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第2話:三等分の生姜焼き
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作ったばかりの生姜焼きのお皿を台所からダイニングテーブルの上に置く。あらかじめ用意しておいた三人分のお弁当箱の中に綺麗に盛り付けたばかりの生姜焼きを三等分にして詰めていく。もちろんキャベツもプチトマトも三等分にして。
「健、パンとおにぎりどっちがいいー?」
「ふぉにぎり! ふたふ!」
お弁当にご飯をよそうついでに歯ブラシを加えたまんまの健から注文を受けておにぎりも手早く作っていく。ついさっきまでの夜の気配はすっかりと消え、台所の出窓から煌々と朝日が入り、時折聞こえてきた新聞配達のバイクの音は通勤途中の自転車の音に変わっていた。
「ひより! 起きて!!」
二段ベッドの一番上。大の字になって寝ている妹の身体をゆする。んがっとおじさんみたいな野太い声を出す。これで女子高生向けのファッション雑誌の読者モデルを時々務めているのが信じられない。
いや、ひよりは昔からこうだ。可愛い顔して寝起きの声だけはおじさん。話題の読モだ新進気鋭の動画クリエイターだなんて世間の評価の方が私にとっては現実味がなかった。
「ひより! 朝ごはんパンとおにぎりどっちがいい?」
「………………バン」
「あまいの? しょっぱいの?」
「あ゛ま゛い゛の゛」
「すげえ声……これも録音しとこっかな」
よろよろと起きてきて目はまだ閉じているのにひよりの足は健の膝裏に見事にクリーンヒット。毎朝の見慣れた光景に突っ込みもせず、私は二人分の朝食をダイニングテーブルに次々置いていく。
「ひより、明日の配信分の録音できてるから。あとで編集お願い。健の声が最後ちょっと入ってるかもだからカットもよろしく」
ブルーベリージャムを塗ったトーストを頬張りながらひよりは指を輪っかにして私に見せる。可愛いけどそのキラキラの長いつけ爪は先生に何か言われてないのかなって心配になった。けれど今は聞いてる時間はない。
「お弁当、お弁当! 忘れてるよ!」
「あ、ねぇちゃん俺今日バイトだから晩飯いらない」
「えー、まこねぇ二人ならピザろうよ」
「お給料日前! そんな余裕なし!」
カンカンカンッと金属音を鳴らしながら三人でアパートの階段を降りていく。
「いってらっしゃい! 気を付けてね!」
ひよりと健は高校へ、私は出勤だ。
「茉琴ちゃん今日もいい声だねぇ」
振り返ると私たち住んでいるアパートの大家さんがゴミ収集場の整理をされていた。手に持っていた生ごみ袋を足元に置いて、私もカラスよけのネットを一緒に広げる。
「おはようございます。毎朝お騒がせしてすみません」
大家さんは笑って首を振る。
「ひとり身のアタシには毎日三人の声を聞けるとほっとするよ。特に茉琴ちゃんの声はアタシの元気の源なんだから。ほら、仕事に遅れてしまう。もういいからいってらっしゃい」
腕時計をちらりと見ると、確かにいつもより少し遅れ気味だ。10分後の電車に間に合うかどうかギリギリ。足元に置いたゴミ袋もネットの中にいれて大家さんに行ってきますと手を振る。
「ほんといい声だねぇ」
管理人さんの感嘆交じりのため息を背に受けながら、私は駅に向かって小走りで向かった。
「健、パンとおにぎりどっちがいいー?」
「ふぉにぎり! ふたふ!」
お弁当にご飯をよそうついでに歯ブラシを加えたまんまの健から注文を受けておにぎりも手早く作っていく。ついさっきまでの夜の気配はすっかりと消え、台所の出窓から煌々と朝日が入り、時折聞こえてきた新聞配達のバイクの音は通勤途中の自転車の音に変わっていた。
「ひより! 起きて!!」
二段ベッドの一番上。大の字になって寝ている妹の身体をゆする。んがっとおじさんみたいな野太い声を出す。これで女子高生向けのファッション雑誌の読者モデルを時々務めているのが信じられない。
いや、ひよりは昔からこうだ。可愛い顔して寝起きの声だけはおじさん。話題の読モだ新進気鋭の動画クリエイターだなんて世間の評価の方が私にとっては現実味がなかった。
「ひより! 朝ごはんパンとおにぎりどっちがいい?」
「………………バン」
「あまいの? しょっぱいの?」
「あ゛ま゛い゛の゛」
「すげえ声……これも録音しとこっかな」
よろよろと起きてきて目はまだ閉じているのにひよりの足は健の膝裏に見事にクリーンヒット。毎朝の見慣れた光景に突っ込みもせず、私は二人分の朝食をダイニングテーブルに次々置いていく。
「ひより、明日の配信分の録音できてるから。あとで編集お願い。健の声が最後ちょっと入ってるかもだからカットもよろしく」
ブルーベリージャムを塗ったトーストを頬張りながらひよりは指を輪っかにして私に見せる。可愛いけどそのキラキラの長いつけ爪は先生に何か言われてないのかなって心配になった。けれど今は聞いてる時間はない。
「お弁当、お弁当! 忘れてるよ!」
「あ、ねぇちゃん俺今日バイトだから晩飯いらない」
「えー、まこねぇ二人ならピザろうよ」
「お給料日前! そんな余裕なし!」
カンカンカンッと金属音を鳴らしながら三人でアパートの階段を降りていく。
「いってらっしゃい! 気を付けてね!」
ひよりと健は高校へ、私は出勤だ。
「茉琴ちゃん今日もいい声だねぇ」
振り返ると私たち住んでいるアパートの大家さんがゴミ収集場の整理をされていた。手に持っていた生ごみ袋を足元に置いて、私もカラスよけのネットを一緒に広げる。
「おはようございます。毎朝お騒がせしてすみません」
大家さんは笑って首を振る。
「ひとり身のアタシには毎日三人の声を聞けるとほっとするよ。特に茉琴ちゃんの声はアタシの元気の源なんだから。ほら、仕事に遅れてしまう。もういいからいってらっしゃい」
腕時計をちらりと見ると、確かにいつもより少し遅れ気味だ。10分後の電車に間に合うかどうかギリギリ。足元に置いたゴミ袋もネットの中にいれて大家さんに行ってきますと手を振る。
「ほんといい声だねぇ」
管理人さんの感嘆交じりのため息を背に受けながら、私は駅に向かって小走りで向かった。
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