薮一蔵の体験教室

riktan

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薮 一蔵

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 授賞式当日のことはよく覚えていない。
 今も気に掛けてくれている高校の先輩が受賞コメントと使いそうなセリフ集を考えてくれて、なんとか乗り切れていたと思う。

 特に失礼がなかったのはいいとして、問題はその後。運営から中々な騒ぎになっていると連絡が来た。受賞式の様子を伝えるSNSへの反応が例年より多かったそうだ。

 確認したら「大賞の人イケメンですね」というコメントや、引用して「180くらいあると思って調べたら173だった」「工房にショップがくっついてるらしいよ。行ってみたいけど田舎すぎるわ」という個人的な呟きまで。

 なんで顔や身長を気にするの。
 まあ顔は正直自分でも驚いた。髪型とかでこんなに変わるのかって。普段の髪はまっすぐだしパサパサだしデコも出してません。それに180ありそうってどうやってそんな予想したの。どうやって今の俺の身長を調べたの。あとショップじゃなくて事務スペースです。ここでは修理やリメイクの受付しかしていません。

 直接は何もできずに心の中だけで訂正しながらスクロールしていたら着信があって、突然の状況に元からドキドキしていたのもあってスマホを落としそうになった。

 なんとか空中でキャッチして画面を見ると祖父ちゃんからで、通話ボタンをタップする。
 祖父ちゃんは工房から歩いて行ける距離の所にある畑を曾祖母ひいばあちゃんから受け継いでいて、そこでやっている農業体験で俺のガラス工芸も一緒に体験できないかって問い合わせがあったそうだ。

 祖父じいちゃんも付き合い上断りにくそうで、お試しにひと家族だけ引き受けた。

 受賞コメントを考えてくれた先輩は教師だから、初心者が作るのに向いてる物や教え方を指導してもらった。

 それが終わったら今度は新聞社の人がカルチャー教室をやってほしいと言ってきた。知恵熱出そうだ。

 やって来た生徒は女の人ばかりで、先輩が助手って名目でついててくれなかったらパンクしてたと思う。

 っていうか半分してた。新聞社のビルから帰る時も先輩が運転してくれて俺は後部座席で上半身を横に倒していた。

 前を見たままの先輩の声が車内に優しく響く。
「無理することないよ。全部を引き受ける必要もないし、世の中の人全員が社交的じゃなきゃいけないなんて決まりもないんだから」

 ひとつしか違わないのに凄いお兄ちゃんみたいだ。毎年自分の誕生日が来るたびに思う。俺は去年の先輩に全然追いついていない。昔から俺は『老けてる』、先輩は『大人びてる』と言われてきた。

 顔だって俺よりもずっと前からイケメンだと言われてる。俺は春日かすがさんに作ってもらった状態でネットに流れたからだし、カルチャー教室でも「印象違いますね」って言われたし。

 先輩みたいになれなくてもせめて少しくらいは恩返しがしたいと思っていたら、俺たちの母校でもあり先輩の勤め先でもある中学から連絡が来た。
 職業体験を受け入れてほしいって申し入れを先輩が止めてくれていたらしい。

 常に先輩が担当してくれるなら引き受けると返事をした。
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