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第一章
解明
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「今回は、あなたの暗殺に参りました」
「え?」
「ほう?」
場の空気が、一瞬にして凍りついた。区長の厳しい顔つきに、更に険しさが追加される。それもそうだ。自分を暗殺すると目の前で言われたのだ。いくら娘の命の恩人でも、到底許せる発言ではないだろう。少なくとも、クリネはそう考えていた。
「ですが、本当は我々もこのようなことをしたくは無いのです」
いくらか、場の雰囲気は和む。だが、区長の顔の険しさは変わらない。
「ふむ、ならその理由を聞こうではないか」
その後、二人は区長に応接間に通された。外でしていいような話ではなかったからだ。応接間は、試験前に見たベルルカの部屋よりも豪奢な作りで、調度品も一、二ランク上のものだった。
だが、ルクは臆することなく語り出した。
「まず、これが仕組まれたものであることが問題なのです」
訳が分からず、呆けていたクリネを見て、ルクは軽く笑う。対して区長イルサミは、少し顔の険しさを緩める。
「やはり、気づいていたか」
「やはり、そうだったんですね」
「ど、どういうことですか?」
「まず、順を追って説明します。僕はこの前、イルサミ嬢が魔物に襲われている所に出くわしたということは知ってると思います」
「はい、それでイルサミ嬢から今回の指名依頼が来たんですよね」
「実は、この時点で不自然な点があったのです。クリネさんは、当事者でないので、知らないでしょうが___あの時、イルサミ嬢は一人で行動されていました」
「え?それって…」
イルサミ卿の表情が、だんだんと穏やかなものになる。まるで、与えられた問題を鮮やかに解く生徒を見るような顔つきに。
「そうです。イルサミ嬢の護衛は、クシルスさんとレイカさんでした。ですが、あの時二人が来たのは魔物を狩り終えたすぐ後でした」
「……あの二人に限って、イルサミ嬢から目を離すことがおかしいということですか?ちょうど、狩り終えた時に現れたのも不自然過ぎると?」
ルクは、頷く。そして、更に種明かしを続ける。
「更に、おかしな点がまだあります。ガランドさんが暗殺を容認したのもそうですが、もっとおかしい点があるのです」
不可解な点を探すため、思案に耽るクリネ。今まで行われてきた会話を一から思い出していく。
「あ、ガランドさん。そういえば、イルサミ卿の護衛は体調があまり優れないって言ってました」
「それです。普通、護衛の調子が悪いなど、どんなに親しい臣下であったとしても漏れてはいけない情報です。どんな風に噂が拡散するか、分かりませんからね」
「確かに…」
「つまり、それを知ってるのは本人と護衛対象だけ。つまり、イルサミ卿の護衛である『戦神』はガランドさんだったのです」
「え、でもそしたら私たちに、なんで弱っているという情報を漏らしたのでしょう」
「僕は、それがヒントだったように思えます。ですよね、ガランドさん?」
扉がノックされた。あれは、部屋にいる主人に入室の確認を取る時の合図だ。
「入ってよいぞ、『戦神』ガランド」
やはり、ガランドは戦神のようだ。
「失礼致します。私めもその二つ名は久しぶりに耳にしました。それにしても、素晴らしい洞察力でございます、ルク様」
「いえ、今まで点々と散りばめられていた謎や不可解な点が、あってこそです」
「それでもですよ。では、本当のことをお話しましょう。まぁ、ルク様は分かって居られるでしょうがな」
クリネは、しばしの間、思考停止状態だった。実は、暗殺の依頼が仕組まれたもので、噂に聞く戦神は目の前の老人であり……
つまりは、頭の整理が追いついていない状態だった。
「この一連の事件は、上級ハンター昇格試験の一環だったのですよ」
「ええっ!?上級ハンターって」
「はい。クリネ様がご想像されている通りの役職でございます。本当は、このまま暗殺を遂行する直前で私が阻止するというシナリオだったのですが……」
「ルクさんが気づいてしまったと」
ガランドさんは、頷きながら苦笑する。まさか、彼も見破られることは想定していなかったのだろう。
「じ、じゃあこの試験どうなっちゃうんですか?」
クリネは、若干焦りながら訊く。
上級ハンター昇格試験が、開催時期も場所も伝えられず、突如として始まることは、ハンター界隈では有名な話だった。
クエストの途中だったり、寝室で寝ている時だったり、友と酒場で談笑している時という話もあるぐらいだ。いつの間にか始まり、終わる。全く気付かぬまま昇格したハンターもいるようだ。
そんな厳粛かつ平等に執り行われる試験なものだから、ルクの失言とも取れる発言により、不合格にならないかとクリネは案じたのだ。
だが、クリネの疑問に答えた区長の発言は予想の斜め上を行くものだった。
「いえ、その点は心配しなくとも良い。むしろ、ここまで予測されるとは驚きだ。勿論、試験は続けてもらおう」
「え、まだ終わってないんですか」
「当たり前だろう」
「良かった、こんなんで終わってはつまらないですからね」
クリネは、何を言ってるだと言いたくなった。やっと上級ハンターになれると思っていたというのに。
「では、次の試験に移るとしよう。続いての試験は、ガランドとの手合わせだ」
もう、驚くのはたくさんだと、クリネは思わざるを得なかった。
「え?」
「ほう?」
場の空気が、一瞬にして凍りついた。区長の厳しい顔つきに、更に険しさが追加される。それもそうだ。自分を暗殺すると目の前で言われたのだ。いくら娘の命の恩人でも、到底許せる発言ではないだろう。少なくとも、クリネはそう考えていた。
「ですが、本当は我々もこのようなことをしたくは無いのです」
いくらか、場の雰囲気は和む。だが、区長の顔の険しさは変わらない。
「ふむ、ならその理由を聞こうではないか」
その後、二人は区長に応接間に通された。外でしていいような話ではなかったからだ。応接間は、試験前に見たベルルカの部屋よりも豪奢な作りで、調度品も一、二ランク上のものだった。
だが、ルクは臆することなく語り出した。
「まず、これが仕組まれたものであることが問題なのです」
訳が分からず、呆けていたクリネを見て、ルクは軽く笑う。対して区長イルサミは、少し顔の険しさを緩める。
「やはり、気づいていたか」
「やはり、そうだったんですね」
「ど、どういうことですか?」
「まず、順を追って説明します。僕はこの前、イルサミ嬢が魔物に襲われている所に出くわしたということは知ってると思います」
「はい、それでイルサミ嬢から今回の指名依頼が来たんですよね」
「実は、この時点で不自然な点があったのです。クリネさんは、当事者でないので、知らないでしょうが___あの時、イルサミ嬢は一人で行動されていました」
「え?それって…」
イルサミ卿の表情が、だんだんと穏やかなものになる。まるで、与えられた問題を鮮やかに解く生徒を見るような顔つきに。
「そうです。イルサミ嬢の護衛は、クシルスさんとレイカさんでした。ですが、あの時二人が来たのは魔物を狩り終えたすぐ後でした」
「……あの二人に限って、イルサミ嬢から目を離すことがおかしいということですか?ちょうど、狩り終えた時に現れたのも不自然過ぎると?」
ルクは、頷く。そして、更に種明かしを続ける。
「更に、おかしな点がまだあります。ガランドさんが暗殺を容認したのもそうですが、もっとおかしい点があるのです」
不可解な点を探すため、思案に耽るクリネ。今まで行われてきた会話を一から思い出していく。
「あ、ガランドさん。そういえば、イルサミ卿の護衛は体調があまり優れないって言ってました」
「それです。普通、護衛の調子が悪いなど、どんなに親しい臣下であったとしても漏れてはいけない情報です。どんな風に噂が拡散するか、分かりませんからね」
「確かに…」
「つまり、それを知ってるのは本人と護衛対象だけ。つまり、イルサミ卿の護衛である『戦神』はガランドさんだったのです」
「え、でもそしたら私たちに、なんで弱っているという情報を漏らしたのでしょう」
「僕は、それがヒントだったように思えます。ですよね、ガランドさん?」
扉がノックされた。あれは、部屋にいる主人に入室の確認を取る時の合図だ。
「入ってよいぞ、『戦神』ガランド」
やはり、ガランドは戦神のようだ。
「失礼致します。私めもその二つ名は久しぶりに耳にしました。それにしても、素晴らしい洞察力でございます、ルク様」
「いえ、今まで点々と散りばめられていた謎や不可解な点が、あってこそです」
「それでもですよ。では、本当のことをお話しましょう。まぁ、ルク様は分かって居られるでしょうがな」
クリネは、しばしの間、思考停止状態だった。実は、暗殺の依頼が仕組まれたもので、噂に聞く戦神は目の前の老人であり……
つまりは、頭の整理が追いついていない状態だった。
「この一連の事件は、上級ハンター昇格試験の一環だったのですよ」
「ええっ!?上級ハンターって」
「はい。クリネ様がご想像されている通りの役職でございます。本当は、このまま暗殺を遂行する直前で私が阻止するというシナリオだったのですが……」
「ルクさんが気づいてしまったと」
ガランドさんは、頷きながら苦笑する。まさか、彼も見破られることは想定していなかったのだろう。
「じ、じゃあこの試験どうなっちゃうんですか?」
クリネは、若干焦りながら訊く。
上級ハンター昇格試験が、開催時期も場所も伝えられず、突如として始まることは、ハンター界隈では有名な話だった。
クエストの途中だったり、寝室で寝ている時だったり、友と酒場で談笑している時という話もあるぐらいだ。いつの間にか始まり、終わる。全く気付かぬまま昇格したハンターもいるようだ。
そんな厳粛かつ平等に執り行われる試験なものだから、ルクの失言とも取れる発言により、不合格にならないかとクリネは案じたのだ。
だが、クリネの疑問に答えた区長の発言は予想の斜め上を行くものだった。
「いえ、その点は心配しなくとも良い。むしろ、ここまで予測されるとは驚きだ。勿論、試験は続けてもらおう」
「え、まだ終わってないんですか」
「当たり前だろう」
「良かった、こんなんで終わってはつまらないですからね」
クリネは、何を言ってるだと言いたくなった。やっと上級ハンターになれると思っていたというのに。
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