薮一蔵の体験教室

riktan

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薮 一蔵

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 高校を卒業と同時に、小さい頃から入り浸っていた曾祖父ひいじいちゃんのガラス工房で働き始めた。それから10年。滅多に来ない母さんが工房にやって来た。来たと言ってもいつもはメイクが崩れると言って工房には入らずに、事務スペースから顔をのぞかせて俺を呼ぶ。

 その日は初めて工房に入ってきて、テーブルに置いてあるランプに見入っていた。
 もうすぐ曾祖父ひいじいちゃんの三回忌だなって思いながら作った物で自分の部屋に飾るつもりだったんだけど、今までで一番気に入ったようだったから譲った。

 それからだいぶ経った頃、母さんが封筒を見せながら事務スペースから顔をのぞかせた。
「郵便でーす」

 工房は曾祖父ひいじいちゃんがお弟子さんと住んでいた家で、駅の近くに今も両親の住んでいる俺の実家がある。そっちに俺宛が届いたのかな?

 差出人はコンテストの実行委員会って書いてある。
「結果の通知じゃない?」
 母さんが見る気満々で俺にくっつく。
「出してないよ」
「出したよ?あのランプ」
「は?」
「だってすっごくキレイだったんだもの」
 俺はマイペースにやりたいのに。

 結果は大賞だった。認められた嬉しさと、曾祖父ひいじいちゃんのために作った物の価値を人に決められたくないという気持ちと、授賞式のために東京に行かなければいけないという戸惑いがグルグルと混ざる。

 母さんが俺の腕を下げて紙を覗き込んだ。
「大賞!?すごーい!」
 早速授賞式の会場をマップ検索し始めて、そのエリアのケーキ屋をチェックしている。
「スーツはどうするの?
 せっかくだからワンランク上げてみたら?いいとこ紹介しようか?」
「別にいつものでいいよ」
「今着てるのっていつ買ったの?」
「成人式」

 母さんがスマホから目を離して、スマホを持った左手とタッチペンを持った右手を頬に当てて驚いた。
「信じられない。もしかして十年間その一着だけでやってきたの?」
「回数で言えばそんなに着てないんだからいいだろ。十分着れる状態だよ」

 母さんは俺の言葉なんて聞こえてない様子でメールを打ち始めた。
 相手は仕立て屋さんだと思ったら母さんが通っている美容師さんで、明後日一緒にスーツを選びに行くように息子さんを借りる約束をしてしまった。当日のスタイリスト兼道案内も頼んだそうだ。

 母さんをどうやって留守番させようかと考えていたのに元からついて来る気は無かったらしい。
「マザコンだと思われたらモテないでしょ?
 ママそろそろ娘が欲しい」
 そろそろって「娘が欲しかった」って散々言ってきたじゃないか。

 それから警察手帳みたいにスマホの画面を俺に見せる。
「お土産はこれがいい」
 新幹線でケーキを運べって言うのか。

 赴くままの言動はせめて家族相手だけにしろって祖父ちゃんに言われてるのに、これはもう一生治らないんだろうな。

 美容師の息子さんとの待ち合わせの日。祖父じいちゃんが注意したって言っててそれ振りに会うのに、待ち合わせに現れた母さんは全くのいつも通り。
春日かすがさんの息子さんで秀紀ひできくん」
 俺は人見知りだし美容師って聞いて流行最先端な人を想像してたけど、話しやすそうな人でよかった。

 母を帰した後にまずは頭を下げる。
「母がワガママを言って本当にすみません。あの、口裏合わせますんで、引き受けたということに」
 俺の言葉を息子さんが遮る。

「え!?ぜひやらせて下さい」
 頭を上げると息子さんが意外そうな、心配そうな顔で俺を見ていた。
「でもいいんですか?俺一人のために一日、しかも東京まで。今日だって髪じゃなくて服まで」

 春日かすがさんは静かな笑顔で頷いた。
「2年間だけですけど東京でスタイリストをしていました。東京も服選びも全然苦じゃありませんよ。
 それに僕たち小学校の縦割りでペアだったんですよ?」

 全然覚えてない。何年生の時のペアだろう?この人何歳?
 素直に謝ろう。
「すみません。縦割りのペアは誰のことも覚えてなくて」

 春日かすがさんは明るい笑顔。
「大体の人がそうですよ。っていうか僕もです。
 同小で年齢からしてもしかしたらって思ってアルバム見たら同じ班でした。やぶさんが6年生の時に僕が1年生。
 すごい偶然だなと思って言ってみただけで、僕もその時のことは全然覚えてません。」
 ちょっとしたイタズラがバレたみたいに言う春日かすがさんにつられて俺も自然と笑顔になった。
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