死ねない少女は異世界を彷徨う

べちてん

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第1章

第5話

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「服を作ろうって言ったって、どうすればいいのか見当がつかないや……さむさむ」

 ひとまず沢から上がってみたが、風が濡れた肌に触れて随分と冷える。
 なんたってタオルがないものだから体を拭くことすらままならない。魔法でどうにかなる?どうやってさ。

 そう思っていたら、いきなり目の前に真っ白い球体が現れるた。なにかと思うと、その球体はみるみるうちに形を変え、そこには1人の少女が立っていた。

「ちょ、ちょっと!あんた見てればなんでそんな、は、破廉恥な格好しているのよ!」
「……お、お前、お前よくもッ!」

 そいつを見るだけで怒髪冠を衝くどころの騒ぎではないほどの怒りが込み上げてくる。
 私をここまで不幸に追いやった張本人。思い出すだけでも吐き気が止まらない、恨んでも恨んでも恨み切れない存在。
 いくら殴ろうと腕を振ったところで、神にはその指1本たりとも届くことがない。それがさらに私の怒りを加速させる。
 これほどまでに自身の能の無さを憂いたことはない。

「まあまあ、落ち着きなさい」
「どの口が―――」

 そう抵抗しようとした私の口を、実体のない何かがふさぎ込んだ。
 ため息をつきたいのはこっちなのに、神は大きくため息をついて頬を紅潮させながらこちらを見て口を開く。

「……私とて神とはいえど乙女の端くれ。外でそのような破廉恥な格好をしている少女がいては心も痛む。お前が私を恨む気持ちもわかる。だが、これだけは受け取ってほしい。それだけ言いたかった」

 そうどこかに目線を逸らしながら言った神は、どこからともなく服を出しては消えていった。「そうそう、しっかりと『異世界の手引き』は読んでおいた方がいい。実用性のある魔法をいくつか示しているから」という言葉を残して。

 気が付けばそこにはあの少女の姿はない。先ほど同様人の姿の無い森の中。

「くそッ!」

 そう木の幹を力強く叩いたところで、非力な私では葉の1枚たりとも落ちてこない。
 気が付けば濡れていた体は水滴一つ残っておらず、素肌をさらけ出していたわが身は質素な服に身を包んでいた。
 あたりには体を拭くには十分な大きさのタオルが数枚と、着替えの服が1着。

 私にできるのはただその場に呆然と立ち尽くすのみ。
 ようやくこのよくわからない世界で何とかやっていこうと決意を固めたのに、ようやくまず初めの目標ができたのに。その目標は無責任にも現れた神によって粉々に砕け去った。

 思わず笑みがこぼれる。

「ああ、これからどうしようか……」

 良く晴れた日の昼、人里離れた森の奥には、目標を失い、1人虚ろな目をしながら空を見上げる少女の姿があった。









 目標を失ったからと言って、また何をするでもなく呆然と立ち尽くすというのは間違った行動だというのはすでに分かっていた。
 力強く頬を叩き、どこかへと飛んで行きそうになる意識を無理やり体内へと押し戻す。

 あんな奴とはいえど神は神。癪には触るが嘘は言わないはず。一応助言には従っておいた方がいいだろう。
 『異世界の手引き』をよく読め。確かに私はじっくりと目を通してはいなかった。

 戦闘になった際に何とか急いで開いた魔法のページ、その数ページを軽く読んだだけ。

 倒木に腰を掛け、実用性のある魔法をいくつか示しておいた。と言っていた『3章 魔法について』というページを開く。
 魔法についてとは言っているものの、実際は3章の大半が詠唱とその効果だ。
 「風」「火」「地」「水」「空」の5つの属性に加え、「識」という6つの属性、通称『六大』が存在しているようで、それぞれに分けて魔法が紹介されていた。
 通常イメージでも発動するが、詠唱することで自身の魔力保有量に合わせた最適な強さの魔法がイメージをせずとも発動してくれるとか。
 それなら技術の継承がイメージを伝えていくよりも楽で安定している。目的の魔法の詠唱を知っているのなら詠唱をすればいいし、知らないのであればイメージで何とかやればいい。
 書物には風属性のエアーカッターから始まり、「火」「地」「水」「空」と様々な魔法が記されている。
 しばらくパラパラとめくり、そろそろ3章も終盤に差し掛かるかという頃、「識」という属性を開くと、目に真っ先に飛び込んできた魔法。

「アイテムボックス……」

 私の抱える荷物の輸送問題。これを一気に解決の方向へと誘う超神魔法が記されていたのだ。
 他にも私の非力問題を解決する可能性を十分に秘めている『身体強化』や、この前無理やりこなした『ヒール』なんかもここに記されていた。
 初めからよく探しておけばよかった。ただ、あの片腕を失った極限の状態では、この小さな『ヒール』という文字が目に入らないのも当たり前だろう。

 腕をまくり、痕の残った右腕を眺める。
 しっかりとヒールをかければこの痕を消すことができるかもしれない。そう頭の中を思考がよぎったが、私がそれを実行に移すことはなかった。

 この傷痕を私は将来消すことはないだろう。
 この世界で生きているという証として、藻掻き、世界にあらがっていくための戒めとして、この傷痕は残していきたい。
 そう思った。
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