10 / 22
上
10 一緒に行きたい
しおりを挟む
「サンキュー。昨日の昼から食ってねぇんだわ」
苦笑で梅を受け取る。一口食べると腹がまた痛み出してきた。固まって痛みをやり過ごす。
「腹も怪我をしているのか?」
明音は二口でおにぎりを平らげると指に着いた米粒をペロリと舐める。今度は取り出した缶を軽く振って開け、俺の前に置く。
「飲めそうだったらこっちにした方が良いかもな。出汁じゃなくって残念だけど」
笑って缶を見る。
――――プロテインのバナナ味かぁ。……バナナかぁ。お前、絶対に天然だろ
有難く貰ってゆっくりと飲む。胃がおにぎりよりかは受け付けてくれる。疲れきった体に沁み渡る。明音が片眉上げて聞いてきたのでそのまま俺のおにぎりを返す。また二口で平らげられる。
――――流石に良く食うなぁ
また梅おにぎりが二つ現れてはすぐに消えていく。梅が美味しいって顔に書いてある。
「さっきのが、そのヤクザ?」
「あぁ、その手下。昨日から目ぇ付けられているんだよ」
「何があったのか聞いてもいいのか。嫌だったら言わなくても――――」
「ナンパしたのがヤクザの女だった」
「……ああ。……そう」
明音が何とも言えない表情をする。まぁ、普通にこれじゃ言葉に困るよな。
「言っておくけど、先に知っていたら手ぇ出さなかったぞ。少ないなりにも俺にもモラルはある」
「その女性は……」
「やって、起きたらバイバイ。で、気付いたらこれ」
頬と腹に手をかざす。思い出したら苛々してきて自然と口調が速くなる。
「んで逃げる気になって先に野暮用済ませようとしたら、ダチがヤクザに連絡していたって訳。……マジで笑えねぇ。美人局かと思っちまうわ」
奥歯をギリギリと噛み締める。
明音は黙って聞いている。相変わらず無表情で分かり辛い。
「でも昨夜飛ぶ前に海を見に行ったら、お前がいた。だから全部が全部無駄じゃなかったな」
明音が小さく笑う。
「俺なんかの命の代償にしたら割に合わないって。あんたは鋭いし優しいから損する性格しているだろ」
「う……ん?」
生まれて初めてそんな事言われたと思う。いつもは罵られ慣れているのに。大体いつもは女関連でだが。非常に新鮮な反応で面白いけど、物凄くこそばゆい感じがする。どう反応すればいいのか分からない。
「お前の方は、あれから、どうなんだ?」
まだ半日も経っていないが。
明音が言葉を詰まらせてどう答えようかゆっくりと孝順している。やがてぽつりと吐き出す。
「俺は……逆に今の生活から出られるとは考えてなかったから。というのか、思い付かなかった。何処かへ逃げるのも一手だと、あんたに初めて気付かせて貰えたかな」
ちょっとびっくりする。普通矜持に追い込まれた人でもそんなに早く自分の生活を見切らないものだと思っていたのだけれど。元々精神的に強い人なのだろうか、自分の中の優先順位がはっきりしている気がする。
明音はやたらとスッキリした笑顔で笑った。なんかよく分からないが、自己解決出来たのならば、本当に良かった。
――――良い顔。やっぱこいつは無表情なんか似合わねぇな
凄く気分が良い。
と、その時。
着信音が鳴った。慌ててズボンから引っ張り出すと非通知と表示されている。反射的に電話を切る。間を開けず、またかかってくる。また切る。またかかってきた。
「しつけぇ! これ、間違えなくあいつらだ」
「個人情報はどこまで知られているんだ?」
「あー……。多分、全部知られているな。車さえ取りに行ければ何とか逃げられると思うけど」
「俺も行く」
「……有難いけど、いいよ。ヤバいのは本当だし、第一お前にそんな事するメリットがねぇだろ。もう助けてくれたし、本当に気持ちだけで嬉しいさ」
俺は立ち上がって軽く伸びる。やっぱり、腹が一番痛い。
明音はすぐに俺の手首を掴む。
「今朝そのまま別れたのを、凄く後悔した。だから、またあんたに会えて嬉しいんだ。あんたと話していると生きている実感がする」
明音が真っ直ぐ俺の目を見る。灰色が太陽光で海の波みたいに光を弾いている。
「これから、逃げるんだろ? 別の街に行って、全部変えて。……なぁ、俺も一緒に行ったら、駄目?」
「あ? ちょっと待て。お前、……マジで? 全部置いて行くんだぞ? 職、ダチ、家、家族。いつまで続けていかなきゃいけねぇのかも分からねぇし」
「仕事はどこでだってやれる。友人も家も執着はない。……家族は、いない方が、いい」
明音がフッと目を逸らす。そっと腕を離される。
「……お前、もしかして――――」
苦笑で梅を受け取る。一口食べると腹がまた痛み出してきた。固まって痛みをやり過ごす。
「腹も怪我をしているのか?」
明音は二口でおにぎりを平らげると指に着いた米粒をペロリと舐める。今度は取り出した缶を軽く振って開け、俺の前に置く。
「飲めそうだったらこっちにした方が良いかもな。出汁じゃなくって残念だけど」
笑って缶を見る。
――――プロテインのバナナ味かぁ。……バナナかぁ。お前、絶対に天然だろ
有難く貰ってゆっくりと飲む。胃がおにぎりよりかは受け付けてくれる。疲れきった体に沁み渡る。明音が片眉上げて聞いてきたのでそのまま俺のおにぎりを返す。また二口で平らげられる。
――――流石に良く食うなぁ
また梅おにぎりが二つ現れてはすぐに消えていく。梅が美味しいって顔に書いてある。
「さっきのが、そのヤクザ?」
「あぁ、その手下。昨日から目ぇ付けられているんだよ」
「何があったのか聞いてもいいのか。嫌だったら言わなくても――――」
「ナンパしたのがヤクザの女だった」
「……ああ。……そう」
明音が何とも言えない表情をする。まぁ、普通にこれじゃ言葉に困るよな。
「言っておくけど、先に知っていたら手ぇ出さなかったぞ。少ないなりにも俺にもモラルはある」
「その女性は……」
「やって、起きたらバイバイ。で、気付いたらこれ」
頬と腹に手をかざす。思い出したら苛々してきて自然と口調が速くなる。
「んで逃げる気になって先に野暮用済ませようとしたら、ダチがヤクザに連絡していたって訳。……マジで笑えねぇ。美人局かと思っちまうわ」
奥歯をギリギリと噛み締める。
明音は黙って聞いている。相変わらず無表情で分かり辛い。
「でも昨夜飛ぶ前に海を見に行ったら、お前がいた。だから全部が全部無駄じゃなかったな」
明音が小さく笑う。
「俺なんかの命の代償にしたら割に合わないって。あんたは鋭いし優しいから損する性格しているだろ」
「う……ん?」
生まれて初めてそんな事言われたと思う。いつもは罵られ慣れているのに。大体いつもは女関連でだが。非常に新鮮な反応で面白いけど、物凄くこそばゆい感じがする。どう反応すればいいのか分からない。
「お前の方は、あれから、どうなんだ?」
まだ半日も経っていないが。
明音が言葉を詰まらせてどう答えようかゆっくりと孝順している。やがてぽつりと吐き出す。
「俺は……逆に今の生活から出られるとは考えてなかったから。というのか、思い付かなかった。何処かへ逃げるのも一手だと、あんたに初めて気付かせて貰えたかな」
ちょっとびっくりする。普通矜持に追い込まれた人でもそんなに早く自分の生活を見切らないものだと思っていたのだけれど。元々精神的に強い人なのだろうか、自分の中の優先順位がはっきりしている気がする。
明音はやたらとスッキリした笑顔で笑った。なんかよく分からないが、自己解決出来たのならば、本当に良かった。
――――良い顔。やっぱこいつは無表情なんか似合わねぇな
凄く気分が良い。
と、その時。
着信音が鳴った。慌ててズボンから引っ張り出すと非通知と表示されている。反射的に電話を切る。間を開けず、またかかってくる。また切る。またかかってきた。
「しつけぇ! これ、間違えなくあいつらだ」
「個人情報はどこまで知られているんだ?」
「あー……。多分、全部知られているな。車さえ取りに行ければ何とか逃げられると思うけど」
「俺も行く」
「……有難いけど、いいよ。ヤバいのは本当だし、第一お前にそんな事するメリットがねぇだろ。もう助けてくれたし、本当に気持ちだけで嬉しいさ」
俺は立ち上がって軽く伸びる。やっぱり、腹が一番痛い。
明音はすぐに俺の手首を掴む。
「今朝そのまま別れたのを、凄く後悔した。だから、またあんたに会えて嬉しいんだ。あんたと話していると生きている実感がする」
明音が真っ直ぐ俺の目を見る。灰色が太陽光で海の波みたいに光を弾いている。
「これから、逃げるんだろ? 別の街に行って、全部変えて。……なぁ、俺も一緒に行ったら、駄目?」
「あ? ちょっと待て。お前、……マジで? 全部置いて行くんだぞ? 職、ダチ、家、家族。いつまで続けていかなきゃいけねぇのかも分からねぇし」
「仕事はどこでだってやれる。友人も家も執着はない。……家族は、いない方が、いい」
明音がフッと目を逸らす。そっと腕を離される。
「……お前、もしかして――――」
30
あなたにおすすめの小説
鬼の愛人
のらねことすていぬ
BL
ヤクザの組長の息子である俺は、ずっと護衛かつ教育係だった逆原に恋をしていた。だが男である俺に彼は見向きもしようとしない。しかも彼は近々出世して教育係から外れてしまうらしい。叶わない恋心に苦しくなった俺は、ある日計画を企てて……。ヤクザ若頭×跡取り
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる