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第4話 ラパン伯爵

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 ロドルフ様に利用されない為にはどうすればいいか。答えは単純、凡才令嬢と呼ばれない程の実力を身につければいいのです。

 ですが、そう簡単なことではありません。わたしが比較される相手はわたしの家族、天才と呼ばれる人たちです。並大抵の実力では凡才から抜け出すことは出来ません。恐らくかなりの時間を要することでしょう。

 ですのでわたしは、デビュタントを終えて伯爵家の屋敷に戻った後、執務室でお父様とお母様に今回のことについて話すことにしました。

「なんということだ……まさかロドルフ卿がそんなことを……!」

 わたしのお父様ことアルフレッド・ラパンは事の成り行きを聞き、わなわなと体を震わせていました。エメラルド色の髪とわたしたち9兄弟と同じチョコレート色の目をしている、特別な才能を持って生まれるラパン伯爵家の当主。この国の宰相であり、国王陛下の右腕を担っています。

「ああ……済まないシエル!陛下と公務の話などせず側にいれば、そんな悲しい思いをすることなかったというのに……!」

「お父様気持ちは嬉しいのですけど、わたしよりも公務の方が大事ですよ?」

 勢いよく椅子から立ち上がったお父様は、向かいのソファに座るわたしのところまで来てぎゅっと抱きしめました。お父様はよくこうして抱きしめてくれますが、今日はいつもよりも強い気がします。

「しかしもう大丈夫だ、今回の婚約は取り消すよう僕から陛下に進言しよう」

「ですが国王陛下の命で決められた婚約ですよ?それをこちらから取り消すなんて出来ません」

「いいや、例え陛下の命令だろうと取り消してみせる!そもそもロドルフ卿との婚約は陛下の方から言い始めたことだからな!そうと決まれば——」

「待ってくださいお父様!わたしは婚約を取り消す為にお話したのではありません!」

 今から国王陛下の元へ向かおうと立ち上がったお父様を止めると、まるで雷に打たれたような顔になりました。

「そ、それは一体どういうことなんだシエル!まさか……ロドルフ卿のことが好きなのか!?あんな無礼極まりない童が!?」

「ち、違いますお父様!そうではなくて——」

「ならばなんだというのだ!婚約を続けたい理由なんてそれ以外ないじゃないか!お願いだ僕の可愛い天使!お父様の元から離れないでくれー!」

 いつもの冷静で威厳のある姿はどこにもなく、お父様はかなり取り乱して今にも泣きそうな顔になってしまいました。一体どうしたら落ち着いて聞いてもらえるかと考え始めると……

「——落ち着けアル」

 凛とした声に呼ばれて、取り乱していたお父様はピタリと止まりました。
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