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7 藍龍会のヤクザ
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◇
鳴り続く着信の音で目が覚める。時計を見るとそれなりの時間寝ていたらしい。時間はゆうに正午に迫まっている。
「ぅえ~い」
ちょっと寝ぼけた声が出る。
「ぁあ! 出たぁ! ちょっとー、マジウケるんだけどぉ⁉」
甲高い女のキンキン声が物凄く不快に頭に響く。
「ちょ、お前、マジで、何やらかしたんだよ?」
携帯が回され、ちょっとくぐもった音の後に友人の笑い声が聞こえてくる。後ろで何人もの野次が漏れる。ガヤガヤと煩い。苛々しながら煙草に火をつける。
「ケンジ。大きい声でしゃべんなよ。二日酔い」
「いやよぉ、藍龍会がお前を探しまわってるって噂になってんぞ。なぁにやらかしたんだ?」
「あー……。まぁ、ちょっと」
言葉を濁す。
――――あのヤクザ、藍龍会かぁ。大きくいはないけど、完全にマル暴じゃねぇかよ。本物だ。クソ。最悪だ
ケンジの後ろが酷く煩く、二日酔いと顔の傷に音が響く。普段なら気にならない友人達の声に嫌悪感が沸く。面白がっているだけの野次。ケンジが一番まともに思える辺りで十分クソみたいな奴等だけど。
――――俺も同類だけどな
「お前、あれだろ、原因。ヤベーとこにチンポ、突っ込んだろ。ぜってー、そうだろ」
ケンジがケタケタ笑う。
「うるっせーな。それよりさ、ちょっと頼まれてくんね? 明後日のバイト代、今日貰えるか島田さんに頼んでくれねぇかな?」
「おぉ、いいぜ。何、噂、マジモンだったりするわけ? 急ぎだったら、今掛けるけど」
「悪ぃ。頼むわ」
ここ数か月間ケンジ経由で知り合った島田さんの雑用で生計を立てていた。正直に言うと本当にくだらない雑用が多かった。風俗店の掃除や女の送り迎えや洗車、パシリ。大した金にはならなかったが書類なしで連続して働けるのは最高だ。ただケンジの方が親しいから、多分あいつから頼んで貰う方が支払いを早めて貰える可能性が高い。たかが一日だしな。
――――据え膳我慢しても、これか
なんかちょっとムカつく。やたらと俺にボディタッチしていつも誘ってきていた店の女を思い出す。安い香水の匂いをさせていた。可愛いかったけど顔を作り過ぎて違和感あったな。でも勿体ねぇ。押し付けてきたおっぱいに精子ぐらいぶっ掛けときゃ良かった。
着信音でケンジの行動の速さに感心する。
「あのよぉ、今日金やってもいいけど代わりに仕事一つ引き受けろ、だってよ」
「あー……分かった」
「TENにいるから早めに来いってよ」
本当にケンジに脱帽だ。島田さんの仕事はくだらない物が多い分、ランダムな物が多い。よっぽどの凶運じゃなければ藍龍会とかち合う可能性は低い。探し回っているレベルならば早々に終わらせてここを離れた方が良さそうだ。
俺は缶コーヒーを開けると車のギアをドライブに入れた。
◇
かち合う可能性は低い――――筈だった。
バーTENの重いドアを開けるとすぐに左右にいたチンピラが俺の首襟を掴んだ。
「おめぇ、どこ行ってやがったんだ、こらぁ」
「夜も朝も部屋に帰らなかったなぁ」
「バックレようとしてんじゃねぇんだろうなぁ」
ドアに思いっきり叩き付けられ、腹の怪我に痛みが響く。奥のバーに例の口臭野郎が煙草をゆったりと吸いながら携帯を弄っている。本来閉まっている時間帯の店内は暗く、奴の横のカーテンが開けられている。向かいの無機質なビルが見える。
――――クソ! やっぱ部屋張り込んでやがったか!
「違いますよ! 飲んでいただけっすよ!」
両手を顔の前に大袈裟にブンブン振り回す。
「逃げようとしていませんって!」
気になるのは、情報の経路。どこから情報が漏れた。島田さんがどこにも見当たらない。情報源は島田さんか、ケンジか、あの電話の時にいた野次の一人か。思い当たる節が多過ぎて笑えない。
「今、一生懸命お金掻き集めていますって!」
なるべく気弱に、受け身に。これで涙が流れりゃ完璧なのだが流石にそこまでの演技力はない。ただ、痛い目に遭うのは本当に避けたい。
「お前、金受け取っていたら、それをどうするっもりだった?」
ヤクザが煙を吐き出しながら聞く。
――――あぁ、クソクソクソ!
バギッ
隣にいたヤクザの一人に顔を殴られる。頬骨に脈が打つ度に響く。ちらりと足元を確認する。
――――あ、詰んだ
サンダルじゃ反撃も逃げるのもかなり難しい。俺は恐怖でぷるぷる震える演技を全面的に押し出す。怖い事は怖い。しかし、チャンスが来れば逃げきるしかない。
鳴り続く着信の音で目が覚める。時計を見るとそれなりの時間寝ていたらしい。時間はゆうに正午に迫まっている。
「ぅえ~い」
ちょっと寝ぼけた声が出る。
「ぁあ! 出たぁ! ちょっとー、マジウケるんだけどぉ⁉」
甲高い女のキンキン声が物凄く不快に頭に響く。
「ちょ、お前、マジで、何やらかしたんだよ?」
携帯が回され、ちょっとくぐもった音の後に友人の笑い声が聞こえてくる。後ろで何人もの野次が漏れる。ガヤガヤと煩い。苛々しながら煙草に火をつける。
「ケンジ。大きい声でしゃべんなよ。二日酔い」
「いやよぉ、藍龍会がお前を探しまわってるって噂になってんぞ。なぁにやらかしたんだ?」
「あー……。まぁ、ちょっと」
言葉を濁す。
――――あのヤクザ、藍龍会かぁ。大きくいはないけど、完全にマル暴じゃねぇかよ。本物だ。クソ。最悪だ
ケンジの後ろが酷く煩く、二日酔いと顔の傷に音が響く。普段なら気にならない友人達の声に嫌悪感が沸く。面白がっているだけの野次。ケンジが一番まともに思える辺りで十分クソみたいな奴等だけど。
――――俺も同類だけどな
「お前、あれだろ、原因。ヤベーとこにチンポ、突っ込んだろ。ぜってー、そうだろ」
ケンジがケタケタ笑う。
「うるっせーな。それよりさ、ちょっと頼まれてくんね? 明後日のバイト代、今日貰えるか島田さんに頼んでくれねぇかな?」
「おぉ、いいぜ。何、噂、マジモンだったりするわけ? 急ぎだったら、今掛けるけど」
「悪ぃ。頼むわ」
ここ数か月間ケンジ経由で知り合った島田さんの雑用で生計を立てていた。正直に言うと本当にくだらない雑用が多かった。風俗店の掃除や女の送り迎えや洗車、パシリ。大した金にはならなかったが書類なしで連続して働けるのは最高だ。ただケンジの方が親しいから、多分あいつから頼んで貰う方が支払いを早めて貰える可能性が高い。たかが一日だしな。
――――据え膳我慢しても、これか
なんかちょっとムカつく。やたらと俺にボディタッチしていつも誘ってきていた店の女を思い出す。安い香水の匂いをさせていた。可愛いかったけど顔を作り過ぎて違和感あったな。でも勿体ねぇ。押し付けてきたおっぱいに精子ぐらいぶっ掛けときゃ良かった。
着信音でケンジの行動の速さに感心する。
「あのよぉ、今日金やってもいいけど代わりに仕事一つ引き受けろ、だってよ」
「あー……分かった」
「TENにいるから早めに来いってよ」
本当にケンジに脱帽だ。島田さんの仕事はくだらない物が多い分、ランダムな物が多い。よっぽどの凶運じゃなければ藍龍会とかち合う可能性は低い。探し回っているレベルならば早々に終わらせてここを離れた方が良さそうだ。
俺は缶コーヒーを開けると車のギアをドライブに入れた。
◇
かち合う可能性は低い――――筈だった。
バーTENの重いドアを開けるとすぐに左右にいたチンピラが俺の首襟を掴んだ。
「おめぇ、どこ行ってやがったんだ、こらぁ」
「夜も朝も部屋に帰らなかったなぁ」
「バックレようとしてんじゃねぇんだろうなぁ」
ドアに思いっきり叩き付けられ、腹の怪我に痛みが響く。奥のバーに例の口臭野郎が煙草をゆったりと吸いながら携帯を弄っている。本来閉まっている時間帯の店内は暗く、奴の横のカーテンが開けられている。向かいの無機質なビルが見える。
――――クソ! やっぱ部屋張り込んでやがったか!
「違いますよ! 飲んでいただけっすよ!」
両手を顔の前に大袈裟にブンブン振り回す。
「逃げようとしていませんって!」
気になるのは、情報の経路。どこから情報が漏れた。島田さんがどこにも見当たらない。情報源は島田さんか、ケンジか、あの電話の時にいた野次の一人か。思い当たる節が多過ぎて笑えない。
「今、一生懸命お金掻き集めていますって!」
なるべく気弱に、受け身に。これで涙が流れりゃ完璧なのだが流石にそこまでの演技力はない。ただ、痛い目に遭うのは本当に避けたい。
「お前、金受け取っていたら、それをどうするっもりだった?」
ヤクザが煙を吐き出しながら聞く。
――――あぁ、クソクソクソ!
バギッ
隣にいたヤクザの一人に顔を殴られる。頬骨に脈が打つ度に響く。ちらりと足元を確認する。
――――あ、詰んだ
サンダルじゃ反撃も逃げるのもかなり難しい。俺は恐怖でぷるぷる震える演技を全面的に押し出す。怖い事は怖い。しかし、チャンスが来れば逃げきるしかない。
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