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序章

現状確認

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どうやら記憶喪失と判断されたらしい…。

オレの『此処は何処、貴方は誰』という記憶喪失のテンプレともいえる発言に重臣は顔色を哀れな位に蒼白にして、オレの部屋を後にした。

なんかゴメン。

でも俺もちょっと頭を整理したいので、人払いをして、もたつく足を叱咤して部屋の窓を開け放った。どうやら毒を飲んだのは間違いないのかもなと思う。

途端に視界に飛び込んできたのは、崖上にあるこの城から見下ろす遥かなストレイト皇国の繁栄の城下町だった。
ふきあげる風に髪が揺れ、服がはためく、空には皇国の飛竜が飛んでいた。

まったくゲームの中での感覚と一緒だ。
今は朝なのか、輝くばかりの太陽が城下の外に位置する湖を照り返して非常に美しい。

ここで俺はオレのステータスを開いてみた。

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名前:シュレイザード・ウィンドザム

種族:ヒューマン(不老)

LV1102

HP 3500667000/9999999999 状態異常(王の嘆き)
MP 9999999999/9999999999

職業:皇帝。 

領地:ストレイト皇国・都はヒュンベリオン

装備称号:聖王、神の恋人、神の恩寵を受けし者、暁の勇者、魔王の祝福。

装備特別関係:ヴェルスレム(王と騎士の絆)
虚無の魔王(魔王と想い人)
ガウェイ(王と騎士の絆)etc

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うん、前と変わったのは今、俺が状態異常(王の嘆き)で黄色HPってことぐらいだろうか。しかし俺は状態異常を全て跳ね返すオールクリアーを持ってるのに異常が出てるってことは、運営が与えた不老の『神の恋人』を殺す『嘆き』シリーズは特殊なんだろうなと思う。

んで…気付いたんだが。

『嘆き』シリーズってね、育てたキャラクターを全部消してリセットするアイテムだから。その影響を考慮して一週間ほどリセットするまで猶予期間を与えられてるんだ。
その間に『自分と同じ職業』の奴に頼んで、回復初級呪文ヒールをかけてもらうとリセットが止まるってもの。


…ってさ俺と同じ職業にあたるのって、誰?


大いなる疑問。
誰か来てくれたのかなぁ?そもそも俺は『王の嘆き』を使ってこのキャラをリセットしようなんてした記憶がございませんが。

うーんと白の欄干の上に座って城下町を眺めていた。
この城は崖の上に建っているから、下の風景は雄大だ。高所恐怖症の人は駄目かもしれないが。

あー風が気持ちいいー
ビュウビュウと吹き付けるから火照った体には丁度いい。
この状態異常ってどうやったら治るの?
オールクリアー持ってるのに。

そうやってオレがぼんやりしていたら、背後でガチャッと誰かが入ってくる音がした。
誰だ人払いしたのになぁと思ってたら。

「シュレイザード!!!」

って叫ばれて、その切羽詰ったような聞き覚えある声に驚いて振り返れば、漆黒の髪に群青の瞳、褐色の肌の美丈夫がいて…そいつが慌てたように俺のところまで駆けてきて、

「この馬鹿野郎!!」

息も止まるってぐらい抱きしめられた。
それで俺はやっと理解したのだ、オレを死の淵(リセット)から救った相手が誰だったのか。

唯一、俺と相対するもの。
ギュッと逞しい背に手を回して、体を預ける…虚無の魔王、トール・リーデンガイムの腕に。

そしてトールはそのままオレを抱き上げると、そのままオレを部屋へと連れて行ってしまった。男らしいトールの腕に収まりながら、俺は少し安心する。

そしてポスッとベッドに降ろされて、ゆっくり髪を掻き上げる様に撫でられる。
お前は魔王かっというぐらいに優しい。


「シュレイザード…お前、まだ死にたいのか?」


だから魔王に聞かれて俺は咄嗟に声が出なかった。
全くそんなつもりは無かったからだ、人間、自分の中に無い考えを聞かれると答えを窮するらしい。
だがそんなオレをどうおもったのか、魔王はその男らしい眉を寄せる。


「オレを独りにするな。」

そして…ゆっくりと端正な顔を近づけて、俺の額に触れるだけの親愛の口付けを落としたのだ。

俺は彼の口付けを受けながら、彼との出会いを思い返す。
そうあれは…雪が降りしきる日だった。

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