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上
8 逃げるが勝ち
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「勿論、渡すつもりでしたよ! 逃げませんって!」
背の低い細身のチンピラが腹に膝蹴りを入れる。咄嗟に腹を庇ったものの、昨日からのダメージで痛みが爆発する。胃液が込み上がってくる。襟首を掴んでいた手がすぐに離れる。
「こいつ、きったねぇなぁ」
ケタケタ笑う声が頭上からする。俺は胃の痙攣が収まるまで縮こまる。
「お前、良い度胸してんな」
口臭野郎がいつの間にか近くに立っている。例の革靴が視界の端に入る。脂汗が一気に噴き出る。
「悪い事したら自分に帰ってくるんだって、かーちゃんに教わらなかったのか」
――――ヤクザが何抜かしていやがるんだ
ゴッ
重いパンチが頬にめり込むのと歯を食いしばるのは同時だった。勢い余って後ろのドアに後頭部が衝突する。首が悲鳴を上げる。革靴が俺の顔を踏み付けるように蹴って、表面がジッと燃えるような痛みに引き攣る。
――――あ、これ、ヤバい。死ぬかも
「うるぅあ!」
俺は咄嗟に足を掴んで横に引っ張る。体制を崩したヤクザがドアの方に倒れ掛かるのと、一気に駆け出すのが同時だった。体が入れ替わる瞬間に男をもっとドアへと押しやりながら、軋む足に力を入れてバーの奥にある非常階段の出入口に一気に駆け出す。
「おい!」
「てめぇ!」
「待てや、こらぁぁぁ!」
後ろを確認する余裕なんかない。捕まれば、本当に殺されるかもしれない。
誰かがいる時は非常階段の出入口に鍵がかかっていなかった。従業員が煙草休憩で出入りするからだ。それに賭けた。
手がドアノブを掴む。
捻る。
――――空いている!
勢い良く扉を押し開ける。
太陽の光が開いている瞳孔に刺さる。
俺は階段の中央の手摺を掴むと下前にある踊り場へと飛び降りる。今度は手摺を飛び越えて真下へと飛ぶ。
バン!
上で扉が勢い良く開け放たれる。
「待てや、おらぁ!」
ザッ
足がコンクリートに着く。勢い余って両手も前のコンクリートに着く。そのまま道の方へと顔を上げたら。
いた。
ケンジが。
目が合う。
煙草が口から半分落ちそうに、間抜けた表情で俺を見る。シャツにいつものジーパン、横には見た事ある女。彼の驚愕で開いた目に憎悪とも嫌悪とも言えない色が伴い俺を見る。
「てめぇ……!」
俺は無言で舌打ちをし、ケンジから目を離すとそのまま脇道の方へと走る。チンピラ達が階段を降りたのか足音が近い。そのまま車の多い通りに出る。
真っ直ぐ走ると公園がある。
左手には住宅街。
俺は車の間を擦り抜けて住宅街へと走る。右や左の細道をスプリントしながらなるべく距離を取ろうとする。腹全体が脈打つように痛む。
「こらぁぁぁ」
やたら呂律が回る知性のない怒声を背にして走る。
暑くって変な脂汗が次から次へと吹き出す。頭痛が悪化し頭に石を叩きつけているかのような痛みが絶えず続く。捕まったら絶対にヤバい。本気で今回は殺される。すぐ後ろを走る三人の男達を撒こうと知らない住宅地を左右に走る。じりじりとした暑さでふら付く。汗が目に入って沁みる。お腹が軋むように痛む。
足は自然と海の方へと逃げて行く。
罅割れのアスファルトに足が擦れて痛い。
息が続かない。
――――畜生!
突然手を掴まれ、大きな家の門裏に引っ張り込まれる。
「っ⁉ な――――」
「しっ!」
急にスピードが強制的に止められて体が前のめりになるのと同時に、大きな手で口が塞がれて抱き留められる。心臓が暴れる音と蝉の鳴く声で頭痛が強く脈打つ。唇に触れる掌がちょっとガサ付いている。もう一方の手が俺の右胸に回されている。背中の方で強い鼓動がドクンドクンと鳴っているのを感じる。息が首筋に掛かる。いい香りが俺を包み込む。
悪態や怒声と足音が通っては、そのまま過ぎ去る。
腕と体温が離れる。大きな溜息が出てそのままズルズル地面へと崩れ落ちる。膝が過労でガクガク震える。口を開けて全身で息をする。
「……助かった」
明音がフッと笑う。
「まさか、またあんたにこんなにすぐに会えるとは思わなかった」
背の低い細身のチンピラが腹に膝蹴りを入れる。咄嗟に腹を庇ったものの、昨日からのダメージで痛みが爆発する。胃液が込み上がってくる。襟首を掴んでいた手がすぐに離れる。
「こいつ、きったねぇなぁ」
ケタケタ笑う声が頭上からする。俺は胃の痙攣が収まるまで縮こまる。
「お前、良い度胸してんな」
口臭野郎がいつの間にか近くに立っている。例の革靴が視界の端に入る。脂汗が一気に噴き出る。
「悪い事したら自分に帰ってくるんだって、かーちゃんに教わらなかったのか」
――――ヤクザが何抜かしていやがるんだ
ゴッ
重いパンチが頬にめり込むのと歯を食いしばるのは同時だった。勢い余って後ろのドアに後頭部が衝突する。首が悲鳴を上げる。革靴が俺の顔を踏み付けるように蹴って、表面がジッと燃えるような痛みに引き攣る。
――――あ、これ、ヤバい。死ぬかも
「うるぅあ!」
俺は咄嗟に足を掴んで横に引っ張る。体制を崩したヤクザがドアの方に倒れ掛かるのと、一気に駆け出すのが同時だった。体が入れ替わる瞬間に男をもっとドアへと押しやりながら、軋む足に力を入れてバーの奥にある非常階段の出入口に一気に駆け出す。
「おい!」
「てめぇ!」
「待てや、こらぁぁぁ!」
後ろを確認する余裕なんかない。捕まれば、本当に殺されるかもしれない。
誰かがいる時は非常階段の出入口に鍵がかかっていなかった。従業員が煙草休憩で出入りするからだ。それに賭けた。
手がドアノブを掴む。
捻る。
――――空いている!
勢い良く扉を押し開ける。
太陽の光が開いている瞳孔に刺さる。
俺は階段の中央の手摺を掴むと下前にある踊り場へと飛び降りる。今度は手摺を飛び越えて真下へと飛ぶ。
バン!
上で扉が勢い良く開け放たれる。
「待てや、おらぁ!」
ザッ
足がコンクリートに着く。勢い余って両手も前のコンクリートに着く。そのまま道の方へと顔を上げたら。
いた。
ケンジが。
目が合う。
煙草が口から半分落ちそうに、間抜けた表情で俺を見る。シャツにいつものジーパン、横には見た事ある女。彼の驚愕で開いた目に憎悪とも嫌悪とも言えない色が伴い俺を見る。
「てめぇ……!」
俺は無言で舌打ちをし、ケンジから目を離すとそのまま脇道の方へと走る。チンピラ達が階段を降りたのか足音が近い。そのまま車の多い通りに出る。
真っ直ぐ走ると公園がある。
左手には住宅街。
俺は車の間を擦り抜けて住宅街へと走る。右や左の細道をスプリントしながらなるべく距離を取ろうとする。腹全体が脈打つように痛む。
「こらぁぁぁ」
やたら呂律が回る知性のない怒声を背にして走る。
暑くって変な脂汗が次から次へと吹き出す。頭痛が悪化し頭に石を叩きつけているかのような痛みが絶えず続く。捕まったら絶対にヤバい。本気で今回は殺される。すぐ後ろを走る三人の男達を撒こうと知らない住宅地を左右に走る。じりじりとした暑さでふら付く。汗が目に入って沁みる。お腹が軋むように痛む。
足は自然と海の方へと逃げて行く。
罅割れのアスファルトに足が擦れて痛い。
息が続かない。
――――畜生!
突然手を掴まれ、大きな家の門裏に引っ張り込まれる。
「っ⁉ な――――」
「しっ!」
急にスピードが強制的に止められて体が前のめりになるのと同時に、大きな手で口が塞がれて抱き留められる。心臓が暴れる音と蝉の鳴く声で頭痛が強く脈打つ。唇に触れる掌がちょっとガサ付いている。もう一方の手が俺の右胸に回されている。背中の方で強い鼓動がドクンドクンと鳴っているのを感じる。息が首筋に掛かる。いい香りが俺を包み込む。
悪態や怒声と足音が通っては、そのまま過ぎ去る。
腕と体温が離れる。大きな溜息が出てそのままズルズル地面へと崩れ落ちる。膝が過労でガクガク震える。口を開けて全身で息をする。
「……助かった」
明音がフッと笑う。
「まさか、またあんたにこんなにすぐに会えるとは思わなかった」
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