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序章
二つの裏切りをもつ者
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ヴェルスレムは生まれた時から騎士ランスロットと裏切者モルドレッドの魂の欠片を持っていた。
ランスロットは、いにしえの昔、アーサー王の妻グゥエンを寝取った。
そして信愛する騎士と最愛の妻に同時に裏切られたアーサー王は狂気に堕ち、一度亡くなった。彼が復活を果たすのは聖杯に選ばれた騎士ギャラハッドの功績によるものだ。
対するモルドレッドは魔物の血が混じる混血児だったそうだ。
そうであっても差別をしないアーサー王に惹かれながら、アーサー王の聖性を欲して彼に反逆したが…その前にランスロットの背反によってアーサー王は亡くなってしまう。
その後、王はギャラハッドの功績により復活を果たすが結局、カムランの丘の戦いでモルドレッドは狂愛のままにアーサー王を手にかける。相討ちだった。
二人はアーサー王を求め、聖杯を探す旅に出たことは変わらない、だがアーサー王は二人の手では決して蘇らずに、二人は最期までアーサーを手に入れることはできなかった。
騎士は嘆く。
『もう一度だけ声を聞かせてください、オレのたった一人の王よ。』
裏切者は慟哭する。
『なぜオレは貴方の元を離れたのか、喪うとわかっていたなら、決して離れず、決して裏切らず…側にいたのに。』
手に入らぬ光に焦がれ死んでいった魂の欠片はヴェルスレムの中でずっと叫び続けていた。
(もう二度と離れたくない、離さない。)
そして出会うのだ、アーサーの魂の欠片を持つ、唯一の光に。
聖王・シュレイザード、漆黒の髪に空を切り取ったような青の瞳。
その姿を見ただけで、ヴェルスレムの中で何かが氷解して、代わりに溢れたのは言い知れぬ喜びだった。
(オレはずっと、生まれる前から、ずっと、この方を探していた。)
そして当たり前のように忠誠の証として剣を捧げた。
それが幸せだった、王のために剣を振るい、王のために傷つき、前進することが出来ることが喜びだった。何年も、何十年もそうやって仕えていた。
けれど百年程たった時に、ヴェルスレムは気付いてしまった。
古代道具『神の恋人』で自分が王の側で不老で仕えることが出来て、かの人にとって自分が特別なのだと感じたからかもしれない。
王のための剣だけでは物足りないのだと。
それはヴェルスレムの欲なのか、ランスロットの欲なのか、モルドレッドの欲なのか分からないけれど…欲しいのだ。
王の信頼、王の信愛、王の触れる手、声、視線。なにもかも自分のものにして攫ってしまいたかった。
その激情はヴェルスレムの中で荒れ狂い、円卓の騎士筆頭として公私混同など許されぬなかで必死に日々を過ごしてきたのだ。
それが崩れたのは…『災厄の魔王』が『聖王』に求婚したことが切っ掛けだった。
掻き抱かれた王の姿、口付けられてとけるような表情。
それに耐えられるほどオレは無欲ではないのだ。
ランスロットは、いにしえの昔、アーサー王の妻グゥエンを寝取った。
そして信愛する騎士と最愛の妻に同時に裏切られたアーサー王は狂気に堕ち、一度亡くなった。彼が復活を果たすのは聖杯に選ばれた騎士ギャラハッドの功績によるものだ。
対するモルドレッドは魔物の血が混じる混血児だったそうだ。
そうであっても差別をしないアーサー王に惹かれながら、アーサー王の聖性を欲して彼に反逆したが…その前にランスロットの背反によってアーサー王は亡くなってしまう。
その後、王はギャラハッドの功績により復活を果たすが結局、カムランの丘の戦いでモルドレッドは狂愛のままにアーサー王を手にかける。相討ちだった。
二人はアーサー王を求め、聖杯を探す旅に出たことは変わらない、だがアーサー王は二人の手では決して蘇らずに、二人は最期までアーサーを手に入れることはできなかった。
騎士は嘆く。
『もう一度だけ声を聞かせてください、オレのたった一人の王よ。』
裏切者は慟哭する。
『なぜオレは貴方の元を離れたのか、喪うとわかっていたなら、決して離れず、決して裏切らず…側にいたのに。』
手に入らぬ光に焦がれ死んでいった魂の欠片はヴェルスレムの中でずっと叫び続けていた。
(もう二度と離れたくない、離さない。)
そして出会うのだ、アーサーの魂の欠片を持つ、唯一の光に。
聖王・シュレイザード、漆黒の髪に空を切り取ったような青の瞳。
その姿を見ただけで、ヴェルスレムの中で何かが氷解して、代わりに溢れたのは言い知れぬ喜びだった。
(オレはずっと、生まれる前から、ずっと、この方を探していた。)
そして当たり前のように忠誠の証として剣を捧げた。
それが幸せだった、王のために剣を振るい、王のために傷つき、前進することが出来ることが喜びだった。何年も、何十年もそうやって仕えていた。
けれど百年程たった時に、ヴェルスレムは気付いてしまった。
古代道具『神の恋人』で自分が王の側で不老で仕えることが出来て、かの人にとって自分が特別なのだと感じたからかもしれない。
王のための剣だけでは物足りないのだと。
それはヴェルスレムの欲なのか、ランスロットの欲なのか、モルドレッドの欲なのか分からないけれど…欲しいのだ。
王の信頼、王の信愛、王の触れる手、声、視線。なにもかも自分のものにして攫ってしまいたかった。
その激情はヴェルスレムの中で荒れ狂い、円卓の騎士筆頭として公私混同など許されぬなかで必死に日々を過ごしてきたのだ。
それが崩れたのは…『災厄の魔王』が『聖王』に求婚したことが切っ掛けだった。
掻き抱かれた王の姿、口付けられてとけるような表情。
それに耐えられるほどオレは無欲ではないのだ。
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