死ねない少女は異世界を彷徨う

べちてん

文字の大きさ
11 / 53
第1章

第11話

しおりを挟む
「よし、今日の練習はこんなもんでいいか」

 あれからしばらく魔法や剣の練習をしている。
 時計がないのでどのくらいやっているかはわからないのだが、この練習でわかったことがある。それは、私は実戦で確実に魔法を使えないということだ。
 どうやら身体強化魔法に関しては私のイメージが明確でなんとかなりそうだったが、とっさにエアカッターだとかロックジャベリンだとか、そういうのを発動するのは無理だ。
 緊迫した場面で詠唱、イメージを構成するのは先日の考えと同じであまり現実的ではない。とっさだと魔力の変換効率が悪いからだ。
 それに絶望的に魔法の狙いが悪く、放った魔法がまっすぐに飛んでいかない。
 とっさに発動した魔法はイメージも弱くて威力も弱い。
 ていうかイメージ力が足りない。
 
 それで思ったのが、魔法で作り出した剣ではあまり戦わない方がいい。出来ることなら魔法製ではない武器を手に入れたい。
 先日素振りをしているとき、明らかに私の剣が剣ではなくハンマーみたいになっていることに気がついた。
 おそらく私のイメージ力が足りない。思ったように鋭い剣を作れないのだ。そりゃ眺めにイメージすれば作れるけれど、毎回そんなことをしていたら精神が持たない。

「うーん、剣ねぇ……。って!」

 たき火の周りをくるくると回りながら考え事をしていたら、1つ重大なことを忘れていたことに気がついた。

「オオカミ……」

 魔物化したオオカミを閉じ込めてしばらく時間が経ってしまっていた。
 閉じ込めてから数日は吠える声や暴れる音が聞こえてきたのだが、だんだんと弱ってきたのか時期にそれがなくなって行っていた。
 そのせいでその存在をすっかり忘れてしまっていたのだ。

「うわぁ、いやな予感がする……」

 近頃はだんだんと暖かくなってきている。
 閉じ込めた箱の中はオオカミの体温と、様々な方法でオオカミの体内から出てくる水分で相当ひどいことになっているはずだ。
 3日くらいならまだ大丈夫だっただろうが、明らかに3日を超過している。

「ま、まぁ、開けないとわからないし……」

 重い足を無理矢理動かしながら閉じ込めていた箱まで歩いて行く。
 完璧に密閉されていたのか、何かが漏れ出ていると行ったことも無ければ、悪臭が漂っていると行ったことはない。
 ……いや、嘘。明らかに地面がぬかるんでいる。
 何でぬかるんでいるのかというのは考えない。それを意識してしまえば私の胃液で辺りを汚してしまう。

「よし、ひとまず開けてみよう」

 ゴクリと喉を鳴らし、慎重に魔法を使って蓋を開けていく。

「うッ!?」

 少し開けただけで辺りに広がるもわっとした空気と悪臭。

 飛び跳ねるように後ろに下がり、近くにある木の横辺りで先ほどせっかく我慢したはずの吐き気が限界突破してしまった。
 付近に生えていた大きめの葉っぱで口元を拭き、諸悪の根源の方へと目を向けると、そこから勢いよく虫たちが湧き出ているのが目に入った。
 その虫たちは、まるで魔物化しているかのようにこちらへ向かって襲いかかってくる。
 まるで魔物化しているようにではない。魔物化しているのだ。
 魔物化したオオカミの肉を食べた結果、体内の魔力量が増えてしまった虫たちはそのまま魔物化。ただでさえ害悪で、駆除の対象であった害虫たちがさらにその害度を高めてやってきている。

「ファイアーボール!」

 とっさに魔法を使えないといったものの、魔法を使う以外にこの大ピンチを抜ける方法が思いつかなかった。
 イメージすることは無理だ。私の脳内容量では裁ききることの出来ないような情報量を今私の五感は感じ取っている。
 そこに新たに魔法のイメージという相当の容量を取れる行動は取れない。とっさに出来るのは覚えている魔法の詠唱のみ。
 ただ、その威力もパニック寸前ということもあって非常に弱い。
 小さい火球がひょろひょろと私の手から出ていく。
 普段なら絶対に当たらないような攻撃だが、今日はしっかりと敵にヒットした。
 なぜなら数が多いからだ。

「ファイアーボールッ! ファイアーボールッ!」

 足がすくんで立てない。木にもたれかかりながらなんとかファイアーボールを発動し続ける。
 森が燃えるとかもう関係ない。大丈夫だ。この雲の様子ならそろそろ雨が降る。その雨が自然に消火してくれるはずだ。
 倒しても倒しても湧き出てくる虫たち。正直そろそろ私の魔力が厳しくなっている。
 私が魔法を実戦で使えないと言ったもう1つの理由として、私の魔力量は少ないのではないかという疑問が上がったからだ。
 魔法の練習を30分もすると、体内の魔力量が少なくなってか体調が悪くなってしまう。

 現在練習でもしなかったようなペースで、イメージもろくに出来ていないために魔力の変換効率も悪いこの状況でひたすらに魔法を放っている。

「も、もう……、限界だ……」

 やりたくなかったけどもうやるしかない。
 ひとまず今は魔力の補給が優先だ。この木から吸い取るか? しかしこれでこの木が枯れてしまえば私がもたれかかる物がなくなってしまう。
 出来るかはわからない。一か八かの挑戦だ。

「頼む……」

 あの信用ならない神に祈る。頼むから成功してくれと。

 とっさに脳のメモリーを裂いて行ったイメージは、空気中の物質から魔力を抜き取るというものだ。
 ただ、その判断が間違いであったのか、それとも正解であったのか全くわからないような事象が起きた。

 私の手に魔力が渡り始めたその瞬間、私の手の辺りで大爆発が発生したのだ。





 何が起きた? わからない。
 空気中から魔力を吸い取った瞬間に目の前が真っ白になって……。

 体が全部吹き飛んだとき、時間はかかるが一部再生できる。ただ、回復魔法を使える状態まで回復するのにどのくらい時間がかかるかはわからない。
 まあ原因の究明でもして気ままに待ちましょう。



 復活するまでの時間、体が動かせるようになって回復魔法を掛けられるようになるまでの長い長い時間で出した結論。
 推測でしかないのだが、前回オオカミから魔力を抜き取ったときは、あくまで抜き取る対象は生物だった。
 生物は体内で魔力を循環させている。その魔力の循環の一部に私の魔力の循環への入り口を無理矢理差し込むような形で魔力を引き抜いた。
 ただ今回は違う。

 酸素、窒素といった物質から直接魔力を抜き取った。
 おそらくそれが原因で何らかの化学反応のようなものが発生して爆発したのではないか。という結論だ。
 核融合反応的な、そういった感じだろう。しらんけど。

「まぁ、ひとまず倒せたからいいか」

 虫どもは倒せた。しかしもうここには住めないね。

 辺りを見渡すと、私が立っている位置を中心に半径100mほどの範囲がえぐれている。
 それにその周りに木も吹き飛んじゃってるし……。

 そう自身のやらかしを反省していると、前方に久しぶりに見るシルエットがあった。

「人だ……」

 5人ほどの装備を着た人たち。
 この爆発を見て調査隊のような形で派遣された人たちだろうか。それとも何か別の用事で来た人たちだろうか。
 ただ、今はそんなのはどうでもいい。人が居るのだ。目の前に。

「まずいッ!」

 どうやらこちらの存在に気づいたようだ。
 爆発の中心地に居る怪しい少女。体が治ったらすぐに森の中に隠れれば良かった。爆心地であぐらをかいてブツブツ言っている人が居ればそりゃ怪しいわ。

 そんな怪しいやつに向かって行う行動はただ1つ。攻撃だ。
 杖を持った初老のおじさんがこちらに向かって岩の槍のような物を飛ばしてくる。
 とっさに剣は作れないとはいったが私だって馬鹿ではない。
 あらかじめ時間のあるときに作っておいた剣をアイテムボックスにしまっていたのだ。
 アイテムボックスから剣を取り出し、身体強化魔法をいつもより強めに掛ける。身体強化魔法は楽でいい。常時発動はまだ無理だけれど、相当回数を重ねたためにイメージをしなくても完璧にかけられる。

 身体強化魔法によって速くなった足を駆使して素早く槍の横へと行き、その槍を真っ二つに切る。
 これを見て奴ら一瞬動きが止まったが、すぐに次の攻撃がやってきた。
 1対5、戦闘初心者の私が勝てるわけがない。

 取れる選択はただ1つ。

「逃げるぞ~っ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...