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第一部
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探りを入れに向かっていたネリが天幕へ帰ってきた後のこと。
メリシャは夜も更けてきたため、先に就寝している。
枢機卿が声を挙げた。
「ネリ様。偵察して頂き、大変ありがとうございます。」
『心配してくださり、感謝いたします。全てはメリシャ様をお護りするための事。』
「それで、例の迷宮は如何でしょうか。攻めてくる時期など分かれば良いのですが。」
枢機卿の言葉にネリは瞼を閉じたまま、沈黙する。
枢機卿は一人の聖職者として、悪戯に事を荒立てず、ネリの言葉を待ち続けた。
すると、それから程なくして、ネリの鳥目が枢機卿を見つめーー。
『正直なところ、時期は分からない。ただ、あちらは迷宮という資源が足りていない状態にある。』
「はい。」
言葉を遮らないよう、枢機卿は首肯を一つだけして異を唱えない。
『そして調査したところ、近辺にそれらしき資源は無さそうであった。』
「それは、つまり…。」
『あちら側の動向が分からないままでは、この先は予測も立てられないだろう。かと言って、飽くまで私はメリシャ様の従魔という立場だ。』
『よって、迷宮に侵入しようなどと行動することは無理だという話だ。私が行けないからと、聖騎士や兵士に無理難題を吹っ掛けたり、無理往生を強いる訳にもいくまい?』
ネリは何処か自虐のように笑みを浮かべたが、枢機卿には踏んではいけない何かを感じさせた。
「まあ、確かにそれもそうですね。それに幾ら聖女の従魔と言えど、不謹慎ながら謁見行為にあたるでしょうから。」
枢機卿は少し顔に影を落とし、聖女メリシャのためとなれば強硬手段として有り得そうという言葉を呑み込んだ。
実際、今現在の環境がメリシャに影響を及ぼすようであれば、可能性の一つとしてあると枢機卿は認識していた。
静寂が場を包む中、ネリは翼を二度三度と羽ばたかせて話の軌道を戻す。
『さて、話を戻そうか。迷宮は現状、私が調査を続ける他ないだろう。』
「そう…ですか。こちらは結界の外で作られた防壁に、防御魔法を仕掛けて頂けました。これで準備の方はひと段落着いたと思われます。ーー油断は禁物ですが。」
明日へ向けて、一人と一羽は夜が更ける前に眠ることにしたのだった。
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※お知らせ※
次回更新日程:2026年2月19日 17:00・予定
ひとこと:ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
作中にて使った「無理往生」ですが、聞き慣れない方もいるかと思い、用途を記載いたします。簡単に言えば、強引な手段を用いるという意味合いとなります。長々となってしまい、申し訳ありません。
今後も本作をよろしくお願いいたします。
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