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11 濃厚な、香り
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「ここに隠れていやがったか、てめぇぇぇ!」
思いっきり肩を掴まれて後ろに引っ張られる。
「――――ぐっ!」
肩に手が食い込む。シャツの首が締まる。息が詰まる。
きつく首にロックをかけられ道路の方へとズルズルと体を引きずられる。
――――息が、出来ねぇ!
腕と首の間に指を捻じ込もうとするが腕の表面を指が滑っていくだけだ。目の前に火花が飛び交う。
「グッ! ……ガッ、あ!」
ガキっと音がして腕が緩む。首を押さえて後ろを振り返る。
明音が後ろから男の頭を石で叩き割っていた。
「来い!」
俺の腕を掴み、引っ張って、走り出す。喉がヒューヒュー鳴って咳が出る。
怒声が響き渡る。後ろを見ると頭を押さえているチンピラの手の間を鮮血が汚している。残りの二人は俺達を追いかけて来ようとしている。
アスファルトを走る。
小道を曲がる。
明音は俺の腕を離して一緒に走る。後ろで怒声と共に追いかける音がする。ちょっと前を走っている男を見る。
――――格好良いな
死にかけた数時間後には俺を助け、庇いながら一緒に逃げてくれている。本当に、良い男だ。明音はちらりと俺の方を見て右道に逸れる。
――――あ、これ、俺のスピードに合わせてくれているのか
いくら体力に自信があるからって、二日酔いで満身創痍、かなり体力を消耗した後ではスピードも劇的に落ちる。それなのに、ずっと俺に合わせて隣を走ってくれている。足がもつれれば、腕を引っ張って立たせてくれる。
――――こんなに助けられたの、本当に初めてだ。関わる理由なんか一つもないだろうに。……理由か。さっきの、まさかマジ?
腹の方がずくんと痛む。無意識に呻き声が出る。足がもつれる。スピードが落ちて腹を押さえた俺を、彼が強引に掴んで引っ張ってくれる。
走って、走って、また走る。
もう呼吸もままならないのに、足が棒のようにぎこちなく地面を叩き付けて進む。灼熱の太陽が露出した首を焼いていく。腹の奥が畝っているように痛む。汗が目に入ってずっと沁みている。
たくさん走っていつの間にか町の古い一角に出たらしい。シャッターが閉まっている店や屋根が崩れている民家が増える。放置された大きな木々も増え、もう少し入り組んだ道が増える。撒くには最高の舞台だ。
後ろを振り返るとかなり遠くで、いつの間にか追手が一人になっている。向こうも疲労が色濃く出た表情で足がもつれている。隣を見る。
黒い短髪が汗で立ち上がっていてちょっと長めの前髪が揺れている。首が汗でテラテラ光る。意思の強そうなグレーの目がまっすぐ前を睨み付けている。不意に横に流れてこちらを見る。視線が絡む。意図的にこの地区に誘導して来たのであろう、明音がにやりと笑う。
――――――あ、ヤバいヤバいヤバいヤバい
頭の警戒音がさっきから煩い。下半身に頭の中を支配されそうになる。
体中の酸素が抜けきって頭が軽くなる。呼吸も絶え絶えになる。そんな状態なのに、さっきから俺は、触りたい。
触りたい。
こいつに、触りたい。
――――――触らせろ
頭の中で警戒音がプツッと消える。
「……そ……こ!」
角を曲がった所で明音と二人でドアが半分ない家の中に逃げ込む。色が剥げた壁の前にゴミや錆びた自転車が散らばっている民家の廃屋だ。中は外よりも酷い状態でゴミの山と化している。ちょうど死角になっていて、息を殺して足音が近付いては通り過ぎるのを待つ。足音が遠ざかっていく。
ハァ ハァ ハァ
二人の呼吸だけがやたらと大きく響く。他には何も聞こえてこない。
どちらともなく目を合わせる。
紅潮した頬が。
開いた唇が。
上下する胸が。
滝のように喉を伝う汗が。
顎から汗が滴って、明音の香りが立ち上る。
くらくらするぐらい、濃厚な香り。
俺は明音の胸倉を掴んで引き寄せ、強引に口に噛み付いた。
思いっきり肩を掴まれて後ろに引っ張られる。
「――――ぐっ!」
肩に手が食い込む。シャツの首が締まる。息が詰まる。
きつく首にロックをかけられ道路の方へとズルズルと体を引きずられる。
――――息が、出来ねぇ!
腕と首の間に指を捻じ込もうとするが腕の表面を指が滑っていくだけだ。目の前に火花が飛び交う。
「グッ! ……ガッ、あ!」
ガキっと音がして腕が緩む。首を押さえて後ろを振り返る。
明音が後ろから男の頭を石で叩き割っていた。
「来い!」
俺の腕を掴み、引っ張って、走り出す。喉がヒューヒュー鳴って咳が出る。
怒声が響き渡る。後ろを見ると頭を押さえているチンピラの手の間を鮮血が汚している。残りの二人は俺達を追いかけて来ようとしている。
アスファルトを走る。
小道を曲がる。
明音は俺の腕を離して一緒に走る。後ろで怒声と共に追いかける音がする。ちょっと前を走っている男を見る。
――――格好良いな
死にかけた数時間後には俺を助け、庇いながら一緒に逃げてくれている。本当に、良い男だ。明音はちらりと俺の方を見て右道に逸れる。
――――あ、これ、俺のスピードに合わせてくれているのか
いくら体力に自信があるからって、二日酔いで満身創痍、かなり体力を消耗した後ではスピードも劇的に落ちる。それなのに、ずっと俺に合わせて隣を走ってくれている。足がもつれれば、腕を引っ張って立たせてくれる。
――――こんなに助けられたの、本当に初めてだ。関わる理由なんか一つもないだろうに。……理由か。さっきの、まさかマジ?
腹の方がずくんと痛む。無意識に呻き声が出る。足がもつれる。スピードが落ちて腹を押さえた俺を、彼が強引に掴んで引っ張ってくれる。
走って、走って、また走る。
もう呼吸もままならないのに、足が棒のようにぎこちなく地面を叩き付けて進む。灼熱の太陽が露出した首を焼いていく。腹の奥が畝っているように痛む。汗が目に入ってずっと沁みている。
たくさん走っていつの間にか町の古い一角に出たらしい。シャッターが閉まっている店や屋根が崩れている民家が増える。放置された大きな木々も増え、もう少し入り組んだ道が増える。撒くには最高の舞台だ。
後ろを振り返るとかなり遠くで、いつの間にか追手が一人になっている。向こうも疲労が色濃く出た表情で足がもつれている。隣を見る。
黒い短髪が汗で立ち上がっていてちょっと長めの前髪が揺れている。首が汗でテラテラ光る。意思の強そうなグレーの目がまっすぐ前を睨み付けている。不意に横に流れてこちらを見る。視線が絡む。意図的にこの地区に誘導して来たのであろう、明音がにやりと笑う。
――――――あ、ヤバいヤバいヤバいヤバい
頭の警戒音がさっきから煩い。下半身に頭の中を支配されそうになる。
体中の酸素が抜けきって頭が軽くなる。呼吸も絶え絶えになる。そんな状態なのに、さっきから俺は、触りたい。
触りたい。
こいつに、触りたい。
――――――触らせろ
頭の中で警戒音がプツッと消える。
「……そ……こ!」
角を曲がった所で明音と二人でドアが半分ない家の中に逃げ込む。色が剥げた壁の前にゴミや錆びた自転車が散らばっている民家の廃屋だ。中は外よりも酷い状態でゴミの山と化している。ちょうど死角になっていて、息を殺して足音が近付いては通り過ぎるのを待つ。足音が遠ざかっていく。
ハァ ハァ ハァ
二人の呼吸だけがやたらと大きく響く。他には何も聞こえてこない。
どちらともなく目を合わせる。
紅潮した頬が。
開いた唇が。
上下する胸が。
滝のように喉を伝う汗が。
顎から汗が滴って、明音の香りが立ち上る。
くらくらするぐらい、濃厚な香り。
俺は明音の胸倉を掴んで引き寄せ、強引に口に噛み付いた。
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