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第5章:戦争の行方
第47話:お待たせ……こっからが私達の見せ場よ
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「敵艦隊までおよそ100km」
後席士官の短いがはっきりした口調は、2時間の単調で退屈な、そのくせタフで危険な飛行から前席操縦士を覚醒させた。これからが本番である。
「主武装スイッチ、オン」
赤髪の操縦士は明晰な口調で愛機に音声入力を送る。主武装スイッチに連動して、これまで封止していた索敵レーダーやトランスポンダが起動される。数秒後、コクピット正面の 航法表示装置(Navigation Display)には敵艦隊の配置がマップ表示され、その左脇にあるレーダー武装表示装置には現在の武装状況が表示された。同時に、フレミングの被るヘルメットに内蔵されている全周戦術情報表示装置は、フレミングの周囲に合計47機の識別不明機を橙色でマーク表示する。000W各機は未だ無線封止状態にあり、ロリポップマルーン機の敵味方識別信号には応答を返していないのだ。マルコーニ先輩の座る後席のディスプレイにも、恐らくは同様の情報が表示されていることであろう。
「味方だって知ってるけど、やっぱりこの色は気持ち悪いな……」
そんな感傷に浸る間も無く次々と、橙色のマークが友軍機を表す青色に塗り替わっていく。早速マルコーニ先輩が手動操作で、不明機とされた対象を友軍AMF-75Aとして再設定してくれているのであろう。
「マルコーニ先輩、ありがとうございます。じゃぁ、行きます」
そう言ったフレミングは右手のスティックを手前に引いて機体を急上昇させる。
「セレクト、信号弾、グリーン、発射」
フレミングの音声入力を受けたAMF-75Eは、右主翼下に懸架する短距離空対空ミサイルを自爆モードで射出させる。数秒後、000Wの前方4kmでミサイルが自爆し、緑色の煙を噴出させた。予め定められた無線封止解除と攻撃準備開始の合図である。と同時にそれは、各機のアクティブステルスが機能を停止する瞬間をも意味する。AMF-75Aに搭載される戦術コンピュータの処理能力ではミサイル制御とアクティブステルスを併用することはできないのだ。ミサイル射出までのわずかな時間-射出後はAMF-75Eが対艦ミサイル群を一元管理する予定である-ではあるが、恐らく敵警戒機のレーダーには探知されることになろう。
高度を100mまで上げたフレミング機に隷下各機も倣う。
「中隊長、じゃねぇや、群司令、パパン小隊行くぜ」
「ガリレイ小隊、問題ない」
「ファラデー中隊攻撃準備完了だ、フレミング」
「テイラー中隊、位置についたぞ」
「アタシらもOKだ、フレミング。派手にやろうぜ!」
隷下各小隊長、中隊長からそれぞれに、準備完了の無線通話が飛んでくる。3時間振りに聞くお姉ちゃん達の声に一瞬気が緩みそうになる自分を叱咤して、後輩の群司令が応答する。
「みんな、ありがと。みんなのミサイル、私が借りるね」
「フレミーちゃん、しっかりね」
蜂蜜色のお悩み相談所がそうは言うものの、「本当はマルコーニ先輩の仕事なんだよね、コレ」と少し気恥ずかしさを感じながら、フレミングは指示を出す。
「各機、増槽分離」
「了解」
フレミングの発令に各機が応える。そんなやりとりをしている間に、マルコーニ先輩は既に隷下47機とのデータリンクを完了させていたのであろう。紅茶色が短く告げる。
「フレミング、攻撃準備完了」
今頃は後席の左右どちらかのディスプレイ上で、264発のミサイルがリスト表示されているのだ。
「マルコーニ先輩、ありがとうございます」
短く答えた群司令が発令する。
「各機、ミサイル射出」
全264発のミサイルが一斉に射出されていく様は圧巻であった。無論これまでにも敵空対空ミサイルへの対抗として中距離空対空ミサイルを一斉射出したことはあるが、今回は対艦ミサイルなのである。空対空ミサイルとは迫力が違った。264発のミサイルは母機を離れるとそのまま降下し、海面20mくらいのところで一斉にロケットエンジンに点火すると、敵艦隊めがけて突入していった。あとは……
「フレミング、退避部隊は私が預かる」
「群司令、ロリポップ中隊はアタシが預かるぜ」
ファラデー先輩とパパン先輩からそれぞれ連絡があった。ロリポップ小隊4機を除く44機はここで反転、ベンガヴァルへ帰投することになっている。群司令たるフレミングの代わりにファラデー先輩がその44機を、中隊長たるロリポップマルーンの代わりにオレンジ色が8機を、それぞれ率いることになっている。
「ファラデー先輩、パパン先輩、よろしくお願いします。どうぞご無事で」
フレミングは頼れる先輩達に礼を言った。
「フレミングこそ、武運を」
「群司令、アタシらはベンガヴァルで待ってるからな」
両先輩の激励を噛みしめた後、群司令は音声による最後の命を発令する。
「各機、無線封止開始」
各機は再びアクティブステルスを有効にする。以降、少なくとも敵艦載機のレーダーからは見えなくなるであろう。
ファラデー副指令を先頭に、000W44機は最大パワーで戦域を離脱していく。既にレーダーには映らないそれらを後方に感じながら、フレミングは直掩のアンティークゴールド機、水色+桜色機、蜂蜜色機と進軍を続ける。尤も、敵艦隊に近づき過ぎる必要もないため、300ktまで減速しているロリポップ小隊である。しかし高度100m速度300ktのエネルギー状態では、仮に敵戦闘機と遭遇すればひとたまりもないであろう。アクティブステルスと、あとはマルコーニ先輩の電子戦が頼りである。
尤も、敵艦隊も今頃は混乱の極みにあろう。突如100km圏内に所属不明機が多数出現した-何しろ上空に上げた警戒機の索敵範囲は本来、数百kmを超えるはずなのだ-かと思えば多数のミサイルと思しき反応が確認され、直後にはそれらの反応が消えてしまった-再度の無線封止とマルコーニの妨害による-のである。敵としても妨害反応は認識しているであろうから、恐らくは「確認を急げ」などと言って慌てているところであろうが、100km圏内とは、ミサイルであればおよそ1分半後には弾着する距離なのである。確認と対応にかけていられる時間などそう多くはあるまい。
敵艦隊の取るべき行動は5つ。まずは主力艦の回避運動であり、原則としてはミサイル群の想定飛来方向に艦体の向きが平行になる-投影面積を小さくする-方向に艦を回頭させることであろう。尤も、航空母艦のような大型艦では、1分半での回頭完了などは望むべくもない。
次は、護衛艦群を以って主力艦の盾とすることであろう。多くの場合対艦ミサイルは海面高度すれすれを飛翔してくるものである。そうであれば、その進路に護衛艦を配置することで、主力艦に命中すべきミサイルを護衛艦に吸収させることも可能であるかもしれない。無論護衛艦は犠牲になるが、そこは戦場における損得勘定である。尤も、この方法も今回の場合には、時間がそれを許さないであろう。
3つめの行動は妨害である。敵ミサイル-あるいは母機-の発する誘導電波を妨害するためには、チャフの散布や妨害電波の発信が有効であろう。また赤外線誘導であればフレアが、画像認識誘導であれば煙幕なども検討の余地がある。とにかく、時間が無いのであれば手段を特定せずに、あらゆる妨害方法を試みることであろう。
4つめの行動は対ミサイル戦闘である。これには艦隊側から積極的にレーダー波を発信し、飛来するミサイルに向けて対抗ミサイルや対空砲による攻撃を加えて飛来するミサイルを破壊することが求められる。艦隊に備わるレーダー探知能力と迎撃能力、特に同時対応可能目標数の多寡が鍵になるであろう。
最後の行動は、ミサイル母機の破壊である。ミサイルの誘導を母機から行っている場合には、当該母機を撃墜してしまえばミサイルの誘導は失敗し、艦隊の安全は守られるであろう。今から発艦を行っていたのでは到底間に合わないが、既に上空待機している直掩機を向かわせることは可能であるかもしれない。あるいは、攻撃側が直掩機による迎撃を回避しようと機動すれば、その場合にもミサイルの誘導を放棄させる結果に繋がるであろう。
これらパラティア艦隊側の対応を考えれば、ロリポップマルーンの取るべき対応は明らかであった。まずは、敵の艦隊運動をよく見定めて、各ミサイルが目標に命中するようその終末まで適切に誘導すること。次に、敵の妨害に対抗すること。最後に、敵の迎撃-これには対ミサイル迎撃と対母機迎撃が想定される-を妨害することである。
これらの処理を多数・同時・短時間に処理することが、AMF-75Eと情報士官には求められていたが、マルコーニ先輩は正にこの任務にはうってつけの人材であった。何しろ電子戦課程在学時の二つ名は『閃光の妖精』。それは、あらゆる局面を自在に切り出して分析するマルコーニ先輩のその瞬間性と網羅性が、まるでカメラのフラッシュがあらゆる暗闇を瞬時に照らし出すかのようであることから命名されたという。瞬時瞬時に状況を変えていくミサイルを適宜誘導していく必要のある本作戦において、閃光の妖精以上に頼れる存在は他にないであろう。
264発のミサイルの、その第1目標は敵航空母艦8隻と定められていた。敵艦隊の主力は艦載機群であり、その母艦を撃沈することが本作戦の最大の目標である。これには各12発のミサイルを指向させることにマルコーニ先輩は定めたそうである。続く第2目標は補給艦8隻と油槽船4隻。ミサイル巡洋艦より優先順位が高いのは、この戦闘の目的が戦争を終結させることにあるからだ。敵軍を壊滅させなくても、敵の継戦能力を奪えば戦略的にはバーラタの勝利となる。これらには各10発の対艦ミサイルが誘導されることとなっていた。敵ミサイル巡洋艦はその次の目標であり、各6発がこれに使われるであろう。各ミサイルの内その半数は目標20km手前で一度ポップアップし上空から敵艦上面に弾着、残りの半数はそのまま敵艦喫水線付近に弾着させる予定である。
「マルコーニ先輩、何でそんな面倒なことするんですか?」
たださえ短い時間で多数のミサイルを扱うのである。作戦前、敢えてポップアップの労を取る理由を訊ねたフレミングに、マルコーニ先輩は短く教えてくれた。
「その方が、敵の迎撃が困難」
上下2方向からの同時攻撃に対する防御が困難であることは、航空士官学校時代に戦史・戦術理論の講義でホッブス教官から教えられたことでもあった。「だからあの時ボルタは……」と例の送りオオカミ作戦に対応したボルタが直掩機を下げられなかった理由も思い出したフレミングは、「学校の座学も意外と役に立つものね」と考え直したものであった。
「みんな、高度を上げるよ。ついてきて」
そう言ってスティックを手前に引いたフレミングは、無線封止下では音声通話が利用できないことを知ってはいるが、しかし口に出さずにはいられなかった。ロリポップマルーンの機体が上昇するのに伴い、ロリポップ小隊が徐々にその高度を上げていく。高度100m付近を飛んでいたのでは、ミサイルが10kmも先に行けば水平線下に隠れてしまうであろう。ミサイルの誘導を続けるためには、高度を上げていくことが必要なのであった。無論、上げ過ぎてもいけない。ロリポップ小隊のアクティブステルスは今のところ敵艦隊上空にある艦載型警戒機からのレーダー追尾を欺瞞することに成功しているが、それは艦載機ゆえの小出力レーダーであるからとも言える。艦隊防御用のレーダーを相手にAMF-75シリーズのアクティブステルスがどこまで通用するのか、プランクであってもその勝負に自分の命をベットするような愚行は犯すまい。
「フレミングは高度維持に集中。ミサイル制御は自分の仕事」
ミサイルを誘導できて敵艦隊に補足されないギリギリの高度、そこを狙ってフレミングは愛機を進めていく。今回の作戦にあって、こやっさんはまた新しい機能をロリポップマルーンに加えてくれていた。それは空域脅威度判定システムのように、フレミングが占位すべき空域を全周戦術情報表示装置に投影してくれるのだ。今フレミングは、青く表示されたゾーンに留まるように機体を操縦している。
低空から進入するミサイルは、その初期の誘導時期では敵艦隊から補足されてはいない。但し艦隊上空にある警戒機はミサイルを見える位置にいるため、本作戦ではミサイル自身に妨害電波を送信する機能-尤もこれはアクティブステルスではなくあくまでも妨害電波であるため、その存在自体を秘匿することはできない-を持たせた。そして、この妨害電波の出力パターンをAMF-75Eからマルコーニ先輩が指示するのである。逆に終末誘導時には敵艦隊に補足されることになるが、その場合にはAMF-75Eが直接敵レーダーの無効化と敵妨害の無効化を行う。そして敵艦のレーダを無効化するためには当然、ロリポップ小隊が敵艦隊からも見える高度に占位する必要があることを意味している。
「妨害パターンDに変更、乱数シード変更、乱数系列生成……」
後席から何やら怪しげな呪文のような声が聞こえるが、ムズカシイことはお姉ちゃん達に任せることにしているフレミングである。マルコーニ先輩を信じていることに嘘は無いが、そうは言っても一応知っておく必要はあると感じたフレミングは、事前にマルコーニ先輩に聞いてみた。
「先輩、妨害って、どうやるんですか?」
「敵のレーダー波と同じ周波数帯を使う」
簡潔なマルコーニ先輩の返答って案外分かりやすいな、などとフレミングが思ったのもここまでであった。
「但し、電波強度は乱数を使って……」
ムズカシイことはよく分からなかったがどうやら、常に一定の強度で電波を出すだけではダメらしい。その場合には、その影響を加味して受信波を処理すれば済むからだとか云々……従って電波強度を適当に変更する必要があるのだが、そのパターンや発生させる乱数も、適宜変更していかなければ敵のAIが即座に解析してこれを無効化してしまうらしい。
「それじゃぁ逆に、敵もこっちのミサイルを妨害できる、ってことですよね?」
こちらが相手のレーダーを妨害できるのであれば、敵もまた同様であろう。
「そう、だから計算で無効化するか、後は使用周波数を変えていくか……」
きっとそれも、様々なパターンを用意するのであろう。
「それじゃぁまるで、イタチごっこですね」
赤髪の指摘に対する紅茶色の短いが力強い返答は、閃光の妖精と呼ばれた後席士官の、その自信のほどを表していた。
「そう……だから最後は戦術コンピュータと、情報士官の優劣が勝敗を決める」
敵艦隊は2隻の空母を中心とした4つの輪形陣を組んでいる。敵艦隊30km手前で000Wのミサイル群は、艦隊群の所在に合わせて4方向に分かれていった。きっとマルコーニ先輩のディスプレイには今、どのミサイルがどの艦に向けて、どのタイミングでどのような動きをするのか、全てリストアップされているのであろう。そして、敵の妨害や対抗を受けるたびに、その設定を即座に変更しているのだ。閃光の妖精はこれらの処理をするために、予め沢山のパターンを作った、とも言っていた。そんな忙しそうなマルコーニ先輩の気を散らせてはいけないと思いつつ、フレミングは後席士官に重要事項を伝達する。
「先輩、間もなく敵艦隊に露出します」
それは、ロリポップ小隊が敵艦隊の水平線下から出ることを意味しており、これから更に熾烈な電子戦が始まることを報せることであった。
「大丈夫、任せて」
マルコーニ先輩の冷静な返答に意を強くしたフレミングは、愛機に音声入力で指示を与えた。
「セレクト、信号弾、オレンジ、発射」
ミサイル群と敵艦隊との距離が30kmを切った時、フレミングは信号弾を射出した。それは無線封止解除の合図である。敵艦隊との距離は約90km。未だ上空直掩部隊から視認される距離ではなく、あるいは、艦載機に搭載されているレーダー程度であればアクティブステルスも有効ではあるが、対艦ミサイル群が敵艦隊に補足される頃合いである。これらを敵艦隊の妨害から守るためには、AMF-75Eも積極的に電子戦に参加せざるを得ず、それはすなわち、敵艦隊に身をさらけ出すことを意味しているのだ。当然、艦隊のレーダーに誘導されて、敵の直掩機もこちらを指向してこよう。その時は、ロリポップ小隊直掩3機の出番である。
「フレミー、いよいよですわね」
無線封止を解除した金髪が赤髪に問う。そう、ここからが最終ステージなのだ。
「フレミングちゃん、いつでも言ってね」
フレミング機に中距離空対空ミサイルは搭載していない。敵迎撃機を迎え撃つためには、直掩3機のミサイル各12発を借りなければならない。
「フレミーちゃん、マルコーニちゃん、敵は近づけさせないわ」
アクティブステルスを有効にしている3機のAMF-75Aは、積極的に自機のミサイルを制御することはできない。しかし、2丁の27mmリボルバーカノンであれば使用できよう。聖母は、いざとなれば自らを盾にしてでも後輩を守る、という気概を示してくれたようである。
「みんな、ありがと。信じてる」
高度を1,000mにまで上げたフレミングが返答する。
対艦ミサイルが敵艦20kmまで接近すると、その半数は次々とポップアップシーケンスに入った。上下2方向からの同時突入である。ポップアップしたミサイルは敵の迎撃を受けやすく、また敵艦を沈める効果には多くを期待できない。しかし、高い命中率を期待できる一方、上部甲板の各種構造物を破壊できれば敵の戦闘能力を奪うことには成功する。一方、低空から進入するミサイル群はその命中率が低くなるとは言え、敵の迎撃は受けにくく、更には喫水線付近に着弾すればより積極的に敵艦の撃沈を期待できる。果たして、その戦果は……
8月26日バーラタ時間0658時。000Wの対艦ミサイル264発が次々に敵艦に命中していった。
「みんな、反転するよ。全速離脱」
そう言ってフレミングはスロットルを最大パワーに入れつつ180度ターンを行う。戦果確認など、きっと警戒機か偵察機がやってくれるし、それは『クリシュナの円盤』の任務には含まれていない。今はまず戦域を離脱することが優先であった。各機がついてくることを確認した後、フレミングは再度発令する。
「各機、無線封止開始」
離脱を決意した時、敵艦隊上空にある直掩機のうち12機がこちらを指向して進路を定めたようであった。追撃機が案外少ないのは、陽動作戦が効果大であったことの証明であろう。また、距離90kmで敵艦載機のSS-20-有効射程は240km超-がミサイル攻撃をしてこなかったことから、アクティブステルスはSS-20に対して有効であるように思われる。尤も敵は、もう少し近づいてから必中の一撃を加えてくるつもりかもしれない。
フレミングは素早くスティックを右に倒して360度クイックロールを行うと、海面高度200mまで高度を下げる。まずは敵艦の大型レーダーから身を隠すことが重要である。艦載機搭載レーダー程度であればアクティブステルスが欺瞞してくれる-すなわち、敵にはフレミング達の行方が分からなくなる-であろうから、これで敵が追撃を諦めてくれればよいのだが……ロリポップ小隊各機が隊長機に続く。
今はまた無線封止下にあり、それは往路と同じく、外界との情報が一切切断された孤独な飛行を意味していた。往路と異なるのは、フレミング達の前方を朝日が染め始めていることと……何よりも敵の追撃を受けていることである。索敵レーダーも敵味方識別信号も封止している現在、フレミング達にはしかし敵状を知る手段はない。今できることは、とにもかくにも高度を下げ、最大パワーで離脱を図ることのみである。往路より速度を上げている分、往路より高度を高く設定している復路である。
15分ほど飛行したところでフレミングは左右に2度バンクを振る。後続の3機が同様にバンクを振ることを確認したフレミングは、スロットルをミリタリーまで戻した。最大パワーは燃料の消耗が激しく、ベンガヴァルへの帰投を考えればこれ以上の使用は控えておくことが賢明であろう。そうは言ってもミリタリー出力は巡航速度に比すればまだ多量の燃料を消費する。敵の追撃-およびその後の戦闘-がなければ残燃料には余裕があるが、それも敵の出方次第である。残念ながら今は未だ敵状が分からない。敵艦隊からは500km以上の距離を取れたはずであるが……フレミングは背筋に嫌な液体が流れるのを感じている。
「マルコーニ先輩?」
珍しく不安げな声音を挙げる赤髪に、紅茶色は短く答える。
「まだ」
「ですよねぇ~」
力なく同意するフレミングに、常の情報士官には珍しく冗長な物言いが返ってくる。
「敵は追撃を続けている。こちらがエンジン出力を絞った分、今は敵の方が速いはず。でも、敵が追撃進路を外せば距離は離れる。ここでこちらが電波を発することは、敵に情報を与えるだけ。お勧めできない」
フレミングは敵の追尾状況が知りたい。そのためにはロリポップマルーンが無線封止を解除しなければならないが、それは当然、敵に情報を与えることになる。少なくとも、電波の飛来方向という、重要な情報を。
「ちょっとだけ……でも?」
可愛い(?)後輩の甘えを紅茶色のお姉ちゃんは許してくれない代わりに、もう少しだけ情報をくれた。尤も、それは欲しくない情報であったに違いない。
「今この機体は敵の索敵レーダー波を感知している。5時の方向、距離不明、推定70km。少しづつ強くなっている」
敵がいることが分かっているのであれば仕方が無い。もう少し我慢しよう。12機が相手であれば、ロリポップ小隊の中距離ミサイル全36発では少し心細い。せめてキルヒー達にも今の状況を教えてあげたいけれど……
「みんな、もう少し我慢して」
決して届かないその言葉を、フレミングは一人口にした。明るい朝に向かって進む、暗い飛行なのである。
******************************
「……嬢…………える…………」
海岸線まで300km。AMF-75Eがオープン回線からノイズ混じりの音声を拾った。
「……海…………5………………アー……」
ところどころ言葉らしきものが聞こえるが、内容は全く分からない。
「……お嬢……」
野太い男性の声のようだ。瞬間的に声を上げる。
「おやっさん?」
無論その声は相手には届かないが、マルコーニ先輩が代わりに応答する。
「フレミング、少し待って。感度を上げてみる」
暫くすると、少し明瞭になったおやっさんの声がスピーカから聞こえてきた。
「お嬢、聞こえるか。お嬢。海岸線50kmで主武装スイッチ、オン。お嬢、聞こえるか。お嬢。海岸線50kmで主武装スイッチ、オン。お嬢、聞こえるか。お嬢。……」
どうやら、同じフレーズを繰り返しているようだ。聞こえるとも分からない見えない相手に対して、おやっさんは赤髪を信じて呼びかけ続けてくれたのであろう。一体いつから……?
「おやっさん……」
思わず返答したくなる誘惑に駆られるが、しかし今は無線封止下である。赤髪の分隊長にとって、片道3時間の飛行の中でこれほど時間が長く感じた瞬間は無かったであろう。
ようやく、海岸線50kmの地点までたどり着いた。おやっさんがそう言うのなら正しいに違いない。フレミングは愛機を労うように声を掛ける。
「お待たせ……こっからが私達の見せ場よ」
AMF-75Eの2基のDW-175Vエンジンが武者震いをしたようであったが、それは間違いなく赤髪の撃墜王の気のせいである。きっと、昂っているのは自分の方なのだ。
「主武装スイッチ、オン」
索敵レーダーやトランスポンダが眠りから覚めていく。次々と表示を切り替える航法表示装置やレーダー武装表示装置を確認するフレミングには、今やおやっさんの意図が明瞭であった。
「武装選択、中距離空対空ミサイル、セット、多目標同時照準モード」
「発射」
フレミングが音声入力を行うと、地上から64発の中距離空対空ミサイルが射出された。12機の送りオオカミ相手には、充分なお土産であろう。
「盛大な花火のようですわね」
今や無線封止を解除した金髪の親友が感想を述べる。今日のロリポップファイヤーは、かつて不採用となったカラースモーク仕様のようであった。
「た~ま~や~、だっけ?」
水色の声音の清流のような爽快感は、極度の緊張から解放された今のロリポップ小隊全員の心境そのものであったろう。
「フレミーちゃん、お疲れ様。みんなも、よく頑張ったわねぇ~」
蜂蜜色の聖母が天使の歌声で後輩達を労う。
「おやっさん、ありがと。『地対空機動挺進構想』だったっけ、それ?」
フレミングは地上にいる機付長にも礼を述べた。
「おぅ、そうだ……って、どこでそんなこと聞いたんだ、ったく?」
そのネーミングは意見具申のための、いわば耳障りのよい弁明に過ぎなかったのだ。不審に思ったおやっさんの追及に、フレミングはさらっと答える。
「えぇっ、こやっさんが言ってたよ。確か、おやっさんがパルティル司令官を口説くのに、とか何とか……」
「あんの野郎ぅ~、いちいち喋りやがって、口の軽い……」
あとでこやっさんは絞られるんだろうなぁ、などと思いながらフレミングは話題を変える。
「ところで、おやっさん。一体いつから無線に呼びかけてたの?」
おやっさんの返答は単純かつ不明瞭であった。
「うっせぇ、知るか!」
こんな会話ができるのも、私とおやっさんが生きてるからね……本当は、沢山の敵を殺したことを知っているフレミングではあるが、今は自分と、友人達が生き残ったことに感謝することにした。
「みんな、ありがと」
「発、中部防衛航空軍団司令官パルティル。宛、第000防衛飛行群司令フレミング」
ヘルメットに響くパルティル司令官の声にはどこか、柔和さが漂っていた。
「状況はこちらでも確認した。追撃する敵は認められない。『クリシュナの円盤』に残された貴官らの最後の任務は、無事ベンガヴァルに帰投することである。以降の任務遂行を期待する」
「了解」
「フレミング……」
口調を改めたパルティルが続けた。
「また撃墜マークを増やしましたね……」
きっと校長先生は、それを我がことのように喜んでくれているのだろう。人の上に立つ者の気持ちが、フレミングにも少しは分かってきたような気がした。
後席士官の短いがはっきりした口調は、2時間の単調で退屈な、そのくせタフで危険な飛行から前席操縦士を覚醒させた。これからが本番である。
「主武装スイッチ、オン」
赤髪の操縦士は明晰な口調で愛機に音声入力を送る。主武装スイッチに連動して、これまで封止していた索敵レーダーやトランスポンダが起動される。数秒後、コクピット正面の 航法表示装置(Navigation Display)には敵艦隊の配置がマップ表示され、その左脇にあるレーダー武装表示装置には現在の武装状況が表示された。同時に、フレミングの被るヘルメットに内蔵されている全周戦術情報表示装置は、フレミングの周囲に合計47機の識別不明機を橙色でマーク表示する。000W各機は未だ無線封止状態にあり、ロリポップマルーン機の敵味方識別信号には応答を返していないのだ。マルコーニ先輩の座る後席のディスプレイにも、恐らくは同様の情報が表示されていることであろう。
「味方だって知ってるけど、やっぱりこの色は気持ち悪いな……」
そんな感傷に浸る間も無く次々と、橙色のマークが友軍機を表す青色に塗り替わっていく。早速マルコーニ先輩が手動操作で、不明機とされた対象を友軍AMF-75Aとして再設定してくれているのであろう。
「マルコーニ先輩、ありがとうございます。じゃぁ、行きます」
そう言ったフレミングは右手のスティックを手前に引いて機体を急上昇させる。
「セレクト、信号弾、グリーン、発射」
フレミングの音声入力を受けたAMF-75Eは、右主翼下に懸架する短距離空対空ミサイルを自爆モードで射出させる。数秒後、000Wの前方4kmでミサイルが自爆し、緑色の煙を噴出させた。予め定められた無線封止解除と攻撃準備開始の合図である。と同時にそれは、各機のアクティブステルスが機能を停止する瞬間をも意味する。AMF-75Aに搭載される戦術コンピュータの処理能力ではミサイル制御とアクティブステルスを併用することはできないのだ。ミサイル射出までのわずかな時間-射出後はAMF-75Eが対艦ミサイル群を一元管理する予定である-ではあるが、恐らく敵警戒機のレーダーには探知されることになろう。
高度を100mまで上げたフレミング機に隷下各機も倣う。
「中隊長、じゃねぇや、群司令、パパン小隊行くぜ」
「ガリレイ小隊、問題ない」
「ファラデー中隊攻撃準備完了だ、フレミング」
「テイラー中隊、位置についたぞ」
「アタシらもOKだ、フレミング。派手にやろうぜ!」
隷下各小隊長、中隊長からそれぞれに、準備完了の無線通話が飛んでくる。3時間振りに聞くお姉ちゃん達の声に一瞬気が緩みそうになる自分を叱咤して、後輩の群司令が応答する。
「みんな、ありがと。みんなのミサイル、私が借りるね」
「フレミーちゃん、しっかりね」
蜂蜜色のお悩み相談所がそうは言うものの、「本当はマルコーニ先輩の仕事なんだよね、コレ」と少し気恥ずかしさを感じながら、フレミングは指示を出す。
「各機、増槽分離」
「了解」
フレミングの発令に各機が応える。そんなやりとりをしている間に、マルコーニ先輩は既に隷下47機とのデータリンクを完了させていたのであろう。紅茶色が短く告げる。
「フレミング、攻撃準備完了」
今頃は後席の左右どちらかのディスプレイ上で、264発のミサイルがリスト表示されているのだ。
「マルコーニ先輩、ありがとうございます」
短く答えた群司令が発令する。
「各機、ミサイル射出」
全264発のミサイルが一斉に射出されていく様は圧巻であった。無論これまでにも敵空対空ミサイルへの対抗として中距離空対空ミサイルを一斉射出したことはあるが、今回は対艦ミサイルなのである。空対空ミサイルとは迫力が違った。264発のミサイルは母機を離れるとそのまま降下し、海面20mくらいのところで一斉にロケットエンジンに点火すると、敵艦隊めがけて突入していった。あとは……
「フレミング、退避部隊は私が預かる」
「群司令、ロリポップ中隊はアタシが預かるぜ」
ファラデー先輩とパパン先輩からそれぞれ連絡があった。ロリポップ小隊4機を除く44機はここで反転、ベンガヴァルへ帰投することになっている。群司令たるフレミングの代わりにファラデー先輩がその44機を、中隊長たるロリポップマルーンの代わりにオレンジ色が8機を、それぞれ率いることになっている。
「ファラデー先輩、パパン先輩、よろしくお願いします。どうぞご無事で」
フレミングは頼れる先輩達に礼を言った。
「フレミングこそ、武運を」
「群司令、アタシらはベンガヴァルで待ってるからな」
両先輩の激励を噛みしめた後、群司令は音声による最後の命を発令する。
「各機、無線封止開始」
各機は再びアクティブステルスを有効にする。以降、少なくとも敵艦載機のレーダーからは見えなくなるであろう。
ファラデー副指令を先頭に、000W44機は最大パワーで戦域を離脱していく。既にレーダーには映らないそれらを後方に感じながら、フレミングは直掩のアンティークゴールド機、水色+桜色機、蜂蜜色機と進軍を続ける。尤も、敵艦隊に近づき過ぎる必要もないため、300ktまで減速しているロリポップ小隊である。しかし高度100m速度300ktのエネルギー状態では、仮に敵戦闘機と遭遇すればひとたまりもないであろう。アクティブステルスと、あとはマルコーニ先輩の電子戦が頼りである。
尤も、敵艦隊も今頃は混乱の極みにあろう。突如100km圏内に所属不明機が多数出現した-何しろ上空に上げた警戒機の索敵範囲は本来、数百kmを超えるはずなのだ-かと思えば多数のミサイルと思しき反応が確認され、直後にはそれらの反応が消えてしまった-再度の無線封止とマルコーニの妨害による-のである。敵としても妨害反応は認識しているであろうから、恐らくは「確認を急げ」などと言って慌てているところであろうが、100km圏内とは、ミサイルであればおよそ1分半後には弾着する距離なのである。確認と対応にかけていられる時間などそう多くはあるまい。
敵艦隊の取るべき行動は5つ。まずは主力艦の回避運動であり、原則としてはミサイル群の想定飛来方向に艦体の向きが平行になる-投影面積を小さくする-方向に艦を回頭させることであろう。尤も、航空母艦のような大型艦では、1分半での回頭完了などは望むべくもない。
次は、護衛艦群を以って主力艦の盾とすることであろう。多くの場合対艦ミサイルは海面高度すれすれを飛翔してくるものである。そうであれば、その進路に護衛艦を配置することで、主力艦に命中すべきミサイルを護衛艦に吸収させることも可能であるかもしれない。無論護衛艦は犠牲になるが、そこは戦場における損得勘定である。尤も、この方法も今回の場合には、時間がそれを許さないであろう。
3つめの行動は妨害である。敵ミサイル-あるいは母機-の発する誘導電波を妨害するためには、チャフの散布や妨害電波の発信が有効であろう。また赤外線誘導であればフレアが、画像認識誘導であれば煙幕なども検討の余地がある。とにかく、時間が無いのであれば手段を特定せずに、あらゆる妨害方法を試みることであろう。
4つめの行動は対ミサイル戦闘である。これには艦隊側から積極的にレーダー波を発信し、飛来するミサイルに向けて対抗ミサイルや対空砲による攻撃を加えて飛来するミサイルを破壊することが求められる。艦隊に備わるレーダー探知能力と迎撃能力、特に同時対応可能目標数の多寡が鍵になるであろう。
最後の行動は、ミサイル母機の破壊である。ミサイルの誘導を母機から行っている場合には、当該母機を撃墜してしまえばミサイルの誘導は失敗し、艦隊の安全は守られるであろう。今から発艦を行っていたのでは到底間に合わないが、既に上空待機している直掩機を向かわせることは可能であるかもしれない。あるいは、攻撃側が直掩機による迎撃を回避しようと機動すれば、その場合にもミサイルの誘導を放棄させる結果に繋がるであろう。
これらパラティア艦隊側の対応を考えれば、ロリポップマルーンの取るべき対応は明らかであった。まずは、敵の艦隊運動をよく見定めて、各ミサイルが目標に命中するようその終末まで適切に誘導すること。次に、敵の妨害に対抗すること。最後に、敵の迎撃-これには対ミサイル迎撃と対母機迎撃が想定される-を妨害することである。
これらの処理を多数・同時・短時間に処理することが、AMF-75Eと情報士官には求められていたが、マルコーニ先輩は正にこの任務にはうってつけの人材であった。何しろ電子戦課程在学時の二つ名は『閃光の妖精』。それは、あらゆる局面を自在に切り出して分析するマルコーニ先輩のその瞬間性と網羅性が、まるでカメラのフラッシュがあらゆる暗闇を瞬時に照らし出すかのようであることから命名されたという。瞬時瞬時に状況を変えていくミサイルを適宜誘導していく必要のある本作戦において、閃光の妖精以上に頼れる存在は他にないであろう。
264発のミサイルの、その第1目標は敵航空母艦8隻と定められていた。敵艦隊の主力は艦載機群であり、その母艦を撃沈することが本作戦の最大の目標である。これには各12発のミサイルを指向させることにマルコーニ先輩は定めたそうである。続く第2目標は補給艦8隻と油槽船4隻。ミサイル巡洋艦より優先順位が高いのは、この戦闘の目的が戦争を終結させることにあるからだ。敵軍を壊滅させなくても、敵の継戦能力を奪えば戦略的にはバーラタの勝利となる。これらには各10発の対艦ミサイルが誘導されることとなっていた。敵ミサイル巡洋艦はその次の目標であり、各6発がこれに使われるであろう。各ミサイルの内その半数は目標20km手前で一度ポップアップし上空から敵艦上面に弾着、残りの半数はそのまま敵艦喫水線付近に弾着させる予定である。
「マルコーニ先輩、何でそんな面倒なことするんですか?」
たださえ短い時間で多数のミサイルを扱うのである。作戦前、敢えてポップアップの労を取る理由を訊ねたフレミングに、マルコーニ先輩は短く教えてくれた。
「その方が、敵の迎撃が困難」
上下2方向からの同時攻撃に対する防御が困難であることは、航空士官学校時代に戦史・戦術理論の講義でホッブス教官から教えられたことでもあった。「だからあの時ボルタは……」と例の送りオオカミ作戦に対応したボルタが直掩機を下げられなかった理由も思い出したフレミングは、「学校の座学も意外と役に立つものね」と考え直したものであった。
「みんな、高度を上げるよ。ついてきて」
そう言ってスティックを手前に引いたフレミングは、無線封止下では音声通話が利用できないことを知ってはいるが、しかし口に出さずにはいられなかった。ロリポップマルーンの機体が上昇するのに伴い、ロリポップ小隊が徐々にその高度を上げていく。高度100m付近を飛んでいたのでは、ミサイルが10kmも先に行けば水平線下に隠れてしまうであろう。ミサイルの誘導を続けるためには、高度を上げていくことが必要なのであった。無論、上げ過ぎてもいけない。ロリポップ小隊のアクティブステルスは今のところ敵艦隊上空にある艦載型警戒機からのレーダー追尾を欺瞞することに成功しているが、それは艦載機ゆえの小出力レーダーであるからとも言える。艦隊防御用のレーダーを相手にAMF-75シリーズのアクティブステルスがどこまで通用するのか、プランクであってもその勝負に自分の命をベットするような愚行は犯すまい。
「フレミングは高度維持に集中。ミサイル制御は自分の仕事」
ミサイルを誘導できて敵艦隊に補足されないギリギリの高度、そこを狙ってフレミングは愛機を進めていく。今回の作戦にあって、こやっさんはまた新しい機能をロリポップマルーンに加えてくれていた。それは空域脅威度判定システムのように、フレミングが占位すべき空域を全周戦術情報表示装置に投影してくれるのだ。今フレミングは、青く表示されたゾーンに留まるように機体を操縦している。
低空から進入するミサイルは、その初期の誘導時期では敵艦隊から補足されてはいない。但し艦隊上空にある警戒機はミサイルを見える位置にいるため、本作戦ではミサイル自身に妨害電波を送信する機能-尤もこれはアクティブステルスではなくあくまでも妨害電波であるため、その存在自体を秘匿することはできない-を持たせた。そして、この妨害電波の出力パターンをAMF-75Eからマルコーニ先輩が指示するのである。逆に終末誘導時には敵艦隊に補足されることになるが、その場合にはAMF-75Eが直接敵レーダーの無効化と敵妨害の無効化を行う。そして敵艦のレーダを無効化するためには当然、ロリポップ小隊が敵艦隊からも見える高度に占位する必要があることを意味している。
「妨害パターンDに変更、乱数シード変更、乱数系列生成……」
後席から何やら怪しげな呪文のような声が聞こえるが、ムズカシイことはお姉ちゃん達に任せることにしているフレミングである。マルコーニ先輩を信じていることに嘘は無いが、そうは言っても一応知っておく必要はあると感じたフレミングは、事前にマルコーニ先輩に聞いてみた。
「先輩、妨害って、どうやるんですか?」
「敵のレーダー波と同じ周波数帯を使う」
簡潔なマルコーニ先輩の返答って案外分かりやすいな、などとフレミングが思ったのもここまでであった。
「但し、電波強度は乱数を使って……」
ムズカシイことはよく分からなかったがどうやら、常に一定の強度で電波を出すだけではダメらしい。その場合には、その影響を加味して受信波を処理すれば済むからだとか云々……従って電波強度を適当に変更する必要があるのだが、そのパターンや発生させる乱数も、適宜変更していかなければ敵のAIが即座に解析してこれを無効化してしまうらしい。
「それじゃぁ逆に、敵もこっちのミサイルを妨害できる、ってことですよね?」
こちらが相手のレーダーを妨害できるのであれば、敵もまた同様であろう。
「そう、だから計算で無効化するか、後は使用周波数を変えていくか……」
きっとそれも、様々なパターンを用意するのであろう。
「それじゃぁまるで、イタチごっこですね」
赤髪の指摘に対する紅茶色の短いが力強い返答は、閃光の妖精と呼ばれた後席士官の、その自信のほどを表していた。
「そう……だから最後は戦術コンピュータと、情報士官の優劣が勝敗を決める」
敵艦隊は2隻の空母を中心とした4つの輪形陣を組んでいる。敵艦隊30km手前で000Wのミサイル群は、艦隊群の所在に合わせて4方向に分かれていった。きっとマルコーニ先輩のディスプレイには今、どのミサイルがどの艦に向けて、どのタイミングでどのような動きをするのか、全てリストアップされているのであろう。そして、敵の妨害や対抗を受けるたびに、その設定を即座に変更しているのだ。閃光の妖精はこれらの処理をするために、予め沢山のパターンを作った、とも言っていた。そんな忙しそうなマルコーニ先輩の気を散らせてはいけないと思いつつ、フレミングは後席士官に重要事項を伝達する。
「先輩、間もなく敵艦隊に露出します」
それは、ロリポップ小隊が敵艦隊の水平線下から出ることを意味しており、これから更に熾烈な電子戦が始まることを報せることであった。
「大丈夫、任せて」
マルコーニ先輩の冷静な返答に意を強くしたフレミングは、愛機に音声入力で指示を与えた。
「セレクト、信号弾、オレンジ、発射」
ミサイル群と敵艦隊との距離が30kmを切った時、フレミングは信号弾を射出した。それは無線封止解除の合図である。敵艦隊との距離は約90km。未だ上空直掩部隊から視認される距離ではなく、あるいは、艦載機に搭載されているレーダー程度であればアクティブステルスも有効ではあるが、対艦ミサイル群が敵艦隊に補足される頃合いである。これらを敵艦隊の妨害から守るためには、AMF-75Eも積極的に電子戦に参加せざるを得ず、それはすなわち、敵艦隊に身をさらけ出すことを意味しているのだ。当然、艦隊のレーダーに誘導されて、敵の直掩機もこちらを指向してこよう。その時は、ロリポップ小隊直掩3機の出番である。
「フレミー、いよいよですわね」
無線封止を解除した金髪が赤髪に問う。そう、ここからが最終ステージなのだ。
「フレミングちゃん、いつでも言ってね」
フレミング機に中距離空対空ミサイルは搭載していない。敵迎撃機を迎え撃つためには、直掩3機のミサイル各12発を借りなければならない。
「フレミーちゃん、マルコーニちゃん、敵は近づけさせないわ」
アクティブステルスを有効にしている3機のAMF-75Aは、積極的に自機のミサイルを制御することはできない。しかし、2丁の27mmリボルバーカノンであれば使用できよう。聖母は、いざとなれば自らを盾にしてでも後輩を守る、という気概を示してくれたようである。
「みんな、ありがと。信じてる」
高度を1,000mにまで上げたフレミングが返答する。
対艦ミサイルが敵艦20kmまで接近すると、その半数は次々とポップアップシーケンスに入った。上下2方向からの同時突入である。ポップアップしたミサイルは敵の迎撃を受けやすく、また敵艦を沈める効果には多くを期待できない。しかし、高い命中率を期待できる一方、上部甲板の各種構造物を破壊できれば敵の戦闘能力を奪うことには成功する。一方、低空から進入するミサイル群はその命中率が低くなるとは言え、敵の迎撃は受けにくく、更には喫水線付近に着弾すればより積極的に敵艦の撃沈を期待できる。果たして、その戦果は……
8月26日バーラタ時間0658時。000Wの対艦ミサイル264発が次々に敵艦に命中していった。
「みんな、反転するよ。全速離脱」
そう言ってフレミングはスロットルを最大パワーに入れつつ180度ターンを行う。戦果確認など、きっと警戒機か偵察機がやってくれるし、それは『クリシュナの円盤』の任務には含まれていない。今はまず戦域を離脱することが優先であった。各機がついてくることを確認した後、フレミングは再度発令する。
「各機、無線封止開始」
離脱を決意した時、敵艦隊上空にある直掩機のうち12機がこちらを指向して進路を定めたようであった。追撃機が案外少ないのは、陽動作戦が効果大であったことの証明であろう。また、距離90kmで敵艦載機のSS-20-有効射程は240km超-がミサイル攻撃をしてこなかったことから、アクティブステルスはSS-20に対して有効であるように思われる。尤も敵は、もう少し近づいてから必中の一撃を加えてくるつもりかもしれない。
フレミングは素早くスティックを右に倒して360度クイックロールを行うと、海面高度200mまで高度を下げる。まずは敵艦の大型レーダーから身を隠すことが重要である。艦載機搭載レーダー程度であればアクティブステルスが欺瞞してくれる-すなわち、敵にはフレミング達の行方が分からなくなる-であろうから、これで敵が追撃を諦めてくれればよいのだが……ロリポップ小隊各機が隊長機に続く。
今はまた無線封止下にあり、それは往路と同じく、外界との情報が一切切断された孤独な飛行を意味していた。往路と異なるのは、フレミング達の前方を朝日が染め始めていることと……何よりも敵の追撃を受けていることである。索敵レーダーも敵味方識別信号も封止している現在、フレミング達にはしかし敵状を知る手段はない。今できることは、とにもかくにも高度を下げ、最大パワーで離脱を図ることのみである。往路より速度を上げている分、往路より高度を高く設定している復路である。
15分ほど飛行したところでフレミングは左右に2度バンクを振る。後続の3機が同様にバンクを振ることを確認したフレミングは、スロットルをミリタリーまで戻した。最大パワーは燃料の消耗が激しく、ベンガヴァルへの帰投を考えればこれ以上の使用は控えておくことが賢明であろう。そうは言ってもミリタリー出力は巡航速度に比すればまだ多量の燃料を消費する。敵の追撃-およびその後の戦闘-がなければ残燃料には余裕があるが、それも敵の出方次第である。残念ながら今は未だ敵状が分からない。敵艦隊からは500km以上の距離を取れたはずであるが……フレミングは背筋に嫌な液体が流れるのを感じている。
「マルコーニ先輩?」
珍しく不安げな声音を挙げる赤髪に、紅茶色は短く答える。
「まだ」
「ですよねぇ~」
力なく同意するフレミングに、常の情報士官には珍しく冗長な物言いが返ってくる。
「敵は追撃を続けている。こちらがエンジン出力を絞った分、今は敵の方が速いはず。でも、敵が追撃進路を外せば距離は離れる。ここでこちらが電波を発することは、敵に情報を与えるだけ。お勧めできない」
フレミングは敵の追尾状況が知りたい。そのためにはロリポップマルーンが無線封止を解除しなければならないが、それは当然、敵に情報を与えることになる。少なくとも、電波の飛来方向という、重要な情報を。
「ちょっとだけ……でも?」
可愛い(?)後輩の甘えを紅茶色のお姉ちゃんは許してくれない代わりに、もう少しだけ情報をくれた。尤も、それは欲しくない情報であったに違いない。
「今この機体は敵の索敵レーダー波を感知している。5時の方向、距離不明、推定70km。少しづつ強くなっている」
敵がいることが分かっているのであれば仕方が無い。もう少し我慢しよう。12機が相手であれば、ロリポップ小隊の中距離ミサイル全36発では少し心細い。せめてキルヒー達にも今の状況を教えてあげたいけれど……
「みんな、もう少し我慢して」
決して届かないその言葉を、フレミングは一人口にした。明るい朝に向かって進む、暗い飛行なのである。
******************************
「……嬢…………える…………」
海岸線まで300km。AMF-75Eがオープン回線からノイズ混じりの音声を拾った。
「……海…………5………………アー……」
ところどころ言葉らしきものが聞こえるが、内容は全く分からない。
「……お嬢……」
野太い男性の声のようだ。瞬間的に声を上げる。
「おやっさん?」
無論その声は相手には届かないが、マルコーニ先輩が代わりに応答する。
「フレミング、少し待って。感度を上げてみる」
暫くすると、少し明瞭になったおやっさんの声がスピーカから聞こえてきた。
「お嬢、聞こえるか。お嬢。海岸線50kmで主武装スイッチ、オン。お嬢、聞こえるか。お嬢。海岸線50kmで主武装スイッチ、オン。お嬢、聞こえるか。お嬢。……」
どうやら、同じフレーズを繰り返しているようだ。聞こえるとも分からない見えない相手に対して、おやっさんは赤髪を信じて呼びかけ続けてくれたのであろう。一体いつから……?
「おやっさん……」
思わず返答したくなる誘惑に駆られるが、しかし今は無線封止下である。赤髪の分隊長にとって、片道3時間の飛行の中でこれほど時間が長く感じた瞬間は無かったであろう。
ようやく、海岸線50kmの地点までたどり着いた。おやっさんがそう言うのなら正しいに違いない。フレミングは愛機を労うように声を掛ける。
「お待たせ……こっからが私達の見せ場よ」
AMF-75Eの2基のDW-175Vエンジンが武者震いをしたようであったが、それは間違いなく赤髪の撃墜王の気のせいである。きっと、昂っているのは自分の方なのだ。
「主武装スイッチ、オン」
索敵レーダーやトランスポンダが眠りから覚めていく。次々と表示を切り替える航法表示装置やレーダー武装表示装置を確認するフレミングには、今やおやっさんの意図が明瞭であった。
「武装選択、中距離空対空ミサイル、セット、多目標同時照準モード」
「発射」
フレミングが音声入力を行うと、地上から64発の中距離空対空ミサイルが射出された。12機の送りオオカミ相手には、充分なお土産であろう。
「盛大な花火のようですわね」
今や無線封止を解除した金髪の親友が感想を述べる。今日のロリポップファイヤーは、かつて不採用となったカラースモーク仕様のようであった。
「た~ま~や~、だっけ?」
水色の声音の清流のような爽快感は、極度の緊張から解放された今のロリポップ小隊全員の心境そのものであったろう。
「フレミーちゃん、お疲れ様。みんなも、よく頑張ったわねぇ~」
蜂蜜色の聖母が天使の歌声で後輩達を労う。
「おやっさん、ありがと。『地対空機動挺進構想』だったっけ、それ?」
フレミングは地上にいる機付長にも礼を述べた。
「おぅ、そうだ……って、どこでそんなこと聞いたんだ、ったく?」
そのネーミングは意見具申のための、いわば耳障りのよい弁明に過ぎなかったのだ。不審に思ったおやっさんの追及に、フレミングはさらっと答える。
「えぇっ、こやっさんが言ってたよ。確か、おやっさんがパルティル司令官を口説くのに、とか何とか……」
「あんの野郎ぅ~、いちいち喋りやがって、口の軽い……」
あとでこやっさんは絞られるんだろうなぁ、などと思いながらフレミングは話題を変える。
「ところで、おやっさん。一体いつから無線に呼びかけてたの?」
おやっさんの返答は単純かつ不明瞭であった。
「うっせぇ、知るか!」
こんな会話ができるのも、私とおやっさんが生きてるからね……本当は、沢山の敵を殺したことを知っているフレミングではあるが、今は自分と、友人達が生き残ったことに感謝することにした。
「みんな、ありがと」
「発、中部防衛航空軍団司令官パルティル。宛、第000防衛飛行群司令フレミング」
ヘルメットに響くパルティル司令官の声にはどこか、柔和さが漂っていた。
「状況はこちらでも確認した。追撃する敵は認められない。『クリシュナの円盤』に残された貴官らの最後の任務は、無事ベンガヴァルに帰投することである。以降の任務遂行を期待する」
「了解」
「フレミング……」
口調を改めたパルティルが続けた。
「また撃墜マークを増やしましたね……」
きっと校長先生は、それを我がことのように喜んでくれているのだろう。人の上に立つ者の気持ちが、フレミングにも少しは分かってきたような気がした。
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