薮一蔵の体験教室

riktan

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山内 雪矢

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 俺は女顔で色白なことがコンプレックスだった。そこがむしろ好きになったのは3歳下の従弟が5歳になった頃から。

 従弟は「雷打らいだ」といういかつい名前に反してかわいい見た目で、「小さい頃の雪矢ゆきやにそっくり」と親戚中に言われて、こんなにかわいかったのなら俺もかわいいと言われても仕方がないと思うようになった。

 兄弟のようだと周りに言われるのも、その空気に流されて「お兄ちゃん」と雷打らいだが呼んでくるのも嬉しかった。

 中学生になっても雷打らいだは俺と違って中身もかわいかったから、街で声を掛けてくる奴らに少しも警戒しないで相手をする。少しでも声を掛けてくる奴を減らさなければ心配でしょうがない。

 雷打らいだはいつも俺のお下がりを着ている。次に雷打らいだが着るというのが俺が服を買う時の一番の基準。

 普通ならコンプレックスになる小柄なこの体も、雷打らいだと同じ背格好だと思うと嫌じゃなくなる。
 雷打らいだの身長もたぶんろそろそ止まる。俺がそうだった。ずっと服を共有できるってことだ。

 ヤンキー風の服はさすがに趣味じゃないって言われたらどうしようと思っていたら、渡してすぐに袖を通した。
 雷打らいだの父ちゃん、つまり俺の母ちゃんのアニキは滅多に家にいない。2Kの家に女子三人と暮らす雷打らいだは『お兄ちゃん』である俺やお下がりという兄弟っぽいことが好きなんだろうな。

 そして最近の俺にも家での悩みがある。
 父ちゃんが漁師で、毎日のようにうちが宴会場になること。海の幸食べ放題なのは嬉しいしおじさん達も楽しいんだけど、受験生になる来年度からはもう少し静かな環境で勉強したい。

 言葉にしたことはないけど母ちゃんは察してくれたらしい。一月二日、発砲スチロールの箱を渡された。持ちやすいように紐がついてるいつものサイズより少し大きい。
「これらいちゃんの家に持って行ってあげて」
 伯父さんの家のことを俺に言う時、母ちゃんはいつも『らいちゃんの家』と言う。

 母ちゃんは続ける。
「お開きになったら電話するから、それまで勉強させてもらっておいで。おばさんには言ってあるから」
 雷打らいだの家の方が部屋数は少なくても、勉強する環境としては向こうの方が確かにいい。
「ありがとう」

 そこまでは良かった。母ちゃんは俺が受け取った発泡スチロールを見て更に続けた。
「二つ入ってるから小さい方はお泊り先に持って行くように言ってね」

「お泊り先?」
らいちゃんね、今日から冬休み開けまでやぶ一蔵かずくらさんの所に泊まるんだって」
「誰?」
「ニュースになったでしょ。賞とったイケメンのガラス工芸家さん」

「なんで?」
「確か……ランプだったかな?」
「じゃなくて、なんでその人の家に泊まることになんの」

「ママに怒られても……。
 夏目先生の知り合いらしいよ。あとは直接話したらいいでしょ。早く行かないと皆が来て出掛けづらくなるよ?」
 夏目先生は中3の時の俺の担任で、俺が卒業する時に雷打らいだの学校に赴任して今は雷打らいだの担任をしている。すごい偶然。

 生徒全員に親身になってくれる先生だけど、これに関してだけは一言言いたい。俺は魚と一応勉強道具を持って家を出た。
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