犯人はこいつです!〜足りないのは動機と証拠とアリバイと〜

高前タルソン

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第一章

熱血刑事 山ノ井冬香

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県警刑事部捜査第一課の刑事、山ノ井冬香(やまのいとうか)は頭を抱えていた。

確かに昨夜のひき逃げは、交差点の防犯カメラに映っていた。だが角度が悪く運転手は見えていない。車種とナンバーから持ち主の田村美希男が検挙された。本人も事実を認めたらしい。交通捜査課の順当な捜査だ。

だが、山ノ井冬香はなぜか違和感を感じていた。
捜査一課の勘か?いや、私の勘はそんなに研ぎ澄まされてはいない。
冬香は苦笑しながらコーヒーをゴクリと喉に流し込む。そして防犯カメラに録画されていた事故の映像をもう一度再生する。
(やっぱり変だ)
映像はモノクロで、画像も粗い。それでも事故の瞬間ははっきりととらえられている。
容疑者の田村は人がいたことに気づけなかったと言っているらしい。そうなのか?それでいいのか?
冬香はやはり違和感を感じる。
(気づかなかったって?私にはこの車はわずかに加速しているように見える)
交差点に入る時、信号が変わりそうなわけでもないのに加速するだろうか?
冬香にはこの車に明らかな殺意を感じた。

「山ノ井‼︎」ドスの効いた大声がフロア内に響き渡る。一課のボス、虎尾真二課長の怒声だ。
「はい!」冬香は思わず直立し敬礼をした。
「お前いつまでそんなことやってんだ!それは交通の仕事だろうが!」
メガホンでも使ってるかのようなボリューム。冬香は耳を塞ぎたい欲望に強く駆られた。
「何がそんなに引っかかるのかしらねぇが、他にも山ほどやることあんだろぉが!おぉ?」
「課長、しかし、、」
「しかしじゃねぇんだよ!早いところ仕事に戻れ馬鹿野郎!」虎尾は聞く耳を持たない。
「すみません、、」冬香は小走りで自分のデスクに戻る。
虎尾はそれを見て、声のトーンを下げて言う。
「で、何が気になるってんだ?言ってみろ。」
「は、はい。ありがとうございます。課長、映像見ましたか?」
「ああ。見た。女が車にはねられてた。2、3メーター吹っ飛んでたな」虎尾は不快そうに顔を顰める。
「容疑者の田村は被害者に気付いてなかったと言っています」
「ああ、聞いている。それがどうした」
「ですが、この車はわずかながら加速しているんです。しかもハンドルも微妙にきっているようにも見える。つまり進路も微妙に変わっているんです。まるで被害者を狙っているように!さらに、さらにですよ!当たる前も当たった後もブレーキを一切踏んでいない!そんな事故ってあります?」冬香の語尾は段々と激しくなる。
「ホントかそりゃ?俺にはそうは見えなかったが・・・」
「確かに、あの粗い画像では確証は持てませんが・・・」
「ったくよ。お前それでも本当にデカか?」
「はい?」
「確証がねぇんなら確証探してこいって言ってんだよ、馬鹿が!」鼓膜が破れそうな大声は、冬香を感情を昂らせた。
「はい!ありがとうございます!すぐ行ってきます!」冬香は虎尾に軽くお辞儀をし、すぐに鞄を手に取り駆け出していた。

「課長、相変わらず山ノ井に甘いっすねー」冬香の同僚、岸田俊雄が虎尾に悪態をつく。
「うるせーなこの野郎。テメェもさっさと自分の事件の捜査してこい!」
「はいはい。行ってきまーす」岸田が上着を肩にかけながら返事をする。
「岸田てめぇ!語尾を伸ばすなっていつも言ってんだろうが‼︎」
「はいはい。すいませーん」
「岸田ぁ!」

このように、S県警捜査第一課の朝はいつも騒がしい。
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