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唯一の仕事
しおりを挟む輝明は式神を召喚できず、契約することもできないが、唯一できるのが式神の下地の生産である。
前もって作られた型に輝明が決められている文言を記し、その式神に使用者が魔力を纏わせることで式神との契約は成り立つ。
だが式神の下地である文言を記す作業は簡単なようで誰でもできる事ではない。
下地となっている型に記す文言に自身の魔力を均一に乗せた状態を維持して記す必要がある。
普通の陰陽師の者や、自身の式神を一から作り出す者は分からないが、輝明を頼る陰陽師は良さが分かるため重宝していた。
式神の下地の生産で差が付くのは、始めから魔力を乗せて記すのか、ただ文言を記すのかに分けられる。
式神の使用者または契約者が使用や契約する際に魔力を纏わせて実体化させる必要がある為、文言を下書きのように記されている下地に魔力を纏わせると、使用または契約に必要な魔力とは別に、下地自体に魔力を注ぐための魔力が必要である。
そのため、式神の使用または契約を1体施すだけに本人の魔力を使い尽くしてしまう事で、効率が悪い。
だが輝明が行なっている作業では、始めの段階で魔力を筆に乗せて均一に下地へと記している為、使用または契約する際に必要な魔力がかなり抑える事ができる。
そのため、輝明に下地の作業を行ってもらい、それに魔力を纏わせるだけで多くの式神を抱える事ができるのだった。
それを良いように解釈する者や、代々の伝統を軽んじていると思う者などに輝明は軽蔑されていた。
「中岡さん、また来ます。」
今回もテキパキと作業を終わらせた輝明に給金として渡そうとしたが、きっぱり断れた為に苦笑して見送った中岡は電話を掛けることにした。
「火野さん。」
『輝明さんは?』
「既にお帰りになりました。そちらは既に?」
『ええ、終わったわ。やっぱり輝明さん、一度招いた方が良いかしら。』
「構いませんが、狐の北谷さんの二の舞は嫌ですよ?」
『それは分かっているわよ。でも友人関係だけじゃあ、守れないわ。今回も作業をやってくれたのでしょう?』
「ええ。それはもう。ですが強引に誘った狼の黒山さんも、優しく諭したらしい狐の北谷さんでもダメだったんですよ?それを最強と言われる火野さんが誘ったらヤバいのでは?」
『だから困っているの。御両親は酷く輝明さんを追い詰めているようだし、早いに越したことはないわ。』
電話越しではあるが、火野が慌てているのは明白であった。
「それで。もしも嫌われて、絶交だ。なんてことになったら、どうするのですか?」
『それは…』
「とにかく陰ながら見守る他ないでしょう。最近は物騒ですから、護衛が必要ですね、穏和な。」
『分かったわ。』
電話を切る中岡は溜め息混じりに、足元に転がっていた空き缶を蹴るのだった。
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