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第2話
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「だ、誰かーっ! ひったくりよー! わ、私のシャネルのバッグがーっ!」
板橋区の住宅街。下校中にそんな声が聞こえて、あたしは隣を歩いていたみずっちに鞄を預けて駆け出した。
角を曲がるとおばあちゃんがアスファルトに膝をついてて、少し先には犯人らしき人影が原付のエンジンを唸らせている。
「お、おばあちゃん! 大丈夫!? 怪我してない?」
「ああ、望実ちゃんかい。私ゃ大丈夫なんだけど……大切なバッグが」
あたしの顔を見て、おばあちゃんは少しだけホッとしたように綻んだ。
このおばあちゃんのことはよく知っている。あたしの家のはす向かいにあるアパートの三階に住んでて、近所でお弁当屋さんをやっているご近所さんだ。
顔見知りが被害に遭ったとなれば、黙ってなんかいられない。
おばあちゃんを立たせた時、みずっちも現場にやってきた。
ちょうどよかったので、みずっちにお婆ちゃんを任せることにした。
「あたし、ちょっと犯人懲らしめてくる!」
「ノゾミってば、またそんなこと言って……。危ないから警察に任せた方が――」
「そんな時間ないよ。あたしの方がこの辺の地理に詳しいから。スピード勝負なら任せて!」
言って、原付の走り去った方へ駆け出す。
すでに犯人は角を曲がり、姿は見えなくなっていた。でもその先は一方通行続きで入り組んでいる。大通りへ抜けようとするなら、途中でこちら側に引き返す形で曲がる。
ならばと瞬時に最短ルートを見つけ、あたしは近くの家のブロック塀をヒョイと乗り越えた。この辺りはだいたいどこも顔見知りのおうちだから、怒られることもなく敷地内を突き進み――やがて原付のエンジン音が近づいてきた。
あたしは目の前に迫った背の高い生け垣を、全力ジャンプで飛び越える。
目の前の道路には、原付に乗ったフルフェイスヘルメットのひったくり犯がいた。
あたしの直感、大当たりだ!
「とおりゃあああああっ!!」
「うわあああっ!」
ひったくり犯の進路と、あたしのドロップキックが重なる!
そりゃもう映画さながらのアクションがクリティカルに決まり、
ドスンッ!
「――あいたっ!」
あたしはそのまま着地をミスってアスファルトに転がってしまった。着地のことなんてこれっぽっちも考えてなかった。しかもよく考たら、あたしスカートだった。絶対見えちゃったな、こりゃ。
犯人はと言うと、原付からはじき飛ばされて倒れていた。ヘルメットしてるし、きっと怪我はしてないよね。
このチャンスを逃すまいと、あたしはうつぶせの犯人にマウントして拘束した。
「さあさあ神妙にお縄につけぇいっ!」
「いで! いでででっ! か、関節決まってる、決まってるからっ!」
犯人は叫びながらアスファルトをバシバシ叩く。ちょっと力を緩めると、まずは顔を拝んでやろうとヘルメットをはぎ取った。
「…………あれ? 近所のゲーセンに入り浸ってる『音仙人』のお兄さん!?」
「やっぱり望実ちゃん相手じゃ逃げらんないか……」
なんと、被害者だけじゃなく加害者まで見知った顔というミラクルだった。板橋狭いなぁ。あたしの顔の広さが逆に怖いね。
学校帰りに寄り道するゲーセンでよく出会う、あらゆる音ゲーを極めたハイランカー。『音仙人』なんてあだ名すら持っている、二十代後半のお兄さんだ。
みずっちがお婆ちゃんを連れて合流したタイミングで、あたしはお兄さんに尋ねた。
「お兄さん、なんでこんなこと……」
「つい、魔が差しちゃったんだよ。職場が倒産しちゃって、行き場を失って、唯一のよりどころの音ゲーにのめり込んでいたら貯金が尽きちゃって……」
お兄さんはしょぼんと落ち込んでしまう。音ゲーのプレイ中はめっちゃキレッキレでかっこよかったのに、なんだか世知辛いな。
なんて同乗していたら、お兄さんが続けて頭を下げた。
「頼むよ……後生だから。これからは真っ当に仕事して生きるから! だから、見逃しておくれよぉ……。本当にすみませんでした……」
お婆ちゃんに謝罪するお兄さんの姿からは、本当に後悔と反省の念が見てとれた。
あたしはお婆ちゃんの顔色を窺いながら言った。
「ねえ、お婆ちゃん。あたしからもお願い。このお兄さん、根はすっごいいい人だから、チャンスをあげてほしいの」
「ノゾミ。そういうの、よくないよ。ちゃんとケジメはつけさせないと」
みずっちがスパッと言い切って、羽織っているパーカーからスマホを取り出した。一一〇番へ繋げようとしているんだ。この子もこの子で、けっこう正義感が強いんだった。
でもそんなみずっちを、お婆ちゃんがすっと止めた。
「望実ちゃんからそんなふうにお願いされたんじゃ、仕方ないわね……。あんた、真面目に働く気はあるんだね?」
「も、もちろんです。なんでもします!」
「それなら、うちの弁当屋で配達やってちょうだい。ちょうど人手が足りなくて困ってたんだよ」
お婆ちゃんの提案に、お兄さんが驚いたような顔を浮かべた。
「安月給でこき使ってあげるわ。きりきり働いて恩返ししなさいな。今回のことは、望実ちゃんの人柄に免じて許してあげるから……いいね?」
「あ……ありがとうございますぅぅぅ!」
心から嬉しそうなお兄さんの涙声が、住宅街に溶けていく。でもそれ以上に、あたしの方が嬉しくなっちゃった。
あたしの笑顔に気付いて、お婆ちゃんはニコッと笑った。
一件落着と言うことで、あたし達とお婆ちゃんは夕方らしい賑わいを見せている商店街にやって来た。お婆ちゃんからお礼にとクレープをいただいちゃったのだ。
別れ際にお礼を言うと、おばあちゃんはうんうんと頷いて言った。
「こちらこそありがとうねぇ。……ただ、気をつけるんだよ」
ふいに、おばあちゃんは心配そうな顔つきになった。
「最近、女子高生が行方不明になるって事件、多いでしょ? この辺だって、ちょっと前に……」
お婆ちゃんの言う事件は、いわゆる『女子高生神隠し事件』って呼ばれてるやつだ。毎日ニュースで取り上げられてて、先生からも『あまり寄り道しないように』と注意されている。
おばあちゃんは不安げに言う。
「危ないことに巻き込まれないよう、ほどほどにね。でも、本当に助かったわ」
「うん。わかったよ、おばあちゃん。心配してくれてありがとね!」
そんなおばあちゃんを安心させたくて、あたしは全力の笑顔で答えて別れた。
お婆ちゃんを見送った後、あたしとみずっちはさっそく甘いクレープに舌鼓を打つことにした。
近くのベンチに隣り合って座り、あたしはみずっちに向かって「えへへっ」と笑った。
「いいことした後のスイーツは格別だね!」
「それはなにより。わたしはなんだか、ドッと疲れた……」
ふぅと息を吐きながら、みずっちはクレープをかじる。
あたしもそれに習って頬張った。口の端から白いクリームが溢れ、白髭を作る。
それをみずっちが指ですくってくれた。
「もう……ノゾミ、食べ方が雑過ぎ」
「ありがと♪ じゃあ、そのクリーム貰っちゃお!」
みずっちの指ごとクリームを舐め取る。
いきなりのことでみずっちは肩をビクつかせた。
「ちょっ! ……人が見てるから」
「別にいつものことじゃん。えへへっ」
このぐらいで恥ずかしがっちゃってるみずっち、かわいいなぁ。
あたしとみずっちは小学生の頃からの幼馴染みだ。このぐらいの仲良しぶりはいつものことなんだけど、みずっちはいつも恥ずかしがってばかりだった。
それでもきっと、あたし達はマリファナ海溝より深い絆で結ばれている仲良しなのは間違いない……あれ? なんか違う?
そんな仲良しコンビのあたし達が、クレープをすべて食べきったころ。
「へいへいへーいっ! そこのJKかわうぃーね!」
珍妙な男が、突然声をかけてきたのだ。
「オレの配るティッシュ持ってって! ついでにオレのハートもシクヨロ~♪」
「「うっざ!」」
あまりのうざったさに、思わずあたしとみずっちの声が重なる。
サングラスをかけた某チャラ男芸人の劣化版みたいな男は、シャシャッと芝居がかった動きで広告入りティッシュを差し出す。
広告には大きな字でこう書かれていた。
「あなたのその夢、叶えます~? 胡散臭っ!」
あまりの胡散臭さに、思わずあたしは声を上げてしまった。
けど、みずっちは違った。こういうことに一番疑り深くて敏感なはずのみずっちは、ジッとそのティッシュを眺め――受け取ったのだ。
「わおっ、ありがとちゃーんっ! 興味が湧いたら、そこの住所にカマ~ンヌ♪」
最後の最後まで適当な喋り方で乗り切り、チャラ男は去っていく。
「……って、あたしに配る気なかったんかーい!」
去っていくチャラ男の背中に文句を投げ飛ばした。
胡散臭い……けど、露骨に無視されたのは腹が立つ。そりゃ、スタイルのいいみずっちと並ぶと、どうしたって中学生にしか見えないぐらい貧相だけどさ!
すると、みずっちが不思議そうに訊いてきた。
「……ノゾミ、これ欲しかったの?」
「うん。ほら、あたしアレルギー性の鼻炎持ちだし」
どうせタダで貰えるなら、ティッシュは貰っておきたいもんね。
「みずっちこそ珍しいね。絶対受け取らないタイプなのに。なんで?」
みずっちは一瞬難しい顔つきになって、肩をすくめた。
「貰ってあげないと、とことん付きまとわれそうだったから」
「なるほど。ねねっ。あいつ、あたしら華のJKをどこに連れてこうとしてたのかな?」
言いながら、あたしはティッシュの広告を覗き込む。
ほぼ手書きに近い簡素な地図と住所だけだったけど、あたしはすぐにピンときた。
「……この住所、ここからだと結構近くじゃない?」
「本当だ。でも確か、この辺って……」
みずっちが言い淀む理由はあたしにもわかる。そこは、もう何年も空き地だったからだ。
――てぃーん! あたしの直感が働いた。
さっそく提案してみる。
「ね、今から行ってみようよ」
「え? 今から?」
みずっちが顔をしかめた。
「うん。たぶんだけど、あのチャラ男、『女子高生神隠し事件』に関係ありありだよ」
「そんな……なにを根拠に?」
「そりゃ、可愛いJKを見つけるやティッシュ差し出して、妙な住所に誘い込もうとしてるし。それに、さっきみたいなチャラ男、この近辺で見かけたことないんだよね」
あたしは板橋区内では顔が広い。さっきのお婆ちゃんみたいに、町の人は大体知り合い。
逆に言えば、知らない顔にはすごく敏感だったりする。たとえばあのチャラ男もだ。
見かけないうえにこの住所を知っているというのは、なんか怪しいと思ったってわけ。
「なんか事件の匂いがする! とりあえず、現場に行くだけ行ってみようよ……ね?」
あたしはみずっちのパーカーをグイグイと引っ張る。
こうなってはもう止められない、止まらない。それをみずっちもわかっていたんだと思う。
少しだけ考え込んだあと、諦めたようにため息をついた。
「……ちょっとでも危ない、ヤバいって思ったら、すぐにでも引き返すよ」
「そうこなくっちゃ! やっぱり持つべきは大親友だね!」
板橋区の住宅街。下校中にそんな声が聞こえて、あたしは隣を歩いていたみずっちに鞄を預けて駆け出した。
角を曲がるとおばあちゃんがアスファルトに膝をついてて、少し先には犯人らしき人影が原付のエンジンを唸らせている。
「お、おばあちゃん! 大丈夫!? 怪我してない?」
「ああ、望実ちゃんかい。私ゃ大丈夫なんだけど……大切なバッグが」
あたしの顔を見て、おばあちゃんは少しだけホッとしたように綻んだ。
このおばあちゃんのことはよく知っている。あたしの家のはす向かいにあるアパートの三階に住んでて、近所でお弁当屋さんをやっているご近所さんだ。
顔見知りが被害に遭ったとなれば、黙ってなんかいられない。
おばあちゃんを立たせた時、みずっちも現場にやってきた。
ちょうどよかったので、みずっちにお婆ちゃんを任せることにした。
「あたし、ちょっと犯人懲らしめてくる!」
「ノゾミってば、またそんなこと言って……。危ないから警察に任せた方が――」
「そんな時間ないよ。あたしの方がこの辺の地理に詳しいから。スピード勝負なら任せて!」
言って、原付の走り去った方へ駆け出す。
すでに犯人は角を曲がり、姿は見えなくなっていた。でもその先は一方通行続きで入り組んでいる。大通りへ抜けようとするなら、途中でこちら側に引き返す形で曲がる。
ならばと瞬時に最短ルートを見つけ、あたしは近くの家のブロック塀をヒョイと乗り越えた。この辺りはだいたいどこも顔見知りのおうちだから、怒られることもなく敷地内を突き進み――やがて原付のエンジン音が近づいてきた。
あたしは目の前に迫った背の高い生け垣を、全力ジャンプで飛び越える。
目の前の道路には、原付に乗ったフルフェイスヘルメットのひったくり犯がいた。
あたしの直感、大当たりだ!
「とおりゃあああああっ!!」
「うわあああっ!」
ひったくり犯の進路と、あたしのドロップキックが重なる!
そりゃもう映画さながらのアクションがクリティカルに決まり、
ドスンッ!
「――あいたっ!」
あたしはそのまま着地をミスってアスファルトに転がってしまった。着地のことなんてこれっぽっちも考えてなかった。しかもよく考たら、あたしスカートだった。絶対見えちゃったな、こりゃ。
犯人はと言うと、原付からはじき飛ばされて倒れていた。ヘルメットしてるし、きっと怪我はしてないよね。
このチャンスを逃すまいと、あたしはうつぶせの犯人にマウントして拘束した。
「さあさあ神妙にお縄につけぇいっ!」
「いで! いでででっ! か、関節決まってる、決まってるからっ!」
犯人は叫びながらアスファルトをバシバシ叩く。ちょっと力を緩めると、まずは顔を拝んでやろうとヘルメットをはぎ取った。
「…………あれ? 近所のゲーセンに入り浸ってる『音仙人』のお兄さん!?」
「やっぱり望実ちゃん相手じゃ逃げらんないか……」
なんと、被害者だけじゃなく加害者まで見知った顔というミラクルだった。板橋狭いなぁ。あたしの顔の広さが逆に怖いね。
学校帰りに寄り道するゲーセンでよく出会う、あらゆる音ゲーを極めたハイランカー。『音仙人』なんてあだ名すら持っている、二十代後半のお兄さんだ。
みずっちがお婆ちゃんを連れて合流したタイミングで、あたしはお兄さんに尋ねた。
「お兄さん、なんでこんなこと……」
「つい、魔が差しちゃったんだよ。職場が倒産しちゃって、行き場を失って、唯一のよりどころの音ゲーにのめり込んでいたら貯金が尽きちゃって……」
お兄さんはしょぼんと落ち込んでしまう。音ゲーのプレイ中はめっちゃキレッキレでかっこよかったのに、なんだか世知辛いな。
なんて同乗していたら、お兄さんが続けて頭を下げた。
「頼むよ……後生だから。これからは真っ当に仕事して生きるから! だから、見逃しておくれよぉ……。本当にすみませんでした……」
お婆ちゃんに謝罪するお兄さんの姿からは、本当に後悔と反省の念が見てとれた。
あたしはお婆ちゃんの顔色を窺いながら言った。
「ねえ、お婆ちゃん。あたしからもお願い。このお兄さん、根はすっごいいい人だから、チャンスをあげてほしいの」
「ノゾミ。そういうの、よくないよ。ちゃんとケジメはつけさせないと」
みずっちがスパッと言い切って、羽織っているパーカーからスマホを取り出した。一一〇番へ繋げようとしているんだ。この子もこの子で、けっこう正義感が強いんだった。
でもそんなみずっちを、お婆ちゃんがすっと止めた。
「望実ちゃんからそんなふうにお願いされたんじゃ、仕方ないわね……。あんた、真面目に働く気はあるんだね?」
「も、もちろんです。なんでもします!」
「それなら、うちの弁当屋で配達やってちょうだい。ちょうど人手が足りなくて困ってたんだよ」
お婆ちゃんの提案に、お兄さんが驚いたような顔を浮かべた。
「安月給でこき使ってあげるわ。きりきり働いて恩返ししなさいな。今回のことは、望実ちゃんの人柄に免じて許してあげるから……いいね?」
「あ……ありがとうございますぅぅぅ!」
心から嬉しそうなお兄さんの涙声が、住宅街に溶けていく。でもそれ以上に、あたしの方が嬉しくなっちゃった。
あたしの笑顔に気付いて、お婆ちゃんはニコッと笑った。
一件落着と言うことで、あたし達とお婆ちゃんは夕方らしい賑わいを見せている商店街にやって来た。お婆ちゃんからお礼にとクレープをいただいちゃったのだ。
別れ際にお礼を言うと、おばあちゃんはうんうんと頷いて言った。
「こちらこそありがとうねぇ。……ただ、気をつけるんだよ」
ふいに、おばあちゃんは心配そうな顔つきになった。
「最近、女子高生が行方不明になるって事件、多いでしょ? この辺だって、ちょっと前に……」
お婆ちゃんの言う事件は、いわゆる『女子高生神隠し事件』って呼ばれてるやつだ。毎日ニュースで取り上げられてて、先生からも『あまり寄り道しないように』と注意されている。
おばあちゃんは不安げに言う。
「危ないことに巻き込まれないよう、ほどほどにね。でも、本当に助かったわ」
「うん。わかったよ、おばあちゃん。心配してくれてありがとね!」
そんなおばあちゃんを安心させたくて、あたしは全力の笑顔で答えて別れた。
お婆ちゃんを見送った後、あたしとみずっちはさっそく甘いクレープに舌鼓を打つことにした。
近くのベンチに隣り合って座り、あたしはみずっちに向かって「えへへっ」と笑った。
「いいことした後のスイーツは格別だね!」
「それはなにより。わたしはなんだか、ドッと疲れた……」
ふぅと息を吐きながら、みずっちはクレープをかじる。
あたしもそれに習って頬張った。口の端から白いクリームが溢れ、白髭を作る。
それをみずっちが指ですくってくれた。
「もう……ノゾミ、食べ方が雑過ぎ」
「ありがと♪ じゃあ、そのクリーム貰っちゃお!」
みずっちの指ごとクリームを舐め取る。
いきなりのことでみずっちは肩をビクつかせた。
「ちょっ! ……人が見てるから」
「別にいつものことじゃん。えへへっ」
このぐらいで恥ずかしがっちゃってるみずっち、かわいいなぁ。
あたしとみずっちは小学生の頃からの幼馴染みだ。このぐらいの仲良しぶりはいつものことなんだけど、みずっちはいつも恥ずかしがってばかりだった。
それでもきっと、あたし達はマリファナ海溝より深い絆で結ばれている仲良しなのは間違いない……あれ? なんか違う?
そんな仲良しコンビのあたし達が、クレープをすべて食べきったころ。
「へいへいへーいっ! そこのJKかわうぃーね!」
珍妙な男が、突然声をかけてきたのだ。
「オレの配るティッシュ持ってって! ついでにオレのハートもシクヨロ~♪」
「「うっざ!」」
あまりのうざったさに、思わずあたしとみずっちの声が重なる。
サングラスをかけた某チャラ男芸人の劣化版みたいな男は、シャシャッと芝居がかった動きで広告入りティッシュを差し出す。
広告には大きな字でこう書かれていた。
「あなたのその夢、叶えます~? 胡散臭っ!」
あまりの胡散臭さに、思わずあたしは声を上げてしまった。
けど、みずっちは違った。こういうことに一番疑り深くて敏感なはずのみずっちは、ジッとそのティッシュを眺め――受け取ったのだ。
「わおっ、ありがとちゃーんっ! 興味が湧いたら、そこの住所にカマ~ンヌ♪」
最後の最後まで適当な喋り方で乗り切り、チャラ男は去っていく。
「……って、あたしに配る気なかったんかーい!」
去っていくチャラ男の背中に文句を投げ飛ばした。
胡散臭い……けど、露骨に無視されたのは腹が立つ。そりゃ、スタイルのいいみずっちと並ぶと、どうしたって中学生にしか見えないぐらい貧相だけどさ!
すると、みずっちが不思議そうに訊いてきた。
「……ノゾミ、これ欲しかったの?」
「うん。ほら、あたしアレルギー性の鼻炎持ちだし」
どうせタダで貰えるなら、ティッシュは貰っておきたいもんね。
「みずっちこそ珍しいね。絶対受け取らないタイプなのに。なんで?」
みずっちは一瞬難しい顔つきになって、肩をすくめた。
「貰ってあげないと、とことん付きまとわれそうだったから」
「なるほど。ねねっ。あいつ、あたしら華のJKをどこに連れてこうとしてたのかな?」
言いながら、あたしはティッシュの広告を覗き込む。
ほぼ手書きに近い簡素な地図と住所だけだったけど、あたしはすぐにピンときた。
「……この住所、ここからだと結構近くじゃない?」
「本当だ。でも確か、この辺って……」
みずっちが言い淀む理由はあたしにもわかる。そこは、もう何年も空き地だったからだ。
――てぃーん! あたしの直感が働いた。
さっそく提案してみる。
「ね、今から行ってみようよ」
「え? 今から?」
みずっちが顔をしかめた。
「うん。たぶんだけど、あのチャラ男、『女子高生神隠し事件』に関係ありありだよ」
「そんな……なにを根拠に?」
「そりゃ、可愛いJKを見つけるやティッシュ差し出して、妙な住所に誘い込もうとしてるし。それに、さっきみたいなチャラ男、この近辺で見かけたことないんだよね」
あたしは板橋区内では顔が広い。さっきのお婆ちゃんみたいに、町の人は大体知り合い。
逆に言えば、知らない顔にはすごく敏感だったりする。たとえばあのチャラ男もだ。
見かけないうえにこの住所を知っているというのは、なんか怪しいと思ったってわけ。
「なんか事件の匂いがする! とりあえず、現場に行くだけ行ってみようよ……ね?」
あたしはみずっちのパーカーをグイグイと引っ張る。
こうなってはもう止められない、止まらない。それをみずっちもわかっていたんだと思う。
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