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1 ロクでもない人生
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本当にロクでもない生き方をしてきた。
ぶっちゃけ、自分で言うのもなんだが、俺はクズだ。
下半身と頭が緩いけど友人は多い方だと思う。何も考えないで馬鹿やって一緒に時間を潰して。今時真面目に頑張る方が損をする。
親もロクデナシだった。
「お前は何もできないクズだ」
「さすがクズのガキもクズよね」
「お前もあのビッチのクソガキだな」
罵り合う親の生き様を冷めた目で見てきたら真面目に生きるのが馬鹿らしくって考えるのを止めた。褒められようと頑張っても、罵られる。悪い事しても、罵られる。だったら無駄な抵抗はしない方が楽でいい。結局学校は途中で行かなくなった。行っても行かなくても生活は変わらないと悟ったからだ。最後に両親と会ったのは、もう何年前だろう。このまま死ぬまで会わなくとも、もういい。何も期待しない。期待もされていないだろうし。
友人達も皆同じような家庭事情で同じように生きてきた。何も考えないでいられるそんな関係性。深く悩まないで済む。何も望まなければ、何にも傷付かないでいられる。誰かがいなくなれば、別の似たような奴が代わりにその席を埋める。女も同じ。声をかけるのもかけられるのも好きだ。セックスも気持ちいい。そして事後の体温。あれは凄く好き。誰かといると安心する。
全部どうでもよくなって気軽に生きてきた。『普通』の生活を手に入れた所で何かが違ってくるとは思えない。俺みたいな奴にちゃんとした女が見向きをする筈もない。だから仕事も女も長続きはしない。友人達から適当な仕事を紹介して貰い、暫くはそれで食い繋ぐ。住む場所なんて日に日に変わったり、誰かの部屋の一角だったり、女の所に転がり込んだり。荷物も大してないから困る事はなかった。重要な書類や物は車に置きっぱなしにしている。こんな生活が一番性に合っている。面倒事になったら適当に車に乗って別の街に流れて行く。そうすれば無駄な労力も使わないで済む。新しい街でもいつの間にか同じような友人も女も仕事もまたいる、ある。
誰でも、俺も、替えが効く。
面倒になっては流れ、そしてまた流れて。
家を飛び出てから、もう何度目の引っ越しをしたのだろうか。特にやりたいと思うような事もない。これから先の事なんてどうにでもなる。だから仕事は最低限で。女遊びは上手くやったら金を貰えるし、一夜限りの関係でも暇潰しになる。体もスッキリする。別に誰でもいい。そこまで真剣に誰かに恋した記憶もない。軽い方が後腐れなくていい。そんな関係性で満足をする。
とっても、シンプルな生き方。
気付けば俺ももうそれなりの年齢になっていた。それなりに楽しけりゃ、困らない。それなりの、生活。
「おらぁぁぁああ!」
頬に重い拳がめり込む。首がメリッと小さな音を立て、右に吹っ飛んでいく。口から唾が飛び散り、舌を噛み切りそうになる。
――――痛ぇぇぇぇぇぇ!
先日引っ掛けた女が悪かった。別に恋人にしたいとかではなく、本当にただ単に簡単にやれそうな雰囲気に反応した。顔も体も悪くなかったしお金も持っていそうだった。クラブで何度か目が合った。俺が笑顔を向けたら、笑顔が返ってきた。だから声をかけた。いつものように簡単なゲーム。落とすのに殆ど時間がかからなかった。女も男目的でそこにいたのだろう。奢ったカクテルを半分飲んだ頃にはクラブで唾液を交換する濃厚なキスが出来るぐらいの労力。そのまま使い古した甘い言葉を優しく囁き続けて自分の寝床に連れ込んだ。
でも自分の部屋に連れ込んだのは、本当にまずかった。
その翌日の今、こいつらがここにいる。
「めんどくせー」
口の中が切れて唾液混じりの血が呼吸と一緒にだらだらと垂れ続ける。つい口から本音が出てしまう。
グゴッ
すかさず腹に革靴がずぶりとめり込む。爆発したような圧迫感で体から空気が飛び出し、体がくの字に折れ曲がる。
瞬時に顎に拳が入って頭が上に跳ね上がり、目の前を花火が飛び交う。奥歯がガンッと衝突し合って息が止まる。喉に血が詰まって呼吸がままならない。
無意識に腹を庇って丸まった。
喉がヒューヒュー空気を貪っていてまともに息が出来ず、目の奥で光が次々と弾けて真っ赤になる。体が熱い。狭い視界にいかにもな雰囲気の鰐柄の靴が入ってくる。
太い指が俺の髪の毛を鷲掴みにして強制的に上を向かせる。革靴から視線が外れる。
「五十万だ。三日以内に持って来い」
不細工だけど、絶対に逆らえない雰囲気のヤクザが顔を近付けてねっとりとした声で凄む。タバコとミントの匂いが混じった臭い口臭が鼻に付き、妙に白い綺麗な歯並びでにたぁと笑う。まだ光が飛び交う目の前にあるやたらと剛毛そうな顎髭が気になる。その中の一本の白髪が目に留まってしょうがない。
俺は逆らわずにズルズルと地面に滑り落ちる。
口臭野郎は派手過ぎる柄のスーツを着ていて後ろに似たような派手なシャツを着て睨みを利かせている二人のチンピラを侍らせている。髪型をシャッフルしたら絶対に名前を間違える自信があるぐらい、どいつも同じ顔をしている。もっともこれ以上お近付きにはなるのはごめんだが。
口臭野郎がまた俺の腹を蹴り上げる。
「ぅぐ!」
呼吸が詰まって一気に噴き出た吐しゃ物が鼻からも垂れ出る。喉の奥からツーンと強い胃酸の刺激がして反射的に涙が出てくる。相変わらず喉がヒューヒュー音を立てている。口から垂れ流しの涎と血と吐しゃ物がゆっくりと顔の下に溜まっていく。無意識にお腹を庇いながら片手で頭を抱える。
まるで虫けらを見るような視線を外し、ヤクザが部屋から出て行く。取り巻きの一人が俺の部屋の畳に唾を吐き捨ててもう一人と下卑た笑いを上げながらついて行く。
「色男じゃなくってゲロ男だな」
「ゲロ男ぉ、三日以内だぞぉ」
――――……クソが
口の端から垂れ流れる血の泡交じりの涎がやっと止まる。
口の中が痛い。鼻が痛い。顔面が痛い。腹が痛い。
――――あー……でもチンコが無事でよかった
「あー……痛ぇ」
呼吸が整う頃にはアドレナリンが切れてもっと痛くなってきた。
――――勘弁してくれ。悪いのは大股広げてアンアンしていたビッチだろうが。こっちは不可抗力な被害者だ
床に寝転がったまま煙草を咥えてゆらゆらと立ち上がる煙をボケっとした目で追う。吸い込むと煙草の火がチリチリと音を立てる。
「五十万ねぇよ」
溜息が出る。腹部の痛みで浅い呼吸しかできない。
「クソだりぃ。……ビッチに一発五十万……」
脈打つ様な鈍痛がする顎に顔を顰め、また溜息をする。
まぁ、ここはやっぱり。
「払うかよ」
煙草を自分の血と涎溜まりに押し付けて消し、壁を支えにして立ち上がる。もう一度胃液が込み上げてくるのを何とか飲み込む。
思い立ったが吉日。適当な物をバッグに詰めて車に放り込む。こういう時は身軽な事に感謝だな。
――――確か明後日が給与日。働いた分はちゃんと貰いたい。次職にありつけるのがいつになるのか分からないのならば尚更資金は必要だ。現金払いじゃなければ今すぐにでも出られたけどな。取り敢えず明後日まで大人しくして、それから逃げればいい
簡単にシャワーで顔を洗う。口に指を突っ込んで軽く確認してみると、幸運な事に歯には影響がなさそうだ。嚙んだ頬の皮膚が捲れてぶら下がっているのを引き千切る。
部屋と車を行ったり来たりしている間、同じアパートのおばちゃん方が階段で半分隠れるようにヒソヒソと話をしているのが見える。そして聞こえてくる。
「――――……最近の若い人達って、ほら、ねぇ……――――」
「――――……ちゃんとした定職にも就かないで……――――」
「――――……派手な服装の女性達が……――――」
「――――……毎日毎日……――――」
「――――……物騒……――――」
「――――……親の顔が……――――」
流石に最後の台詞は苛付いたので振り返る。びくっと肩を震わせる二人にとっておきの笑顔を向ける。ちりっと怪我した皮膚が引き攣って痛い。
「どぉぉぉも、煩くしていて、すみませんねぇ。いやぁ、まだまだ青二才なんで世間の渡り方をまだ探索中でして。枯れる前に遺伝子が合うパートナーを見付けようと躍起なんですわ。やっぱし抜群に合う相性かどうかは試してみないと分からないって言うじゃないですかぁ。竿と穴が合わなくって将来萎れちゃうのも嫌ですし」
にっこりと、笑顔、笑顔。おばちゃん達の顔が俺の顔よりも変色していくのは中々面白い。大振りなジェスチャーで腕を広げて肩を竦める。
「奥様方はいいですねぇ。結婚したいぐらい体が合うパートナーを見付けられて。夜の心配もないし、ウラヤマです。俺も早くそんな人見付けたいですねぇ」
とっておきのスペシャル笑顔でウィンク。語尾にハートでもくっつける様にノリッノリで話しながら歩み寄る。二人は真っ赤になりながら目を合わせず、そそくさと逃げて行く。ドアが煩く閉まる。
――――自分に直接害がないと思う時だけ悪口を言うのか。てめぇらに迷惑かけてねぇだろが
だけどあの気まずい表情には多少すっきり出来た。これで暫く感心しねぇ出歯亀を引っ込めていりゃいいのだが。
――――でも考えてみれば痣だらけの笑顔じゃちょっとあれか。俺、もしかしてじゃなくめちゃくちゃ不審者じゃね?
ちょっと笑ってしまう。顎がまだ痛い。腹の方も若干変な色になり始めている。やけに体が怠く重く感じる。
この街を出るのなら最後にまた海が見たい。それが気に入ってここに半年も住んでいたのだから。
冷蔵庫に入っていたビール、日本酒の小瓶、貰い物のジャックダニエル、缶も全部持って行こうか。もうこの部屋に戻るつもりはない。正直今は誰とも会いたくないし、最後に会いたいと思うような友人もいない。
全部が酷く面倒に感じる。
ぶっちゃけ、自分で言うのもなんだが、俺はクズだ。
下半身と頭が緩いけど友人は多い方だと思う。何も考えないで馬鹿やって一緒に時間を潰して。今時真面目に頑張る方が損をする。
親もロクデナシだった。
「お前は何もできないクズだ」
「さすがクズのガキもクズよね」
「お前もあのビッチのクソガキだな」
罵り合う親の生き様を冷めた目で見てきたら真面目に生きるのが馬鹿らしくって考えるのを止めた。褒められようと頑張っても、罵られる。悪い事しても、罵られる。だったら無駄な抵抗はしない方が楽でいい。結局学校は途中で行かなくなった。行っても行かなくても生活は変わらないと悟ったからだ。最後に両親と会ったのは、もう何年前だろう。このまま死ぬまで会わなくとも、もういい。何も期待しない。期待もされていないだろうし。
友人達も皆同じような家庭事情で同じように生きてきた。何も考えないでいられるそんな関係性。深く悩まないで済む。何も望まなければ、何にも傷付かないでいられる。誰かがいなくなれば、別の似たような奴が代わりにその席を埋める。女も同じ。声をかけるのもかけられるのも好きだ。セックスも気持ちいい。そして事後の体温。あれは凄く好き。誰かといると安心する。
全部どうでもよくなって気軽に生きてきた。『普通』の生活を手に入れた所で何かが違ってくるとは思えない。俺みたいな奴にちゃんとした女が見向きをする筈もない。だから仕事も女も長続きはしない。友人達から適当な仕事を紹介して貰い、暫くはそれで食い繋ぐ。住む場所なんて日に日に変わったり、誰かの部屋の一角だったり、女の所に転がり込んだり。荷物も大してないから困る事はなかった。重要な書類や物は車に置きっぱなしにしている。こんな生活が一番性に合っている。面倒事になったら適当に車に乗って別の街に流れて行く。そうすれば無駄な労力も使わないで済む。新しい街でもいつの間にか同じような友人も女も仕事もまたいる、ある。
誰でも、俺も、替えが効く。
面倒になっては流れ、そしてまた流れて。
家を飛び出てから、もう何度目の引っ越しをしたのだろうか。特にやりたいと思うような事もない。これから先の事なんてどうにでもなる。だから仕事は最低限で。女遊びは上手くやったら金を貰えるし、一夜限りの関係でも暇潰しになる。体もスッキリする。別に誰でもいい。そこまで真剣に誰かに恋した記憶もない。軽い方が後腐れなくていい。そんな関係性で満足をする。
とっても、シンプルな生き方。
気付けば俺ももうそれなりの年齢になっていた。それなりに楽しけりゃ、困らない。それなりの、生活。
「おらぁぁぁああ!」
頬に重い拳がめり込む。首がメリッと小さな音を立て、右に吹っ飛んでいく。口から唾が飛び散り、舌を噛み切りそうになる。
――――痛ぇぇぇぇぇぇ!
先日引っ掛けた女が悪かった。別に恋人にしたいとかではなく、本当にただ単に簡単にやれそうな雰囲気に反応した。顔も体も悪くなかったしお金も持っていそうだった。クラブで何度か目が合った。俺が笑顔を向けたら、笑顔が返ってきた。だから声をかけた。いつものように簡単なゲーム。落とすのに殆ど時間がかからなかった。女も男目的でそこにいたのだろう。奢ったカクテルを半分飲んだ頃にはクラブで唾液を交換する濃厚なキスが出来るぐらいの労力。そのまま使い古した甘い言葉を優しく囁き続けて自分の寝床に連れ込んだ。
でも自分の部屋に連れ込んだのは、本当にまずかった。
その翌日の今、こいつらがここにいる。
「めんどくせー」
口の中が切れて唾液混じりの血が呼吸と一緒にだらだらと垂れ続ける。つい口から本音が出てしまう。
グゴッ
すかさず腹に革靴がずぶりとめり込む。爆発したような圧迫感で体から空気が飛び出し、体がくの字に折れ曲がる。
瞬時に顎に拳が入って頭が上に跳ね上がり、目の前を花火が飛び交う。奥歯がガンッと衝突し合って息が止まる。喉に血が詰まって呼吸がままならない。
無意識に腹を庇って丸まった。
喉がヒューヒュー空気を貪っていてまともに息が出来ず、目の奥で光が次々と弾けて真っ赤になる。体が熱い。狭い視界にいかにもな雰囲気の鰐柄の靴が入ってくる。
太い指が俺の髪の毛を鷲掴みにして強制的に上を向かせる。革靴から視線が外れる。
「五十万だ。三日以内に持って来い」
不細工だけど、絶対に逆らえない雰囲気のヤクザが顔を近付けてねっとりとした声で凄む。タバコとミントの匂いが混じった臭い口臭が鼻に付き、妙に白い綺麗な歯並びでにたぁと笑う。まだ光が飛び交う目の前にあるやたらと剛毛そうな顎髭が気になる。その中の一本の白髪が目に留まってしょうがない。
俺は逆らわずにズルズルと地面に滑り落ちる。
口臭野郎は派手過ぎる柄のスーツを着ていて後ろに似たような派手なシャツを着て睨みを利かせている二人のチンピラを侍らせている。髪型をシャッフルしたら絶対に名前を間違える自信があるぐらい、どいつも同じ顔をしている。もっともこれ以上お近付きにはなるのはごめんだが。
口臭野郎がまた俺の腹を蹴り上げる。
「ぅぐ!」
呼吸が詰まって一気に噴き出た吐しゃ物が鼻からも垂れ出る。喉の奥からツーンと強い胃酸の刺激がして反射的に涙が出てくる。相変わらず喉がヒューヒュー音を立てている。口から垂れ流しの涎と血と吐しゃ物がゆっくりと顔の下に溜まっていく。無意識にお腹を庇いながら片手で頭を抱える。
まるで虫けらを見るような視線を外し、ヤクザが部屋から出て行く。取り巻きの一人が俺の部屋の畳に唾を吐き捨ててもう一人と下卑た笑いを上げながらついて行く。
「色男じゃなくってゲロ男だな」
「ゲロ男ぉ、三日以内だぞぉ」
――――……クソが
口の端から垂れ流れる血の泡交じりの涎がやっと止まる。
口の中が痛い。鼻が痛い。顔面が痛い。腹が痛い。
――――あー……でもチンコが無事でよかった
「あー……痛ぇ」
呼吸が整う頃にはアドレナリンが切れてもっと痛くなってきた。
――――勘弁してくれ。悪いのは大股広げてアンアンしていたビッチだろうが。こっちは不可抗力な被害者だ
床に寝転がったまま煙草を咥えてゆらゆらと立ち上がる煙をボケっとした目で追う。吸い込むと煙草の火がチリチリと音を立てる。
「五十万ねぇよ」
溜息が出る。腹部の痛みで浅い呼吸しかできない。
「クソだりぃ。……ビッチに一発五十万……」
脈打つ様な鈍痛がする顎に顔を顰め、また溜息をする。
まぁ、ここはやっぱり。
「払うかよ」
煙草を自分の血と涎溜まりに押し付けて消し、壁を支えにして立ち上がる。もう一度胃液が込み上げてくるのを何とか飲み込む。
思い立ったが吉日。適当な物をバッグに詰めて車に放り込む。こういう時は身軽な事に感謝だな。
――――確か明後日が給与日。働いた分はちゃんと貰いたい。次職にありつけるのがいつになるのか分からないのならば尚更資金は必要だ。現金払いじゃなければ今すぐにでも出られたけどな。取り敢えず明後日まで大人しくして、それから逃げればいい
簡単にシャワーで顔を洗う。口に指を突っ込んで軽く確認してみると、幸運な事に歯には影響がなさそうだ。嚙んだ頬の皮膚が捲れてぶら下がっているのを引き千切る。
部屋と車を行ったり来たりしている間、同じアパートのおばちゃん方が階段で半分隠れるようにヒソヒソと話をしているのが見える。そして聞こえてくる。
「――――……最近の若い人達って、ほら、ねぇ……――――」
「――――……ちゃんとした定職にも就かないで……――――」
「――――……派手な服装の女性達が……――――」
「――――……毎日毎日……――――」
「――――……物騒……――――」
「――――……親の顔が……――――」
流石に最後の台詞は苛付いたので振り返る。びくっと肩を震わせる二人にとっておきの笑顔を向ける。ちりっと怪我した皮膚が引き攣って痛い。
「どぉぉぉも、煩くしていて、すみませんねぇ。いやぁ、まだまだ青二才なんで世間の渡り方をまだ探索中でして。枯れる前に遺伝子が合うパートナーを見付けようと躍起なんですわ。やっぱし抜群に合う相性かどうかは試してみないと分からないって言うじゃないですかぁ。竿と穴が合わなくって将来萎れちゃうのも嫌ですし」
にっこりと、笑顔、笑顔。おばちゃん達の顔が俺の顔よりも変色していくのは中々面白い。大振りなジェスチャーで腕を広げて肩を竦める。
「奥様方はいいですねぇ。結婚したいぐらい体が合うパートナーを見付けられて。夜の心配もないし、ウラヤマです。俺も早くそんな人見付けたいですねぇ」
とっておきのスペシャル笑顔でウィンク。語尾にハートでもくっつける様にノリッノリで話しながら歩み寄る。二人は真っ赤になりながら目を合わせず、そそくさと逃げて行く。ドアが煩く閉まる。
――――自分に直接害がないと思う時だけ悪口を言うのか。てめぇらに迷惑かけてねぇだろが
だけどあの気まずい表情には多少すっきり出来た。これで暫く感心しねぇ出歯亀を引っ込めていりゃいいのだが。
――――でも考えてみれば痣だらけの笑顔じゃちょっとあれか。俺、もしかしてじゃなくめちゃくちゃ不審者じゃね?
ちょっと笑ってしまう。顎がまだ痛い。腹の方も若干変な色になり始めている。やけに体が怠く重く感じる。
この街を出るのなら最後にまた海が見たい。それが気に入ってここに半年も住んでいたのだから。
冷蔵庫に入っていたビール、日本酒の小瓶、貰い物のジャックダニエル、缶も全部持って行こうか。もうこの部屋に戻るつもりはない。正直今は誰とも会いたくないし、最後に会いたいと思うような友人もいない。
全部が酷く面倒に感じる。
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