた方の指を躊躇無く斬りつけた。指先から流れ落ちる血が陣の中央へ垂らされると、術式は血滴が落とされた場所から柱の様に突兀し乍ら赤い光輝を放ち、その陣を起点に雷光が如く葉脈状の線が、数秒も待たない内に厖大な光を放ち、広大な大工房の床と壁を覆い発動した。
その余りの眩さに、ユノの眼孔は直視する事を瞬時に脳が拒絶し、反射的に強く瞼を下ろす。瞼越しに透ける光が直ぐに消えた事で、そろりと目を開ければ、ついさっき迄そこら中に不規則に積み上げられた物の山が、かなりの大きさの空間を作って綺麗に整頓され、白いベールも瀟洒に敷かれ、吊るされていた。
「…!」
うお、スゲ……滅茶クソ便利やんけ、これ。真面目に俺もやりたいんだが。
「驚いたか?アロの前期生だから、こう云うのは初めてか…」
目を開けた先に起こった事象の衝撃に、目を見開くユノを見たヴァルカンは、初めて跳躍現象に触れた時の自分と望郷に似た想いで一瞬だけだが、重ねてしまった。会合で目にした彼女の人物評資料を脳裏に思い浮かべ、未だ13の子供だった事を思い出す。そして、遠く魔術世界から切り離れた絶域の野人だと云う事も又──
「ディアナ嬢は、こう云うのを見るのは初めてかな?一応、これはかなり初歩的な魔術なんだが。しかも、魔力がかなり弱めのね…」
ヴァルカンはゆっくりとした動作で立ち直すと、振り返って後ろに居たユノを正視した。
「そぅなんですヵ?けっこうはくりょくぁりましたヶど…」
「この帝都で暮らしていたら、嫌でも見掛ける初級魔術さ。俺みたいに魔力がちょっと有る、術式を少し齧った程度の奴なら誰でも起術可能な…ね。こう云うのって、本来は君みたいな人間が向いてるんだ。─ディアナ嬢」
「ゎたしがですかぁ?」
「ああ。無意識に“幻像魔法”が行使出来る程、魔力上限値が限界突破している弓矢の使い手なら容易いだろうね…」
そう意味深長に強張った声音で吐き捨て、ぱっくりと切れた指の切り口を血しとどに弄ぶヴァルカンは、何処か冷めた目で指を見詰めている。
そういや、ユノは魔術もかなり得意としていたな。猟師としての印象が強過ぎて忘れかけてたけど…
「……」
「…そう言えば、初めて見た時からちょっと気になってたんけど、その長弓はどうやって獲得したんだ?かなり、いや、凄く特徴的な弓柄だ。末弭も本弭も見た事が無いぐらい極端に曲がりくねっていた。あの蝶を発現させる方法を誰に聞いた?それとも、独術?」
視線を血塗れの指先から此方に移し直し、先程とは打って変わり、少し浮き立った声音でヴァルカンはユノに尋ねた。
「ゎからなぃです…」
「分からない…?」
分からない…こればかりは、『「Aschenputtel」Instruction Sketch Book 完全版』の設定資料集や『Moon side ユノ・ディアナ 上』の前日譚の何処にも記載されていなかった。いや、或いは設定資料集が発売される前に発刊されていた、某ゲーム雑誌の制作スタッフにインタビューしたAschenputtel特集号にちらっと言及されていたのかもしれない…だが、その刊号は苦しくも、俺がAschenputtelをDLする前に発刊されていので、未だ入手出来ていない雑誌。だから本当に分からない、知らない。
「はぃ…」
「うーん、そうかそうか。じゃあ、ソレは生まれ付いてのモノって事なのかな?…非常に興味深い」
「そぅ、ヵもしれません…」
こりゃ、ユノのパッパに聞いてみないと分かんねぇなー
「ぉちヵらになれず、すみませ─」
「いや、良いよ。野暮な事を聞いてしまった。謝るのは此方だ。すまない、ディアナ嬢。暫し其処の椅子で寛いで待って居てくれ。“アレ”を持って来る」
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牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
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