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今になって知ること
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途中で食料や必要になる日用品を買い込んだ時間を抜けば、空港から一時間ほど走った頃、
「ここだよ」
彰人はそう言って、大きなマンションの駐車場に車を停めた。
高速道路や店に入る時にも感じたが、彰人のドライビングの腕前はかなりのもので、将也は運転中にも駐車の時にも一切不安を感じなかった。
「将也君、移動しっぱなしで疲れてない?」
「乗ってるだけで疲れるかよ。それは乗せてもらった俺が言うべき台詞だろ」
「俺、車とか運転すんの好きだから全然疲れないんだよね」
キャリーケースを持っているんだからと、彰人は買ったもの全部を自分が持って、マンションのエントランスへ向かって将也を先導するように歩き出した。
入り口では暗証番号、上品な高級感に溢れたエントランスにはホテルに居るようなスーツ姿のコンシェルジュが「おかえりなさいませ」とにこやかに声をかけてくる。
将也はそこで悟った。
(ここの家賃、結構するな)
同時に、これで彰人に対する謎が深まる。
わざわざ空港まで誰かを見送りに来たのは別に良いのだ。将也だって親しくしていた相手に見送られたことがある。
しかし、長く日本を離れていたとはいえ、日本の一般的な会社員にとって暗黙の了解のひとつにカラーリングは許されないというものがあることは知っている。
そして、その基準で言えば、彰人の髪の色や長さはその了解を逸脱していた。
彰人に対する謎が将也の頭をもたげる。その間に到着した無人のエレベーターにふたりで乗り込むと、彰人は全部で15階まであるボタンの内、10階のボタンを押した。
マンションの外観から20階以上はありそうだと思ったのだが、実際の階数は意外にも少なかったようだ。
しかし、それは勘違いだったのだとすぐに気付いた。
カードキーを使って彰人の部屋に入ると、廊下は階段があった。つまり、ここはメゾネットタイプのマンションだったらしい。しかも、ワンフロアを無理に分割するのではなく、広々としたスペースを確保している。
「将也君の実家にはかなわないけど、この家もそこそこ広めでしょう?」
「そこそこって……これ、かなり広い部類だろ」
「えー!? 将也君の家って蔵とか、離れとかあったし、庭で50メートル走できるレベルに広くって、子供心にめちゃくちゃビックリしたのに比べたら、この家なんて母屋の半分もないよ?」
「土地代考えろよ。それに、田舎の家はどこもあんなもんだぞ」
「将也君の家は特別広かったよ」
「それは、彰人が住んでた場所が団地だったからだろう?」
「そう言われてみれば、団地以外で遊びに行った家って将也君のところだけかも」
へらっと無邪気に笑う彰人の顔を見て、
(とぼけた奴だ)
と思いながら将也は小さく息を吐いた。
買った物を整理した後、案内された2階には6つも部屋があった。
「この部屋使って。空いてる中では一番広いし、置いてるのもソファベッドや机だから、そのまま使えるしね」
「ここ、本当に空いてる部屋なのか?」
机や椅子、ソファベッドに本棚に並べられた沢山の本を見れば、ここが空き部屋だとは信じられない。
「元は俺の勉強部屋。大学出るまでは使ってたけど、今はもう掃除以外で入ってない。この部屋以外が良いなら、俺と一緒のベッドで寝るか、床に布団敷いてもらうかになるけど」
「なんで彰人と一緒に寝るって選択肢が出てくるんだよ。――本当に使っていいなら、この部屋をありがたく使わせてもらう」
「もちろん、好きに使って。本も自由に読んでくれていいし、クローゼットの中にゲーム機とかもあるから」
とりあえず荷物だけ置いて少し早いが夕飯の準備をしようと彰人に言われ、将也はこの部屋を出た。部屋を出た時に、彰人が廊下の奥の部屋を指し示して、
「一番奥が俺の部屋。寝るのにしか使わない場所だけど、夜寂しくなったらいつでも来てね」
「冗談はやめろ。誰が行くか」
「えー、つれない」
本気とは思えない彰人の冗談に付き合う気はなかった。それよりも聞かなければいけないことが将也にはある。
身軽になって、階段を一緒に降りながら将也は彰人に、
「大学まで使ってたってことは、彰人の御両親が家主なのか?」
と聞いた。ならば、やはり長居することはためらわれる。
「もともと父さんが買って家族で住んでたんだ。でも、俺が大学決まったって頃に父さんがまた転勤になって、母さんはそれについていって、住むのは必然的に俺一人になった。それを契機に、どうせ相続するわけだからって名義を俺に変えたんだ。仕事を始めてからは、税金関係とかも俺が引き継いでるから名実ともに俺の家。両親のことは考えなくていいよ」
「持て余す広さなら売って部屋を借りた方が……悪い。忘れてくれ。人の家の考え方に口出しするつもりはなかった」
即座に出てきた疑問を不躾に声に出してしまい、将也は口元を押さえて反省した。しかし、彰人は全く気にした風もなく、
「そんなことで不機嫌にはなんないよ。俺も自分で部屋借りた方が安上がりだとは思うし。――ここのマンション設計したのが父さんでさ、なんかコンペで選ばれて思い入れがあったみたいだから、その気持ちを汲んであげたくて」
と、この家に住み続ける理由を教えてくれる。
それを聞いた将也は、口元を引き結んだ。
(後ろ歩いてて良かった)
今だけは後ろを振り向かないでくれ、と将也は願う。
こんな顔を晒して彰人に同情を寄せられるなんて無様なことは、絶対に御免なのだから。
「ここだよ」
彰人はそう言って、大きなマンションの駐車場に車を停めた。
高速道路や店に入る時にも感じたが、彰人のドライビングの腕前はかなりのもので、将也は運転中にも駐車の時にも一切不安を感じなかった。
「将也君、移動しっぱなしで疲れてない?」
「乗ってるだけで疲れるかよ。それは乗せてもらった俺が言うべき台詞だろ」
「俺、車とか運転すんの好きだから全然疲れないんだよね」
キャリーケースを持っているんだからと、彰人は買ったもの全部を自分が持って、マンションのエントランスへ向かって将也を先導するように歩き出した。
入り口では暗証番号、上品な高級感に溢れたエントランスにはホテルに居るようなスーツ姿のコンシェルジュが「おかえりなさいませ」とにこやかに声をかけてくる。
将也はそこで悟った。
(ここの家賃、結構するな)
同時に、これで彰人に対する謎が深まる。
わざわざ空港まで誰かを見送りに来たのは別に良いのだ。将也だって親しくしていた相手に見送られたことがある。
しかし、長く日本を離れていたとはいえ、日本の一般的な会社員にとって暗黙の了解のひとつにカラーリングは許されないというものがあることは知っている。
そして、その基準で言えば、彰人の髪の色や長さはその了解を逸脱していた。
彰人に対する謎が将也の頭をもたげる。その間に到着した無人のエレベーターにふたりで乗り込むと、彰人は全部で15階まであるボタンの内、10階のボタンを押した。
マンションの外観から20階以上はありそうだと思ったのだが、実際の階数は意外にも少なかったようだ。
しかし、それは勘違いだったのだとすぐに気付いた。
カードキーを使って彰人の部屋に入ると、廊下は階段があった。つまり、ここはメゾネットタイプのマンションだったらしい。しかも、ワンフロアを無理に分割するのではなく、広々としたスペースを確保している。
「将也君の実家にはかなわないけど、この家もそこそこ広めでしょう?」
「そこそこって……これ、かなり広い部類だろ」
「えー!? 将也君の家って蔵とか、離れとかあったし、庭で50メートル走できるレベルに広くって、子供心にめちゃくちゃビックリしたのに比べたら、この家なんて母屋の半分もないよ?」
「土地代考えろよ。それに、田舎の家はどこもあんなもんだぞ」
「将也君の家は特別広かったよ」
「それは、彰人が住んでた場所が団地だったからだろう?」
「そう言われてみれば、団地以外で遊びに行った家って将也君のところだけかも」
へらっと無邪気に笑う彰人の顔を見て、
(とぼけた奴だ)
と思いながら将也は小さく息を吐いた。
買った物を整理した後、案内された2階には6つも部屋があった。
「この部屋使って。空いてる中では一番広いし、置いてるのもソファベッドや机だから、そのまま使えるしね」
「ここ、本当に空いてる部屋なのか?」
机や椅子、ソファベッドに本棚に並べられた沢山の本を見れば、ここが空き部屋だとは信じられない。
「元は俺の勉強部屋。大学出るまでは使ってたけど、今はもう掃除以外で入ってない。この部屋以外が良いなら、俺と一緒のベッドで寝るか、床に布団敷いてもらうかになるけど」
「なんで彰人と一緒に寝るって選択肢が出てくるんだよ。――本当に使っていいなら、この部屋をありがたく使わせてもらう」
「もちろん、好きに使って。本も自由に読んでくれていいし、クローゼットの中にゲーム機とかもあるから」
とりあえず荷物だけ置いて少し早いが夕飯の準備をしようと彰人に言われ、将也はこの部屋を出た。部屋を出た時に、彰人が廊下の奥の部屋を指し示して、
「一番奥が俺の部屋。寝るのにしか使わない場所だけど、夜寂しくなったらいつでも来てね」
「冗談はやめろ。誰が行くか」
「えー、つれない」
本気とは思えない彰人の冗談に付き合う気はなかった。それよりも聞かなければいけないことが将也にはある。
身軽になって、階段を一緒に降りながら将也は彰人に、
「大学まで使ってたってことは、彰人の御両親が家主なのか?」
と聞いた。ならば、やはり長居することはためらわれる。
「もともと父さんが買って家族で住んでたんだ。でも、俺が大学決まったって頃に父さんがまた転勤になって、母さんはそれについていって、住むのは必然的に俺一人になった。それを契機に、どうせ相続するわけだからって名義を俺に変えたんだ。仕事を始めてからは、税金関係とかも俺が引き継いでるから名実ともに俺の家。両親のことは考えなくていいよ」
「持て余す広さなら売って部屋を借りた方が……悪い。忘れてくれ。人の家の考え方に口出しするつもりはなかった」
即座に出てきた疑問を不躾に声に出してしまい、将也は口元を押さえて反省した。しかし、彰人は全く気にした風もなく、
「そんなことで不機嫌にはなんないよ。俺も自分で部屋借りた方が安上がりだとは思うし。――ここのマンション設計したのが父さんでさ、なんかコンペで選ばれて思い入れがあったみたいだから、その気持ちを汲んであげたくて」
と、この家に住み続ける理由を教えてくれる。
それを聞いた将也は、口元を引き結んだ。
(後ろ歩いてて良かった)
今だけは後ろを振り向かないでくれ、と将也は願う。
こんな顔を晒して彰人に同情を寄せられるなんて無様なことは、絶対に御免なのだから。
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