(R18G完結)吊り橋効果、上等

如月紫苑

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2 石塚

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    ◇
 くたびれた愛車で海岸沿いに出る。腹では鋭い痛みが続いている。窓からの風が絶えずする頭痛を紛わらせてくれる。

――――……あのミント口臭豚野郎

 ふと左に細い横道が見える。周りの木が生い茂っていて舗装もされていない、普段気付かないような道。入ってすぐに少し空けた草だらけの駐車場で車を停める。何もない暑い空気に乗って潮の涼し気な音が聞こえる。
 暫く夕暮れを眺めながら飲んでいると地平線から満月に近い月が登ってくるのが見え始める。明日辺りは欠けのない月が見えるのだろうか。
「今夜も月が綺麗ですね」

――――確か回りくどい言い方で「愛している」だっけ? 昔は今よりもセックスが元凶で色々大変だっただろうな。そういえばクソババアも夏目漱石が大好きだった。親父とするする言っていた離婚はもうしたのだろうか

 缶タブを開けて勢いよく一気に飲み干す。痛みが少し紛れる気はするが、それは多分俺の願望なだけかもしれない。
 駐車場から波の音の方向に向かって歩いてみる。大きな岩が所々転がり、長く放置された枯れ木が重なり合って小さな虫が表面を走り回る。濃厚な磯の香りが肌に絡み付いてくる。
 磯の香りを酒の盃にして急ピッチで次々と缶を開けていく。持っていたスーパーの袋がガサガサと煩い。
 少しふら付きながら浜辺と生い茂った雑草の境目を当てもなく歩く。むわっとした暑さでシャツが気持ち悪く湿気って体に纏わり付き、口の中の傷がピリリッと痛んで思わず顰め面になる。
 ただでさえ高めの体温なのに、暑い。
「あ?」
 やたらと背の高い雑草の後ろで一瞬何かが光る。俺は好奇心に任せてそちらに足を向ける。

――――まるでジャングルだな

 何枚か鋭い葉がシャツから露出している肌を引っ掻き、怪我でやたらと敏感な肌がぴくぴくと痙攣する。時折顔に張り付く蜘蛛の巣を払う。酔っぱらっていなければ多分来なかったであろう山道を歩いていく。
 それは空へと崩れ上がっていく石の山にも見えた。大きな物を下にして徐々に小さな物が上に重ねて置いてある。それが幾つも幾つも積み重なり、車二台分ぐらいの面積を埋め尽くしている。端には年季の入った四角い縦長で墓標によく似たものが立っている。表面の文字は風化していて読めない。石碑の麓には大き目の熟れた桃と半分入った一升瓶が供えられている。

キュポン

 いい音を立てながら蓋を抜き、石碑の麓の石に日本酒を軽くかけ流す。緩かった土や汚れが少し流れ、何年も前に石に焼き付いたような枯れ葉も軽く指で撫で落とす。袋に放り込んでいた缶コーヒーをその石山のお供え物の横に供えて軽く手を合わせる。
「これでちょっとは俺を助けてくれよ」

――――やっすい願掛けだな

 もはや神頼みも良いところだと自虐的に笑ってしまう。いつだって俺も周りもクズ。助けてくれるような友達なんていた事はなかったし、ガキの頃は大人も皆見て見ぬ振り。
 でも今は。
 俺もクソみたいな大人になったな。親父の大きな拳で滅多打ちにされる痛みと耳の奥で笑っている母の幻聴が聞こえる。だせぇ。

――――まともな奴なんか、いやしねぇ

 その日本酒を一口煽る。口の中が痛い。一匹だけ聞こえてくる蝉の声に何故か妙に苛つく。
 運が悪い。本当に、いつも運がないな。
 口に込み上がってきた反吐を吐き出す。
 運というか、自分の業か。

――――何もかも、嫌いだ

 石山を背に後ろ振り向いた時、足がもつれてしまった。暗くって雑草の根元に絡まった石が見えなかった。
 最後に覚えていたのは迫りくる地面に毒づいていた事だ。





   ◇
「うぇ」
 嫌な汗と目に見えない虫が全身を舐めまわしているような気持ち悪さで跳ね起きる。さっき酔っぱらって転んだ時とっさに顔は庇ったものの、そのまま短時間意識が飛んでしまっていたらしい。地平線にいた肥えた月が真上を通過したところだ。腕に出来た擦り傷が見なくとも弱い痛みを発していて己の存在を出張する。
「気持ち悪ぃ暑さ……」
 心臓がまだ煩い。
 この面倒な一件が始まってから、時間がとても長いような永遠に終わらない程ゆっくりと流れているような感じがする。そういえば朝からあんな感じで今日はまだ抜いていない。昨日の夜はあの女と一緒だったか。時間が随分過ぎたように感じるのにまだ一日も経っていない。腹が痛い。

――――暫く上で腰振れないだろうなぁ

 自分の半立ち見て溜息を付く。なんで人間ってこう怖い目やアドレナリンの後に性欲が上がるんだろうか。

――――あー……まぁ、誰もいねぇし、いいっか

 ジィィィっとチャックを下げて期待に立ち上がった物を引っ張り出す。扱き始めるとすぐに息が上がってくる。

ヌチュ

 酔っぱらっている頭の中で自分の息継ぎが熱く響く。汚さないようシャツの裾を口に、左手を後ろに回して上半身を支える。変色が進んでいる腹が赤黒くうねる。汗が胸筋を滑り落ちていく。
 右親指で亀頭を引っ掻くようにして扱く。先から少し滲み出た物が指を濡らしていく。
 風なんか吹いていないのに周りの葉が、枝が、聞こえる。夜なのに煩い蝉が一匹遠くで鳴いている。さっき転んだ時に脱げたサンダルを横目に踵を撫でる草の感覚を楽しむ。少しこそばゆいような、引っ掛って痛むような。胸を伝う汗が少し擽ったい。周りで虫が飛んでいるのか小動物がいるのか、草が揺れ動く。

ジリジリジリ ジリ

 虫が肌の上を這うような不快な感じが股間に響く。気持ち悪いような、でも全身を快楽に蝕まれるような感じに目を閉じて気持ち良さを貪る。息が上がって手の動きが自然と速くなってくる。霧がかかってはっきりしない頭の中を濃厚な磯と草の香りが支配する。

ヌチュッ ヌチュッ

 こめかみ辺りがぴくぴくと痙攣する。
「……っ」

ドクッ ……ビュルッ ビュルルル

 濃い精子が前の地面に飛び散る。暗い夜にそれだけがやたら白く栄える。
 噛んでいたシャツを離して満足げに長い溜息を吐く。
「はぁ……、罰当たりだよな」
 いつの間にか石碑に背を預けていたらしい。立ち上がって身なりを整え、石碑に「ゴメンナサイ」と頭を下げる。ついでに端の方で崩れた石を積み重ねる。

――――セックス依存もここまでくると考えもんだな
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