ホットレモネード~はちみつをまぜて~

吉村巡

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故郷の地

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 数年ぶりに日本の大地を踏んだ。
 踏んでしまえば、随分とあっけないものだった。

(どうすっかな)
 
 預けていたスーツケースを受け取って、空港の中をあてどなく歩きながら瀬戸せと将也まさやはこれからのことを考えた。
 スーツケースに背負ったリュック、ウェストポーチ。この中に入っているものが今の将也の全財産だった。
 
(まずは、空港を出ないと。つーか、今って日本は秋だよな? だったら、ここで上着とか買っといた方がいいか?)

 薄手の長袖シャツにジーンズという至ってシンプルな格好をしているのだが、周りを見れば背広まできっちり着込んだスーツ姿の人間が早足で行き交っている。ちらほらとトレンチコートを羽織っている者もいた。

(羽織れるものでも買っとくか)

 空港内のアパレルショップを物色しに行くことを決めて、近くにあった港内地図を見ていると隣に誰かが立った。
 自分と同じように地図を見に来た人間だと思い、将也が場所を譲ろうとした瞬間、

「もしかして、瀬戸将也さん?」

 と自分の名前が、見ず知らずのはずの隣の人間の口から聞こえた。

「……どちらさん?」

 相手の質問には答えず、少し警戒気味に問い返す。
 将也が視界に入れた隣の男は自分よりも背が高く、髪は明るく染められている。カジュアルな服を着ているが、旅行に行くにしては荷物1つ持っていない。
 外国では上手く発音してもらえないことが多い「瀬戸」を綺麗に発音したことからも日本人だと思うが、彫の深い顔立ちの上にサングラスを掛けているので確信が持てない。
 将也を日本で出迎えるような知り合いに心当たりはなかった。

「やっぱり、将也君だ! 久しぶり過ぎて忘れちゃった!? 俺、彰人あきとだよ! 井原いはら彰人あきと

 急にフレンドリーな口調になって、サングラスを外した男は少し不満そうな顔で将也を見つめる。
 整っているがアジア系の顔立ちは、相手が日本人だという予想を確信に変えたが、見覚えがあるかと言われると首をひねるしかない。
 けれど、名乗られた名前には聞き覚えがある。

「……ピーマン食べたくないって泣いてた、彰人くん?」

 井原彰人の名前で思い出した話につられたせいか、この年に似合わない口調で話してしまった。

「よりによって、その話を思い出さなくてもいいと思うけど、その彰人だよ! こんなところで会えるなんて思ってなかった。俺が転校して以来だね」
「ああ。小学校以来なのに、よく俺だって分かったな」
「将也君、全然変わってなかったから。あの頃は大人びてると思ったけど、今は童顔の部類だね」
「再会早々、失礼な発言かますんじゃねーよ」

 口ではそう怒りつつ、将也は再会の喜びを満面の笑みで表す彰人を見ていると、つられて笑みをもらした。
 自分が笑っていることに気づいた瞬間、将也はハッとして口元を片手で隠した。

(ここしばらく、笑った記憶なんてないのに)

 再開してすぐの相手につられて笑うなんて、自分らしくない。
 でも、思えば、彰人はそういう相手だった。

「そっちこそ、見た目は変わったけど、中身はあの頃から全然変わってないな」

 ガキっぽくて一言余計なところも、引いてる一線に気づきもしないで飛び越えてきて、目の前で屈託なく笑うところも。

「そうかな? 年相応には成長したと思うんだけど……」
「一連の振る舞いを省みて、成長したって本気で言っているのか?」
「先生ー、将也君の方が酷いこと言ってます!」

 ふざけたやりとりをしたあと、どちらともなく笑いだした。

「いい歳こいて、何やってんだか」

 笑いをおさめて、将也は呆れたようにそう言った。
 大の男ふたりが平日の昼間から意味もなく笑い合っている光景は珍しいらしく、通りかかる人々は奇異の目を向けている。
 我に返った将也を見て、彰人の方も笑いをおさめると、 

「それはそうと、将也君がこっちに来たのって観光? 良かったら案内しようか? 俺、連休貰ってて時間あるし」
「観光じゃない」
「なら、出張かー」
「仕事関係だが、出張でもない」

 頭にクエスチョンマークが浮かんでいるという顔をした彰人に、

「こっちで、仕事を探そうと思ってるんだ」

 と、将也は告げた。
 
 
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