少女、街を出る【完結】

青緑 ネトロア

文字の大きさ
7 / 23

少女と巾着袋

しおりを挟む
 その翌日、レティはオリバーに聞いたことがあった高めの茶葉を取り扱う店へと向かった。

 店内に入ると、花や茶の匂いが充満した華やかな場所だった。

 自分が場違いな雰囲気に気付いたが、勇気を振り絞って受付をしている女性に話しかけた。

「あ、あのぅ。」

「何かしら。 何か買うものでも? それとも冷やかし?」

「い、いいえ! その...リラックスできるカモミール茶があると聞いてきたのですが...」

「あら。 お客さんだったのね、貴族の方かしら?」

「いえ、違います...。 平民ですが、買いに来たのは本当です。」

「ふーん、平民で買いに来るなんて滅多にないことだから良いけど。 それでカモミール茶だったわね? どれほど欲しいのかしら?」

「すみませんが、この...ちょっと汚いですが巾着に入ったお金で支払える分だけお願いできますか?」

「え? こんな綺麗な巾着袋なのに...? まぁ良いわ、これくらいなら1袋は買えるわ。 ご両親にあげるのかしら?」

「いえ、ご近所に住んでいるお婆さんに、です。 最近ゆっくりできていないらしいので、買ってあげようって思って来ました。」

「へぇ、もし良かったらティーカップも購入するかい? 安くしておくよ。」

「いえ、ウチに置ける場所がないので要らないです。 本当は買おうと思っていたのですが、ちょっとトラブルで減ってしまいまして...エヘ」

「そ、そっか。 この巾着袋は貰えるのかしら?」

「えっ。 はい、気に入ってもらえたのなら...」

「これって自作なの? なんだかほつれが目立つけど...」

「はい! そのお婆さんに教えていただいて、作ってみたんです。 でも、もう帰れないだろうし」

「何かあったのかい?」

「その昨日、兵士の方がいらした時にトラブルを私が起こしてしまって...。もう店では働けないから出て行こうかと、この街から...」

「えっ。 出るの? 1人でかい!?」

「はい、実は身寄りがないので。 お婆さんがいたんですけど。 仕事が忙しいみたいで、いつ帰ってくるかも分からないんです。 だから...」

「感謝の気持ち...って訳かい?」

「はい。 それで売ってもらえるのでしょうか?」

「ん? ああ、良いぞ。 持てるかい!?」

「はい。 ...ありがとうございます、お元気で。」

「...え、えぇ。」

 レティは店を出ると、携帯食料を冒険者ギルドの窓口で爆買いして受付に驚かれたが、気にせず帰路に着いた。

 レティは買った茶葉をお婆さんの部屋へ持っていくが、今日も帰ってきていないらしい。

◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 一方、茶葉を取り扱っている店の受付嬢は先程の少女を思い浮かべて、1人呟いた

「さっきの話、ちょいと調べてみるか。 気になるし...」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界からの手紙

F.conoe
ファンタジー
異世界から手紙が届いた。 それは数日前に行方不明になった姉からの手紙であった。 しんみりと家族で手紙をやりとりする話。 でもラストは。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...