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第21話 親友の思い

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 わたしはこれまでの成果をアニー様に伝えましたが、アニー様の表情は芳しくありませんでした。

「アニー様?」

 どうしたでしょうか、何か良くないことを言ってしまったのでしょうか。そう思い聞き返すと、アニー様は苦しそうに答えました。

「だからって……無茶し過ぎだよ……!」

 無茶?いいえ、そんなに無茶なことをしていません。寧ろロドルフ様を見返すのならもっと頑張らないと、そう考えているくらいです。なのでわたしはその思いのまま答えました。

「無茶なんてしていません、寧ろ今以上に頑張らなくては——」

「シエルだって女の子なんだよ!?それなのに、こんなにたくさん怪我して……これのどこが無茶じゃないの!?」

「!」

 今にも泣きそうなアニー様の叫びを聞いて、わたしは漸く理解しました。身体に包帯を巻いている令嬢等普通なら有り得ません。心配されて当然です。

 ですが、理解した上でわたしは言いました。

「それでも、わたしは負けられないのです。これはラパン伯爵家の人間だからではありません。わたし自身の思いです」

 思えば最初からそうでした。ラパン伯爵家の人間として、侮辱されたまま終わりたくないと考えていながら、本当はわたしがロドルフ様に負けたくないと思っていました。だからこそ、血の滲むような訓練も耐えられるのです。

「アニー様、わたしのことを心配してくださりありがとうございます。ですが、だからこそ……これからもわたしを見守ってくれませんか?」

 こんなにもわたしのことを心配し、怒ってくださる方がいて、わたしは心の底から幸せだと思います。そんなあなただからこそ、これからのわたしを見守ってほしいと思うのです。

 お互いに睨み合い——見つめ合いがしばらく続いてから、アニー様は呆れたように溜息をつきました。

「はぁ……シエルって変なところ頑固だよね?そんなところも可愛いけど」

「か、可愛いは余計です。というより、わたしはそんなに頑固ではありません!」

「いいや頑固だよ。街で酔っ払いに絡まれた時だって、私を連れてすぐに逃げれば良かったのに。シエルは酔っ払いに謝罪させようとしてたし」

 た、確かにあの時はアニー様が傷つけられ頭に血が昇りましたが……わたしは頑固でありません!……恐らくですが。

「兎に角、シエルがそこまで言うなら見守るよ。だけど、心配している親友がいることだけは忘れないでね?」

「はい、絶対に忘れません」

 アニー様が友達で——親友でよかったと、心から思いました。




 時を同じくして、王城近くの王国騎士団駐屯地にある騎士寮にて……

「フェリクス殿、ご実家から手紙が来ていますよ」

「実家から?」

 長男であるフェリクスお兄様宛てに、お母様が手紙を出していたのでした。
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