死ねない少女は異世界を彷徨う

べちてん

文字の大きさ
22 / 53
第2章

第22話

しおりを挟む
 歩き、太陽が沈んで眠り、また太陽が昇れば歩き出す。
 そんな生活を繰り返して何日か経った頃、いつものように舗装のされていない街道を歩いていたら、後方から馬の足音が聞こえてきた。
 振り返ると、荷物を載せた馬車がこちらに向かって街道を進んでいるのが見えた。

 ここは王都から伸びる街道と言うこともあり、こういった荷馬車の往来が多い。これの他にもいくつか馬車が通り過ぎていたので、またいつものように前をむき、道を空けるために端の方に避けて歩きだした。
 前方に見える山脈。
 草木の緑と空の青のコントラストがきれいだが、そんな悠長なことを言っていられるのは今のうちだ。
 この山を越えなければならない。
 もちろんトンネルなんていうものが掘られているわけはない。山にぐねぐねと作られた道を通って行くのだ。
 ……正直徒歩だと厳しいかな。飛ぶか?
 多分やろうと思えば飛べると思うけど、なんせ200年牢屋にいたから飛ぶ訓練なんてほとんどやっていない。
 宙に浮くのは出来たけど、それで移動が出来るかと言えば正直微妙なところだ。

 そう考え事をしている間に、通り過ぎていくかと思われた馬車が、徐々に速度を落としていき、私の隣で進むのを止めた。

「あの、嬢ちゃんは冒険者かい?」
「え、まあそんなところですが、何か御用でしょうか」
「……まあ、一応そんなところだ。話だけでも聞いてくれないか?」

 そう言ってきたのは、馬車に乗った小太りのおじさん。格好からして商人ということは分かる。小太りと言うことは適度に儲けを出しているのだろう。
 ……この世界は、街道沿いの山や森には盗賊や魔物が出ることがある。それを護衛の冒険者なしでか?
 おそらく何かの事情があるのだろう。だから話しかけてきているはずだ。

「分かりました。話を聞きましょう」

 そういうと、少し暗かった顔に光が差し込み、にこやかに笑顔を浮かべて「たすかる」と言った。
 まだ受けるとは言ってないからね!?



 馬車の、前世の車だと助手席の部分に座り、話を聞く。
 歩き疲れていたので、座らせてくれたのはありがたい。それに馬車は歩くより少し早い。
 時間短縮でラッキーだ。

「私は見ての通り商人でね、今は王都からの荷物を運んでいる所なんだ」
「そうなんですね。……それにしては荷物が少ないように見えますが」
「ああ、そうなんだ。今は貴族からの依頼でな、急ぎの荷物を運んでいるところだ。隣のジェレイ王国という所の王都で魔道具の市が開かれるのだが、そこで発表する新製品のパーツに不備が見つかったらしくてね。
 相当な額を積まれ、急ぎだからということでできるだけ荷馬車の重量を軽くするために他の荷物を積まないでやってきたんだ」
「だから少ないんですね」

 そう返すと、短く「ああ」とだけ答えて、少しリラックスしたような表情から真面目な表情へと顔が変わった。
 おそらくここからが本題だろう。
 ……それより魔道具の市か。正直興味があるな。

「嬢ちゃんも旅をしていると言うことはあの山脈の辺りに盗賊が出るのは知っているだろう?」
「ええ。だからなぜ護衛がいないのかと気になっていました」
「そう、そうなんだ。本当は護衛をしてくれる冒険者の人が居たんだが、出発日の朝に突然依頼を断るという手紙が届いてな。
 急ぎと言うこともあって別の冒険者を探す時間もなく、そのまま出てきてしまった訳なんだ。
 でも私には戦闘を出来ない。だから盗賊や魔物が出ないように祈るしかないんだ」
「で、私に護衛を頼みたいと?」
「話が早くて助かる」
「でもどうして私に? 途中他にも冒険者はいたでしょうし、数は多くはないと思いますが、ここから先でも会うと思いますよ?」
「確かにそれはそうだな。実は、私は対象の実力を数値として見れるんだ。
 実力鑑定と言うスキルで、そこそこレアらしい。
 ……まあ、それ以外にスキルはないがな。どうせなら攻撃系の1つや2つ欲しかったさ。

 話が逸れてすまない。
 王都で一番強いSランク冒険者の数値が13800くらいで、王都の冒険者の平均だと大体3000前後だ。
 今回私が依頼していた冒険者4人の平均が4200くらいだった」
「それが私以外の人を選ばなかった理由になるのですか?」
「ええ。弱かったんですよ。平均が4000を超えるようなパーティーとは出会わなかったんだ。それに出会ったとしてもギルドを通さない依頼だから、怪しんで受けてくれない可能性もある」
「なるほど。……ちなみに、私の数値はいくつでしたか?」
「それが、測れなかったんだ。私のスキルレベルでは測れないほどに高かった。だからこそ、君になら任せられると思ったんだ」
「……なるほどね」

 戦闘力がどういう計算式で割り出されるものかは分からないが、“死なない”ということで一気に底上げされている可能性は十分にある。
 もしそれが反映されていなかったとしても、200年間も魔法を鍛えまくったわけだ。実力は相当ついているはず。
 彼の測れる数値がどこまでか分からないが、少なくとも13800以上の実力はあるということが分かった。
 まあそれがどのくらいか比較対象が居ないので分からないが。

「依頼料は?」
「金貨1200枚でどうでしょうか」

 さすがに一回の護衛依頼で金貨1200枚は多すぎる気がする。
 金貨1枚で日本円の1万円だと仮定すると1200万円だ。まあ、ベリネクスから貰った大金と比べれば微々たるものだけど、相当奮発している。

「……多すぎませんか?」
「言ったでしょう。相当な額を積まれたって」

 そうにやりと笑ってこっちを見た。
 ……多分コイツは大丈夫な人だ。このノリの人に悪い人は居ないって言うのは前世プラス200年の経験で分かっている。

「おじさん、名前は?」
「ああ、悪い。私はジェノムレイフという。ジェノムレイフ商会を営んでいる」
「私はギン。これからは仲間だから敬語は外すね。よろしく」
「……受けてくれるのか?」
「魔道具市とやらに興味がある」

 そう真顔で言い切ると、ジェノムは大きく笑った。
 そうして、笑い終わるとこちらに手を差し出した。

「じゃあ、よろしく頼む」
「よろしく」

 こうして私たちは、ジェレイ王国の王都へと向かうことになった。

「……王都の名前、何?」
「レグニタウンだ」





「それにしても、嬢ちゃんの履き物は不思議な形状だな」
「ああ、下駄って言うんだ。この世界の靴は硬いからな」
「そうか? たしかに硬いかもな。柔らかい靴があるなら履いてみたいよ」

 ……あぶねー、この世界のとか言っちゃったけど、多分痛い少女って言うことで流されたかも。
 いや、痛い少女と思われるのもやだけど、ていうか少女って思われてるのかな。

「……その靴は痛くないのか?」
「痛くない。覆われてないからね」
「……うちで商品化する気は?」
「ないね。私だけのだから良いの。真似て売ったら首が飛ぶと思ってね」
「あー、怖い怖い。そんなことはしないさ」
「そう。ならいい」

 こんな感じで愉快な旅だ。
 椅子は硬いし、ろくに整備もされていない道だからガタガタと揺れる。
 まあそれでも座って移動できる。しかも探知魔法で辺りを警戒しておけば良いだけ。それで1200万円ももらえるわけだから十分すぎるだろう。

「嬢ちゃんはどこに向かってたんだ?」
「決めてない。とりあえず歩いてた」
「何か目的とかはあるのか?」
「きれいな景色が見たい」
「なるほど、きれいな景色か……」

 そういってジェノムは考え出した。
 商人なら良いところを知っているかもしれない。少し期待が出来るな。

「そうだな、ジェレイ王国の隣にセレニア王国という国があってな、そこにベルティナの町という大きな湖がある町がある。そこがきれいだぞ」
「なるほど、湖か。じゃあそこに行ってみようかな」
「ベルフェリネ王国とは反対側だから、そこまで送れないが、レグニタウンから乗合馬車が出てるはずだ。それに乗ればいい」
「わかった。じゃあレグニタウンまでよろしくね」
「ああ、こちらこそ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...