異世界転生？いや面倒だから異世界の方がこっちに来い

黒幕登場

　幸い、春香や東山社長はいい人そうだが、油断はならない。

「さて、それで現世の被害の方だが……」

  そう言って東山社長はさらにパソコンを操作する。画面に表示されたのはニュースサイトだ。殆どの記事が、突然起こった天変地異について伝えるものだった。

  街が突然現れた塩湖に沈んだり、突然現れた山脈に貫かれ、ビル群が崩壊したり、土の雨で各地通行止めになったり、突然落ちてきた岩に家を潰されたりなど、被害のバリエーションには事欠かなかった。

「こ、ここまで大変なことに……」

  進はそう呟くが、しばらく二の句が継げなかった。だがその後もニュース記事を見せ続けられ、思わず叫ぶ。

「お、俺がやったんじゃないからな！ まさか呟きが現実化するなんて思わなかったし、俺に責任はない！」

「それは分かっている。だから落ち着いて話を聞いてくれ。まず新たな異世界の召喚を防ぐため、君には数日の間眠っていてもらう。その間に我々で解決策を見つける」

「ほ、本当に信頼していいんですか？」

「あぁ」

  東山社長は簡潔にそう答えた。

「私が２４時間進さんを見張っていますから、安心してください！」

エラールがそう言ってくれた。

  というわけで、進は一旦睡眠薬を飲み、眠っていることになった。

  目の前にコップと錠剤が置かれる。

  だが次の瞬間、それらは爆風で吹き飛んだ。

「あーあ、聖魔法【サンクチュアリ】とは。防御が徹底していることで。おかげで侵入に手間取ってしまったよ」

  見ると、ビルの窓ガラスを破り、一人の男が侵入してきていた。黒に金色のラインが入ったコートを着ている。奇妙ないでたちだ。

「誰だ貴様は？」

　春香がそう問う。

「私はバゼル。神働術師だ。不動進を殺しに来た、と言えば分かるかな？　私は君らの敵だ」

　男は堂々とそう宣言する。

　春香を始め、部屋中の全員が一斉に身構える。

「ということは、進くんに異世界召喚の力を与え、この天変地異を引き起こしたのは貴様か？」

　東山社長がそう問う。

「いや、与えるつもりなど毛頭なかった。だがこちらの術式のミスでね、私が全能の力を得るはずが、そのうち異世界召喚の力だけを他の人物に与えてしまったのだよ」

　こいつ今、全能の力とか言ったか？　それが本当なら勝ち目はない。それかただの狂人なのか？