(R18G) Blood High -俺はヤバい暗殺者に堕ちた-

如月紫苑

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第一章 阿緒と天

② 阿緒と天

    ◇◇◇
 世界は混沌としていた。
 凶悪犯罪が軒並み増え、世界でも治安がトップクラスで安全だった日本ですら普通の人がスタンガンやナイフを持ち運ぶのがスタンダードになった。小型銃も少しずつ普及しつつある。殺人が日常茶飯事になり、警察は大きな理由のない捜査を開始すらしなくなった。小さな殺人事件ぐらいでは人手が足りず、調査に手が回せないのだ。
 その日常で病原体によって異変した人種が爆発的に増えた。一番厄介なのはバンパイア種に属する人外の人達である。その名前の由来通り、太陽光へのアレルギー体質と血液への異様な執着が特徴である。驚異的な生命力と治癒力を持ち、心臓または脳の破壊、斬首する事でしか殺せない。酷い怪我でも時間の経過と共に体が再生する。心臓部を硬い骨で覆った生存能力が高い種族もいる。しかし民話のバンパイアとは異なり、寿命は短い。
 今、この感染者達への血液供給方法が各国で社会問題となっている。人工血液の需要が爆発的に増え、氏名と国民番号をレジスター登録しなければいけない法律が出来た。これに伴い、感染者というレッテルを避ける為に匿名での違法血液提供の需要が増加。この違法血液を秘密裏に売買する人達は『血液収集家ブラッドコレクター』と呼ばれている。
 このバンパイアウイルスは欲望を強く引き出す性質を持つ。それは性欲もだが何よりも噛みたいと言う欲望が強い。その噛みたい欲望に呑まれ、非感染者を無闇に襲い始め、人間としての理性を失ったバンパイアを狩る人達は『吸血鬼狩人バンパイアハンター』である。
 そしてこの止めどなく増えてしまった犯罪人口を次々と依頼暗殺して間引く『暗殺者キラー』。キラーは無名の対象から大物、非感染者からバンパイアまでを請け負う。
 コレクター、ハンター、キラーの三者を上手く扱える者が政界と財界を握れると言われている。全てが手に入る。
 自らの暗殺依頼が出るまでは――――。




    ◇
「……腹減ったな」
 低く呟きながら目をゆっくりと開ける。
 ベッドに寝かせられている。
 軽く見渡し、すぐに見覚えのない部屋だと気付く。良い所の部屋らしい高そうな壁紙が四方を飾っている。
 だがそんな高級そうな部屋の天井には悪趣味な鏡タイルが一面貼られている。ベッドは光沢あるサテンの紫シーツ。その真ん中に上半身裸の自分が天井から見つめ返している。
 急いで首を触って調べるが噛まれた痕はない。
 
――――趣味悪っ
 
 上半身を起こして怪我した胸を見る。綺麗に毒処理をされてから包帯を巻かれたみたいだ。ズボンのポケットや足首を確認するがいつも忍ばせているナイフや商売道具は見当たらない。
「ちっ」
 足音を立てないようにそっとベッドから降り、近くのテーブルスタンドにあるランプを持ち上げる。真っ白なカーブを描いた半円のそれを逆さにし、静かにコンセントを抜く。今時コンセント仕様のアンティークランプなんてそうそう目にしない。
 閉じたドアにそっと寄り、聞き耳を立てる。コトコト、タンタンタンと小刻みのいい音がする。
 静かにドアを開ける。
 ドアの向こうは広いリビングへと広がっていた。奥にはキッチンが見え、すらっとした背の高い男が料理をしている。珍しい漆黒の髪が白いシャツに映える。シャツの裾は腿半ばまであり、形のいい生足は長く伸びている。手足の爪は赤黒く着色されている。
 男は慣れた手付きで鍋の中を混ぜながら、同時に包丁で何かを刻んでいる。物凄くいい香りが鼻を刺激する。
 
グゥゥゥゥゥ
 
 タイミング悪くお腹が鳴る。俺はランプを持ったまま、飛びかかるべきか止めるべきか一瞬迷ってしまう。
 男は腹の音が聞こえていたはずなのに料理する手を止めようとしない。
「そのランプは気に入っているから傷を付けたら許さないよ」
 後ろに目でもあるのだろうか、勘は良さそうだ。
 俺は黙ってランプを床に下ろす。まだどんな人間を相手にしているのかも分からない状況で、丸腰で挑むのは分が悪いと判断する。
 
タンタンタン コトン
 
「もうすぐ出来るから座って待っていて」
 高くもなく、低くもない。優しいような、怠いような、でも物凄く艶っぽい不思議な声色だ。
 俺は大人しく八人用の長方形テーブルの真ん中辺りの席に座る。テーブルもマットも真っ白で寝室とはまた違った雰囲気の部屋である。どちらかというと清潔な病院という雰囲気。テーブルの端の席の前には俺の道具が綺麗に並べられている。鋭いナイフ、メス、特殊な針、そして血液袋。
「お待たせ」
 五分も待たずに男は盛り付けた料理を持ってくる。
「……すげぇ」
 置かれた料理に目が釘付けになる。美味しそうな肉に、これはまた美味しそうな真っ赤なソースが掛かっている。上には小ネギが散りばめられ、肉の横には新鮮そうな色とりどりの野菜が添えられている。野菜にも別のソースが丸い皿に沿って点々とデザインされた感じでかけられている。湯気と共に立ち上がる香りが空腹を更に刺激する。
 
――――何これ……すげぇ美味そう
 
 男は目が笑っていない笑顔で俺の向かいに座る。
「どうぞ」
「これは、何の肉だ?」
「牛さん」
「……『牛さん』……。この赤いソースは?」
「赤ワイン」
 男は笑って自分の食事を始める。肉に軽くナイフを滑らせるだけで綺麗に切れている。彼はレアに焼かれたステーキの一切れを口に入れる。
「警戒する必要はない。普通のスーパーで買えるちゃんとした・・・・・・食材だよ」
 俺は恐る恐るフォークを手にして野菜を一口頬張ってみる。今まで味わった事がないような甘くスパイシーなソースの味が口内一杯に広がる。
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