小説家訓練~短編集~

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魔女は現世に

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テーマ魔女、現代
   なんとも寂しい現世になったものだ。と、魔女は思った。悠久の時を過ごす彼女にとって現世を散歩することは良い退屈しのぎになるのだ。
美しい夜の月が見守る人間が住まう現世に魔女は憂いを感じた。確かに人々が住まうこのビルという建物は数多に存在し、その明かりは大変美しい。だが、人間たちはその美しさに見惚れている暇などなさそうだ。
少し勿体無いと思ってしまう魔女であった。
    ふと気まぐれに彼女はその美しいビルの頂上に登った。魔女にとって自分の何倍もあるビルに登ることなぞ穴を掘ることと同じくらい簡単である。
ビルの頂上は強い風が吹いていて、少し肌寒かった。
強い風の中にかすかな人の気配を感じる。おや、ここは来てはいけないところだったか?と思い、魔女は軽く身構えた。しかし、現れた人は強靱な男、ではなく可憐な女性だった。魔女は姿消しの術を使い、自らの姿を隠した。
女性は頂上の端にある角?のようなところに行った。
そして自らの足につけていた靴を揃えて脱いだ。
彼女は瞳を閉じてこういった。
「神よ、私をお救いください。こんな地獄から」
彼女は頂上から落下した。
魔女は彼女が落ちていくのを確かに見た。
それを見て、魔女はひたすら蔑みしか覚えなかった。
なんとも、弱く、愚かなのだろうか、と。
魔女は神が嫌いだ。

   ビルの頂上から緩やかに降りると、先ほど堕ちた女の死に顔が拝めた。目の下にドス黒いクマがある。
なんだ、やはり阿呆ではないかこの女は。と魔女は思った。その女を取り囲むように人々がいる。この人間どもは何をしに来たのか?魔女は姿消しの術を解かず、その様子を観察することにした。
「まあ、なんて可哀想」
「とりあえずネットに上げてみるか」
「誰か、救急車呼べよ!」
「救急車じゃなくて、警察、だろ!」
「そっか!」『あははははは!』

人だかりは警察、と呼ばれる人間によって解放された。魔女はその場を去った。

   魔女は学校に行った。実は魔女の世界にも学校があるんだが、その違いを見てみたいと思ったのだ。
人間の学校は魔女の学校に比べて随分と阿呆が多かった。それもそうか、通っているのは子供だけだしな。
と魔女は思った。
もう少し、細かくみたくなって魔女は1つの教室を覗き込んだ。
机と椅子がきれいに並べられてそこに生徒が座るようだ。それにしてもどうして1人しか座っていないのだろうか?そう魔女は思った。それに座っている1人の人間は泣いているようだった。
なんだ、また弱い人間か?
そこにヒソヒソと話し声が聞こえる。
うるさいな。何を話しているのか?
魔女は耳をすました。
「また泣いてるよ」
「ほんと、情けないよね」
「あんな気持ち悪い見た目してるくせに私らと同じ空気を吸えているのだからもう少し喜んでもいいでしょ」
「いや、あれは悲しんでるんじゃなくて喜んでるんだよ」
「そうなの?なんて、愚かなのかしら。うふふふふふふふふふ!」
その声が聞こえているのかいないのか、まだ人間は泣いている。これは後から聞いた話だが、この出来事を人間はいじめ、と呼ぶらしい。

その人間は放課後になると真っ直ぐに家へ帰り、ベッドで泣いていた。散々泣いたのにまだ泣くのか。と内心呆れた魔女だったが、しばらくその様子を見ることにした。人間は数時間経つと泣くのをやめ、机の前に座った。勉強でもするのだろうか。と魔女は思った。
しかし、少し経ったら、人間はすぐにどこかへ走った。魔女はなんとなく、その行き先がわかっていた。
やはり、美しいビルの頂上だった。人間は吹っ切れたように頂上から飛び降り、赤い飛沫を撒き散らしながら死んだ。


   魔女は街を歩いた。太陽を神と崇める国にしては太陽があまり見えない。何故だろうか?と魔女は思った。しかし、そんなことはどうでもいい。魔女は気まぐれに人の心をのぞいてみた。
「今日も残業か…」
「テストだる」
「なんで今日があるんだろう」
「なんで僕は生きてるんだろう」
「しにたいよ」
ああ、嫌だな。


    魔女。それは死者。生きているうちに悪事を働き、魔界に堕とされた悪魔との契約者。死者である魔女は常に思う。幸福な人生が欲しかった。と、生きていたかったと。だからいつも人間を妬む。自分の魂と体を持ち、神を信じ幸福を望むことが許されている。罪を持った魔女にはもう、生まれ変わることすらできないのに。それなのに。人間はこうも死を簡単に望もうとする。どうしてなんだろう。

神は私たちを救わない。運命の神はいたずらに我らを創っただけでその後のことは全て我々に任せた。でも、運命の神は戯れを行なった。そのせいで我々は、私は、死んでしまった。だから神が嫌い。

   私は悠久の時を彷徨う魔女。いっそのこと、この世界を壊してしまおうか、それで私が新たな世界の神に…


ふん。下らない。この私が人間ごときのために世界を滅ぼすなどありえん。まあ利用価値はあるだろう、いずれはおろかな人間を支配し、我が物にしてくれよう。

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