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第20話 傷だらけの令嬢

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 ロドルフ様を見返すと決意してから1ヶ月が経ちました。今日はアニー様を呼んだお茶会の日、お互いに忙しかったこともあり、アニー様と会うのは社交パーティ以来——実に3週間ぶりです。

「お嬢様、アニエス様がお見えになりました」

 到着の知らせを聞いて椅子から立ち上がります。それと同時に温室の扉が開き、アニー様とコレットが現れました。

「お久しぶりですアニー様!」

「シエルも久し——え?」

 挨拶を交わそうとしたところで、アニー様が固まりました。少し後ろについているコレットも、顔を青くして止まっています。どうされたのでしょう?

「し、シエル!どうしたのそれ!?」

「それとは?」

「その包帯!頭と両手に巻いてるでしょ!?何があったの!?」

 なるほど、これのことでしたか。最近は巻いてる日の方が多いので違和感がありませんでした。

「やはりアニエス様とお会いする時は外した方が良かったですね。大変驚かれています」

「そうですね、パメラの言う通りでした」

「パメラもわかってたなら止めてよ!本当に何があったのシエル?まさか屑男に……!」

 アニー様は怪我の心配をしながら、ロドルフ様に傷付けられたのではと考えみるみる表情が険しくなります。これはしっかりと説明をしなくてはいけませんね。

「いいえアニー様、これらの怪我は剣術の訓練で出来たものです」

「えっ、訓練で?」

「はい、あの社交パーティから剣術の訓練の内容を変えて、一人前の騎士になる為の訓練を始めました」

 内容は今までの訓練が嘘のような過酷さと苦しさで、コリー先生も一切の容赦なくわたしを鍛えています。これらの傷はその過程で出来たものです。

「大丈夫なの?」

「はい、訓練のお陰で素振りも100本以上出来る様になりましたし、実践訓練もしてるんです!それに成長したのは剣術だけじゃありません」

 わたしがそう言うと、パメラが空のティーポットをテーブルの上に置きました。わたしはポットの中に魔法陣をゆっくりですが描きます。

「——“水よウォーティング”」

 起動する為の魔法名を呟くと、魔法陣から水が溢れ出しポットを満たしていきます。

「これって魔法?」

「はい、実践向けではありませんが、簡単な魔法を使えるようになりました!」

 魔法の授業では先生の課題に答えられなくて困らせてばかりですが、先生が帰ってからも復習をたくさんして、漸く魔法を使えるようになりました。

「このままいけば、本当にロドルフ様を見返せるかもしれません!」

 わたしは喜びのままにアニー様へそう言いましたが、当のアニー様の表情は芳しくありませんでした。
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