あたし、なまくび?だけど魔法少女はじめました! ~夢見の異世界エルドラ~

雨宮ユウ

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第21話

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 かすみん・むっちーとラミラミ先生の戦いは、一進一退の勝負だった。
 チート攻撃の要でもある羽根プレートの枚数は確実に減っていき、最初は二十枚あったものが今は十二枚にまで減っている。
 ただ不思議なことに、枚数が減れば減るほどラミラミ先生の強さは増していった。
 士気が上がったことで外野で応援していた魔法少女達も加勢するんだけど、ことごとく倒されちゃったし、かすみん達も最初より攻めきれなくなっていた。
 その理由を探るためにも、あたしは鎧兜を装備し直したあと、しばらくラミラミ先生の動きを観察していた。
 もしかしてあのプレート、枚数が減れば減るほど一枚一枚の軌道がより細かく、より俊敏に、より正確になっていってるんじゃないかな?
 数が少ない方が、一枚に対してより集中できるから……とか。
 どうしてそうなるのかはラミラミ先生に聞いてみないとわからないけど、まず教えてくれるはずもないし、この際どうでもいい。
 ただ間違いなく言えるのは、こっから先はどんどん戦いはハードモードになっていくってことだ。

「ってことは……あたしがやるべきは、これっきゃないよね!」

 牽制。それに尽きる。しかもこの鎧じゃ素早くは動けないから、遠距離からのね。
 むしろそれしかないとも言えるんだけど……。
 あたしは腕を前方に構え、アルアルに対して放った時と同じように念じた。
 今度こそ当たってよね!

「いっけー! ぶっ飛びナックルッ!」

 鎧の肘の部分に魔法陣が浮かび上がり、火柱が噴射!
 勢いよく飛んでいった手甲が、ラミラミ先生に迫る!
 それに気づいたラミラミ先生は、素早く羽根プレートを移動させて、ぶっ飛びナックルの軌道上に重ねてきた。
 そう来るならそのまま叩き割ってやる! ……って思ったんだけど、傾斜をつけたプレートに当たった瞬間、つるんと軌道をそらされちゃった。
 あれ? っと首を傾げているあたしに、ラミラミ先生は自慢げに言った。
「いわゆる『避弾経始』というやつです。これ、テストに出ますからね」
 なんのテストだよ! だなんて野暮なツッコミはあえてしないよ! したかったけど!
 でも、くそぅ……あっさりかわされちゃったよ。あたしの腕にカシャンッ、と戻ってきた腕をさすりながら、次の手を考える。
 動きを察知されてプレートに阻まれる、でもそれを壊すには『ぶっ飛びナックル』じゃ力不足ってことでしょ?
 それなら、一個はおとりに使っちゃえ。腕は二本もあるんだから!

「よっしゃ! もういっちょ……いっけー!」

 右、そして左と交互に腕を発射させる。二つを直列にしてラミラミ先生へ向かわせる。きっとラミラミ先生からみたら一つにしか見えていない……はず!

「また同じ攻撃ですか? 芸がないですね」

 かすみんやむっちーと戦いながらでも、余裕綽々でこっちの対応もしてくるラミラミ先生。さっきと同じように羽根プレートを一枚よこして、飛んでくる腕に対して傾斜を作って待機する。
 案の定、トゥルンと情けない感じに軌道をそらされた……けど後ろに隠してあったもう一本は、プレートを避けてさらにラミラミ先生へと迫る!

「――くぅっ!」

 さすがのラミラミ先生も対応が遅れた。腕を避けることはできたけど、体のバランスを崩した。

「隙あり!」

 むっちーがすかさず間合いを詰めて攻撃! ラミラミ先生は、防御のために二枚の羽根プレートを引っ張りつつ、素早く後ずさる。
 直接ラミラミ先生へのダメージはなかったけど、二枚のプレートがパキンと割れた!
 やった、あたしの牽制もあってさらにプレートの数が減った! これで残り十枚!

「ちょこざいなことを!」

 今時聞かないような悪態をついて、ラミラミ先生があたしを睨んできた。
 悔しかろう悔しかろう! あたしも勝ち誇ったように笑いながら、帰ってきた両腕を装着し直した。
 これで調子づいたあたしは、もう一回『ダブルぶっ飛びナックル』をお見舞いしてやろうと構えた。
 けどあたしが打ち込むよりも先に、羽根プレートが一枚、あたしのところに飛んできて氷の魔法を撃ってくる。

「きゃあ!」

 とっさにあたしが右腕で庇うと、関節部分が氷漬けになっちゃった!
 マジか……これじゃ『ぶっ飛びナックル』撃てないよ。
 左腕は無事だけど、一個じゃ避けられちゃうし。
 ……いや、考えろあたし。他にも使える作戦や技がある……はず!
 今のあたしの状態じゃ、ろくに攻撃なんてできない。
 だったら、攻撃はかすみんやむっちーに任せればいいんだ。
 それはもちろん、投げっぱなしにするというわけじゃない。攻撃手段を持っている二人をサポートするために、今のあたしにできることを考える。
 やるべきは、ラミラミ先生の動きを邪魔すること。隙ができれば、さっきのむっちーみたいに攻撃はちゃんと入るんだ。

「でも、飛び道具もないし武器も持ってないのに、どうやったら……」

 そう辺りを見回していたあたしは、改めて自分の姿が目に留まった。
 片腕が氷漬けになった鎧兜の姿。これは、あたしが操っている仮の体だ。
 壊れたって痛くもかゆくもない。
 現に腕が凍らされているけど、あくまで鎧が凍っているだけだし。

「…………そうだよ。なにも怖がることなんてないじゃん」

 鎧を失ったら、正直このあとが大変かもしれない……でも。
 生身じゃない仮の体だからこそできるサポートのしかただってあるよ!
 あたしは深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
 そして――クラウチングスタートの姿勢を取った。

「足の裏に、推進力のイメージを……よし!」

 瞬間、両足の裏に魔法陣が展開した。エンジン音みたいな唸りが聞こえてくる。
 これなら、イメージ通りの攻撃ができそうだ!

「腕が封じられたんなら……体ごと当たって砕けろだ!」

 一気にスタートを切る。同時に、足から火柱が噴出して推力を生む。
 体そのものが弾丸みたいになって、一気にラミラミ先生へ接近する。

「な、なんですかそれは!」

 自分に迫ってくる鎧の塊に、ラミラミ先生は驚きの声を上げてすぐさま羽根プレートを展開する。魔法陣から様々が魔法が斉射され、あたしの鎧に当たる。
 そのたびに右腕がもげたり、脇腹辺りの装甲が削られたりした。
 でも――へっちゃらだ!
 ラミラミ先生の攻撃をものともせず、あたしは先生へ特攻をしかけた。
 攻撃するだけでは抑えられないと踏んだのか、すぐさまプレートで防御体勢をとるラミラミ先生。だけど勢い余った質量を相手に、プレートだけでは抑えきれない。
 二枚、三枚とプレートを重ねて防ごうとするけど、いたずらにプレートを壊すばかりで止められない。
 仕方なく体を動かしてあたしをかわす。あたしはそのまま転がるように倒れてしまった。
 けど、そうしてできた隙をかすみん・むっちーが見逃すはずがなく。

「「せええいっ!」」

 かすみんの二刀流、むっちーの右ストレートがラミラミ先生に迫る!
 ありったけのプレートで防御を謀るけど、そのすべてを破壊して攻撃がクリティカルヒット!
 うめき声を上げたラミラミ先生は、そのまま壁まで吹き飛ばされ、轟音を鳴らして追突する。

「――っしゃぁ!」

 むっちーがガッツポーズする。ひらり翻るスカートがかっこかわいい!

「助かったよノゾミちゃん! いい特攻、熱い戦いだったぜ」

 からのサムズアップですよ、サムズアップ。
 もう爽やかイケメン過ぎませんか、あの女の子。
 あたし、現世に戻ったらすぐに宝塚歌劇団観劇しにいこう。
 と、あたしが男役にトキメキを覚えはじめた時だった。

「みなさん、油断は禁物ですわ!」

 つきのんの叫びが聞こえ、慌ててラミラミ先生が吹き飛ばされた方へ目を向ける。
 すでに立ち上がっているラミラミ先生の目が、あたしに向いていた。
 そして、明らかに怒っている声音で言った。

「私はですね……自分の授業に横やりを入れられるのが、なによりも嫌いなんですっ!」

 ラミラミ先生の目が光った。普段、兜の奥になんの光も宿っていない方だ。
 直後、一瞬のうちにあたしへなにかが着弾した。気づけば左腕が粉々に破壊されていた。
 本当に瞬き一つする間のことだった。なにがなんだか、よくわからない。

「んだよ、その攻撃! 飛び道具か!?」

 むっちーが悪態をついて距離を詰める。もう一発、強烈なのをお見舞いするつもりらしい。
 でも、それよりも早くラミラミ先生の頭が動き、目線がむっちーを捉え――

「危ないっ!」

 むっちーをはじき飛ばすようにかすみんが接触し、二人が床に倒れる。
 直前までむっちーのいた場所が爆発し、爆風で吹き飛ばされる。
 爆発の直撃は免れたけど、飛び散った瓦礫が二人を襲う。

「かすみん! むっちー! 大丈夫!?」

 あたしが声をかけると、辛うじて反応は返ってきた。

「く……大、丈夫……わたしも、嵐山さんも……まだ」

 けど、瓦礫が邪魔でほとんど身動きが取れないみたい。
 二人のことがすっごい心配、だけど。
 それよりもヤバいのはラミラミ先生の目、だよね。

「あなた達相手に『爆破の魔眼』を使うことになろうとは、夢にも思いませんでしたよ」

 ラミラミ先生は体についた埃を払いながらこっちに歩いてくる。
 爆破の魔眼? なにその厨二病的な技……。
 でも、名前からしてなんとなく読めたぞ。
 たぶん視界の中にあるもの、あるいは場所を選んで、爆発させることができるんだ。
 自分で言っててすごいチート技だなって思った。そんなの、見られたら一巻の終わりじゃん。防ぎようがないじゃん。
 見られないよう動き回って隙を窺う? でも、動きを読まれた瞬間アウトだ。だいたい、攻撃しようとしたら確実に動きの止まるタイミングがある。
 じゃあ、盾になるような瓦礫を持ちながら移動する? 無理だよ、重くてノロマになるし、そしたら集中的に狙われちゃう。
 遠距離攻撃は? ……ダメだ。さっきの特攻と魔眼のせいで、両腕がなくなっちゃった。
 そもそも鎧の体すら、動くのがやっとってぐらいにボロボロだ。
 ていうことは、攻撃の手段さえないの? 今のあたしって……。

「なに立ち止まってらっしゃるんですの? 望実さん!」

 あたしを叱咤したのはつきのんだ。
 前に出て、ラミラミ先生の視線を攪乱するように動き回る。

「あなたはどんなときでも前向きに、なんらかの手段を見つけ出して、今まで勝ってきた。どんな戦いでも、戦い抜いてきた! それは今この瞬間だって同じことではありませんの!?」

 つきのんは鉄扇を広げ、ラミラミ先生を斬りつけていく。かと思えば、畳んで鈍器代わりにぶつける。

「あなたは私と違って……脚をなくして地獄を見ていた私と違って、強い心を決して失わない方でしたわよね! だって脚をなくしただけの私と違って、あなたは体そのものがないのにも拘わらず、私達を牽引してきたんですもの!」

 ラミラミ先生の攻撃が、叱咤するつきのんの頬をかすめた。
 微かな痛みに表情を歪めつつも、彼女はまだ叱咤を続けた。

「そんなあなたが、こんな時に足を止めてどうするんですの? 私にはなかった、その絶対にめげない強さを……今こそ発揮する時でしてよ!」

 つきのんに言われて、あたしは我に返る。
 そうだ、まだなにか手段はあるはずなんだ。考えろ、考えろ!

「あたし達がぁ、時間稼ぎますからぁ、ノゾミちゃんがんばってくださぁい!」

 若葉ちゃんもハンマーを担いで応戦する。
 二人の言うとおりだ。この時間を有効的に使って策を練らないと……。
 その時だ。誰もが忘れかけていた存在のあいつがのんきに声をかけてきた。

「早くしないと、お友達がやられちゃうよん?」

 レンレンだ。あたしの髪を結うかんざし代わりのレンレンが、茶化すように言ってきた。

「わかってるよ! レンレンは魔導器だからって、のんき過ぎだよ!」
「望実ちゅわんにのんきって言われるのは心外だな~。でもまあ、今のオレはノゾミちゅわんのいうとおり、ただの魔導器だからねん。のんきでも大丈ブイッ! ってなわけで」
「人格あるんだから、ちょっとは頭使って手伝って……んん?」

 レンレンの言い方に引っかかるものがあって、あたしは言葉を止めた。
 そうだよ。レンレンは人格があってべらべらお喋りで、たまにあたし達を邪魔したりするけど……基本的にはただの魔導器だったんだ。
 魔導器に融合しているから、どっちに扱うのが正解か曖昧だったけど。
 でも、レンレンの言葉でハッキリしたよ。
 つまり、レンレンだって立派なあたしの武器だったってことだね!
 ……そういえば今まで、自分の魔導器を魔導器としてちゃんと使ったことって、なかったような気がする。いつも顕現しっぱなしだったし、人格もあるせいで、使うって意識で使ったことがなかったかもしれない。
 いや、むしろレンレンがキモくて使うっていう発想がなかっただけかもしれないけど。
 なんであれ、レンレンの言い方に引っかかった理由って……

「あんたを、使いこなしてみろってこと?」

 でも、あたしの問いにレンレンは「さ~」と答えた。

「別にオレは、そんなこと一言も言ってないよん? 望実ちゅわんがそう解釈したんなら、そういうことでいいんじゃなーい?」

 ……言い方は腹立つし、空気読めてないし、元はと言えばこいつのせいでこんなことになってるようなもんなんだけど……。
 それでも今この瞬間だけは、レンレンにちょっと感謝かも!

「まぁ、みんながどうなろうとオレには関係ないけどさっ。ラミエルにエルドラ乗っ取られるのは、オレ的にはちょっち都合悪いからねん」
「素直じゃないやつ! 要は、協力してくれるってことでしょ!」

 あたしは自分の髪を通してレンレンに念を送る。
 アルアルを操った時と似ている感覚だった。魔導器という『もの』だけど、レンレンの『人格』が融合しているからかもしれない。
 時々、人間状態のレンレンの憎たらしい笑い顔が、ポップアップみたいに邪魔してくる。その網をくぐり抜け、あたしの意識と魔導器をリンクさせる。
 やがて、魔導器の回路とあたしの意識が、カチッとハマった!
 どんな形でもいい。ラミラミを倒す為の手段を探る。
 すると、ステッキに込められた情報がなだれ込んでくる。
 あたしが今までカカシや鎧を操ったり、他の魔法少女と違って魔法らしい魔法が使えたのは、やっぱりこの魔導器の能力のおかげだったみたい。
 常に顕現しているからこそ、使うという意識でなくても魔法が使えていた。
 でも本来ならこの魔導器を通して発動するものだったらしい。
 そしてステッキの能力は、あたしの『こうしたい!』という『願い』を『創造』する力。
 自分が正確にイメージできるものに限るけど、『想像』を『創造』する力がこの魔導器には備わっているんだ。
 そして今、はじめて魔導器を魔導器として使おうとしている。
 今までは、あたしのイメージに魔導器が力を貸してくれていたに過ぎなかった。
 けどこれなら、あたしの創造力を最大限増幅させられる。それだけの出力が出せるんだ。
 最大級の出力で、あたしの想像力を実現させられる!
 こうしたい! どうしたい? 決まっている、戦える手足がほしい。
 ラミラミ先生と真っ向から戦うための、あたしの手足がほしい!
 そう、強く願った――瞬間。
 あたしの鎧が眩い光に包まれた!

「く……な、なんの光ですか!」

 ラミラミ先生が眩しそうに腕で防ぐ。あたしも思わず目を瞑っちゃった。
 だから、なにが起こっているのかはよくわからない。でも、あたしの操っている鎧がちょっとずつ形を変えていっているのは伝わってきた。
 無駄を省き、よりコンパクトに、より軽く、よりフィットするように。
 ……いや、さすがにちょっと小さくなりすぎじゃない? って不思議に思うぐらい、鎧の手足がコンパクトになったと感じた頃には、光も収まって目が開けられるようになった。
 なにがどうなったのかよくわからない……。
 だけど、周囲の見開いた目があたしへ集中している気がする。
 え? なになに? なんか変な状態にでもなってるの?

「の、望実さん……そのお体は一体、なんなんですの?」

 つきのんも目を丸くしてあたしの方を見てる。
 このパターンはまさか……?
 不安に思いながらあたしは視線を下げ、自分の体を確かめ――。



「………………はああぁ!?」



 ビックリして素っ頓狂な声が出ちゃった。
 手を覆うちっちゃな甲冑に、足を包むちっちゃな鉄靴。
 さっきまで操っていた鎧のデザインをデフォルメしたような手足を、手に入れるには手に入れたけど……。



「な、な……なんで、頭から直接手足が生えてるのぉ!?」



 なんとあたしは、一頭身の騎士になっていたのだ。


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