薮一蔵の体験教室

riktan

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薮 一蔵

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 放っておくと声帯が衰えるくらい喋らない俺のために先輩は時々うちに来てくれていて、作業に集中していて気付かないと悪いから合鍵を渡している。

 ちょうど切りの良いところで車の音がして工房を出ると、車から降りた先輩が俺に向かって手を合わせた。
「ごめん。
 俺の立場を気にして引き受けてくれた?
 それとも興味があったのに俺が勝手に断っちゃってた?
 どっちにしろごめん」

 先輩の言葉にほっとした。
 引き受けた後で『実は先輩が俺の面倒を見るのに疲れてて話を止めてたんじゃないか』って考えたりもしていたから、ちゃんと恩返しになってるみたいで良かった。
「いえ。何かできればと思ってただけなんで」

 あ、これだとどっちへの答えか分かんないな。でもわざわざ「恩返しになればと思った」って言うのも恩着せがましいし、「興味があったのに止めてたわけじゃない」って言ってもじゃあ恩返しで引き受けたんだってバレるし、「興味があった」って言ったら先輩の気にしてた通りってことになっちゃう。
 どうしよう。

「そっか。無理すんなよ」
 先輩は俺の腕を優しくポンポンとして微笑んだ。

 だから一人目は一番低い難易度の子が来ると予想していた。
 あと平日じゃなくて冬休み期間なのも意外だった。

 その子には在宅介護のお祖母さんがいて、間取りの関係で訪問入浴の間は居辛いらしい。普段は学校にいる時間だからいいけど長期休みは公園や図書館で時間を潰しているから、どうせならそういう日にって先輩が今日にした。

 やって来たのは金髪にスカジャン、大きめのダメージジーンズの綺麗な顔の男の子だった。

川人かわひと雷打らいだです。よろしくお願いします」
 男の子が90度にお辞儀をする。良かった。乱暴なタイプではないみたい。むしろ物を壊すどころか持ち上げるのも難しいんじゃないかな。

 いやそこまでなことはないかな。色白だから儚く見えるだけかもしれない。俺の従弟いとこだってもっと細いけど立派に祖父じいちゃんの畑を手伝ってるし。

「カズ?」
 先輩の声で我に返る。
「あ、やぶ一蔵かずくらです。よろしくお願いします」

 一日目は道具の説明や仕事の流れを見てもらった。
 作品に見入ったり道具や手順を覚えようとしたりと凄く真面目だった。熱中症対策の水風呂を観た時は二畳弱だし普通のお風呂と同じ深さなのに「プールみたい」って喜んで、授業モードに戻って恥ずかしがるのがかわいかった。
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