碧天のアドヴァーサ(旧:最強とは身体改造のことかもしれない)

ヨルムンガンド

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第一章

旅立

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「食料は持ったか?衣服は?あ、あとあれだあれ…えーと……」

「一先ず、落ち着いて下さい。師匠。」

「落ち着けるものか!愛弟子が旅立つというのに!」
 
 唾を飛ばしながら、興奮気味に師匠は言う。いい歳なのだから、もう少し貫禄を持ってもいいと思った。
 
空暦2310年4月14日。空中国家アルカナ某所にて。とある1人の少年が旅立とうとしていた。名をルク=シュゼンベルクと言った。ルクは師匠と慕う妙齢の女性から見送られ、新たなる旅に赴こうとしていた。


「……分かりました、弟子がいないので気持ちは図りかねますがそういうことにしておきましょう」
 
ルクは溜息をつきながら、言った。そして同時に師匠への感謝を述べる。

「まあ、今までお世話になりました。感謝してますよ。」

「まさか、弟子にそんなことを言って貰えるとは………私は感激だぁ!」
 
(本当にこの人は俺の師匠なんだろうか…)
 
「じゃあ、気をつけて行ってこいよ!それと、『あれ』無くすんじゃねぇぞ!」
 
「もう子供じゃないんだから心配しないで下さい…」
 
「私にとってはいつまでも子供だ。いつの時から見てると思ってる」
 
「ハイハイ、ではもう行きますね」
 
「うむ、行け!自慢の弟子よ!」
  
その言葉を聞くや否や、ルクは駆け出す。数秒後には師匠の視界から消え去ってしまった。そして師匠はルクがいなくなったのを確認し、呟く。
 
「…もう二度とここには戻ってくるなよ」



 駆ける。駆ける。駆ける。ルクは見慣れた街を抜け、外門へと「なるべくスピードを落として」向かう。何しろ、もし全速力で走れば街は衝撃波によって「消える」。
 
そう、消えてしまうのだ。
 
生まれつき身体能力が高かったのは覚えている。成長すると共にその能力は高まり続けた。いつしか、人間の域すら軽々と超えてしまっていた。
  それでも成長は止まらず、いつしか………
 
「ぐっ…」
 
周りに聞こえない程度に呻く。
 
(またこれだ)
 
いつもこの辺りの記憶を思い出そうとすると、頭痛がして思考が遮られる。まるで、脳が「思い出すのを拒んでいるかのように」
 
やがて、外門に到着した。通常ならここで通行手形を門番に提示する。だが、目の前の門は、固く閉ざされていた。門番もいない。
それもそのはず、この国は「忘れられた」のだ。

「さあて、どう壊すかな」
 
彼は門を強行突破するつもりでいた。拳を軽くぶつける。
 
バギッッッッ!
 
激しい物音とともに、固く閉ざされていた門扉は粉々に砕け散ってしまった。
 
ルクは、人知を超えたことを意図も簡単にやり遂げたというのにそんなことには目もくれず、悠々と歩き出した。
 

門をくぐり抜けた先は、、、青、、青、、蒼。
 

そう、ここは空中国家アルカナ。かつて各国の魔導学者達が結集し、「人知の終着点」とまで言われた国。国自体が宙に浮き、立地的にも、技術力的にも、最強の軍国家であった。
 
だが、

「なんで戦争なんか起こしちゃったのかな…」
 
ルクは師匠から教わった歴史を思い出す。独自の技術を開発、運用していたアルカナは、技術力欲しさから周辺諸国から攻められていた。戦時中で女工をしていた師匠は、大変劣悪な環境で仕事をしていたという。飯は3食出ないし、臭いし、汚いし……と愚痴を零していた。
 
結局、今まで攻めてきた国達が連盟を組んだ事で、アルカナは滅亡した。相当な数の国が連盟を組んだことで、対応しきれなかった。
 
 ルクは歩き出す。外壁の外には、小さな広場があった。ひと昔前まではここで各国の商人らが、入国審査を待っていたという。今は見る影もなく、雑草が石畳の隙間から伸び、中央にある噴水は水が途絶えてしまっていた。

 ルクはさらに歩き、端に辿り着く。ここも前まではここと地上とを結ぶ魔導式輸送船が定期的に出ていたのだが、今は輸送船と思われる残骸しか残ってない。つまり、地上との関係は完全に絶たれたということだ。地上へ行く方法は……

「飛び降りるしかないか…」

 無論パラシュートや魔導エンジン搭載のジェットパックがある訳でもない。常人ならば、自殺志願者出ない限りはそんなことする者はいないだろう。
 ルクは下を覗き込む。
「うーん。これくらいならいけるな。」
 それなのに、ルクは少し後ろに下がり、助走をつけ勢い良く地を蹴る。
 支えを失ったルクの体は重力に引かれ落ちる。
 空気が体全体に凄まじい速度でぶつかってくる。
 暫くすると、雲がハッキリと見えてきた。
 
「おお!雲だ!」
 
思わず声が出る。アルカナは雲より高い所に位置しており、遠くからでしか、見たことがなかった。あとは、師匠が教えてくれた情報だけでしかその存在を知らなかった。
 
 雲に入っていく。中はルクの想像より暗く、所々雷が鳴っていた。
 

號っっ!


突如ルクの体に雷が直撃する。常人ならば即死するであろう天災。
 
だが、

 「ふぅ。ちょっと痺れたかな?」
 
 ルクは無傷だった。

 (雷って確か、相当な電流なんだよな…でも、やはり俺の身体には効かないか…)
 
ルク自身、雷の恐ろしさを知らない訳ではなかった。
 文献にはまだ、国が頃、輸送船に雷撃が直撃したことによる死者が後を絶たなかったという。

 やがて雲をぬけ、地面が見えてくる。ルクは生まれて初めて見た地に感動を抱きつつ、これから起こる出来事に思いを馳せる。

 (これから一体何が起こるんだろう…僕の能力スキルについて分かるといいんだけど………………ん?)

 ルクの異常な視力を持つ目は、一人の人と、その人の3倍程の身長がある異形の怪物を捉える。

 (襲われてる、のか?………行ってみるか……)

まさか、この出会いがルクの人生に大きな影響を与えるとは、誰にも知る由が無かった…………
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