激甘革命!マジパティ(分割版)

夜ノ森あかり

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勇者クラフティ編

第29話「甦る記憶…木津先生と波乱の終業式!」②

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「そうでしたか…あの杖が…」

 金城きんじょうここなを解放できた事で、みるくはキョーコせかんどが運転するポルシェで自宅に戻った。自宅には現在、瑞希みずきのみが帰宅しており、瑞希は夕飯を作っている最中のようだ。

「えぇ…そのうえ、月齢が低い時に膨大な力を使ってしまったので、マスターは眠ったままです。いつ目を覚ますかどうかは、まだわかりません。」

 僧侶が眠ってしまった状態では、治療もままならない。勇者側にとっては回復が手薄になってしまったのも同然だ。金城ここなはキョーコせかんどが保護することになり、僧侶アンニンのマンションで暫く待機することになった。

「ところで、瑞希さん…いっくんは?」

「帰宅してから、「1人にさせてくれ」の一点張りで…涼也りょうやの話では、部屋から一歩も出ず、食事もとっていないようです。」

 瑞希がそう答えると、みるくはそっと一悟いちごの部屋を見つめる。一悟の部屋は電気がついているものの、カーテンが閉め切られ、外からはどうしているのか確認することすら難しい。



『いっくん…一度落ち込むと、1人で立ち直るまでに時間がかかるからなぁ…』



 みるくは「ふぅ」とため息をつくと、キョーコせかんどに挨拶をし、自宅に入った。



 部屋の中、一悟は虚ろな目で天井を見つめる。見慣れた天井に向かって手を伸ばすが、今の一悟には天井が段々と遠くなっていくのを感じる…

「俺が…弱くなった…なんて…」

 放課後、ココア達に言われた言葉を思い出す。確かに、力が思うように入らない感覚が日増しに強くなっている。それは空手の練習中も同様で、カオスイーツが来る前など、高等部1年の女子部員に打ち負かされ、しかもその部員が空手歴4か月目というから一悟の精神ダメージは計り知れない。



「悪りぃ…ミルフィーユ…今のお前に、俺の力は負担がデカすぎる…」

「カオスイーツが強くなった?違うよ…君自身が弱ってるだけだよ!」

「一悟…あなたは疲れてるだけなのよ。暫く、手伝い休んで回復に努めなさい。」



 心の奥底から、悔しさが募り、不意に涙が頬を伝う…みるくの母と交わした約束…マジパティになっても、一度たりとも忘れた事はない。それなのに、今はココア達にまで指摘されるほど弱々しくなっていく…みるくを…みんなを守るために強くなりたいのに…



「勝ちてぇ…強く…なりてぇ…」



 その言葉が、勇者クラフティ敗北の原因に関わる言葉である事を、今の一悟には気づく事はなかった。







 ………







「今日もいちごんは休みか…」

「涼くんと様子をみたけど、学校に行く気になれないほど憔悴しょうすいしきってた…あそこまで落ち込むの、初めてだし…どうしたらいいのか、あたしにも…」

 金城ここなを解放してから2日後、一悟は部屋にこもったまま出てこない。一応食事はとっているようだが、ココアや母親ですら突っぱねている状態に、みるくもお手上げだ。その様子に、一悟の隣の席のトロールも頭を抱えている。



「ガラッ…」



 突然教室のドアが開き、そこから木津きづ先生が入ってきた。下妻しもつま先生が不在の時は副担任の上野原うえのはら先生がホームルームの挨拶に来るのだが、今日は上野原先生は出張で不在である。木津先生が教室に入ってきた事で、クラスメイト達は動揺を隠せない。

「席についてください!ホームルームを始めます!!!」

 女講師の一声で、クラスメイト達は各自着席し、みるくも雪斗ゆきとも一悟の席から離れ、自分の席に着く。

「先生、下妻先生はどうしたんですか?」

「下妻先生は昨晩の交通事故で、暴走車がぶつかった歩道橋から転落し、病院に運ばれました。左足を骨折との事で、命に別状はありません。」

 その言葉を聞いた生徒達に緊張が走る。昨晩の事故は日光にっこう街道で乗用車がアクセルとブレーキを踏み間違え、暴走。ドライバーは既に意識を失っており、「搬送先の病院で死亡が確認された」と言われている。恐らくはてんかんの発作だろうと、警察は判断しているようだ。

「今月いっぱい入院されるとの事で、今日の1時限目の英語は、私が引き受けます。では、出席を取ります。姶良霧子あいらきりこさん!」



 キョーコせかんどの話によると、僧侶アンニンも眠った状態が続いている。ムッシュ・エクレールの件もあり、勇者とマジパティにとっては、痛烈な痛手だ。



 淡々と出席を取る木津先生…そんな木津先生は、トロールの出席確認をしようとした途端、突如うずくまり、出席簿とボールペンを教卓から落としてしまう。



「先生っ!!!」

 保健委員であるみるくとクラスメイトの巽鍾太たつみしょうたが先生の所へ駆け寄る。まるで自分が自分でなくなるような感覚が、木津先生の脳裏をよぎる。



「思い…出した…何も…かも…」



 今は「木津あいな」と、法律上ではそうなっているが、本当の自分は「木津あいな」ではない。



 私は…いや、俺は湘南しょうなんの海に堕ちる時…パートナーだった精霊と一体化したマジパティ…





 ………





 放課後になり、みるくは雪斗と一緒に一悟の家に向かおうとするが…



「ププーーーーーーーーーーーーーーーッ」



 突然鳴り響くクラクションと同時に、銀色のマーチの運転席のパワーウィンドウが開く。

氷見ひみ君、米沢よねざわさん!千葉君の家に行くんでしょ?乗りなさい!どうしても、私の口から千葉君にも伝えなくちゃいけない事があるの!!!」

 それを聞いた2人は、すぐさま木津先生の車に乗り込む。運転しながら、木津先生はホームルームの時に騒がせたことを詫びつつ、昼休みの時に玉菜たまなと瑞希にこれから一悟達に話す内容を伝えた事を告げる。



 一悟の家に到着した3人は、玄関のカギを開ける。一悟の両親は仕事中で、姉の一華いちかは空手部の練習で帰宅しておらず、涼也は母親の退院の準備で彩聖さいせい会に行ったため、家には飼い犬のマレンゴと一悟のみ。鍵は元々みるくが一悟の家の合鍵を預かっており、入るのは簡単だった。リビングのドアを開けると、そこには飼い犬に顔を舐めまわされても、フローリングの上で平然と寝息を立てている一悟の姿だった。

「ZZZ…」







 一方、カフェ「ルーヴル」の住居スペースのリビングでは、コック服に着替えるガレットに、シュトーレンはある話をする。

「親父…もしかしたら、おにぃがマジパティに手を出したのには理由があると思うの。」

 昼休みに玉菜のLIGNEリーニュ経由で伝えられた、木津先生の衝撃的な話…その真相は、本人に会ってないのでまだわからない。



 木津先生が勇者クラフティの光を受け継ぐマジパティ・クリームパフこと、藍本有馬あいもとありまだという事…



「確かに親父は、アタシにとっても、おにぃにとっても偉大な勇者よ。でも、その分…おにぃにはプレッシャーだったかもしれない…」

 勇者シュトーレンと勇者クラフティは、姪と叔父の関係ではあるが、年齢は6歳程しか離れていない。殆ど兄妹同然で育ってきたため、トルテ共々彼の悩みにいつも耳を傾けてきた。

「勇者としてスイーツ界を旅していた時…周りから散々親父と比べられたのかもしれない。アタシが…そうだったから…」

 娘からの言葉に、大勇者ガレットは拳をテーブルに打ち付け…



「やっぱり…ニコラスは俺を超えたいあまりに…勝利にこだわって…」



 人間界で弟の敗北の原因を知るうちにうすうすと気付いてはいた。しかし、自分が偉大であるという自覚がない本人には、他人に指摘されるまで気づかぬこと…



 やがて一悟は木津先生の怒鳴り声で目を覚まし、みるく達に自分自身の力が弱まっている事を打ち明けた。マレンゴは木津先生の怒鳴り声にビビってしまい、みるくの腕の中でブルブル震えている。

「「勝たなきゃ」…「強くならなくちゃ」って思えば思うほど、全然力が入らなくって…」

 木津先生「「スランプ」…ね。勇者とマジパティにとって、スランプとプレッシャーが一気に来る事は、猛毒を浴びたようなもの…まるで、あの時の俺や勇者クラフティが陥った時のように…」



 そう言いながら、木津先生はテーブルに紫色の宝石がついたブレイブスプーンを差し出す。



「改めて言う…俺は「木津あいな」じゃない…「藍本有馬」。勇者クラフティの光を受け継いだマジパティ・クリームパフ…」



 木津先生の口から放たれた言葉に、一悟達は驚きを隠せない。

「そ、それなら…どうして…その姿に…」

「あぁ…一体化したんだ。パートナー精霊であるバニラと。バニラは女だから、この姿で由比ガ浜ゆいがはまに打ち上げられた。その際、記憶を全部失って…あとは「木津あいな」として、生きてきた。「流浪の講師」として生活してきたのも、自分の記憶を取り戻すため…」

 勇者クラフティが兄である大勇者ガレットに対してプレッシャーを感じていた事、藍本有馬自身の事…男の口調で淡々と話す木津先生の姿に、一悟達は黙って話を聞くしかなかった。



「だから、これから大勇者様の前で全て話すさ。藍本有馬としてな…それから、一悟!仲間を信じろ!明日香は、一悟に対してそれを一番望んでいるんだからな!!!」



 そう言いながら、木津先生こと藍本有馬は一悟の背中を強くたたく。
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