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愛する人
51. 逃亡 〜ヴィンフリート〜
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リゼの初恋について知った翌朝、朝食の席に向かう足取りは重い。本音を言えば、リゼとオリバーが親しげに言葉を交わす様子を間近で見たくはない。しかしそこを避けて一人であれこれ想像してやきもきするのも腹立たしい。結局、表面上は何食わぬ顔を取り繕うしかない。
「おはようリゼ。昨夜はよく眠れた?」
「オリバー様おはようございます。アンナと少し夜更かししてしまいましたが、今日の予定には支障ないです」
「やけにはりきってるね。さすがリゼ」
案の定、リゼの弾んだ声とオリバーの穏やかな声が嫌でも耳に入ってくる。
「ヴィンフリート殿は昨夜はよく眠れましたか? 長旅でお疲れだったでしょう」
俺にも気遣いを見せるオリバーが遠く感じられる。その隣で静かに微笑むフローラも。この二人はリゼの気持ちを知らないのだろうか。
「ええ、ゆっくりできました。お気遣いありがとうございます」
気持ちとは裏腹に口からは勝手に当たり障りない言葉が飛び出す。
俺の返答に満足したのか、オリバーはまたリゼに話を戻した。
「今日はまずどこに行こうか。先にフローラと二人で買い物する?」
「いえそんな。四人で行けるところが良いです」
今日の予定を楽しそうに話し始める二人。土地勘がない俺は当然その輪には入れない。当然と言えば当然のことだ。何もなければ俺も特に気にすることもなく受け流していただろう。
しかしリゼの気持ちを知った今では、仲睦まじく会話を繰り広げる二人が疎ましい。
もうこれ以上ほんの一時だって目にしたくない。
「盛り上がっているところ申し訳ないが」
食堂に会した一同の目が俺に突き刺さる。
「クレマチスに帰らせていただく」
和やかな雰囲気から一転、静まり返りひんやりと冷たい空気が流れた。
リゼが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「何かあったんですか?」
「火急の用を思い出した。今日の夕方にはここを発ちたい」
もちろんそんな急用はない。
俺がこれ以上ここにいたくない、ただそれだけだ。
一瞬、リゼは残ると言い出すかもしれないと思ったが、今更遅い。
「本当に急な話ですね。まだご案内したいところが色々あったんですが……残念です」
本当に残念がっているか不明なオリバーの言葉に、俺は精一杯の愛想笑いを作った。これくらいの虚勢はまだ張れる。
「せっかく歓迎いただいたのに申し訳ないが、国家に関わること故」
これなら誰も深くは突っ込めない上に、リゼも気に病んでクレマチスに一人残るとは言わないだろう。
我ながら卑怯な手段だ。
……俺はこんな人間だっただろうか。
その日の昼過ぎには出発できることになったが、嫌がらせとしか思えないオリバーからの大量の贈り物のせいで、随分と体力を消耗した。
やっとのことで積み込みを終えたものの、今度はリゼがオリバー達と話し込んでいてなかなか乗って来ない。
(いつになったら帰れるんだ)
俺は苛立ちを隠せず、普段は喧しい臣下三人も口を噤み、俺の隣の席を空けてリゼが来るのを待っている。
ようやくリゼが乗り込んできて、飛行船は離陸を開始した。
「あ、姫様それってもしかしてフローラ様からですか?」
「目敏いわねアンナ。みんなでどうぞって。さっそくいただく?」
リゼの明るい声が船内に響き渡り、途端に臣下達もいつも通りぎゃーぎゃーと騒ぎ始める。本当にリゼの臣下なのかと疑いたくなるくらい喧しい。昨夜眠れなかった分リングエラに着くまで仮眠でも取ろうかと思っていたが、とても眠れそうにない。
うんざりしながら隣を見やると、リゼがじーっとこちらを凝視していた。
「何だ、俺に何か言いたいことでもあるのか?」
今は何を言われても聞き入れられそうにない。文句ならリングエラに着いてからにして欲しい。
「いえ……あの、失礼しても?」
目の前で不安そうに揺れる青い瞳。
何だ、文句じゃないのか? と問う間もなく、リゼの白く細い腕で視界が遮られた。
(んな……!?)
驚きすぎて声も出なかった。
額の辺りがさわさわとこそばゆく、前髪を触られているのだとわかるのに少し時間がかかった。その途端に額の辺りに全意識が集中し熱を帯びた。
辿々しい手つき。ふんわりと優しい香りがする。
時間にしたらごく短い時間だっただろう。リゼの手はゆっくりと離れて行った。
「少し乱れていましたので……失礼致しました」
真っ赤な顔をして俯いてしまうリゼ。そんなに恥ずかしがるなら最初から手を出さなければ良いものを。
その顔は俺だからなのか。それとも誰にでも気安く接してそんな顔を見せるのか。
こんなことくらいで動揺してしまう俺も俺だが。
「いや……ありがとう……」
思いの外弱々しい声になってしまった。リゼの耳には届いただろうか。
(少しは自惚れても良いのか?)
嫌われてはいないと。
まだチャンスはあるのだと。
問いかけるようにリゼを凝視する。相変わらず憎らしいほどに整った美しい横顔。たった一人、そばにいて欲しい女性。
すると急にリゼがくるりとこちらを向き、正面からばっちり目が合った。
慌ててさっとリゼとは反対の方へ顔を逸らした。
リゼに恋い焦がれ腑抜けた顔をした自分を見られたくなかった。
「ヴィンフリート様?」
「何だ」
取り繕おうとする余り冷たい物言いになってしまっても、リゼは特に気にした様子もない。
「あの……火急の用とは何なのでしょうか? まだ殿下を狙う何者かが残っているんですか?」
そうだ、その問題が残っていた。リゼが気にするだろうことを狙って、咄嗟に口をついて出た嘘。
「いや、それは違う」
「では国王陛下に何か?」
「それも違う」
「じゃあ一体……」
クレマチスにいる間はオリバーとフローラがいた手前、俺に直接聞くのは憚られたのだろう。ここぞとばかりに詰め寄ってくるリゼに俺はたじたじとなる。
まさか、全て俺の口から出任せで実は国家は安泰……などとは、口が裂けても言えない。
どう誤魔化すか思案するものの、元々そんな事実はないのだからどうしようもない。
「私に出来ることがありましたら何なりと仰って下さい。私もリングエラのためにお役に立ちたいと思っていますので、一緒に尽力致します」
純真無垢な瞳できらきら見つめられては、罪悪感が膨らむばかりだ。
(リングエラのために? 一緒に尽力? 本気で言っているのか……?)
それは、俺とこのまま結婚しても良いということなのか。オリバーを忘れるためか、もっと別の理由があるのか。
俺の中に芽生えた猜疑心は際限なく侵食していく。
そのまま、飛行船がリングエラに着くまでリゼの方を見ることは出来なかった。
「はい到着、お疲れ様でしたー」
ハンスの陽気な声を合図に、ユリウスの前をすり抜けて我先にと飛行船を降りた。
執務室に行けば、何故こんなに早く帰って来たかディルクに追及されるのは目に見えている。かと言って自室に戻る気にもなれず足が向かった先は、庭園だった。
リゼと初めてまともに口を聞いた、ある意味思い出深い場所。
(あれがまともな会話だったかどうかも微妙だが……)
とんでもなく大仰なドレス姿で現れたリゼ。ひ弱で頭の弱い王女を演じていた、あれが始まりだった。
そうだ。
何故リゼが俺の前では世間知らずな王女でいようとしたのか、今まで考えたこともなかったがあれはおそらく、俺から婚約破棄させるためだったのではないか。
すべてはクレマチスに帰るため、オリバーのそばにいるため。そう考えれば辻褄が合う。
庭園を突き進んだ先にあるテラスには先客がいた。
「父上……ここで何をしておられるのですか」
「ん? 何だヴィンか。夢にまで見た隠居生活を満喫しておるところよ。お前こそクレマチスに行ったんじゃなかったか? もう帰って来たのか」
まあ座れ、と向かいの席を指し示され、大人しくそれに従った。
隠居してやりたかったことが日向ぼっことは、随分と年老いたものだ。とはさすがに言えなかった。
「予定より随分と早いようだが、どうした? オリバー殿の人柄に打ちのめされて逃げ帰って来たか」
当たらずとも遠からず。にやりと笑う父上に何も言い返せない。
「まあ、リーゼロッテのあの懐き方はお前も気になるだろうが、気にするだけ無駄というものよ」
「……どういう意味です?」
「リーゼロッテは幼くして両親を亡くし、姉と養母と暮らしていた。そこへ現れたオリバー殿は、リーゼロッテにとっては初めての頼れる男性だったと言うことだ。実際にかなりの傑物だ、父親代わりでもあり兄のようでもあり……情が深いのも仕方なかろう。お前が同じ舞台に立って勝負しようとしても無理だ」
父上はリゼから何か聞いているのだろうか。いやそんなはずはない、リゼが仮にも義父となる予定の父上に、自分の気持ちを漏らすことなどあり得ない。
しかし父上の言葉は怖いくらい的を得ている。俺はオリバーには敵わない。改めて他人の口から事実を突きつけられると、息苦しさが増す。
「では俺は一体どうしたら……」
「同じ舞台に立とうとしないことだ。ヴィンはオリバー殿の代わりにはなれんし、逆を言えばオリバー殿もヴィンの代わりにはなれない。リーゼロッテにとってそういう存在になることだ。そんなに難しいことでもなかろう」
いやさっぱりわからん、とは口に出来ず、はあ、と間抜けな声が漏れた。
「……どうも二人とも互いに深読みしすぎる傾向があるようだからな……時間はかかるかもしれないが」
「何ですか?」
「いや、まあ何にしろ……健闘を祈っておるぞ、息子よ」
「おはようリゼ。昨夜はよく眠れた?」
「オリバー様おはようございます。アンナと少し夜更かししてしまいましたが、今日の予定には支障ないです」
「やけにはりきってるね。さすがリゼ」
案の定、リゼの弾んだ声とオリバーの穏やかな声が嫌でも耳に入ってくる。
「ヴィンフリート殿は昨夜はよく眠れましたか? 長旅でお疲れだったでしょう」
俺にも気遣いを見せるオリバーが遠く感じられる。その隣で静かに微笑むフローラも。この二人はリゼの気持ちを知らないのだろうか。
「ええ、ゆっくりできました。お気遣いありがとうございます」
気持ちとは裏腹に口からは勝手に当たり障りない言葉が飛び出す。
俺の返答に満足したのか、オリバーはまたリゼに話を戻した。
「今日はまずどこに行こうか。先にフローラと二人で買い物する?」
「いえそんな。四人で行けるところが良いです」
今日の予定を楽しそうに話し始める二人。土地勘がない俺は当然その輪には入れない。当然と言えば当然のことだ。何もなければ俺も特に気にすることもなく受け流していただろう。
しかしリゼの気持ちを知った今では、仲睦まじく会話を繰り広げる二人が疎ましい。
もうこれ以上ほんの一時だって目にしたくない。
「盛り上がっているところ申し訳ないが」
食堂に会した一同の目が俺に突き刺さる。
「クレマチスに帰らせていただく」
和やかな雰囲気から一転、静まり返りひんやりと冷たい空気が流れた。
リゼが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「何かあったんですか?」
「火急の用を思い出した。今日の夕方にはここを発ちたい」
もちろんそんな急用はない。
俺がこれ以上ここにいたくない、ただそれだけだ。
一瞬、リゼは残ると言い出すかもしれないと思ったが、今更遅い。
「本当に急な話ですね。まだご案内したいところが色々あったんですが……残念です」
本当に残念がっているか不明なオリバーの言葉に、俺は精一杯の愛想笑いを作った。これくらいの虚勢はまだ張れる。
「せっかく歓迎いただいたのに申し訳ないが、国家に関わること故」
これなら誰も深くは突っ込めない上に、リゼも気に病んでクレマチスに一人残るとは言わないだろう。
我ながら卑怯な手段だ。
……俺はこんな人間だっただろうか。
その日の昼過ぎには出発できることになったが、嫌がらせとしか思えないオリバーからの大量の贈り物のせいで、随分と体力を消耗した。
やっとのことで積み込みを終えたものの、今度はリゼがオリバー達と話し込んでいてなかなか乗って来ない。
(いつになったら帰れるんだ)
俺は苛立ちを隠せず、普段は喧しい臣下三人も口を噤み、俺の隣の席を空けてリゼが来るのを待っている。
ようやくリゼが乗り込んできて、飛行船は離陸を開始した。
「あ、姫様それってもしかしてフローラ様からですか?」
「目敏いわねアンナ。みんなでどうぞって。さっそくいただく?」
リゼの明るい声が船内に響き渡り、途端に臣下達もいつも通りぎゃーぎゃーと騒ぎ始める。本当にリゼの臣下なのかと疑いたくなるくらい喧しい。昨夜眠れなかった分リングエラに着くまで仮眠でも取ろうかと思っていたが、とても眠れそうにない。
うんざりしながら隣を見やると、リゼがじーっとこちらを凝視していた。
「何だ、俺に何か言いたいことでもあるのか?」
今は何を言われても聞き入れられそうにない。文句ならリングエラに着いてからにして欲しい。
「いえ……あの、失礼しても?」
目の前で不安そうに揺れる青い瞳。
何だ、文句じゃないのか? と問う間もなく、リゼの白く細い腕で視界が遮られた。
(んな……!?)
驚きすぎて声も出なかった。
額の辺りがさわさわとこそばゆく、前髪を触られているのだとわかるのに少し時間がかかった。その途端に額の辺りに全意識が集中し熱を帯びた。
辿々しい手つき。ふんわりと優しい香りがする。
時間にしたらごく短い時間だっただろう。リゼの手はゆっくりと離れて行った。
「少し乱れていましたので……失礼致しました」
真っ赤な顔をして俯いてしまうリゼ。そんなに恥ずかしがるなら最初から手を出さなければ良いものを。
その顔は俺だからなのか。それとも誰にでも気安く接してそんな顔を見せるのか。
こんなことくらいで動揺してしまう俺も俺だが。
「いや……ありがとう……」
思いの外弱々しい声になってしまった。リゼの耳には届いただろうか。
(少しは自惚れても良いのか?)
嫌われてはいないと。
まだチャンスはあるのだと。
問いかけるようにリゼを凝視する。相変わらず憎らしいほどに整った美しい横顔。たった一人、そばにいて欲しい女性。
すると急にリゼがくるりとこちらを向き、正面からばっちり目が合った。
慌ててさっとリゼとは反対の方へ顔を逸らした。
リゼに恋い焦がれ腑抜けた顔をした自分を見られたくなかった。
「ヴィンフリート様?」
「何だ」
取り繕おうとする余り冷たい物言いになってしまっても、リゼは特に気にした様子もない。
「あの……火急の用とは何なのでしょうか? まだ殿下を狙う何者かが残っているんですか?」
そうだ、その問題が残っていた。リゼが気にするだろうことを狙って、咄嗟に口をついて出た嘘。
「いや、それは違う」
「では国王陛下に何か?」
「それも違う」
「じゃあ一体……」
クレマチスにいる間はオリバーとフローラがいた手前、俺に直接聞くのは憚られたのだろう。ここぞとばかりに詰め寄ってくるリゼに俺はたじたじとなる。
まさか、全て俺の口から出任せで実は国家は安泰……などとは、口が裂けても言えない。
どう誤魔化すか思案するものの、元々そんな事実はないのだからどうしようもない。
「私に出来ることがありましたら何なりと仰って下さい。私もリングエラのためにお役に立ちたいと思っていますので、一緒に尽力致します」
純真無垢な瞳できらきら見つめられては、罪悪感が膨らむばかりだ。
(リングエラのために? 一緒に尽力? 本気で言っているのか……?)
それは、俺とこのまま結婚しても良いということなのか。オリバーを忘れるためか、もっと別の理由があるのか。
俺の中に芽生えた猜疑心は際限なく侵食していく。
そのまま、飛行船がリングエラに着くまでリゼの方を見ることは出来なかった。
「はい到着、お疲れ様でしたー」
ハンスの陽気な声を合図に、ユリウスの前をすり抜けて我先にと飛行船を降りた。
執務室に行けば、何故こんなに早く帰って来たかディルクに追及されるのは目に見えている。かと言って自室に戻る気にもなれず足が向かった先は、庭園だった。
リゼと初めてまともに口を聞いた、ある意味思い出深い場所。
(あれがまともな会話だったかどうかも微妙だが……)
とんでもなく大仰なドレス姿で現れたリゼ。ひ弱で頭の弱い王女を演じていた、あれが始まりだった。
そうだ。
何故リゼが俺の前では世間知らずな王女でいようとしたのか、今まで考えたこともなかったがあれはおそらく、俺から婚約破棄させるためだったのではないか。
すべてはクレマチスに帰るため、オリバーのそばにいるため。そう考えれば辻褄が合う。
庭園を突き進んだ先にあるテラスには先客がいた。
「父上……ここで何をしておられるのですか」
「ん? 何だヴィンか。夢にまで見た隠居生活を満喫しておるところよ。お前こそクレマチスに行ったんじゃなかったか? もう帰って来たのか」
まあ座れ、と向かいの席を指し示され、大人しくそれに従った。
隠居してやりたかったことが日向ぼっことは、随分と年老いたものだ。とはさすがに言えなかった。
「予定より随分と早いようだが、どうした? オリバー殿の人柄に打ちのめされて逃げ帰って来たか」
当たらずとも遠からず。にやりと笑う父上に何も言い返せない。
「まあ、リーゼロッテのあの懐き方はお前も気になるだろうが、気にするだけ無駄というものよ」
「……どういう意味です?」
「リーゼロッテは幼くして両親を亡くし、姉と養母と暮らしていた。そこへ現れたオリバー殿は、リーゼロッテにとっては初めての頼れる男性だったと言うことだ。実際にかなりの傑物だ、父親代わりでもあり兄のようでもあり……情が深いのも仕方なかろう。お前が同じ舞台に立って勝負しようとしても無理だ」
父上はリゼから何か聞いているのだろうか。いやそんなはずはない、リゼが仮にも義父となる予定の父上に、自分の気持ちを漏らすことなどあり得ない。
しかし父上の言葉は怖いくらい的を得ている。俺はオリバーには敵わない。改めて他人の口から事実を突きつけられると、息苦しさが増す。
「では俺は一体どうしたら……」
「同じ舞台に立とうとしないことだ。ヴィンはオリバー殿の代わりにはなれんし、逆を言えばオリバー殿もヴィンの代わりにはなれない。リーゼロッテにとってそういう存在になることだ。そんなに難しいことでもなかろう」
いやさっぱりわからん、とは口に出来ず、はあ、と間抜けな声が漏れた。
「……どうも二人とも互いに深読みしすぎる傾向があるようだからな……時間はかかるかもしれないが」
「何ですか?」
「いや、まあ何にしろ……健闘を祈っておるぞ、息子よ」
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