碧天のアドヴァーサ(旧:最強とは身体改造のことかもしれない)

ヨルムンガンド

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第一章

実力

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 「『慈愛』と『殲滅』ってまさか……!」
 「二人とも狩猟者番付ハンターナンバリング二桁には必ずいると言われる超実力派ハンター、平たくいえばベテランってことですね」
 「ルクさん、だいぶ落ち着かれていますけど、私達この人達と戦うんですよ?」
 
 そんな二人を見て、彼女らは微笑する。

 「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
 「実力を見させていただくだけなので」
 
 「絶対少しじゃない……」
 「クリネ様、何か?」
 「いえ、全く何も!」

 下手なことを言って、貴重な指名依頼を無駄にする訳にもいかない、そう思ったクリネは失言を誤魔化した。
 
 二人はその後、ベルルカの個室から老執事ガランドに、屋敷中央の広間に案内された。広場も個室から同様、豪奢な作りになっていた。美しい花々が咲き誇り、噴水の流れている景色は大変壮観だった。

 



その為、広間中央に設けられた空きスペースは、とても異様だった。荘厳な空間に、ぽつりと空虚な空間が空いている。

「この広場の中心を戦場とし、二対二で試合をして頂きます。制限時間、無制限。決着は、寸止めと致します」

 ガランドは、淡々と対戦内容を告げる。内容に、理不尽なところは無い。但しそれは、相手との実力が拮抗している場合だ。

 ハンターズランクは、ギルドが毎年ハンター達の功績を鑑みて、決められている。上位千名までが決められるのだが、まず普通の人間では乗ることが出来ない。何らかの方法で人間を卒業することが、最低条件と言われている。
 
 つまり、目の前にいるのは人では無い。だが、戦闘をするためだけの兵器という訳でもないのが、ハンターというものだ。如何に先の手を読むかも
強さに入る。

 「では、両者獲物を」
 
 ガランドの掛け声で、それぞれは獲物を持つ。女侍二人は無論刀を、クリネは、肩に背負った大剣を。

  そして、ルクは____

 「徒手空拳で行きます」
 「え?」
 「本気ですか?」

 ベテランハンターである二人も、ルクの不可解な行動には驚きを隠せなかった。刀に対して拳で挑むなど、無謀もいいとこだ。ましてや、相手は剣術の達人。勝算など微塵も感じられない。だが、ルクはいつも通り装備を変えようとはしなかった。

 「それでは、初めっ!」

 先に仕掛けたのは、ルクだった。青髪のクシルスの鳩尾へ鋭い一撃を喰らわそうとする。無論、クシルスも驚くこともなく冷静に剣の柄で一撃を防ぐ。

 「っ!?」

 予想を遥かに超えた衝撃。慌ててまともに受けようとしていたのを、いなす方向へシフトする。

 (重すぎる!この少年の体躯からは、考えられない程の威力だわ)

 完璧にいなされたルクは思わずして、たたらを踏む。その隙をクシルスは逃すことなく、手首を捻りガラ空きの首に刀を滑り込ませる。

 だが、ルクは超人的な勘で、後ろからの猛撃を屈んで避ける。その後、屈んだ姿勢で回し蹴りを放つ。クシルスは、跳んで避ける。刀だと取り回しが悪く不利だと判断し、刀を腰に戻す。

 ルクも一度後方へ跳び、状況は元に戻った。

 「はあっ!」

 今度は、クシルスの攻める番だった。クシルスは、先程とは違い気合をいれて攻撃を仕掛ける。一瞬隙があるようにしか見えない、大上段。だが、そこにはそんなものは微塵もなかった。一度攻めればこちらがやられかねない、そんな気がした。

 振り下ろされる鋼鉄の塊に対し、ルクは素手で受けようとする。

 (この子、本気!?私のこの『氷剣イスオーリ』は、鞘も含めてオリハルコン製なのよ!?)

 クシルスの予想は、杞憂に終わるどころか斜め上の方向へと事態は進んだ。

 「身体改造《鋼鉄化メタライズ》」
 
 ルクの静かな声とともに、この世界の理は歪められた。ルクの腕のありとあらゆる細胞が、脳から出される特殊因子により硬化していく!!

 まだ熱い鉄を叩いたかのような甲高い音と共に、クシルスの氷剣は弾かれた。

 「なっ!?」

 そう、弾いたのだ。この世界に置いて最硬とされている物質、、、オリハルコンを。地下深くで途方も無い年月を掛け、徐々に魔素を取り込み出来た、元はただの鉱石。特に、氷剣イスオーリはその中でも何故か氷属性が付与されているオリハルコンを厳選し、造られている。

 「あなたは、一体………?」
 「ただのしがないハンターですよ」

  剣戟は続く。

 2人が交差する度に、イスオーリから悲鳴が上がり火花が飛ぶ。

 「はあっっっ!!」
 「ぐっ」

 不味いな、とクシルスは純粋に感じた。これは、圧倒的に差がある敵に感じるそれだった。
 
 「っ」

  猛撃は、更に続いていく。剣戟が続いていくにつれ、攻撃の速度と重さが増してきている。これでは、ジリ貧だ。

 クシルスの額には、いつしか汗が浮かび、彼女の焦りを象徴していた。彼女の脳裏には、戦闘前には絶対に選ばなかった筈の方法が、浮かぶ。

 (ぐっ、このままじゃ押され切ってしまう!『あれ』を使うしかないの…………?)



 _________________________________

 

  彼女と対峙してみて、改めて彼女の恐ろしさがわ分かった。

 緋色の髪が特徴的なレイカは、二つ名『殲滅』として業界では知られている。由来は、彼女の徹底した戦闘スタイルからだ。彼女の使用する焔魔導フランマは対象全てを焼き尽くす。そのあまりの温度に、灰すら残らないと専らの噂だ。

 「そんなに緊張しなくても、焔魔導は使わないわよ、うふふ」
 「そ、そうですか。あ、あはは……」

 やばい、思考が読まれている。対峙しただけでだ。つまり、戦闘中にも次の手が読まれる可能性があるということだ。もう存在している次元が違う。

 「あら?攻めないのならこちらから行かせてもらうわよ」

 そう言うやいなや、 レイカの体は消える。

 「!?」

 視認できない。それでも、本能で背中に背負っていた大剣エルトを、盾替わりに掲げる。

 ゴバァァァッッッッッッッッ!!!!!

 轟音、そんな言葉では表しきれない程の空気の振動が発生する。質のいい
ダイヤモンド製の大剣が、女性の一撃で軋んだ音を立てている。周りの空気が物が、ありとあらゆる全てが、衝撃波によって揺らぐ。
  
  (手が、痺れる……)
 
日々の鍛錬は、怠っていないつもりだったが、やはり受けきれていなかった。対するレイカの方は攻撃を受け止めたクリネに驚きつつも、まだまだ余裕な表情だった。

 「なかなかやるわね。では、これならどうかしら?」

 来る。そう思ったときにはもう手遅れだった。

 (また消えた……?)

背筋に悪寒。

本能的に大剣を振り向きざまに振るう。再度、衝撃が走る。やっとのことで、目が追いつくとそこにはレイカの姿があった。

 「これも、防ぐのね……あなた、なかなかやるわね」

  (今の動きは、一体?)
 
 と、クリネが不思議がっていると

 「あ、今の?あれは、ただ貴女の上を跳び越えただけよ」

 また心を読んだかのような返答をするレイカ。何より恐ろしいのは、あの人間離れした身体能力だろう。あれは、反則級だ。だが、ここで引くわけにはいかない。先輩として、一人のハンターとして。

 「あら、もう終わりかしら?」
 
  「いや、まだです。まだここじゃ負けられません!」

 「ふーん、いいをしているわね」

  「今度は、こっちから行きますよ!」

  エルトを一旦持ち直し、上段の構えを取る。一度大きく息を吸い、突撃を敢行する。

 二人の距離が詰まる。クリネは剣を振り上げ、素早く振り下ろそうとする。だがそれは、レイカに見切られ剣の射程外に逃げられてしまった。

 (ここまでは、予想通りっ。後は!)

 「『覇光!』」

 クリネの声に応じるかのように、エルトはその刀身を光輝かせる。クリネが勢いよく振り下ろす!そして、迸る閃光。剣から波状の光撃が放たれる。その一撃は、光速で飛翔し、レイカへと迫る。完全に不意を着いた一撃。避けられる筈が無い。


 なのに、


 超人的な身体能力により、レイカの被害は髪が数本切られただけだった。


 (嘘……あれだけの速さの一撃を避けるの?)

 不味い。今の自分は隙だらけだ。でも、体が動かない。やられる。

 「合格よ」

 「え?いや、だって」

 「私に一撃とはいえ、攻撃を当てたのよ?もう少し自信を持ってくれてもいいのだけど」

 「……」

 確かに、彼女の言う通りだ。対戦前、あんなに高く評価していた上級ハンターに、攻撃できたのだ。万々歳と言うべきなのかもしれない。

 だが、

 「やっぱり、満足出来ないかしら?」

 「はい…」

 相手は自分の得意技を封じて、勝負している。対して自分は、光魔導シャイニングを使ってようやく一撃だ。本当の戦闘だったら、直ぐに死んでいるだろう。

 その様子に、レイカは微笑みながら言葉を掛けた。

 「その心掛けは、いいことよ。クリネといったかしら?来なさい、この高みへ。そしたら、また勝負しましょう」
 
 「はい!」

 まだまだ足りないことだらけで、課題も山積みだけど。いつか、上級ハンターになる。クリネは、そう心に誓ったのであった。



__________________________________


  「貴女、まだお得意の水魔導スプラッシュ使ってないですよね?」

 「読まれては仕方がありませんね。では、お見せしましょう。『水刃』っ!」

  氷剣イスオーリは、その刀身に変化が起こった。刀身が揺らいだかと思うと、まるで生きているかのようにうねり出した。

 「この子は、一度狙った獲物は逃しませんよ、覚悟して下さいっ!」
 
 そう言って、クシルスは音速もかくや、といったスピードでルクに迫った____

 

 
 
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