碧天のアドヴァーサ(旧:最強とは身体改造のことかもしれない)

ヨルムンガンド

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第一章

結果

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 「この子は、1度狙った獲物は逃しませんよ、覚悟して下さいっ!」

 そう言いながら、クシルスは今度こそ本気で攻めてくる。ようやく、ルクを一人の「敵」として、認識したようだ。もう彼女の中では、只の新入りでは無い。

 「避けるのは無理か…」

 そう判断したルクは、もう一度鋼鉄化メタライズを発動させようとするが、
 
 「無駄です!」

 先程とは違い、点ではなく面による制圧。当然腕だけでは防ぎきれるはずが無い。

 だが、

 「誰が、全身に鋼鉄化メタライズできないって言いました?」

 「まさかっ」

 「身体改造鋼鉄化メタライズ

 今度は、全身が硬化していくルク。そこに、無数の水の刃が確かなる殺意を持って迫る。

 、、、衝突。

 ガガガガッッッッッッッッッン!

 「くっ、硬い!」

 「鋼鉄化しても、凄い威力ですね……」

 激しい衝突が繰り返される。衝突の度に火花が舞い、まるでその攻防は花火のようだった。

 「でも、防御だけでは埒が開きませんよ」

 「それもそうですね」

 (この子、まだ何か隠してる……….?)

 そんな事を思いつつも、クシルスは猛撃を続ける。ここで攻めの手を止めれば、負けてしまうような気がしたからだ。

 「あなたの硬化術も、長くは持たないはずですよ!そろそろマナ切れが起こるはずです」

 クシルスは、ルクの硬化術を土魔導ソイラスだと読んでいた。最悪、読みが違っていても魔導であることに変わりはない。そう思っていた。

 
 なのに、


「あー、やっぱりそう思いますよね……でも、僕んですよ」

 「え、」

 馬鹿な。そんなはずは無い。だって、いくら才能の無い人間だって少しはマナがある。魔導は使えないにしてもだ。だけど、この少年は一切無いと言った。

 「とか、思ってるんでしょうね。じゃあ、ヒントです。根本的な所が違ったら?そう、もっと言うなら、

 「えっ」

 つい、驚きのあまり剣を一瞬とはいえ、止めてしまった。勿論、彼はその隙を逃すはずがなかった。

 「ここ、がら空きですよ」

 恐ろしい速さで迫る拳。しかも鋼鉄化している。まさに弾丸といってもいい。死を覚悟し、目を瞑ってしまった。何の為の戦いかを、その時クシルスは忘れていた。

だが、いつまでたってもその一撃は来なかった。目をゆっくり開けると、目の前には少し残念そうなルクがいた。

 「……僕がそう簡単に女性を殴るとでも?もしそう思われていたなら、少し心外です」
 
 「いや、ええっと、はい……殴ると思ってました」

 クシルスは、バツの悪そうな顔をした。ルクは、その様子にため息をつきながら、

 「やっぱり……あのですね、師匠以外の女性は殴らないようにしてるんですよ」


 「へ、へぇー……」

 「一応、これでも僕は男です。少しは信用して下さい」

 「わ、分かりました…」

「それで?試験の結果はどうなんですか?」

 「勿論合格です」

 もう片方の試験の方に目を向けると、どうやらあちらも終了していたようだった。


___________________________________


 「それでは改めて、試験の結果をお伝えします____合格です」

 「やったぁ!」

 「良かったです」

 安堵する二人。特にクリネは、試合自体には負けていたので心配だった。ルクだけ受かりました、というのでは先輩として示しがつかない。対して、ルクは、まぁ当たり前だろといった感じ。

 「お二人共、今回の依頼遂行に足る実力をお持ちのようですね。但し、油断は禁物ですよ。私も、従軍時代に才能のある同期が、慢心が故に命を落としたのを沢山見てきました」

 「はい、分かりました」
 
 「肝に銘じておきます」

 「あ、あと言い忘れていたのですが」

 「「?」」

 「依頼対象の護衛は、この二人より手強いですよ?」

 クリネの表情は一瞬にして、凍りついた。あの2人より強い?一体どのくらいの強さなのか、想像もつかない。

 「それは、そうでしょう。だって、あの『戦神』が護衛というのですからね」
 
 「へえ、戦神がってええええっ!?せ、せ、戦神ってあの40年前に起きた魔導大戦で、万人斬りを達成した?」

 「そうですね」

  「ほっほっほ」
   
  ルクは首肯し、ガランドはいかにも好々爺めいた表情で笑う。

 「じゃあ、無理じゃないですかー!やっぱり暗殺なんて物騒なこと辞めましょうよー」

 「安心なさってください、というのは可笑しいですが、今その護衛は、体調があまり優れません。ですので、今は休暇中なのですよ」

 「大丈夫なんですか?護衛が休暇って」

 クリネが、心配に思って問う。事を起こすのはこちら側だと言うのに、彼女はすっかり失念しているようだ。

 「まあ、少し心配ですが大丈夫でしょう」

 「そんなんでいいんですか、護衛って…」

クリネが呆れていると、 庭園と屋敷をつなぐ階段を降りる音が聞こえる。

「何やら騒がしいと思えば、客人か?」

 厳しい顔つきに、良く手入れされた髭。鋭い眼光はまるで獲物を狩る鷹のようだった。服装は、上質な毛で作られているであろう、黒のタキシード。左腕に光る銀の時計も、彼の裕福さを雄弁に語っていた。

 「これはこれは…失礼致しました。もうお帰りになられていたのですか、

 「「お帰りなさいませ、ご主人様」」

 「え、ご主人様ってまさか」

 「お初にお目にかかります、。ルク=シュゼンベルクと申します。以後お見知りおきを」

 庭園に来た者の正体は、今回の標的ターゲットだった。



___________________________________



 「そうかそうか、貴殿が私の愛娘を守ってくれたのか」

 「守ったというのは、些か過大評価にございます。私は、魔物を狩ることが生業なので、当然のことをしたまでです」

 クリネは、彼の腰の低さと礼儀の正しさに驚きを隠せなかった。どこかの田舎で育っていたと勝手に思っていたのだが、意外と名家出身なのかもしれない。でも初めて出会った時、彼は空から落ちて来たのだろうか。彼は一体何者なのだろうか……?

 「して、そちらの女性はどなたかな?」
 
 「あ、わ、私はクリネ=システィナベルと申します。ルクの付き添いとして今回は伺いました」

考え事をしていたこともあり、随分と辿々しい挨拶になってしまった。これでは、ルクの方が先輩に見えてしまうだろう。

 「ほう、あのシスティナベル家のご令嬢だったか。ご両親を喪われたと聞いているが」

 「まあ、はい…」

 「これは済まないことをした。私としたことが不躾な発言だったようだ」

 「いえ!お気になさらないで下さい…過ぎたことなので…」

 場に気まずい雰囲気が漂う。クリネからすれば、もう年月が経ったとはいえ、そう簡単に悲しみを乗り越えられるはずもない。

 「すみませんが、こちらへ伺った理由を話しても?」

 「そうだな。私も気になっていたのだ」

 ルクは、話題を変えることにした。そのおかげで、場は幾許か和らいだ。

 区長からすれば、ルクとクリネが訪ねてきた理由は、分かりかねるであろう。ルク達側が訪ねてきている以上、自分の娘の件ではないのは明らかだ。

 だが暗殺しに来ました、などと素直に話すことは勿論出来ないだろうとクリネは、考えていた。

 「今回は、あなたの暗殺に参りました」

 「え?」

 「ほう?」

 ルクの口から飛び出したのは、依頼内容を素直に告げるものだった。
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