冥土急行

田平 百石

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冥土急行

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 ある日の朝、駅に行ったら西の山が朝日に照らされて、阿蘇山のような装いをしていた。大きな雲が山を乗り越えようとしている。何となく怖い。改札を潜ると駅員が無闇矢鱈に「ご迷惑をおかけいたします」と叫んでいた。発車合図灯を振り回して、駅舎と反対側の方にのっしりのっしりと歩いて行く。駅の長い長い歩廊には私と、気の狂った発車合図灯を持った駅員しか居ない。遠くで汽笛が鳴った。汽車が幾数十両に渡る長大編成が駅に入って来た。駅員が私を認めて小走りでやってきた。肥った体を大きく動かしてやって来た。「本日列車ダイヤが乱れておりますご迷惑をおかけいたします」と言った。よく見ると目が真ん中に寄っていて、気味が悪い。汽車に乗り込むとすぐに汽笛が鳴って動き出した。小さい川を渡った。川面に霧が浮かんで幻想的に見える。小麦畑にも霧が浮かんで居いる。汽車が黒煙を吐いて、どんどん小麦畑の中を驀進していく。一時間二時間走って、何だかおかしい気がしてきた。車掌が回ってきた。「おい、この汽車は何行きだ」と聞いたら「冥土行きで御座います。」と言った。顔が真っ青になって、汗がたらりと降りてきた。怖い。怖くなって、汽車から飛び降りようと思った。だが、冥土に行こうと風まかせ、もうどうにでもなれと思う。だからこのままこの汽車に乗っていこうと思う。汽車がどんどん浮いてきて、窓の向こう側に家内が見えた。手を振ったが向こうからは見えないようである。悲しくなって、涙が出てきた。暫くして、終点の冥土に到着した。体が段々薄くなっていくのが分かった。「いよいよ死んだのだな」そう思って、改札に向かってゆっくり歩き始めた。
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