死ねない少女は異世界を彷徨う

べちてん

文字の大きさ
6 / 53
第1章

第6話

しおりを挟む
「さて、とりあえず服に関しては大丈夫だね。そろそろお肉が食べたいよ」

 なんとか水浴びも済ませ、神からもらったものではあるのだが、服も手に入れた。
 アイテムボックスとかいう便利な魔法が存在していることもわかったわけだし、このヒールを利用すれば少しのけがはすぐに治る。
 実際、靴を履いていなかったことにより痛めていた足も、ヒールをかけたらすぐに治った。
 魔法はとにかく便利なものだ。



 ひとまず探知魔法を使ってみると、近くには大きな獲物はいないみたいだ。ただ、小さいウサギのようなものがぴょんぴょんと跳び回っているのが見える。
 ウサギなら狩れるかな?

「攻撃魔法は正直よくわからないけど、まあなんとかやってみるしかないね」

 詠唱は覚えたし、この前実際に使っていたのでなんとかなるはずだ。ただ、ウサギは小さいし素早く動くから、狙いはよく定めないとだめかもしれない。
 私は現実世界で弓であったり銃であったりを扱っていたわけではないから、そこら辺はこちらの世界で練習する必要があるだろう。

 水浴びなんかをしていたら、太陽は傾き始めている。そうなってくるとあまり拠点から離れるわけにもいかないわけで、先ほどよりも範囲を狭めて探知魔法をかけてみる。

(拠点・・・・・・? まあ、拠点だろう。一応たき火あるし・・・・・・)

 そんなどうでもいいことを考えながらではあったが、さすがは籠城生活でなれたということもあって、イメージに狂いはなく正常に発動できた。
 近くにいる動物はウサギと、あとキツネ? のようなものがいる。
 キツネは少し獰猛そうで、距離もウサギの方が近いから今回はウサギを狩ってみることにする。
 距離にして100メートルといったところだろうか。
 私は動物の知識はないのだけれど、大きな耳を持っているのだから耳はいいはずだ。
 できるだけ遠くから音を立てないように狩りたい。せっかくの獲物を逃がすわけにはいかないのだ。

 相当おなかが減っている。もしここまでおなかが減っていなかったらかわいそうだという気持ちが勝っていただろう。
 ただ、今はそんな悠長なことを言っていられないのだ。弱肉強食の世界。それはこの前戦ったあの巨熊のせいで強く心身に刻まれている。







 できるだけ音を立てないように近づく。これは靴を履いていないのが功を奏しているかもしれない。
 ていうかあの神、服をくれるんだったら靴も一緒にくれてもいいのではないのではなかろうか。
 まあそんな甘ったるいことをいっていられないというのはわかっている。
 私を絶望の淵に追いやったのはあいつなのだし、服をもらえたのもただの哀れみのようなものなのだろう。

 獲物との距離は発見時の半分くらい、50メートルほどの所までやってきている。
 ここから魔法を発動してウサギを檻の中に閉じ込めることなんかができればいいのだが、さすがにそこまで細かい魔法を発動することはできない。
 この探知魔法はひたすらにやり続けたからできたことなのであり、覚えておけば何かと便利だろうから覚えたまで。檻を作る魔法なんてそうそう使わないだろう。それに効率が悪い。

(50メートルでいけるかな・・・・・・、もう少し近づいた方がいいだろうか)

 ウサギの数はたった一匹。探知魔法の範囲内にはまだ居はするけれど、またのっそりと近づくのも正直言って面倒くさい。
 いまは草を食べているからなんとか動いていないけれど、いつ動き出すかはわからない。
 せっかくここまで来たのだから、できれば本日の食卓に並べたい。

(よし。逃がす前にさっさと倒そう)

 もし魔法を外して逃がしてしまった場合と、それを恐れてためらっているうちに逃げてしまった場合とでは、結果はどちらも同じ。
 ならば少しでもとれる確率に賭けたい。

 声を出せばすぐに逃げられてしまうかもしれない。そのために今回は詠唱はなしだ。
 素早くするためにはどのような形状がいいだろうか。先端がとがった形状? 小さめがいいか?
 狙うのは脳天の付近。できることなら苦しみを与えずに倒してあげたい。

(よしっ。当たってください!)

 あの神に頼むのも癪だが、ここは神頼みしか正直ない。細かい誘導なんかができるわけはないのだから。
 加速のために多くの魔力を使い、一気に手から放たれた鏃状の岩は、ウサギめがけて一直線に飛んでいき・・・・・・。

「あぁ、外れた・・・・・・」

 ウサギの前の前10センチというところを通過していった。
 ウサギの姿はもう見えない。驚いて逃げてしまったのだ。

 本日の食卓には、ウサギが並ぶことがないのである。その落胆具合といったらひどいもので、背中を丸めながらとぼとぼと帰途につく。





「これは練習するしかないだろうね。魔法のコントロールをしっかりと勉強しないと狩りすらできない」

 誰もいないのに声を出して考え事をする。そうでもしないと精神の安定は保っていられない。
 タンパク質がとれないというのはなかなかに苦しい。何でもいいからタンパク質をとりたい。・・・・・・しかし虫はいや。
 そうなってくると沢に住んでいる生物を食べるのがいいだろうか。
 魚やエビ、カニなんかは居るはずだ。あれほどきれいな川なのだから。
 実際、水浴びの時にちっこいエビなら見かけている。さすがにちっこすぎて食べる気にはならなかったが、エビが居るならそれを捕食する魚も居るはず。

「食事のためだ」

 おなかが減って今にもくたばりそうな体をまたもや持ち上げる。
 居るかはわからない。さすがに川にすむ小さな生物に探知魔法を使うのは精神的にもなかなか厳しい。
 万全の状態だったらいけるかもしれないけれど、もう何回も何回もいっているが、私はおなかがすいているのだから。
 万全なんていうのとはかけ離れている状態な訳だ。






 先ほどは裸になっていたから気にしていなかったが、水に足をつけるのだから服が濡れてしまう。
 ただ、沢はそれほど深くはないため、ズボンを膝のあたりまでまくり上げてから足を踏み入れることにした。
 本当は足を入れることなく探したかったのだけれど、中に入った方が絶対見つけやすいはずだ。
 サクッと見つけてサクッと帰る。今やりたいのはこれなのだから、見つけるのを最優先でいきたいと思う。

「魚居るかな・・・・・・、姿は見えないけど。ていうか見つけたところでこれどうやってとればいいんだろう・・・・・・」

 網のようなものを持っているわけではないし、釣り竿のようなものを持っているわけでもない。釣り竿があったところで浅すぎて釣りができそうな感じではないが。
 そうなってくると狙うのはエビやカニがいいだろう。

「エビカニ、居るか?」

 こうやって水遊びしたのはいつぶりだろうか。いや、今日2回目なのは除いてだけれど。本当に昔、小さい頃にやったきりだと思う。
 まあそのときとはずいぶん状況が変わってしまったが。
 以前は川で遊ぶのが目的だったけれど、いまは食事を探すのが目的なのだから。少し悲しいな。少しどころではないけれどね。

「いたッ! いたいたいた!」

 正直少し楽しみながら探していたら、案外すぐに獲物を発見することができた。

「これは、ザリガニかな・・・・・・」

 見た目は完全にザリガニ。色はよく見たアメリカザリガニのような真っ赤っかな色はしていない。どちらかというと茶色っぽいし、サイズも一回り二回り大きい。
 これが異世界クオリティなのだろうか。

「う~ん、どうやって食べるのかわからないけどひとまずとっておこうかな・・・・・・」

 ないよりはまし。怖かったが何とか掴むことに成功し、ひとまずアイテムボックスに入れることにした。

 ・・・・・・したのだが。

「あれ? 入らない」

 なぜか入れられなかった。
 おかしくなってしまったのかと思い、そこら辺の木の枝を拾って入れてみたが、何の問題もなく入る。
 つまんでいるザリガニは私の指を挟もうと必死に動かしながらもがいている。さすがに痛いのはいやだ。

「ど、どうして? 生きてるのはだめってこと?」

 おそらくこれが正しいはずだ。生きているものは入れてはいけない。そういうことなのだろう。

「いてッ、いててッ!!」

 あまりにもたらたらしていたせいか、思いっきり指を挟まれて焦ってザリガニを逃がしてしまった。
 どうやら川でも私は獲物を逃がしてしまうらしい。
 獲物を捕ったらまず殺す必要があるのだろう。
 ただ、できれば生きた状態で運びたいというのが本音だ。この前の芋の件があって、食中毒というものに敏感になってしまっている。
 できるだけ食べる直前までは生かしておいて、鮮度は保っておきたい。

 ・・・・・・鮮度を保つ。そうか。凍らせればいいんだ。
 凍らせれば獲物を殺せるし、殺しているからアイテムボックスに入る。しかも凍っているのだから鮮度も落ちない。
 来た。これは来ました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...