死ねない少女は異世界を彷徨う

べちてん

文字の大きさ
23 / 53
第2章

第23話

しおりを挟む
「じゃあ、ここからは頼んだよ」
「任せて。ジェノムの目に害獣が映り込まないようにするから」
「??? どういうことかわからんが、まあとにかく守ってくれればそれでいいさ」
「うん」

 翌日のお昼頃、私たちは山道の入り口辺りまでやってきた。
 軽く探知魔法を掛けてみたが、やはり我々に危害を加えそうな者はたくさんいる。
 危険な動物、魔物に盗賊。まあどれも会う前に殺せるだろう。
 探知魔法で敵の位置を把握し、遠距離で殺す。ジェノムには何もしていないように思われるかもしれないけれど、コイツは私に対して払い損だったと思うような哀れな性格はしていないはずだ。
 殺した奴らはアイテムボックスで回収できる。どこかの町に着いたときにでもうっぱらう。
 200年の牢での生活で気がついたのだが、アイテムボックスを開く場所は自身の近くではないとダメと言った制限がついていない。
 認識が出来る範囲内すべてにおいて発動が出来るようだ。ただ、対象の場所との距離が離れるほど、使用する魔力量も上がっていく。
 自身の魔力量と相談だ。
 魔力量がたくさんの人は窃盗なども楽に出来てしまうだろう。私はそんなことはしないけどね。





「随分揺れるね」
「ああ、山道だからな。これでも王都から出る道と言うだけあって、整備はされてるもんだと思うぞ」
「そうなの? これよりひどかったら酔っちゃいそうだよ」
「若い旅人なんかは馬車で頻繁に酔うらしいな。緑を見てりゃあ多少マシにはなるぞ」
「ふぅん。覚えとく」

 比較的広めのこの山道は、渓谷のようになっているところに敷かれている。
 大雨が降ったりしたら川のようになってしまいそうだ。ジェノムがいうには、ここからもっと山の中に入っていくそうだ。
 一部は魔法によって切り開かれた所だったり、谷すれすれだったりと、整備されているとは言ってもヒヤヒヤするようなルートを通るとか。
 途中いくつかキャンプ地が設けられていてそこのキャンプ地に泊まりながら進んでいく。

 こういう木が生い茂っているところに来ると、なんとなく懐かしさを覚える。
 200年という長い年月に比べれば短い期間だったけど、それでもあの森の中で生きていた時はかけがえのない思い出だ。
 あのとき私を襲おうとした騎士たちも、もう墓石の下に入ってしまっている。
 おそらくいまあの思い出の地にもう1度足を運ぶと、昔とは違う景色になっているのだろう。それを見るのはまた今度で良いかな。





「あ、盗賊だ」
「はぁ!?」

 探知魔法の範囲内に盗賊の姿を捉えた。
 アイテムボックスで魔力を使うから、探知魔法の範囲を結構狭めにしていた。
 そのために一気に盗賊が現れて結構びっくりした。
 そのせいで思わず口に出してしまったために、驚いたジェノムが馬車を急停車させてしまった。
 少し足を開いて、その間に手を置くように座面を掴んでいたからなんとか吹っ飛ばなかったが、危うく吹き飛ぶところだった。

「もう、危ないなぁ。なんで急に止まるの?」
「いやいや、盗賊がいるって言ったからでしょうに」
「ああ、それはごめん。でも気にしないで。こっちで倒すから」
「はい?」
「私強いんで、敵の姿見えなくても盗賊くらい殺せるよ。それに見た感じ強そうなやつはいない。
 王都から出る馬車を細々襲ってる奴らでしょう。そんな奴らに私は倒せない」
「……ずいぶんな自信だな。まあいい、進むぞ」
「あい。あ、少し数が多めだから集中するね。返事が変になるかもしれないけど気にしないで」
「わかった」

 盗賊の数は20と言った所だろうか。
 この世界の盗賊がどれくらいの人数で行動しているかは分からないが、数が多いのは少しやっかいだ。
 ここからの距離はざっと5キロといったところだろう。
 ここまで乗った感覚だと、30分くらいで盗賊たちが張っているエリアに着く。それまでに倒さないといけない。
 まあ余裕だね。



 探知魔法では声が聞こえないのが残念だ。
 「て、敵襲だーッ!」とか、「なにッ、どこから攻撃が!?」とか、そういう会話を聞きたかった。
 でもしょうがない。聴覚強化でも聞ける距離は1キロくらい。5キロは無理だ。

 この距離だと魔力もいつもより使ってしまう。
 魔力を体内に循環させる訓練を行うと、魔力量が増えるというのを大体牢に入ってから2年の頃に見つけた。
 それを暇さえあれば行ってきたわけで、相当量の魔力があると思う。
 まあ、牢にいる間それを検証するというのが難しかったから正確なところは分からない。



 馬車がガタガタ揺れるから照準を定めにくいみたいなことはない。
 馬車が前に進んでいるから照準も前に進むみたいなゲーム的な感じではないのだ。そこら辺は便利でありがたい。

 この距離だと投げ物系は無理。
 地面から尖った何かを出して刺し殺すのが簡単で良いかも。

 獲物をじっと隠れて待っている今のタイミングは非常に奇襲を掛けやすい。
 動いていないから狙いを定めやすいのだ。
 ここで1人ずつ狙って順番に殺していくというのはアホがすることだ。
 そんなことをしたらみんな驚いて動いてしまう。狙いにくい。
 だから一気に殺す。

 本当は地面に手を触れて地面経由で魔法を発動した方が魔力量が節約になるのだが、馬車に居る今そんなことは出来ない。
 固体、液体、気体という順番で魔力の伝導率は悪くなっていく。
 物質の種類にもよるが、固体は部室を構成する粒子と粒子の間が狭いために魔力の伝導率が良いんだと思う。
 気体はその逆。魔力がうまく伝わらない。

 だから集中力が必要なのだ。
 じっと目を瞑って意識を探知魔法で見える標的に定める。
 イメージは針。生け花で使う針山の針みたいなものをイメージしていく。それを標的の下から一気に出す。

 いや、そんなことをしなくても良いか。
 空気を伝って直接標的の体に攻撃を入れれば良いのだ。
 200年以上前に学校の生物の授業や保健の授業でやった身体の構造を思い出す。
 心臓は……ここら辺かな?
 確か心臓って体の中心辺りにあったと思う。でも心臓の筋肉は持ち主から見て左側の方が活発に動いているから、左側が肥大していくって言うのを聞いたような気がする。
 だから気持ち体の左側を狙う。

 その辺りの皮膚から心臓にかけて針を作る。

 ……この作戦なら別に奴らが動いていても支障なかったな。
 まあいいや。
 別に私は奴らを恐怖の淵に追いやりたいわけではない。ただ自分の障害となる者を排除したいだけ。
 多少は申し訳ないという気持ちを持っているのだ。
 だからひと思いに殺してあげよう。

「さよなら」

 つぶやくつもりはなかったが、なんとなくつぶやいた。
 そのつぶやきがトリガーになったかのように、奴らの心臓を土魔法で作られた針が突き刺し、20人近くの人間の生命反応が途絶えた。

「ふぅ、終わりだね。やつらの持ち物は回収する?」
「それは嬢ちゃんに任せるが、止めてやってくれ」
「なんで?」
「盗賊たちも好きで盗賊になった者は少ないはずだ。きっと何かの事情があったと思う。
 何もかもを奪うのは酷じゃないか。命だけで勘弁してやれ」
「ふ~ん。わかった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...