精霊信仰を重視する世界で地道に努力する【一話完結】

青緑 ネトロア

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  文明が栄えたことで魔法での優劣に関係なく誰もが幸せを掴める精霊信仰を重視する世界。どの国でも第一に精霊を重要視しており、第二に魔法を使える者を重視している。

 そんな世界だが、表もあれば裏も存在する。表の世界では、精霊を使役できることを笠に愉悦に浸る者や、魔法が使えるというだけで様々な人間が雇用する。裏の世界では、精霊を使役する事ができない者、魔力を保有していても力が弱い者、怪我や病気によって表の世界から追い出された者など多くの問題を抱えた者達がいて、それぞれが自給自足をしながら稀にお互いが助け合って日々を過ごしている。中には力や地位での優劣で比較せず、平和に歩もうとする一部の者もいるが、多くはない。

 人々は都市や村に一つだけ設けられた斡旋所で仕事を選び、依頼者の印で成功報酬を貰える。依頼者の中には、悪質な者もいて不正する事があるが、その場合は斡旋所を管理している国の抱える騎士団が解決し、解決後に違約金という一時的な報酬を貰える仕組みになっている。斡旋される際、精霊を使役できる者や魔法を行使できる者を能力者と呼び、精霊を使役できない者や魔法を使えない者を無能力者と呼ぶ。

 仕事の大半は能力者に対して発行された依頼が多く、使える属性ごとに依頼は多岐にわたる。

 火であれば、外敵を監視する役場や都市部の壁沿いや護衛などがある。

 水であれば、村の井戸や下水の清掃や調理場の甕などがあり、優秀な者は長期雇用も視野に入る。

 風であれば、腐敗臭など臭いの隔離や他種族を嫌う貴族の道楽などあるが、依頼される事が少ない。

 土であれば、庭師や薬剤師が育てる草木に適した土にする仕事や村など畑を有する土地で依頼が多い。

 光や闇は扱いが難しく、大抵は精霊信仰を行う教会が中心になって依頼され、場合によっては神官見習いとなることもある。


•••••••••


 街や村の世話にならず、森の近くで暮らす家で生まれたマルシェンは家族に恵まれて育った。幼少期を過ぎると都市部に存在する学園に通った。そこで得た知識や技術を長期休暇で帰省した際は、畑弄りや狩りで発揮していった。初等部も終わり、中等部に上がれば友人が多くでき、何にも縛られることもなく、自由に過ごしていった。中等部も終わり、平民であり、名家でもないマルシェンは高等部への進学はせず、仲の良い友人とも離れて帰省した。

 帰省した後は家族三人で楽しく毎日を過ごしていたが、マルシェンには悩みがあった。中等部を卒業しても自身の知識や技術を持っているが、成人を迎えた段階でも能力値は幼少期から成長していなかったことだった。家族に話すことを避け続けていたが、学園時代に友人と仕事を仮雇用で働いた事があった。マルシェンは精霊に愛されていないためか全属性の精霊に避けられ、魔力の保有地は限りなく少ない。そのため友人とは別行動をして働くも、続けられるような良い仕事場は存在しなかった。

 そして何より畑弄りや狩りを手伝っているとはいえ、両親の負担になっていることは嫌でも分かってしまう。両親から何の心配もせずに三人で暮らしていけば良いと言われてきたが、年々畑の拡大や備蓄倉庫の減りが早いことから、甘えていると自覚してしまった。両親もマルシェンと同じく能力者のような力がないため、若い頃に仮雇用で限界まで働いて貯めた貯金で土地を買った経緯があり、マルシェンには楽をしてほしいと願って、善意でやっていた。

 マルシェンは両親の誕生日祝いに大物を仕留めたり、プレゼントをして幸せな時間を過ごした翌年、置き手紙と些細な手彫り道具を置いて家出する。何処かで腰を落ち着けられて、かつ続けられる仕事を探そうと始めは思っていたが、祖国を離れても叶えられずにいた。能力者の優遇と、無能力者の冷遇の格差が酷く、仮雇用されてもオーナーとの面接で落とされることが多かったからだ。そしてマルシェンが持つ知識や技術は能力者によって短縮でき、面倒な作業が減ることから何の役にも立たず、街や都市を転々とし続けた。

 幾つの街を出て、幾つの国境を越えたのか定かでなくなってきた頃、マルシェンは海沿いに構える国まで来てしまった。手にした地図を見て、祖国からも実家からも遥か遠い地に来たことを実感させられた。それまで貯めてきた貯金から幾銭か出金して、貧民区近くの小さな家を購入した。

 家内は以前の家主が大切に使っていたからか、埃以外は綺麗なままだった。翌日から斡旋所へ向かうが、残されているのは下水の掃除や下働きなど誰でも受けられやすい依頼だった。その中から薬草採取の依頼を受けて、学園時代に培った知識を掘り起こして、近隣の森から薬草を採取しては斡旋所で買取していった。

 目敏い者に集られながら、狡賢く偽物も採取しつつ、生計を立てていく。大抵の斡旋所のは資料があるのだが、この斡旋所のは狩りの仕方や取り扱いなどといった基本的な資料しかなく、薬草の名前は知っていても、無能力者の中では実物を知らない者が大半だった。そういった部分から両親へ感謝の念を抱き、一定量の金額に達した際に手紙を実家へ送るようになった。他国であり街でも都市でもないため割高であるが、一度送った際にきちんと両親からの手紙を責任持って手渡してくれた事から、その信用ある組合に託して数ヶ月に一度のペースで送っていた。

 そうして今日もマルシェンは仮雇用ではあるが、自身にできる物を選んで、地道に努力を重ねながら依頼を熟していく。
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