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9 天性のタラシと天然タラシ
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伝う汗をシャツで拭う。緊張が解けて脱力したらやたらと笑いが込み上げてきた。
「俺もだ。つか、マジ、お前のタイミング最高! 本当に助かった。ここに住んでいるのか?」
「そこの角を曲がった所。コンビニの帰りに見かけて」
白い袋を軽く持ち上げる。俺達はお互いに顔を見合わせて声を抑えて笑う。
「……なんか、傷増えてないか?」
いぶかしげに顔を観察され、俺は居心地悪そうに目を逸らす。
「あー……」
また垂れてきた汗を腕で拭う。
「ダチだと思っていた野郎にハメられた」
腹の奥から込み上がってくる苦いムカつきを飲み込む。無性に動きたくなってまた立ち上がる。考えると苛々して落ち着かない。
「多分、俺をヤクザに売りやがった」
昼前の会話を思い浮かべる。何かと俺の事を歩くチンポ呼ばわりしていたのはずっと微量の羨望があったからだと思っていたけど、ひょっとすると間違っていたのかもしれない。
――――どこかでケンジが狙っていた女に手を出したか。もしかしたら複数。それ以外には思いつかねぇ。クソ。もっと早くに気付くべきだった
思い出せば一緒にいた女もなんか見覚えがある気がしたし。
明音は非常に不機嫌そうに低く唸る。
「それはダチって言わないだろ」
「あぁ。ダチだと思っていたのは俺だけかもな。それさえも疑問に思えてきたが」
自虐的に笑う。
「でも、案外皆そんなもんだろ」
薄っぺらい友情、友人、知人。
こんな生活をしてきたツケだ。
「お前みたいな人を助ける希少な奴はいるみたいだけどな」
俺は明音を見上げながらにやりと笑う。酸欠と鈍痛で頭がふわふわと軽くなった気がする。ケンジには腹が煮えたぎる程の怒りが沸いている。でもそれ以上に、明音に助けて貰えた事が凄く嬉しい。どんなに遡って思い出そうとしてもこんなに助けてくれた友人は今までいなかった。
明音は黙って緑茶を差し出す。ありがたく貰い、数回口の中を濯いで吐き出してみるとまだ少し血が混じっている。口の中の粘りがなくなっただけでも気が楽になる。
「はあぁぁぁぁぁー」
水分が身体に染み渡って嬉しくって声が出る。明音は眉間に深い皺を寄せて指で俺の頬に触れる。
「……かなり痛そうだな。もしかして中も結構酷いんじゃないのか?」
軽く屈むと明音は。
俺の頬の傷を。
舐めた。
――――……は?
頭が真っ白になって俺は茫然とする。彼は俺の顎を支えながら動物が傷を舐めるように舐める。妙に熱い舌が急速に俺の思考力を奪っていき、鼓動が早くなる。明音の香りがする。ザラりと唇の際どい所を行き来する。
――――ちょっと待て、待て、待て! こいつ、え?
下腹部の方がぞくぞくして反応し始める。
――――天然? 誘っているの?
「……おい。誘ってんの?」
明音は怪訝そうな表情で眉を顰める。濡れた舌先が開いた唇の奥から少し覗いている。
その途端目を見開き、手で口を隠し、俺から顔を背ける。
――――天然タラシか
俺は股間がムズムズするのを感じながら溜息を吐いた。
――――こんなタイミングで、こんな場所じゃなければすっげぇいいシチュエーションなんだけどな
「ごめん」
顔を背けたまま目が泳いでいる。こちらが気の毒になるぐらいの動揺で声がより一層掠れている。
無意識に唇を舐める。
――――こいつ……俺が男って事に嫌悪感持ってねぇよな? これ、俺がキスをしたら、どうなる?
早く鎮めないと。じゃないと。
食っちまう。
――――マジで手ぇ出しちゃいそう
もう股間が完全に反応しちゃっている。
明音が口元を隠しながらまた俺の方をちらっと見る。微かに赤い目元にちょっと困ったように顰められた眉毛が悩ましく凄くいい表情をしている。
――――こいつ、煽ってねぇか?
俺は体を離して地面にしゃがむ。
ヤクザの件もケンジの件もある。流石に今は多少自重したい。それに……こいつには簡単に手を出したら駄目な気がする。無節操云々ではなく……何だろう。勘が警戒しろと言っている。半日前には飛び込みをしたばかりというのも、ある。
――――おー……チンコ痛ぇ
明音は俺の葛藤と自制に気付いてか気付かないでか、隣にしゃがんでコンビニの袋を漁る。またいつもの静かな男らしい表情に戻っている。彼は黙って片手で鮭と梅の三角おにぎりを二つ差し出す。
「俺もだ。つか、マジ、お前のタイミング最高! 本当に助かった。ここに住んでいるのか?」
「そこの角を曲がった所。コンビニの帰りに見かけて」
白い袋を軽く持ち上げる。俺達はお互いに顔を見合わせて声を抑えて笑う。
「……なんか、傷増えてないか?」
いぶかしげに顔を観察され、俺は居心地悪そうに目を逸らす。
「あー……」
また垂れてきた汗を腕で拭う。
「ダチだと思っていた野郎にハメられた」
腹の奥から込み上がってくる苦いムカつきを飲み込む。無性に動きたくなってまた立ち上がる。考えると苛々して落ち着かない。
「多分、俺をヤクザに売りやがった」
昼前の会話を思い浮かべる。何かと俺の事を歩くチンポ呼ばわりしていたのはずっと微量の羨望があったからだと思っていたけど、ひょっとすると間違っていたのかもしれない。
――――どこかでケンジが狙っていた女に手を出したか。もしかしたら複数。それ以外には思いつかねぇ。クソ。もっと早くに気付くべきだった
思い出せば一緒にいた女もなんか見覚えがある気がしたし。
明音は非常に不機嫌そうに低く唸る。
「それはダチって言わないだろ」
「あぁ。ダチだと思っていたのは俺だけかもな。それさえも疑問に思えてきたが」
自虐的に笑う。
「でも、案外皆そんなもんだろ」
薄っぺらい友情、友人、知人。
こんな生活をしてきたツケだ。
「お前みたいな人を助ける希少な奴はいるみたいだけどな」
俺は明音を見上げながらにやりと笑う。酸欠と鈍痛で頭がふわふわと軽くなった気がする。ケンジには腹が煮えたぎる程の怒りが沸いている。でもそれ以上に、明音に助けて貰えた事が凄く嬉しい。どんなに遡って思い出そうとしてもこんなに助けてくれた友人は今までいなかった。
明音は黙って緑茶を差し出す。ありがたく貰い、数回口の中を濯いで吐き出してみるとまだ少し血が混じっている。口の中の粘りがなくなっただけでも気が楽になる。
「はあぁぁぁぁぁー」
水分が身体に染み渡って嬉しくって声が出る。明音は眉間に深い皺を寄せて指で俺の頬に触れる。
「……かなり痛そうだな。もしかして中も結構酷いんじゃないのか?」
軽く屈むと明音は。
俺の頬の傷を。
舐めた。
――――……は?
頭が真っ白になって俺は茫然とする。彼は俺の顎を支えながら動物が傷を舐めるように舐める。妙に熱い舌が急速に俺の思考力を奪っていき、鼓動が早くなる。明音の香りがする。ザラりと唇の際どい所を行き来する。
――――ちょっと待て、待て、待て! こいつ、え?
下腹部の方がぞくぞくして反応し始める。
――――天然? 誘っているの?
「……おい。誘ってんの?」
明音は怪訝そうな表情で眉を顰める。濡れた舌先が開いた唇の奥から少し覗いている。
その途端目を見開き、手で口を隠し、俺から顔を背ける。
――――天然タラシか
俺は股間がムズムズするのを感じながら溜息を吐いた。
――――こんなタイミングで、こんな場所じゃなければすっげぇいいシチュエーションなんだけどな
「ごめん」
顔を背けたまま目が泳いでいる。こちらが気の毒になるぐらいの動揺で声がより一層掠れている。
無意識に唇を舐める。
――――こいつ……俺が男って事に嫌悪感持ってねぇよな? これ、俺がキスをしたら、どうなる?
早く鎮めないと。じゃないと。
食っちまう。
――――マジで手ぇ出しちゃいそう
もう股間が完全に反応しちゃっている。
明音が口元を隠しながらまた俺の方をちらっと見る。微かに赤い目元にちょっと困ったように顰められた眉毛が悩ましく凄くいい表情をしている。
――――こいつ、煽ってねぇか?
俺は体を離して地面にしゃがむ。
ヤクザの件もケンジの件もある。流石に今は多少自重したい。それに……こいつには簡単に手を出したら駄目な気がする。無節操云々ではなく……何だろう。勘が警戒しろと言っている。半日前には飛び込みをしたばかりというのも、ある。
――――おー……チンコ痛ぇ
明音は俺の葛藤と自制に気付いてか気付かないでか、隣にしゃがんでコンビニの袋を漁る。またいつもの静かな男らしい表情に戻っている。彼は黙って片手で鮭と梅の三角おにぎりを二つ差し出す。
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