ラインスナイプ! 世界を驚かせた高校生テニス少女の物語

ヨーヨー

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第26話 繋がれた弦、繋がる想い

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応急処置を終えたラケットを両手で受け取った瞬間、紗菜の胸に熱が広がった。 
完全な張り替えではない。ところどころのテンションは不均一で、強く打てば弾道が乱れるかもしれない。
それでも――さっきまでの頼りなさは消え、手のひらには確かな反発が戻っていた。

「……ありがとう、お兄ちゃん」
汗に濡れた頬に笑みを浮かべると、兄は腕を組んで短く頷いた。
「いいか、無理はするな。でも――お前なら大丈夫だ」

その言葉は短く、それでいて誰よりも強く紗菜を支えていた。

観客席からは自然に拍手が沸き起こり、静かなざわめきが次第に熱い声援に変わっていく。
「まだ戦うんだな……!」「頑張れ!」
さっきまで諦めに包まれていた空気は、もう跡形もなかった。

審判が再開を告げる。
相手がサーブの構えをとり、深く息を吐く。
(修理したラケット……本物の張り替えじゃないはずなのに……なぜ、こんなに戦える顔をしている?)
相手の胸に、小さな焦りが芽生えていた。

高く上がったトス。ラケットが振り下ろされ、鋭いサーブが一直線に飛んでくる。
紗菜は一歩踏み込み、ラケットを振り抜いた。

――パシンッ!

腕に伝わる感触は確かだった。修理されたラケットが、彼女の想いに応えてくれている。

「ナイスリターン!」
観客がどよめく。ボールは相手コート深くへと沈み、そこから始まるラリー。

相手の強烈なストロークに対しても、紗菜は迷わなかった。小刻みなステップで素早く動き、ラケットをしっかり合わせて返球する。
「走りが落ちてない!」「すごい、まだ動ける!」
観客の声援がさらに大きくなった。

それでも相手は必死に食らいつく。

少女は走る。
コートの端から端までを駆け抜け、ネット際に飛び込み、全身でボールを拾い続ける。そのたびに観客が立ち上がり、会場は大きな熱を帯びていった。

紗菜の瞳はまっすぐに輝いていた。
(これなら戦える……いや、これで勝つんだ!)

再び強烈なサーブが飛んできた。
紗菜は体の開きを見抜き、思い切って踏み込む。
――パシンッ!
返球は鋭い軌道を描き、相手コートへ突き刺さった。

「返した!」「すごいぞ!」

観客が歓声をあげ、拍手が波のように押し寄せる。
紗菜は荒い息を吐きながらも、小さく笑みを浮かべた。
(ここから……! もう一度立ち上がる!)


試合は再開された。
相手は「まだ完璧な状態じゃないはずだ」と見抜き、積極的に攻め込んできた。角度をつけたクロス、深いロブ、容赦ないストローク。――全てが、紗菜のラケットの不安定さを突くようなボールだった。

だが、紗菜の足は止まらない。
軽快なステップでコートを走り回り、切れたはずのラケットで必死にボールを拾い続ける。兄の補強が施された弦は、まだぎこちなさを残しつつも、確かに彼女のプレーを支えていた。

(大丈夫……まだ戦える! お兄ちゃんが繋いでくれたこのラケットなら!)

相手が鋭いクロスを突き刺した瞬間、観客が「あっ」と息を呑む。
だが紗菜は猛然と走り込み、滑り込むようにラケットを差し込んだ。
――パシィン!
ボールは奇跡のようにネットを越え、相手コートの深い位置へ返っていく。

「入った!」「返したぞ!」

観客席が一気に爆発した。
相手は慌てて追うが、ボールはサイドラインぎりぎりで弾み、届かなかった。

「30-30!」
審判の声に、観客の拍手が波のように広がった。

紗菜は肩で大きく息をしながらも、口元にわずかな笑みを浮かべた。
(返せる……! このラケットと一緒なら、まだ負けない!)

次のポイント。相手は強烈なストロークをセンターへ叩き込む。
だが紗菜の瞳はしっかりとその動きを捉えていた。
(今だ!)
先回りするように踏み込み、ラケットを振り抜く。
――パシッ!
低く鋭いリターンが相手の足元へ沈み、相手は体勢を崩した。

「40-30! ゲームポイント、三浦!」

会場は立ち上がる観客で埋め尽くされ、歓声と拍手が渦のように広がった。
「決めろ!」「もう一度勝負を引き戻せ!」

紗菜は深く息を吸い、サーブの構えに入った。
ボールを高くトスし、全身の力を込めて振り抜く。
――パァン!
打ち出されたサーブは相手のバックを突き、相手は必死に返すが甘い球になった。

(チャンス!)

紗菜は迷わず前へ飛び込み、ラケットを振り抜く。
――バンッ!
白球は一直線にサイドライン際へと突き刺さった。

「ゲーム! 三浦!」

審判の声が響いた瞬間、観客席が総立ちになった。
「すごい!」「本当に立て直した!」
「まだまだ、これからだ!」

紗菜は荒い息を吐きながら空を見上げた。胸の鼓動は激しく鳴っている。それでも心は静かで、迷いはなかった。
(このラケットと一緒に……必ず勝つ!)

観客の拍手が鳴り止まない中、紗菜の瞳はまっすぐ前を向いていた。
彼女の小さな背中は、会場全体を飲み込むほど大きく輝いていた。
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